不動産売買の手続きというと、「とにかくめんどくさそう」というイメージがつきまといます。不動産業者に仲介してもらっても、大量の書類や確認事項に埋もれて、契約が成立したときにはヘトヘト、という経験をした方もいることでしょう。
では、その不動産売買の手続きを「個人で行う」としたらどうなのでしょうか?もっと楽になる?費用が安上がりになる?それとも、さらに面倒なことになる?
今回は不動産の個人売買について、「そもそも合法なのか?おすすめなのか?」という点からはじめ、さまざまなお話をしていきます。
結論として不動産の個人売買はおすすめなのか?
友人や知り合い同士、親族間、または全くの他人同士で、仲介業者を介さず個人で不動産を売買することは、法律上では問題ありません。
個人同士を仲介する不動産業者は、宅地建物取引士といって国家資格を持った人を置かなければならないという決まりがありますが、個人間で取引を行う場合には.その個人が有資格者である必要はないからです。
しかし、有資格者はいわば不動産の専門家であり、その仲介があればこそ不動産売買もスムーズにいくわけであって、無資格の個人間で同じことを行って果たしてうまくいくのかというと、残念ながらまずほとんどの場合でトラブルがつきものです。
不動産業者に支払う仲介手数料は、なかなかの金額になるものであり、これを節約したいからというだけの理由で個人間売買をしたいと考える方も多いのかもしれませんが、手間や時間、トラブル解決のための対策などについて考えると、仲介手数料以上の(単純に「金額」ではなく)コストがかかってしまう可能性があります。
何を優先したいのか、どれだけの専門知識があるのか、そういったことをすべて加味して、本当に個人間売買の方が総合的に見て得なのか、よく考えたうえで判断しなければなりません。
不動産の個人間売買のメリット・デメリットについては、詳しく後述します。それらをすべて踏まえて、失敗のない取引にできればよいですが、それが難しいと感じられるならば、やはり業者に仲介を依頼するのがもっとも確実だといえるでしょう。

不動産個人売買サイトとは
不動産を個人間で売買する場合、もともとの友人や知り合い同士であれば意思疎通も容易であり、取引相手を一から探すという手間もありません。
ではそういった相手がおらず、取引相手を見ず知らずの人から探す場合には、「不動産個人売買サイト」というものが活用できます。
インターネット上にはさまざまな個人売買サイトがあり、それぞれに特色があります。
無料で使えるもの、専門家のサポートが受けられるもの、成約時にはサイトに対する報酬が発生するが掲載だけなら無期限・数制限なしで無料というもの、本当にさまざまです。
自分の状況に合うもの、使いやすいものを選ぶのが大事ですが、何よりもそのサイトの規約をまず初めにしっかり確認して把握しておくようにしましょう。
ただでさえ個人間でのやりとりにはトラブルがつきものです。サイトを正しく使うことによって少しでもトラブルを回避できるよう、危機管理が必要です。
不動産の個人売買のメリット
個人売買サイトを利用するにしろしないにしろ、仲介業者を挟まない個人売買そのもののメリットにはどのような点があるのでしょうか。
メリット1 費用の節約ができる
何度もお話している通り、不動産業者を挟まないため、仲介手数料の支払いが不要になります。
仲介手数料は、最大「売却益の3%+6万円」という金額になります。売却益が1,000万円であれば36万円ということです。
なかなか大きな額であり、さらに本来であればそこに消費税も発生してくることを考えると、費用節約面のメリットは絶大だといえるでしょう。
メリット2 売主・買主の希望を反映させやすい
不動産業者が仲介する売買契約の場合、物件の価格や細かい取引条件などの内容は、不動産業者が主導で決めていくことになります。
専門家のサポートがあるため安心だという反面、売主の希望が通りづらく、自由度の面では高いとはいえません。
その点、個人間の取引であれば、細かい条件まですべて売主と買主の間で取り決めていくことができます。
また、仲介で間に人が入るということは、便利である反面時間がかかって煩わしくなる点もあります。個人間であればすべてを直接やりとりできるため、スムーズに意思疎通できることもあるでしょう。

不動産の個人売買のデメリット
メリットがあればもちろんデメリットもあります。トラブルの多い個人間売買においては、メリットよりもデメリットをしっかり把握しておくことが重要です。
デメリット1 買主を見つけづらい
取引相手が友人や知り合いなら問題ありませんが、一からそれを見つけようと考えているなら、不動産業者に仲介してもらうよりも時間がかかることがあります。どうしても買主が現れるのを受動的に待たないといけないからです。
不動産業者が入ってくれれば、業者が積極的に売却活動を行ってくれて、調整もしてくれるので、自分で探すよりも遥かに早く、そして楽に買主を見つけられます。
個人間だと、お互い希望が合いそうな買主候補を見つけても、それからのすり合わせや手続きにも相応の時間がかかります。
取引を急ぐ場合には、個人間取引は適していないと認識しておきましょう。
デメリット2 手間と時間がかかるのにトラブルが多い
何度も述べているように、個人間での取引では、すべてを自分たちで行わなければなりません。確認すべき事項をすべてあらかじめ確認し、作成しなければいけない書類も膨大にあり、専門知識が不足していればその都度調べ、抜けや漏れがないようすべてをしっかり進める必要があります。
そこまでしても、なおのちのちトラブルにつながる要因は多々あります。仲介手数料を節約できたはいいものの、節約した分以上の費用や手間、時間がかかってしまい、結局コストパフォーマンスで見たときに得なのかどうかがわからなくなってしまうことがあるでしょう。
仲介手数料を支払うということは、仲介不動産業者が行ってくれる仕事はそれに見合うだけのものだ、ということです。
費用の節約だけを目的にして個人間取引を考えているのであれば、やはりもう一度コストパフォーマンスを考え直すべきといえるでしょう。

不動産の個人売買を行う際の注意ポイント
メリット・デメリットを理解したうえで、実際に個人売買を行う際の注意ポイントを押さえておきましょう。
サイトを利用するなら規約をしっかり確認
前述もしましたが、個人売買サイトを利用する際にはまずしっかりとサイトの規約を理解しましょう。
サイトによって規約の内容は本当にさまざまであり、きちんと知っておかないまま利用を続けていると、思わぬ出費があったり取引がうまくいかなかったりする原因にもなります。
相場を知り価格が妥当なのかの判断力を養っておく
売却価格が妥当なのかを見極めるために、その物件の相場価格を知っておくことは、売主にとっても買主にとっても重要なことです。
売主は売り出し価格を決める際に必要なことですし、買主は適正な価格よりも高い買い物をしてしまうことを防ぐためです。また、売主の価格設定の根拠を知るためにも、買主が相場を知っていることは必要といえます。
実際の価格交渉の前に、両者ともあらかじめその物件の妥当価格を調べておきましょう。
取引相手は慎重に見極める
非常に高額の取引が行われる際に、売主・買主両者とも取引相手の情報がよくわからないというのは、とても不安なことです。
残念ながら、だまされて大きな損害を被ってしまうという恐れももちろんあります。相手が信用できるかどうかの見極めを、随所で行うように努めましょう。
契約不適合責任(瑕疵担保責任)を理解しておく
これは、「売主は買主に対し、引き渡し後物件に何か不具合があった場合は、その責任を負わなければならない」というものです。
家屋は外から見ただけではわからない不具合が存在することも、よくあります。売主さえも把握できておらず、買主が実際に住み始めて発覚する、というものもあるのです。
まずは売主と買主が立ち合いのもと、ひとつひとつしっかりと不具合を確認することが重要です。そのうえで、瑕疵が発覚した場合「引き渡し後◯年は契約不適合責任を負う」などを具体的に取り決め、しっかり書面に記載しておきましょう。
場合によっては、この立ち合いにだけプロの力を借りるということを検討してみるのもよいでしょう。
のちのちのトラブルを避けるためには、プロの目で確認してもらうのが最善といえます。
困ったときには専門家を頼る
個人売買に限界を感じたとき、またはピンポイントで助けが必要になったときには、不動産業者だけでなく行政書士や司法書士などの専門家を頼るのもひとつの方法です。書類作成だけ依頼する、などの利用方法であれば、費用を抑えつつも必要なサポートを受けることができるでしょう。
無理はせず、トラブルに発展する前にスムーズに解決につながる手段として有効です。

不動産個人売買の流れ
不動産価格の相場を調べる
前述したように、売主にとって売ろうとしている不動産の価格設定は非常に重要です。
価格の設定も自由である個人売買だけに、これを怠るとそもそも購入希望者が全然現れない、本当はもっと高額で売れたのにかなり損をした、ということにもつながりかねません。
そうならないように、まずは自分の物件の妥当価格はどれぐらいなのかをあらかじめしっかり調べておきましょう。
インターネットで一括査定サイトやAI査定といったものを利用し、複数社に査定してもらうことで、相場が見えてきます。
書類や資料の準備
まず必要となるのが、
・登記簿謄本(法務局に保管されている不動産の記録)
・固定資産税評価額証明書(不動産の資産価値の評価額を証明するもの)
・公図(土地の大まかな形状や位置を表した図面)
さらに、売買契約時には次のものも必要となります。
・権利証(登記済証)または登記識別情報
・本人確認書類
・住民票
・印鑑証明書
・実印
売却価格を決めて宣伝する
調べた相場価格から、実際に売り出す価格を決めて、前述した不動産個人売買サイトなどに掲載し、購入希望者が現れるのを待ちます。
このとき、購入希望者からの値下げ交渉に備えて、多少高めに価格設定をしてもよいですが、これが高すぎるとそもそも希望者自体が現れなくなるので、匙加減に注意が必要です。
取引相手が友人などですでに決まっている場合は、価格については相談しながら決めてもよいでしょう。

問合せや内覧への対応
売却物件の情報については、購入希望者からどんな質問をされても答えられるように準備しておきましょう。もちろん、アピールポイントになる長所だけでなく、認識している不具合などについても誠実に伝えなければなりません。
また、取引対象が一戸建て住宅やマンションなどであれば、内覧を希望されることもあるでしょう。内覧は、購入を決定づける大きなポイントにもなります。きれいに片付けて整理・掃除をし、場合によってはハウスクリーニングなども入れたうえで、よい印象づけができる状態にしておきます。
契約書などの作成
購入希望者が購入を決意し、価格交渉で最終的な売却価格も決めたら、売買契約を結びます。
このとき必ず必要になるのが売買契約書です。取引の詳細内容を取り決め、どんな細かいことでも書面として残せるようにしておきましょう。
売主・買主の両者合意のもと、契約書に署名をかわせば売買契約の成立です。
引き渡し
決めていた引き渡し日に、物件の引き渡しを行います。このあとも何かトラブルや不具合で買主から連絡を受けることがあるので、しっかり対応できるようにしておきましょう。
まとめ
不動産の個人売買は、基本的にはあまりおすすめできる方法ではないということがおわかりいただけましたか。
もちろん専門知識を豊富に持っていて、時間的余裕があり、自信をもって個人売買契約の方がよいと言い切れる方はそれでもよいでしょう。しかし少しでも不安がある、仲介手数料の節約より時間や手間の節約の方が重要、という方は、迷わず不動産会社に仲介を依頼するのが最善といえます。