不動産の「親族間売買」とは、その呼び方の通り不動産の所有者が自分の親族と売買の取引を交わすことです。第三者を相手に売買するのではないため、何か特別な決まりや手順があるかというと、実はそこまで異なる点はありません。ただ、注意すべきポイントは何点かあり、それを軽視すると思わぬトラブルに発展しがちです。
今回はこの、不動産の親族間売買について詳しく解説していきます。
親族間売買の概要
不動産の親族間売買とは
不動産の売買というと、通常不動産会社に仲介を依頼し、売主が買主を探してもらって売買契約を結ぶ、というイメージが強いでしょう。しかし、まったく顔も知らない第三者でなければ売買できないわけではなく、家族や親族の間で取引をすることも、もちろん可能です。これが「親族間売買」です。
ただし、詳しくは後述しますが、親族間売買は一般的な不動産売買と取引の流れや形式はそれほど変わらないといえども、注意点は多く、メリットばかりではありません。親族同士だからといろいろ勝手に当事者間で取り決めて取引してもよいということはなく、きちんと不動産取引の決まりにしたがって事を進めていかなければならないのです。
親族の範囲
不動産売買における「親族」の範囲は、民法で定めるところの親族とは多少異なります。民法上の親族の範囲は、「6親等以内の血族・配偶者・3親等以内の姻族」となっていますが、不動産の親族間売買に深く関連する税務署の「親族」の範囲は、そのように明確に定義はしていません。単に「相続人に該当する親族か、否か」という点に焦点を絞って問題とするのです。
これはなぜかというと、税務署が「みなし贈与」を警戒しているからです。これについてはのちほど詳しく解説しますが、簡単にいうと「売買契約と見せかけて実は相場よりも安値で売買し、税金から逃れようとする」ものです。相続税から逃れようとする売買なのではないか、と税務署に疑われるわけですね。
親族間売買は不正行為に利用されることが多く、そのもっとも大きなものが、みなし贈与です。一般的な不動産売買よりも制約が多いのは、こういった不正行為を防ぐためなのです。

親族間売買のメリット
安心感がある
愛着があるマイホームを売却するなら、顔も知らない第三者よりも、近しい親族にしたいと感じることは、人として当然の感情といえるでしょう。第三者には引渡ししてしまえばそれまでですが、親族であれば望めばいつでも売却した家にまた入ることもできるでしょう。
また、大金の動く不動産の売買だからこそ、よくわかり合っている親族と取引するということに、それだけで安心感も抱けるのではないでしょうか。
融通が利きやすい
住宅ローンではなく売買の当事者間で分割払いにする、引渡し日は売主の都合に合わせてゆっくり設定するなど、お互いの融通を利かせやすいのも親族間売買のメリットです。当事者同士の合意も形成しやすく、その内容も柔軟にできるというのは、堅苦しいことの多い不動産売買においてありがたい面となるでしょう。
仲介手数料が不要になる
親族間売買は、多数が個人間の取引を考えるため、不動産会社の仲介が必要ありません。そのため仲介手数料も不要であり、取引における費用の節約になるというメリットもあります。
ただし、後述しますが、親族間売買でももちろん不動産会社の仲介を選択することも自由ですし、むしろ仲介はしてもらった方がいいケースもあります。仲介手数料の節約ばかりに気を取られて費用対効果を度外視することは、推奨できないともいえます。

親族間売買のデメリット
「みなし贈与」を疑われやすい
前述した通り、親族間売買でもっとも気をつけなければならないのが「みなし贈与」を疑われる点です。相続税を逃れるために格安価格で相続人に売却しようとしているのではないか、と税務署に思われてしまうのです。
ポイントは、売却価格です。たとえば一般相場としては2,000万円の不動産を500万円で売却したら、それは明らかに相場と逸脱した価格であるため、みなし贈与に引っかかります。大体相場価格の80%を下回ると、みなし贈与と判断されてしまうといわれています。
そうすると、上の例でいえば2,000万円-500万円=1,500万円から控除分を差し引いた分の金額に、贈与税が課されることとなってしまいます。
住宅ローンが組みづらい
親族間売買は、一般的な不動産売買に比べて、住宅ローンが極端に組みづらい・審査に通りづらいというデメリットがあります。
住宅ローンは、住宅の購入のみに利用できるという制限がある代わりに、ほかの一般的なローンと比べて金利がかなり低く設定されています。だからこそ、事業用資金のためのローンに悪用されることを、金融機関は警戒しているのです。
親族間売買は、近しい相手に住宅ローンを流用されるのではないかという疑いがどうしてもついてまわるため、金融機関は敬遠するのです。初めから審査すら受付していない、審査しても基準が非常に厳しい、という金融機関がほとんどであり、住宅ローンを利用したいのであれば金融機関選びもひとつの課題となってしまうでしょう。

税務上の特例控除が適用されないケースがある
不動産売買には、さまざまな特例や控除が存在しており、要件を満たせば誰でもその恩恵にあやかれますが、親族間売買においては適用されないものもあります。
自分たちのケースが適用を受けられるか否かということに関しては、専門家にあらかじめしっかりと確認しておきましょう。
親族間売買の注意ポイント
適正価格を算出する
みなし贈与の恐れを回避するために、もっとも気をつけなければいけないのは、物件の売買価格の設定です。極端な話、法律上は取引の当事者同士さえよければ、10円でも100円でも不動産売買は成立します。しかし、それではみなし贈与とされてしまい、多額の贈与税が課されることになるのは前述した通りです。
そのため、親族間であってもきちんと相場価格に近い適正な金額で売買価格を算出することが大事です。路線価や固定資産税評価額といったものから自分たちで算出することもできますが、もっともよいのは専門家、つまり不動産会社に査定を頼むことです。確実さを求めるなら、不動産会社に相談するのがよいでしょう。
また、不動産鑑定士に不動産鑑定をしてもらう、という本格的な方法もありますが、こちらにはかなりの金額がかかります。とはいえいずれにしても自分たちだけで価格設定をせず、専門家に頼ることをおすすめします。
口約束をしないできちんと売買契約書を作成する
親族間という気心も知れている仲なのだから、契約書は必要ないのではないか…というのは大きな間違いです。
口約束だけでも、売買契約は成立します。ですが、どんな間柄であっても取り決めたことは必ず書面に起こし、双方納得のもと形として残しておくことを強くおすすめします。のちのちの「言った・言わない」のトラブル防止になるだけでなく、ほかの親族に対しても「きちんとした契約を交わした」という証拠として提示できるからです。

不動産会社の仲介を考える
親族間売買のメリットのひとつに「仲介手数料がかからない」というものがありましたね。親族間であるため不動産会社の仲介が必要なく、当事者同士で話がまとまりやすいからです。
しかし、適正価格の算出の項でも述べましたが、親族間といっても素人同士の取引であり、不動産という大きなお金の動く売買契約です。わからないことが出てきたり、トラブルにつながることが発生したり、不安な要素は尽きないでしょう。このようなときに相談に乗ってくれて、適切な対処法を教えてくれるのが不動産会社です。売買契約書の作成についてもそうですが、やはり素人である以上きちんとした書面を用意することも難しいでしょう。そんなときも不動産会社は強い味方になってくれます。
さらにいえば、親族間売買のデメリットである「住宅ローンが組みにくい」という弱点も、不動産会社を介すれば審査に通りやすい金融機関を紹介してもらえることも期待できるでしょう。というよりも、そもそも住宅ローンの審査には、売買契約の際に作成される「重要事項説明書」が必須になります。この書類を作成できるのは宅地建物取引士のみであり、素人では不可能です。重要事項説明書の作成だけ不動産会社に頼るということもできますが、それなら初めからいろいろと頼った方が心強いともいえます。
また、親族の当事者同士で取引するのではなく、一般的な不動産売買と同様に不動産会社を介する売買を行うことによって、不正な取引ではないことを税務署に「アピール」できるという副産物的な効果もあります。
仲介手数料を節約することはたしかに大事ではありますが、費用対効果の面で見ると、結果的に不動産会社に協力を求める方が得となることは多いといえるでしょう。
他の親族の同意を得ておく
いくら当事者同士の合意があれば売買契約は成立するといっても、そこには人の感情というものが絡んできます。ほかの相続人のなかには、この売買契約に不満を持つ人もいる可能性がある以上、取引を考えた際にはあらかじめ相続人全員に相談し、話を通しておくことが事をスムーズに進めるポイントです。余計なトラブルを発生させて親族間でもめることは避けたいところですからね。

まとめ
親族間での不動産売買は、形式こそ一般的な取引と変わらないものの、さまざまな懸念事項が存在しており、安易に価格設定や当事者間の取り決めをするべきではない、ということがわかりましたね。関係性は、「第三者よりも気心の知れた間柄」かもしれませんが、気をつけるポイントをきちんと押さえて、スムーズな取引にしましょう。