自分の所有する不動産を売りに出そうと思ったとき、まず知りたいのは「どのくらいの値段で売れるのか?」ということですよね。
これまでは、不動産会社の担当者が現地まで赴いて調査し、査定額を出すというのが一般的な方法でしたが、IT化が遅れているといわれてきた不動産業界でも近年はAI査定がどんどん一般的になってきています。
人の目を使わず、AIに査定をまかせるということで信憑性はどのようになっているのか?まだまだデメリットはあるのか?その点が気になる人は多いことでしょう。
今回はこの、不動産のAI査定について解説していきます。
不動産AI査定の特徴
一戸建てやマンションを売却する際の査定がAIによって行われるということは、人、つまり不動産会社を介する必要がないため、それによりメリットが多く出てきます。
ただし、当然デメリットもあるため、AI査定で十分な人・不十分な人、向いている人・向いていない人という差が出てきます。
仕組みや特徴、メリットやデメリットをしっかり理解したうえで、自分が使うべきものなのかそうでないのかを見極めてから利用することが大切です。

AI査定の仕組み
利用者は、まず以下のような情報をAI(人工知能)に提供します。
・物件の所在地
・種類、用途
・間取り
・方角
・築年数
・構造
など
マンションであれば、さらに加えて
・マンション名
・専有面積
・階数
など
このように査定を依頼したい不動産の情報を入力することによって、AIがこれまでの過去のデータやインターネット上の類似情報、膨大な取引データと比較して自動的に計算して、査定額を導き出すという仕組みになっています。
元来、不動産の査定には「机上査定(簡易査定)」と「訪問査定」があり、現段階ではAI査定は前者のみ可能としています。後者は、人間の眼によって不動産の状態や周辺環境まですることで正確な査定額を計算していましたが、過去データをもとに査定結果を出すという作業(前者)に限っていえば、人間よりもAIの方が時間をかけずにより正確な査定結果が出ると考えられているのです。
AI査定のメリット
営業電話がかかってこない
不動産屋から直接担当者が現地を訪れる訪問査定だけではなく、一括査定サイトのようなものを利用しても、個人情報の入力が求められます。
そのため、検討段階でおおよその売却相場を知りたいだけなのに…という場合でも、不動産会社からの営業電話が何件もかかってくることで悩まされる、という事態が考えられます。
AI査定の場合は、たいていが匿名で利用できます。したがって電話がかかってくることもありませんし、インターネット上で情報を入力するだけなので、より気軽で手軽に使えるといえるでしょう。24時間、365日いつでも好きなときに利用できるというのもメリットです。
売却を考えているけれども、本気で検討しているわけではない、あくまで参考として知りたい、というごく軽い気持ちでも利用が可能です。
短時間で査定結果が出る
人間が行う査定は、たとえ机上査定であっても2〜3日程度の時間を要することがあるのに対し、AI査定であれば1時間で結果が出ることも珍しくありません。
また、基となるデータも人間が扱えるものと比べて膨大であるため、時間がかからないにもかかわらず、その結果はより正確であるといえます。

査定結果をどう扱っても自由
気軽で手軽である、という項でも触れましたが、完全匿名で利用できるため、査定結果は売却相場を知るだけではなく、財産分与や相続時の遺産分割の際にも使うことができます。
不動産会社を介してしまうと、査定を依頼することによって売却の仲介を頼むことまでセットになってしまいがちですが、AI査定であればその煩わしさもなく、出た結果を何に利用しても自由です。
今すぐ売りたいわけではないけれど、売り時は知りたくて、しかしそのたびに何度も不動産会社に査定を頼むのは気が引ける…というときにも便利ですね。
AI査定のデメリット
査定の精度が低い
AI査定では、入力した情報でしか判断することができません。ということは、人間の専門家が目で見て判断するような情報、たとえば物件のデザインや周辺環境・利便性・日当たり・眺望・室内や設備の劣化状態・リフォーム歴・管理状況などは、当然ながら結果に反映されないのです。
プラスの要素もマイナスの要素も加味されないので、訪問査定の結果と大きく差が出ることもしばしばです。
そのため、やはりあくまで目安としての売却価格を知る目的でなら問題ありませんが、正確さを求めるのはやめておいた方がよいでしょう。
後述しますが、特に一戸建ての場合は一軒一軒状況が全く変わるので、入力できる情報からだけでは査定の正確さに限界があります。
マンションであれば、過去に類似物件を査定したデータが多く得られるため、一戸建てよりは精密さが増します。
売主の希望が反映されない
上記のお話と重複するところがありますが、AI査定では売主の希望も当然ながら反映された結果が出せません。
たとえば、売却を急いでいるような売主であれば、不動産会社がその事情を加味して、相場よりも少し安めにはなるけれど成約までスピード重視での価格設定にしてくれる、ということもあるでしょうが、AI査定ではそこまでは不可能です。
データのみでのAI査定の限界が、ここにも見えてしまうわけです。
不動産会社選びには役立たない
不動産査定にはふたつの意味があります。ひとつは、文字通り価格の査定をしてもらうこと、そしてもうひとつは、媒介契約を交わす不動産会社を選び出すことです。
信頼できる不動産会社は、算出した査定金額についてその数字の根拠まで丁寧に説明してくれます。その対応も、不動産会社を選ぶ際の重要な要素になりますが、AI査定では「過去に類似物件がこれぐらいの価格だったから」という理由以外にはなく、数字の根拠は示してくれません。
不動産会社の訪問査定であれば、おそらく複数者に査定をお願いし、査定額や担当者の対応などから総合的に判断して、仲介を依頼する会社を選ぶはずです。
しかしAI査定でできるのは、物件の価格の目安を知ることだけです。良い不動産会社に出会うためには、やはり実際に不動産会社に連絡を取って、会社の対応を比較するという過程が必要となるのです。

最終的には訪問査定が必要
売却を本気で進めたいのであれば、最終的にどこかの不動産会社と媒介契約を交わし、仲介を依頼する必要があります。そのときにはきちんと売り出し価格を決めなければいけないので、より正確な査定価格を算出しなければなりません。
もしスムーズに売却活動を行いたい、何より売却を急いでいる、という場合であれば、初めから不動産会社に訪問査定を依頼する方が話は早いといえます。
AI査定に適した物件とは
まだまだ精度が高いとはいえないAI査定ですが、得意とする分野はあります。
戸数の多いマンション
前述したように、一戸建てはAI査定の精度がかなり低くなるため、向いていません。まずはマンションであることが条件となります。
また、AIは過去の類似物件について学習して査定額を出すので、戸数が多いマンションであればそれだけ売り出し件数も大きくなるため、査定の正確さが増すといえます。
築年数が10年を超えているマンション
新築から10年以内のマンションというのは、売りに出す人も少なく、なかなか市場に流通しません。つまり、新しいマンションだと、過去の売り出し件数が多いほど精度が高くなるAI査定は不向きなのです。
築10年を経過していることが、AI査定に適しているかを判断するひとつの基準となります。
リフォームをしていないマンション
これも前述したように、リフォーム歴はAI査定の際の入力情報には含まれないため、査定額に加味されません。本来であれば、リフォームを全くしていない物件よりも、最近改修や修繕をしている物件の方が高値がつくはずですが、これがAI査定では考慮されないため、リフォーム済の物件はAI査定をしても正確さに欠けてしまうのです。
つい最近同じマンションから売却があったマンション
AI査定は、学習しているデータが新しいほど精度が上がります。
つい最近同じマンションから物件の売り出しがあった場合、そのデータも学習しているため、最新の情報で査定を出すことができるでしょう。

まとめ
AI査定の精度は、現段階では高いといえるものではありません。条件によってはかなり正確に査定額を出せるケースもありますが、本格的な売却を考えるのであれば全面的に信用が置けるものとはまだまだいえないのです。
しかし、参考価格や周辺相場を知りたいという方にとっては、手軽で気軽に使える資産評価ツールであることも間違いありません。自分の希望に合わせて、AI査定と不動産会社による訪問査定を使い分けるのがよいでしょう。