2階建ての戸建住宅が主流であるなか、「平屋」の暮らしはどうなのでしょうか。ワンフロアしかないけれど、その分悠々とした構えの家が多いイメージですよね。
そのイメージ通り、快適でゆったりとした生活を送れることができるものなのでしょうか?近年は平屋のメリットが見直され、デザイン性や機能性の高さもあいまってさまざまな世代から人気を集めています。
今回は、平屋のメリット・デメリットを全解説し、その魅力をお伝えします。
平屋とは?
一言でいうと「1階建ての家」が平屋です。
実は一昔前の日本の家屋は、平屋が主流でした。それが人口増加に伴い、土地を有効利用する必要にかられるようになり、現在のように2階建ての家屋やマンションなどの集合住宅に取って代わられて、現在は平屋の方が数少ない状態となったのです。
そのため、平屋というと昔ながらの日本家屋をイメージする方も多いと思われます。しかし現代の平屋はデザイン性も機能性も以前に比べて格段に上がっています。
それもあって、「階段の上り下りがなくて楽」という点からシニア世代に選ばれるだけではなく、近年は若い人やファミリー層も含めすべての世代から人気を集め、注目されています。平屋ならではのメリットを活かし、二階建てでは実現できない個性的な家屋を設計することもできるのです。
平屋には快適な毎日を送れる多くのメリットがありますが、それが逆にデメリットとなりうる場合もあります。メリットばかりに気を取られず、家族構成やライフスタイル、家を建てたい地域などさまざまな観点から検討して、平屋を選ぶべきかどうかを決める必要があります。
まずは平屋のメリット・デメリットを列挙していきましょう。
平屋のメリット
バリアフリーで安全
平屋のメリットといえば、まずこの点が真っ先に挙げられるのではないでしょうか。階段がなくワンフロアで生活のすべてが完結するため、小さな子どもも高齢者も安心して毎日を過ごすことができます。
今は子どもや高齢者がいない場合でも、自分たちの将来の暮らしを考えたら、バリアフリーであることは快適であるはずです。必要となってからバリアフリーにリフォームしなければならない、という心配もなくなります。

生活動線がシンプルでコンパクトな生活が可能
前述したように「ワンフロアで生活のすべてが完結する」ということで、生活動線がコンパクトに、シンプルにまとめられます。1階と2階を行ったり来たりすることがなく、動きに無駄が生まれないのです。
ひとつひとつの無駄はそうでもなくても、毎日のことで積み重なればストレスになることもあるでしょう。たとえば洗濯は1階で行うのに、干したり収納したりするのは2階という場合、それを毎日行うことに面倒を感じることもあるはずです。
掃除機を2階まで持って上がらなければならない、というのも毎回大変でしょう。
平屋であれば、すべて同じフロアでの行き来で済むため、少しずつといえども家事の時短にもつながります。
家族間のコミュニケーションが取りやすい
平屋はワンフロアであるため、廊下がないなど間取りにも無駄がない設計であることが多く、それが家族間の距離を縮めることにもつながります。
たとえ別の部屋にそれぞれがいるとしても、部屋と部屋が近いためお互いの存在を感じやすくなり、またリビング中心の生活となるため自然に顔を合わせる時間も多くなるでしょう。
小さな子どもにも目が行き届き、階段の転落事故の心配もありません。
構造的に安定しているので地震・台風に強い
地震の揺れは、建物の高さや重さが影響します。2階建ては高さがあるうえ、上階の重さが1階にかかることによって、揺れが大きくなりやすいのです。
その点、平屋は上からの加重が小さく、また背も低いため構造的に安定しており、2階建てに比べて耐震性が高いといわれています。
また、背が低いことは風の影響も受けづらくなることにもつながるため、台風にも強いつくりだといえるでしょう。

間取りの自由度が高い
平屋は2階部分を支える壁や柱が必要ないこともあって、間取りの自由度が高いというのもメリットのひとつでしょう。
2階部分がない分天井を高くすることができるため、開放感が抜群の空間づくりができたり、スキップフロアや屋根裏などを造ったりすることも可能です。天井に小窓をつけるのも素敵ですね。
建物の形自体も、長方形だけでなく「ロ」の字型や「コ」の字型で中庭を設けたり、「L」字型や「く」の字型にしてうまく外からの視線を遮ったりという工夫もできます。
天井の仕上げにもバリエーションが生まれます。屋根の傾斜に沿った「勾配天井(ななめの天井)」でアクセントをつけたり、あえて天井を設けず梁を剥き出しにしたり、というデザインでの楽しみ方もできるでしょう。
メンテナンス費用や光熱費が抑えられる
平屋は背が低いため、外壁や屋根の修繕を行う際にも大掛かりな足場を組む必要がありません。
足場代というのは、意外に高額になるものです。これを抑えられということは、かなりのメンテナンス費用節約につながります。
住宅はローンさえ支払えばいい、というものではありません。メンテナンスや改修にも定期的に費用がかかるものであるため、そこを抑えられるというのは非常にありがたいことでしょう。
また、ワンフロア分の冷暖房代だけで済むので、光熱費を節約できる点も見逃せません。環境にもお財布にもやさしいというメリットは、嬉しいですよね。
階段部分のスペースが節約できる
平屋は1階部分しかないため、当然階段は存在しません。実は階段やそのホールのために要するスペースの面積は実に4~5畳分といわれていて、デッドスペースにもなりがちなもったいない空間なのです。それがないということは、平屋ではその分を有意義に使えるということです。
屋外に出やすく自然を身近に感じられる
1階建ての平屋は、すべての空間が地面に近く、屋外にすぐ出られるということもあって、自然を身近に感じられやすいという長所もあります。室内にいながらにしても屋外を感じられるのが素敵なのです。
実際、平屋を選ぶ人の中にはガーデニングや家庭菜園したい、ハンモックをつるしてバーベキューを楽しんでプチアウトドアを楽しみたい、という希望を持っていることが多いようです。
中庭にテラスやウッドデッキを作ってお茶やお菓子を楽しむなど、セカンドリビングとしていつもとは一味違う生活を味わうのもよいでしょう。
また、外にすぐ出られるという点は、屋外への避難に時間もかからないため、災害などの緊急時にも安心につながるでしょう。

平屋のデメリット
メリットばかりに目が行ってしまうと、マイホームという大きな買い物をして、あとからデメリットを見つけたら対策も難しくなります。
平屋は、ライフスタイルなどによってはメリットがそのままデメリットになってしまいがちです。デメリットもあらかじめ知っておいて、平屋は本当に自分に合っているかどうかともっと深く考える材料になるでしょう。
広い土地が必要
平屋はワンフロアしかないので、もし2階建ての家と同じ延床面積の平屋を建てようとしたら、単純に2階建ての2倍の面積の土地が必要だということになります。
たとえば延床面積が80坪の家であれば、2階建てなら1階を40坪、2階を40坪にすればいいのですが、平屋の場合は80坪の家が建てられる土地でなければならないのです。
しかもこの際には、建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)の問題もあります。建ぺい率は地域によって違いがありますが、「80坪の土地だから80坪の平屋が建てられる」とはなりません。その敷地いっぱいに建物を建てられるわけではないのです。
広い平屋を建てたいのであれば、より広い土地が必要になります。
また、広い土地が必要になるということは、それだけ固定資産税も高くなるというデメリットも発生します。
平屋=高級住宅というイメージが強いのは、これらも理由になっているのかもしれませんね。
面積あたりの建築費用が高額になる
2階建ての方が構造は複雑そうだから、建築費用も2階建ての方が高くなるのではないか…というイメージがありますが、実は平屋の方が建築にかかる費用はかさみます。
その理由は、基礎と屋根の面積が広いからです。前述したように同じ延床面積の家を建てるとしたら、平屋は2階建ての家屋よりもほぼ倍の広さの基礎工事と屋根工事が必要となるため、その分の費用がかかってしまうのです。

日当たりや風通しをしっかり考える必要がある
家屋が密集するような住宅地に平屋を建てると、背が低い分まわりの家に日光や風が遮られてしまい、日当たりや風通しの良くない住宅になってしまう恐れが出てきます。
また、ワンフロアにすべての部屋を収めるため、細長い形状の建物でない場合は窓のない真ん中の部屋が存在する間取りになってしまう可能性もあり、昼間でも暗いということが起こりえます。
天井に天窓を作る、中庭を設ける、建物の形を「コ」の字型や「ロ」の字型、「L」字型にするなどして、採光のための工夫が必要となってくるでしょう。
ただし、採光や風通しのために窓を増やし過ぎてしまうことで、夏は暑く冬は寒いという家になる恐れもあります。断熱性などについてもしっかりと把握しておかなければなりませんね。
プライバシー保護や防犯上の心配が多い
1階建てである平屋は、地面に近い部分に大きな窓を構えることが多く、外から、特に周辺の2階建てからの視線にさらされる恐れがあります。また、空き巣などの被害にも気をつけなければなりません。
塀や庭の配置でうまく目隠しを作ったり、リビングを道路から離れた場所に配置したり、何度かお話している「コ」の字型や「ロ」の字型で中庭を作って外部からの視線や侵入者を撃退できるつくりにするとよいでしょう。
家の中でのプライベートが確保しづらい
メリットの項目で「部屋と部屋が近いことで、家族間の距離が近くコミュニケーションが取りやすい」というものを挙げましたが、これがデメリットになりうることもあります。
個室にこもっていても音や声が漏れやすく、プライベートを確保しづらいということにつながる場合もあるのです。
部屋をパーテーションで区切れるようにしたり、ロフトを作ったり、プライベート空間を確保できるようにあらかじめ考えて間取りを設計しておく必要があるでしょう。
特に子どもは、小さい頃は良いでしょうが、思春期になってからひとりになれる空間を欲しがるものです。

水害時に不安がある
近年は大規模な洪水被害もよく起きていますが、平屋はそのような水害の発生時には不安が大きいものです。床上浸水してしまうと、居住空間すべてが水浸しとなってしまううえ、2階に避難するということもできないからです。
そのため、平屋を考えているなら土地選びは非常に重要となります。少しでも水害が起こりうる地域は選んではいけないということですね。
デメリット解消につながる平屋の注意ポイント
土地選びを慎重に
平屋は広い土地を必要とすること、まわりからの視線からさらされづらい立地に建てるのが良いこと、これらから考慮すると、都市部の住宅密集地では平屋のメリットが活かしづらくなると考えられます。
地価が比較的安価で、広い土地でも予算内に収まるような郊外、なおかつまわりに背が高い建物があまりない、住宅が密集していない、交通量や人通りがあまり多くないような立地がよいでしょう。これは日当たりや風通しの問題の解決にもつながります。
また、前述したように平屋は水害時に避難できる2階部分がないため、自治体が用意しているハザードマップで確認し、少しでも浸水のおそれがあるような地域はまず初めに避けるべきといえます。
設計・間取りを工夫する
日当たりや風通しの良い平屋を建てるには、立地だけでなく間取りも重要です。前述したように「コ」の字型、「ロ」の字型、「L」字型の建物設計にし、中庭をうまく活用することによって採光や風通しを工夫することができるでしょう。
天窓を設けたり、換気口を多めにしたり、窓などの開口部の場所をよく考えることでも快適な家になります。
また、中庭を設けて道路に面する側は壁面にしてしまえば、プライバシー保護や防犯上の問題もクリアしやすいでしょう。洗濯物を干しているところや部屋の内部が外から見えることがなく、外部からの侵入者も防ぐことができます。
もし複雑な形の建物にするのが難しい場合は、住宅の向きを工夫するだけでもだいぶカバーできるはずです。

固定資産税を抑えるには
平屋は2階建てに比べて固定資産税が高めになる傾向があると前述しました。固定資産税は資産価値が高いとみなされた場合に評価が高くなり、税額に反映されます。
平屋の資産価値が高いとみなされるのは、2階建てよりも広い土地を必要とするからです。それによって基礎や屋根が広くなり、建築によりよりたくさんの部材を必要とすることで、その分資産価値が高くなるのです。
これは、家屋を木造にしたり、構造をシンプルにしたりという工夫をすることである程度抑えることができます。平屋は元々構造的に安定しているため、木造でも問題はないのです。
家の中の設備も、グレードを抑えめにすることで、固定資産税の節約につながるでしょう。
まとめ
平屋の暮らしは大変魅力的であり、条件がそろえばぜひ住んでみたい、という方も多いでしょう。ただし、立地や土地の状態など制約はいくつかあり、誰もが手に入れられるわけではなく、また誰にでも合っているというものでもありません。2階建て住宅やマンションの方が、ライフスタイルに合致しているという方ももちろんたくさんいます。
メリット・デメリットの両方をしっかり押さえて、素敵な平屋ライフを検討してみてはいかがでしょうか。