空き家となっている家に限らず、現在住んでいる家を何らかの事情で売りに出したいということもあるかもしれません。その場合、売る理由にも寄りますが、「少しでも高く売りたい」という希望を持つのは当然といえます。
しかし、不動産を売却するという経験は一生のうちにそう何度もあるものではないはずです。多くの人は、どういう流れで売却活動を始めたらいいかということから詳しく知らないかもしれませんね。
今回は、住まいの売却を考えた際にまず何をしたらいいのか、そもそも売却の仕組みはどうなっているのか、少しでも高く売るためにはどうしたらいいのか、ということを解説していきます。
不動産の売却を考えたら

売却の「目的」は何なのか?
住まいを売却する目的は、人それぞれです。家族構成が変わって広い家が必要なくなった、買い換えしたい、転勤などで住まいのある地域を離れなければならなくなった…さまざまですが、その理由や目的によっては「できるだけ早く売りたい」のか「できるだけ高く売りたい」のかが変わってくるでしょう。
さらにはそれによって、売却の手段も変わってきます。次項で説明するように、不動産を売却するには「仲介」と「買取」というふたつの方法があるのです。
売却には「仲介」と「買取」という方法がある
通常、賃貸住宅を探したり、物件の売買をしたかったりというときには、まず不動産会社に「仲介」をお願いします。
売買取引でいうと、売主は不動産会社に仲介依頼をして、買主を探すわけです。この場合は、買主は一般の顧客になります。不動産会社は売主の売却希望条件と買主の購入希望条件をうまくすり合わせたうえで、売主と買主を結びつけるのです。
仲介の特徴は「不動産会社が販売活動を行ってくれるが、売却までに時間がかかる可能性もある」ということです。販売活動を行っても購入希望者がなかなか現れなければ、それだけ売却までに時間がかかるからです。
「確実に売却できるとは限らない」というデメリットもあります。
仲介に対してもうひとつの方法は「買取」です。これは、売主から直接不動産会社が値段をつけて物件を買い取る、というものです。仲介と買取の両方を行う不動産会社もあれば、買取は行っていない、逆に買取を専門に行っている、という会社もあります。
買取の特徴は、仲介とちょうど逆で「スピーディーに売却できるが、仲介よりも売却価格は下がる」という点です。仲介で売却する価格の3~7割程度になってしまうといわれています。
それでもとにかく早く売ってしまいたい、というときには買取という選択肢も十分に視野に入れられるでしょう。
このように仲介と買取の違いを踏まえたうえで、次項以降でお話する「不動産売却の流れやポイント」は、主に仲介という方法を取った場合のものであることをご留意ください。
売却活動の流れ

自分でできる事前準備をする
物件売却の仲介をお願いする業者を選定する前に、まず自分で行っておくべき事前準備について知っておきましょう。
まずは売却しようと思っている物件に住宅ローンの残債があるのであれば、その残債額を調べます。
住宅ローンは完済してしまわなければ、その物件を売却することはできません。しかし、残債があっても売却活動を行うことは可能です。
矛盾しているようですが、これについては後述します。まずは残債の金額をしっかり確認し、売却価格を決める際に参照できるようにしておきましょう。
次に、物件に関する手持ちの必要書類を準備します。
査定時に必要、売却時に必要など時期によって何が必要かは変わってきますが、おおよそ次のようなものを用意しておきましょう。
・登記済権利書または登記時期別情報
・固定資産税納税通知書および固定資産税評価証明書
・ローン残高証明書
・土地測量図・境界確認書
・建築確認済証および検査済証
・マンションの管理規約など
・耐震診断報告書・アスベスト使用調査報告書など
・地盤調査報告書・住宅性能評価書・既存住宅性能評価書など
・物件購入時の契約書・重要事項説明書など
・パンフレット・広告資料
など
さらに、自分自身で周辺地域の相場価格を調べることも重要です。同じような条件の家がどのくらいの価格で売りに出されているかということを調べます。不動産情報サイトや住宅情報誌などを利用しましょう。
インターネットで「公示地価」などの公的な価格指標を調べたり、周辺の「過去の取引事例」を見てみることもおすすめです。
相場を知ることで、次の段階である「不動産会社に査定価格を出してもらう」という場面で、それが適正かどうかを判断できますし、売り出し価格が安すぎて損をする・高すぎてなかなか買い手が見つからない、という事態を防ぐこともできます。
査定を依頼し不動産会社を選定する
事前準備が進んだら、業者選定を始めます。まずは数社に机上査定を依頼し、絞り込みができてきたら訪問査定もしてもらいましょう。
このとき、比較ができるように必ず一社だけではなく複数社に依頼することが重要です。
不動産会社と媒介契約を結ぶ
査定価格だけではなく、対応やその他もろもろの要素を加味したうえで信頼できる不動産会社を決めたら、その会社と媒介契約を結びます。
媒介契約には、拘束力の高い順に「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」と3種類あります。どの契約を結ぶかによって、「他の不動産会社にも依頼していいか」「自分で見つけた買主と直接契約してもいいか」「契約期間の上限」「REINSへの情報登録義務」に違いが出てきます。
売却活動を行う
媒介契約を結んだら、不動産会社はその物件を広く宣伝します。インターネットやチラシなどで購入希望者を募るのです。
売り出し価格は査定額をもとに最終的に決定しますが、決定権自体は売主にあります。とはいえ、あまりに相場よりも高い価格に設定しても、なかなか購入希望者が現れないということにもなりえます。そこはきちんと不動産会社の助言にしたがって進めていきましょう。
内覧の対応をする

売却活動のなかでももっとも重要といえるのが、購入希望者の内覧への対応です。これは売却物件を高く売るチャンスでもあるため、注意ポイントはのちほど詳述します。
内覧の日程は可能な限り購入希望者に合わせるようにし、物件を最良の状態で見てもらえるようにキレイに片づけ、掃除をしたうえで、物件のアピールポイントをしっかり伝えましょう。
また、いいところだけでなく不具合や悪い場所もきちんと伝えることが重要です。のちのちのトラブルを防げるだけでなく、誠実な取引として必要不可欠なポイントでもあります。
買主と売買契約を結ぶ
売主と買主双方の希望条件が一致し、正式に購入意思を確認できたら、仲介業者の同席のうえで売主と買主の間で売買契約を結びます。このとき、手付金も受け取ります。
決済と引渡し
売買代金から手付金を差し引いた残金の支払い(決済)を受け、登記事項証明書などの書類や物件の鍵とともに物件の引渡しを行い、売買が完了します。
少しでも高く買ってもらうためのポイント
不動産会社との関係性

不動産の売却を成功させるためには、やはり仲介してくれる不動産会社の選び方が大きく左右します。たくさんの購入希望者を募る、すなわち顧客となりうるたくさんの人に物件を幅広く見てもらえる力である「集客力」があるかないかで、売却の可否が決まるといっても過言ではありません。集客力のある不動産会社を見極めることが必要なのです。
集客力とともに見ておきたいのが、「得意分野」です。たとえば「一戸建ての売却に強い」「賃貸には強いが売却にはあまり実績がないようだ」など、自分の売りたい物件を得意分野としているかどうかを知っておくことで、強力なパートナーとなってくれるでしょう。
もちろん、担当者の対応力を見ることも忘れてはいけません。なんとなく相性が合わない…と、しっくり来ない担当者には、なかなか信頼感を抱けないものです。
また、不動産会社の利益である「仲介手数料」が発生するのは、媒介契約ではなく売買契約が成り立った時点です。つまり、売却活動をしている時点では会社としてはいわば「タダ働き」の状態なのです。
このとき、しっかりと先行投資に力を入れて売却活動をしてもらうためには、前述した契約形態が重要になってきます。「一般媒介契約」であると、他の不動産会社との媒介契約も行えるため、会社としては熱が入りづらいというのが正直なところです。
そういった点では、「専属専任媒介契約」か「専任媒介契約」での契約の方が、不動産会社も熱心に売却活動を行ってくれる可能性があるといえるでしょう。
いずれにしても、不動産会社は決して査定額の高さだけで選んではいけません。媒介契約を結びたいがために、現実的でない査定額を出してくる業者もいるからです。
自分で調べた相場とあまりにもかけ離れた査定額を出してきたような場合には、その価格の根拠をきちんと確認してみることも重要です。信頼できる会社であれば、しっかりとした返答ができるはずです。
内覧時の注意点

前述したように、購入希望者の内覧は売却を成功させる大きなカギのひとつです。かなりその物件に興味を持っているからこそ内覧にまでこぎつけるわけなので、内覧時の印象が購入への一押しになるのです。
ここでは内覧時にぜひ気をつけたい点を見ておきましょう。
生活感をなくし清潔に
内覧に来る購入希望者は、物件購入後の自分たちの暮らしをイメージしている状態で訪れます。そこに現在の住人の生活感がしっかり存在していると台無しになってしまいます。
通常の片づけや掃除以上に整理整頓し、すっきりとモデルルームのような生活感の感じられない状態を目指しましょう。
どうしても生活感が出てしまうものは、一時的にトランクルームなどに移動させて、内覧当日は家の中に置かないようにします。
そもそも、ものがある状態の部屋は、本来よりも狭く見えてしまうものです。広々と快適な家だと感じてもらうためにも、ものは少ないに越したことはありません。
また、特に水まわりに関しては、清潔感が非常に重要です。トイレや浴室・洗面所・キッチンはハウスクリーニングを入れてでも徹底的に掃除しておきましょう。費用はかかりますが、売却を成功させるための先行投資であると考えれば、それほど高額なものではないと思えます。
整理整頓や掃除は、当日だけでなんとかなるものではありません。売却を考えたときから少しずつきれいにし、最高の状態で見てもらえるようにしましょう。
生活臭にも注意
片付けや掃除はできていても、盲点となるのが「におい」です。人が生活していれば必ず生活臭は発生しますし、そのお宅それぞれの家のにおいというのはあるものですが、あからさまにタバコ臭やペットのにおい、台所からの生ごみや排水口のにおいなどがする場合は、必ず消しておきましょう。
入ってすぐの玄関も、においが気になる場所です。第一印象を左右するところなので、靴のにおい対策や靴箱のケアもお忘れなく。
当日は消臭だけでなく、換気もしっかり行っておきます。
当日の対応は「買主の立場」で丁寧に
内覧当日は、カーテンはすべて開けて照明もつけておき(古くて薄暗くなった照明もあらかじめ交換しておきましょう)、明るいイメージの部屋で購入希望者を迎えます。
さまざまな質問をされるはずですが、どれも誠実に回答しましょう。長所やアピールポイントを伝えることはもちろん大事ですが、売主の把握している不具合や悪い面・弱みについてもきちんと伝えておかなければなりません。
建物自体についての事柄だけでなく、周辺環境や交通事情、近所の住人とのおつきあいなど住人目線での情報も豊富に提供すると喜ばれます。
明るくハキハキとした態度で応対することも大事ですが、聞かれていないことまで必要以上に話したり、購入希望者が家を見ている間、逐一ついてまわったりすることは避けましょう。ゆっくりと自分たちのペースで見てもらい、質問があればそれに簡潔・誠実に答えるという姿勢が重要です。
また、水まわりもそうですが、クローゼットや物置など通常はあまり見られたくないと思うような部分もすべて見てもらうつもりでいましょう。こういったところを隠してしまうと「何か見られたくない事情があるのか」という誤解にもつながってしまうからです。
そのまま置いていってほしい家具、修繕しておいてほしい箇所などの希望もあるかもしれませんが、その場であいまいな返答はせず、不動産会社にそれらを取りまとめておいてもらい、あとからまとめて返答するようにしておくと、のちのちのトラブルを防げます。
不動産売却時に知っておきたいポイント

売却までの期間はどれくらいかかる?
売り出しから売買契約成立までの期間というのは、どれくらいかかるものなのか、売却後の予定のことも考えると気になるところです。
短くて1か月未満、長くて2年以上という極端な例もありますが、3~6か月ほどの間で売れる場合がほとんどです。
逆に、この期間よりも短いもしくは長い場合には、何らかの原因が考えられます。
「適正な価格よりも明らかに安い/明らかに高い」
「物件の印象が良い/悪い」
「不動産会社の担当者の営業力や対応力が良い/悪い」
など、理由はさまざまです。
短い分には嬉しいですが、時間がかかりすぎるようなら何か負の要因が考えられます。6か月を過ぎても成約しないようなら、一度きちんと売却活動の内容を見直してみることが必要です。「売れ残り」と思われてしまうと、なおさら成約にこぎつけるのが大変になってしまいますし、値下げを余儀なくされてしまうことも考えられます。
売却に伴ってかかる諸費用や税金は?
家を売却する際には、売却した代金でプラスばかりが出るわけではありません。各種諸費用や税金が必要となります。
代表的なものが、(仲介で売却した場合)不動産会社に支払う仲介手数料です。これは「(売却額✕3%+6万円)+消費税」という式で金額が算出されます。
抵当権が残っている場合にはその抹消手続き費用、税金として印紙税や譲渡所得税(売却金額などによる)、必要であればハウスクリーニング代や、新居への引越し費用も考えなければならないでしょう。
あらかじめ概算を出しておき、対応できるようにしておきましょう。
ローンが残っている家を売るには
前述した通り、住宅ローンの残債がある状態でも売却することは実質可能です。住宅ローンの完済時に行う「抵当権の抹消」を行うために、売却代金を残債の支払いに充てればよいからです。
しかし、売主が売却代金を受け取るのは引渡しの際であり、なおかつ買主が住宅ローンを申し込む場合は新たに抵当権の設定が必要で、そうすると売主の抵当権はその時点で抹消されていなければなりません。しかも買主は住宅ローンを申し込まなければ代金を支払うことができません。
この数々の矛盾とも思えるような状態を解消するには、売主・買主・司法書士・金融機関が一堂に会して、これらの作業をほぼ同時に行うことが必要です。それによって、売主の住宅ローンに残債がある状態でも売却は可能になるのです。
ただし、残債額が売却額を上回る場合には、別途で金策が必要となります。とはいえ残債があったら売却はできない、と一概にはいえないということなので、査定額をもとに不動産会社に相談してみるとよいでしょう。
まとめ
家を売るなら、誰でも「できるだけ高く」と望むのは自然なことでしょう。今回はそのポイントについてまとめました。思い出の詰まった我が家や実家を売却するなら、ぜひ取引を気持ちよく成功させたいですよね。本記事を参考に、良い取引となれば幸いです。