「土間」と聞くと、その名の通り「床が土で、靴で歩く場所」「昔の家屋によくあった空間」というイメージが大きいでしょう。そのイメージはもちろん間違ってはいませんが、近年は土ではない床の土間を新築の家に取り入れる方も増えており、驚くほどおしゃれな空間に創り上げている家屋をたくさん見かけます。
今回は、土間のある家のメリットやデメリット、どんなふうに間取りに取り入れるのか、どのように活用するかという実例を挙げていきます。
土間とは?
昔の日本家屋には、主に玄関や台所に大きな土間が広がっているものが多くありました。現代は大きな土間をすっかり見かけなくなりましたが、最近になってまた土間の良さが見直され、昔よりもスタイリッシュな形でよみがえってきています。
土間ってどんな空間?
土間は、一言でいうと「屋内だけれど土足で歩き回る空間」です。昔も今も土間が残っている空間といえば、玄関ですね。
さらに、昔はかまどを置いて広々とした台所にしたり、農具などの手入れをしたり、近所の人が集まったり、という場所として、土間は大切な空間でした。土足で立ち入れるため、床が多少汚れることを気にしなくて済み、気軽に歩き回って作業ができたのです。
日本家屋には「家の外と中の中間」というあいまいな空間がよく使われてきました。土間のほかに縁側も、そういった空間のひとつと考えられます。
現代は住宅事情が変わってきて、居住空間から土間がなくなっていき、玄関もどんどん小さくなっています。しかし、近年になってこの土間の良さに注目する人が増え、昔とはまた一味違う用途で活かされるようになってきています。

土間の素材
時代の流れによって、土間の床の素材にもバリエーションが生まれてきました。
三和土(たたき)
古くからの土間に使われた素材といえば、この三和土です。赤土や砂利などに、消石灰と、にがりなどを混ぜて練ったものです。「敲き土(たたきつち)」の略で「たたき」と呼ばれ、3種類の材料から作られたため「三和土」の字があてられたといわれています。
蓄熱性があるため、ひんやりとなりがちな土間空間を快適な温度に保てるということで昔の土間にはよく使われていましたが、たたいて固める作業があるためコストが高く、ほこりが出やすいうえに削れてへこみやすいという欠点があるため、近年はあまり使用されなくなりました。
コンクリート・モルタル
コンクリートはセメントに水・砂・砂利を混ぜたもの、モルタルは水と砂を混ぜたものです。どちらも目地がなく、シンプルで無機質な床に仕上がります。モルタルはコンクリートよりもさらに表面が滑らかになりますが、強度はコンクリートに劣り、ひび割れしやすいという欠点があります。
タイル
デザイン性を追求するなら、大きさや色の種類が豊富なタイルを床の素材に使うという選択肢もあります。木目調や天然石調など、家の外壁に合わせたり空間の雰囲気づくりに役立てたりできるでしょう。汚れづらいものを選べば掃除も楽になります。
ただし重いものを落とすと割れてしまったり、経年で目地が減っていったりするため、メンテナンスが必要です。
天然石
大理石や御影石などは、高級感があって美しい空間を演出できます。濡れると滑りやすくなる点には注意が必要で、滑り止め加工などを検討する必要があるでしょう。

土間を取り入れた間取りと実用例
土間をどこに、どのように配置するかによって、土間の使い方や動線にバリエーションが生まれます。生活スタイルや土間に望む目的をよく考えたうえで、どのように土間を活かしたいのかというイメージを膨らませましょう。
玄関土間
前述した通り、今でも「土間」として残っている空間といえば、玄関です。玄関はまさに家の中と外をつなぐ場所であり、靴のまま入ってきて靴を脱ぎ、家の中に入ります。
居住空間の確保のため、現代は玄関がどんどん小さくなってきましたが、玄関土間を広々としていることでさまざまな使い道が生まれます。
多彩な収納空間
玄関土間を広くすることで、さまざまなものを収納することができます。靴や傘を置いておくのはもちろんのこと、家の中には持ち込みたくないけれど屋外に置きっぱなしにするのはちょっと…というもの、たとえば自転車やバイク、ベビーカーなども広々と収めることができるのです。風雨や紫外線による劣化、盗難を防ぐこともできるので安心ですね。
雨で濡れてしまった、泥がついてしまった、というものでも、床が汚れても気にならず、さらに屋根がついた土間であれば、気軽に置いておけるというわけです。
また、外から帰ってきてすぐに上着をかける場所も設けておけば、次の外出の際にもさっと着ることができます。
玄関に置いておきたいものというのは意外に多くなりがちですが、一般的な玄関の広さですべてを置きっぱなしにすると、玄関まわりがごちゃごちゃになってしまいます。広めの玄関土間を収納スペースにすることで、家の顔である玄関がすっきりと整頓され、気持ちの良い空間にすることができるでしょう。
来客をもてなす
部屋に上がってもらうほどの用事ではない来客でも、ちょっとしたベンチや小さなテーブルを玄関土間に置いておけば、立ち話をせずに会話を楽しむこともできます。
リビングとはまたいっぷう変わった、家族のくつろぎの空間にしてもよいでしょう。

リビングにつながる土間
玄関や庭などから、靴を履いたままリビングまで移動できる土間があるのも、便利でおしゃれです。
買い物したものをまっすぐ室内へ
特に雨の日などは、荷物を置いて靴を脱いで、また荷物を持ち上げて…といったわずらわしさから解放されますね。
食材などを買い物してきたら、玄関からリビングやキッチンに隣接したパントリーなどにまっすぐそれを運ぶことができます。
庭とリビングの中間の空間
庭の家庭菜園で収穫した、土のついた野菜の処理を行ったり、外遊びをしてきた子どもやペットの一時待機場所にしたり。庭と室内をつなぐ土間があれば、外からの汚れを気にせずにそこで一時的な作業ができます。
また、ベランダ菜園のような使い方をしても楽しいですね。
天気が悪いときの遊び場に
雨が降って庭遊びができないときも、庭につながる土間があれば子どもやペットのいい遊び場ともなるでしょう。洗濯物を干すスペースとしても活躍します。
薪ストーブの置き場所に
一般的な家屋だと、なかなかハードルが高い薪ストーブも、土間スペースがあれば挑戦したくなりますね。薪を置く、灰が飛び散るなど室内であれば汚れに躊躇してしまう点も、土間であればいくぶん気を遣わずに済むのではないでしょうか。

土間キッチン
昔の日本家屋では、勝手口に続く土間の台所、という光景が多く見られました。キッチンやダイニングを土間にすると、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。
掃除がしやすい
水や多くの食材を扱う台所や、小さな子どもが食事をするダイニングは、床が汚れやすいものです。その点掃除のしやすい土間であれば、こぼれたものも簡単に掃除ができるでしょう。
アウトドアダイニングが楽しめる
庭に続く土間にキッチンやダイニングも設置しておけば、天気の良い日は窓を開け放って庭を眺めながらの食事が楽しめます。
その他の使い方
趣味のスペースとして
特にアウトドア系の趣味がある方なら、ロードバイクやサーフボード、キャンプ用品、野球道具やゴルフバッグなど室内に保管するにはためらってしまうものも、土間であれば気軽に置くことができます。おしゃれに「見せる収納」も可能ですね。
メンテナンスをする際にも、天候などを気にせずゆっくりと室内で行えます。
もちろん用品の収納場所としてだけでなく、DIYのためのスペースにしたり、本が読めるように椅子を置いたり、まさに趣味そのものを楽しむ空間としても使えるでしょう。
ストック場所として
ただの収納スペースとしてではなく、食料や日用品などをストックしておく場所としても、土間は重宝します。比較的気温が低くひんやりとしている土間であれば、食品も長持ちしやすくなるでしょう。

土間のメリット
これまでの「土間の間取り例」を見ると、土間空間の魅力が見えてきましたね。いまいちど、メリットをまとめてみましょう。
家の「内」と「外」両方の役割を果たせる
「屋内なのに土足で歩ける」という特徴によって、汚れをある程度気にせず、しかし天候は気にしなくて済みます。その点で屋内と屋外の長所を兼ね備えていて、アウトドアでもインドアでも活躍できる場となるでしょう。
自分のライフスタイルや趣味、家族構成に合わせて「こんな空間があったらいいのに」をうまく実現できる可能性が、土間空間を活用することで生まれるかもしれません。
コミュニケーションが気軽・手軽に
玄関土間は、セカンドリビングとして家族内での円滑なコミュニケーションはもちろんのこと、ちょっとした来客の応対にも役立ちます。もてなしのために居室を片付けなければいけない…という手間も省くことができるうえ、かといって玄関で立ち話は失礼…という悩みもなくなるでしょう。
夏に過ごしやすい空間となる
土間の床はコンクリートなどが打ちっぱなしであり、また日差しも防ぐので、夏は居室よりも屋外よりもひんやりとした空間となります。くつろぎのスペースとして調えておけば、暑い季節に各居室でクーラーを入れっぱなしにしなくても、土間空間である程度過ごしやすい時間を送ることができるでしょう。

土間のデメリットとその対策ポイント
魅力が多い土間ですが、もちろんデメリットもあります。両方知っておかなければ、造ってしまってから後悔することもあるでしょう。土間の抱えるデメリットと、その対策について解説します。
冬は寒い
コンクリートなどが打ちっぱなしで床材の張られていない土間は、夏涼しい分冬は寒く感じます。素材のみならず、床自体が低いことも原因です。
このため、土間の寒さがリビングや居室まで影響を及ぼさないように、家全体の断熱性を高めることが必要になります。また床にもしっかり断熱材を入れ、小型の暖房器具を置くことも検討するとよいでしょう。
地域によっては、土間に入ること自体が耐えられないくらい寒い空間となってしまうこともあるでしょう。その場合は居室と土間の間に仕切りを設け、冬は土間をあまり活用しない方向で考えることも必要になるかもしれません。
床が滑りやすい
タイルなど、床の素材によっては特に水で濡れたときに滑りやすくなります。
汚れても気にならない空間だという点がメリットであるだけに、水で洗い流す機会が多くなりそうなら、きちんと滑り止めのための加工をしておくことも、頭に入れておきましょう。
湿度が上がりやすい
リビングと庭をつなげる土間などであれば、窓があるため湿度はそれほど気にならないかもしれませんが、玄関を土間にする場合には濡れた靴などから発する湿気がたまり、湿度が上がってカビなどの心配が出てきます。
換気扇を設ける、玄関にも通風のための窓を造る、壁の素材を珪藻土など湿気の吸いやすいものにするなど、湿気対策が必要です。
部屋の行き来が面倒になることがある
土間は土足で歩くものなので、その都度履物を履いたり脱いだりしなければならず、間取りをよく考えないと非常に面倒なことになる恐れがあります。たとえばリビングからトイレに行きたいだけなのに、間に土間があるためいちいち靴を脱ぎ履きしなければならない…などという例です。
生活動線をよく考え、動線を土間が分断することのないように、設計時からしっかりイメージすることが大事です。
また、土間と居室の間には段差もできるため、子どもや高齢者は特に気をつけなければなりません。もし将来バリアフリー化を考えているのであれば、段差は少し小さめになるように設計しておくとよいでしょう。

土間を設けるときのポイント
これまで挙げたメリット・デメリットを踏まえ、土間を設ける際のポイントを押さえておきましょう。
土間の使用目的を明確にする
なんとなくおしゃれだから、なんとなく便利そうだから…というように、明確に使用目的や用途を決めずに土間を配置してしまうと、先述したデメリットばかりが目立ってしまう空間になり、後悔につながります。
土間空間がまったく必要ではないと考える人ももちろんいますし、実際必要がない人も多いでしょう。すべての人に便利だというわけではないのですから、明確な使い道をイメージできないのであれば、そもそも設置する必要はないのです。
居住スペースとのバランスを考える
ここまで見てきたように、土間は多様な用途で使える空間ではありますが、あくまで補助的なスペースとして土間を利用する場合は、あまりに土間に割く面積を広くしてしまうと、肝心の居室部分などを圧迫してしまう恐れが出てきます。それでは本末転倒です。
前述した「使用目的を明確に」と重複しますが、土間で何をしたいのか、その目的のためにはどの程度の広さが必要でどこに設置するのが便利なのか、ということを綿密に考え、理想を叶えられるようにしていきましょう。
照明やコンセントもしっかり配置する
使用目的や時間帯にもよりますが、土間に照明やコンセントを設けておくことも忘れずに。現時点では必要性を感じない場合でも、土間の使用目的や用途が変わることも考えられます。そのときに備えて、あらかじめ設置しておいて損はないはずです。
また、はじめから土間は汚れてもいい空間として使う予定であれば、水道設備や排水溝などもあると便利ですね。

まとめ
魅力にあふれた土間という空間。生活のための補助空間でありながら、毎日を豊かにしてくれる可能性もたくさん秘めています。
とはいうものの、居住空間を圧迫するようでは本末転倒です。使用目的や用途をしっかりと考えておき、理想的な間取りにできるよう綿密な計画を立てて設計するようにしたいですね。