実家の売却にかかる費用・税金とは?

実家を売却する際、売買価格ばかりを重視しがちですが、不動産の売却には費用や税金がかかることも留意しておく必要があります。
実家を売却したときにかかる一般的な費用・税金は下記のとおりです。
・仲介手数料
不動産会社に実家の売却の仲介を依頼して売買契約が成立した場合に、不動産会社に支払う手数料です。
・印紙税
売買契約書は印紙税が課せられる書類であり、契約書の記載金額によって税額が決定し、印紙税相当額の収入印紙を売買契約書に貼る方法で印紙税を納付します。
・譲渡所得税・住民税
譲渡所得税は、実家を売却して利益が出た場合に課税されます。譲渡所得税は確定申告で国に納税し、住民税はその後に市町村から徴収されます。
上記以外にも、実家に住宅ローンが残っていた場合は、「住宅ローン返済手数料」や「抵当権抹消登記」といった費用も必要です。
実家売却の主な流れ

実家を相続したものの、住む予定がなく、空き家となった実家の売却を検討している人は、年々増加傾向にあるといわれています。
しかし、実家を売却するには何から始めればいいのか分からない人は多いのではないでしょうか。本記事では、実家売却の主な流れについて解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
遺言状を確認する
遺言状には大きな効力があるため、遺言状の有無により相続の内容が変わってきます。そのため、相続が開始したときに、最初に行うべきことは遺言状の確認です。遺言状には「公正証書遺言」「秘密証書遺言」「自筆証書遺言」の3種類があります。
1.公正証書遺言
遺言状は作成した公証役場に保管されています。遺言書のデータは遺言検索システムにより管理されているため、全国どこの公証役場に問い合わせても、遺言の有無が判明します。
2.秘密証書遺言
遺言状の存在だけを公証役場で証明してもらう遺言です。公正役場に問い合わせれば遺言の有無は判明しますが、遺言状は本人で保管しているため、自筆証書遺言と同様の手順で確認することとなります。
3.自筆証書遺言
故人が遺言状を保管していそうな場所を探したり、付き合いのあった関係先に確認したりします。2020年(令和2年)からは、法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度が開始しており、遺言状が保管申請されていれば、法務局で遺言状の有無を確認することができます。
遺言状があるとき
遺言状を発見したときは、開封することなく速やかに、遺言状を家庭裁判所で検認してもらう必要があります。遺言状の検認とは、遺言状の偽造・変造を防ぐための手続きで、公正証書遺言と法務局での保管制度を利用した自筆遺言は検認の対象外です。
このように、検認の目的は、遺言状が法律的に有効かどうかの確認ではないため、検認後であっても、遺言状が法律の定める要式を満たさないために無効となるケースも多々あります。
遺言状が法律的に有効であれば、原則、遺言状に基づいて相続手続きが進んでいきます。
遺言状がないとき
遺言状がないときは、自分たちで相続の分割方法を決めることになります。分割方法は、大きく分けて「遺産分割協議」と「法定相続」の2通りです。
遺産分割協議は。誰が何を引き継ぐかを相続人全員で協議します。全員の同意が得られない場合は、相続の専門家に依頼して協議することが望ましく、協議結果は書面で残しておくことが大切です。
法定相続は、特に分割をせず、相続人全員が法定相続分に応じて遺産を共有することとなるため、相続人全員が実家の共有者となります。
隣家との境界を明確にする
実家を売却する場合、築年数が経っている家などは、隣家との境界が曖昧であることが多いです。そして、この境界には「筆界(ひっかい)」と「所有権界」の2種類があります。
「筆界」は登記されている地番と地番の境のことで、「所有権界」は土地の所有権が及ぶ範囲の境のことです。前者は個人の意思で変更することはできず、後者は隣家との話し合いで決めることができます。
隣家との争いになる原因は、「筆界」と「所有権界」の不一致で、裁判上の争いにまで発展することもありますが、法務局が行っている「筆界特定制度」を利用すれば、裁判をしなくても、境界トラブルを早期に解決することができます。
実家の売却を行なう場合は、土地家屋調査士に確定測量を依頼し、隣家との境界を明確にしておくことが重要です。
相続の手続きをする

相続の手続きをする際、最初に行うことは戸籍の取得です。一般的には、被相続人(亡くなった人)の出生から死亡までの戸籍と相続人全員の戸籍が必要となります。
戸籍の取得は、相続人を確定するための重要な作業です。後から新たな相続人の存在がわかると手続きは最初からやり直しとなってしまいます。
一方、遺言状の内容が相続の場合は、遺言に基づいて相続手続きが行われるため、取得する戸籍は、被相続人が亡くなったことが分かる戸籍のみです。
こうして取得した戸籍が必要となる主な相続手続きとして、下記があげられます。
・被相続人名義の預金の払い戻し
・保険金の請求、保険の名義変更手続き
・有価証券の名義変更手続き
・自動車の名義変更
「所有権移転登記」を申請する
実家を売却する場合、故人名義のままでは売買ができないため、不動産の名義を相続人に変更する「所有権移転登記」を法務局に申請する必要があります。相続登記と呼ばれる申請で、「遺言による相続」「遺産分割協議による相続」「法定相続分による相続」の3種類です。
法務局へ相続登記を申請する際にかかる費用は「登録免許税」で、司法書士へ依頼する場合は「司法書士報酬」が必要になります。
相続登記の必要書類は、下記のとおりです。
・被相続人の住民票の除票(本籍地の記載があるもの)
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(遺言状による相続の場合は被相続人の死亡がわかる戸籍謄本)
・相続人全員の戸籍謄本(遺言状による相続の場合は不要)
・新たに所有者となる相続人の住民票
・遺言状もしくは遺産分割協議書(法定相続分による相続の場合は不要)
・相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議による相続の場合に必要)
・固定資産評価証明書
遺品を整理・処分する

実家を売却するときには、遺品を整理・処分する必要があります。実家に大量の荷物がある場合は、遺品整理専門の業者に依頼するとスムーズに事が運ぶでしょう。
ここでは、遺品を整理・処分する際のポイント2つを紹介します。
仏壇の片付け方
実家の売却に伴い、仏壇を手放さなくてはならない場合の仏壇の片付け方として、下記の3つがあります。
1.菩提寺(家のお墓があるお寺)で供養してもらう
2.仏壇店に相談する
3.仏壇を取り扱っている遺品整理業者に依頼する
仏壇は、開眼供養により魂が宿っていますから、片付けるときには閉眼供養をしてもらうことで魂を抜くことができます。大切な仏壇は、最後まで丁寧に向き合って扱いましょう。
実家の購入額が分かる書類は保管する
自宅を売却すると、確定申告で譲渡所得の算出を行ないますが、その際、必要になるのが「実家の購入額が分かる書類」です。譲渡所得を算出するためには、住宅の売却額から「取得費」と「譲渡費用」を差し引くこととなるからです。
なお、差し引いた額がマイナスとなり利益が発生しなかったときは、譲渡所得税は課税されません。
相続の場合、購入時から年月が経過していることが多いため、購入額が分かる書類が見つからない可能性があり、このようなケースでは、取得費用は売買価格の5%とみなされ、税金が高くなることがあります。
税申告の関係上、遺品の中には「実家の購入額が分かる書類」のように残しておくべき書類があるため、事前に把握して、処分しないように留意することが必要です。
出典:相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期|国税庁
査定を依頼しながら相場を調べる
実家を売却する段階に入り、最初にすべきことは、実家の不動産評価額を知る事です。そのために、不動産会社へ実家の査定を依頼しますが、査定は複数の会社に依頼することをお勧めします。
自分でも、国土交通省の不動産取引価格情報検索などを利用して、実家周辺の相場を調べておくと、不動産会社が提示する査定を客観的に判断できるようになります。
不動産は査定結果どおりに売却されるものではないため、査定結果を重視しすぎることなく、査定についての説明や対応の様子なども比較して信頼できる不動産会社を選ぶことが、実家の売却を成功に導くポイントです。
不動産会社と契約する

実家を売却する場合、仲介してくれる不動産会社と契約を結びます。この契約が媒介契約と呼ばれるもので、「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があります。
「一般媒介契約」は複数の不動産会社との契約が可能で、「専任媒介契約」と「専属専任媒介契約」は契約できる不動産会社は1社だけです。「専任媒介契約」よりも「専属専任媒介契約」の方が制約が多く、「専属専任媒介契約」は自分で買主を見つけて取引することもできません。
それぞれのメリット・デメリットを把握して、実家の売却に適した契約を選ぶことが大切です。
出典:宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款|国土交通省
買い手が見つかったら売却する
不動産会社と契約後、不動産会社は実家の売却活動を開始します。その際、売却価格や売却時期など具体的な希望を伝えることが大切です。特に売却活動は慎重な検討が必要で、不動産会社とよく相談しながら決定しましょう。
売り出し価格が決まり、希望者が現れたら実家の内覧会に立ち会い、購入希望へと繋がれば、買い手との条件交渉が行われるというのが大まかな流れです。
このように、いくつかの段階を経て買い手が見つかったら、売買契約を締結して実家の売却が決定します。
相続を放棄するときは

相続した実家を処分する方法として、実家を売却するほかに「相続を放棄する」という方法もあります。相続を放棄するとは、相続人の財産を一切相続しないことです。
通常、相続放棄が検討されるのは、プラスの相続財産よりもマイナスの相続財産の方が明らかに多い場合ですが、その他の諸事情によっても相続放棄が行われることがあります。
相続放棄の手続きとは、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出し、家庭裁判所に受理されることです。
相続放棄が受理されることで当初から相続人でなかったこととなり、実家を相続する権利を失いますが、同時に、その他の財産を相続する権利も失うため、慎重な判断が求められます。また、放棄された相続権は次順位の相続人へと移っていくため、あらかじめ理解してもらうことが大切です。
なお、相続人全員が相続放棄をした場合、相続財産管理人が選任され、実家(相続財産)は最終的に国庫に帰属しますが、実家が国庫に帰属するまでの間は、相続財産管理人に報酬などを支払う必要があるため、相続放棄については専門家に相談することをお勧めします。
実家を売却する際の注意点

実家を売却する際は、前もって知っておくことで、金銭的不利益を未然に防ぎ、売却をスムーズに進めることができます。
ここでは、実家を売却する際の注意点8つについて紹介します。
売却までの固定資産税に注意する
固定資産税は、土地や家屋などの固定資産にかけられる地方税で、その年の1月1日現在の所有者に課税されます。
相続開始後、遺産分割前の実家の固定資産税は、相続分に応じて分担したり、相続人の代表者が負担したりしますが、納付書は被相続人あてに送付されるため、固定資産税を滞納してしまうケースも考えられます。
こうした滞納による遅延金の発生を防ぐためにも、「相続人代表者届出書」を市町村に提出して、代表者に納税通知書が届くようにしておくとよいでしょう。遺産分割による相続登記が完了したら、その翌年以降は、新所有者に固定資産税が課税されることとなります。
実家が「特定空き家」に指定されないか注意する

2015年(平成27年)に、増え続ける空き家対策を目的に「空き家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特別措置法)」が施行されました。
これにより「特定空き家」に指定され、自治体の指導に基づく改善を怠ると、固定資産税の軽減措置が受けられなくなり、固定資産税の負担が大きくなってしまう可能性があります。
「特定空き家」に指定される基準は下記の4点です。
・倒壊のおそれがある
・衛生上、有害となるおそれがある
・著しく景観を損なっている
・周辺の生活環境の保全を図るために、放置することが不適切である
実家が「特定空き家」に指定されないよう、将来的な空き家の管理について考えておくことが大切です。
出典: 固定資産税・都市計画税(土地・家屋)|東京都主税局 国土交通省
目的なく実家を解体しない

実家を更地にすると、建物にかかる固定資産税はなくなりますが、結果的に固定資産税のトータルは高くなってしまいます。
住宅用の土地であったことで、住宅1戸につき200㎡までの部分については6分の1、200㎡を超える部分については3分の1に軽減されていた土地の固定資産税が、更地にすることで軽減を受けられなくなってしまうからです。
ただし、固定資産税が高くなっても、更地にして売却したほうが良いケースもあるため、解体するかどうかは不動産取引の専門家に相談してから決めることをお勧めします。
買い手が見つかるまで適切に管理する
実家を早く売却するために重要となってくるのは、売却活動の一環である「内覧」です。
内覧に来られる人は、売りに出された家に興味を持っています。立地・間取り・価格などが気になっているからこそ家を見に来るのです。そこで、期待以上に管理が行き届いた家だと思ってもらえると、成約の可能性はぐっと高まります。
買い手に好印象を持ってもらうためにも、実家を適切に管理するよう心がけましょう。
相続の手続きは先に済ませる
実家の登記名義人が被相続人のままであると実家の売却ができないため、登記の名義を相続人に変更する必要があります。この変更手続きが相続登記と呼ばれるものです。
相続登記は、必要な書類の取得に時間がかかるうえに、場合によっては、所在不明者がいたり、相続が数回重なっていたりと、相続人の調査だけでも相当の時間がかかります。
そのため、買主が見つかっても売買契約を締結できず、売却の機会を逃してしまうこともあるため、相続の手続きは先に済ませておきましょう。
親族間で売却について話し合っておく

実家を売却するときに、親族間の同意が得られないことが多々あります。相続が開始したときに遺産分割を行わず、相続人の共有状態になっているために生じるケースで、共有状態になっていると、売却時には共有者全員の同意が必要です。
相続開始後、単独所有にするのか、売却するのかなど話し合っておくべきところ、こうした話し合いがなされないまま共有状態になっていることが、親族間で揉める原因となっています。
このような場合、揉めごとを避けてスムーズに事が運ぶよう、親族間で売却について話し合っておくことが重要です。
実績のある不動産会社を選ぶ
自宅の売却で重要となってくるのが、不動産会社選びです。不動産会社によって得意分野、販売力、担当者の能力などに違いがあります。
また、売却活動は不動産会社の力量に左右されることをふまえ、実績のある不動産会社を選ぶことは、実家の売却を成功に導く重要なポイントです。
実績のある不動産会社は、査定の基準が明確に定まっているため、担当者の査定説明の様子も1つの目安となります。実際の実績数に関しては、不動産会社のホームページやパンフレットなどの記載を参考にするとよいでしょう。
1社の査定価格だけで判断しない
不動産査定とは、物件がいくらで売れるのかを査定することです。査定から不動産の媒介契約へとつなげるために、ほとんどの不動産会社が無料で査定を行なっています。
ただし、不動産会社が行なう査定には定められたルールがなく、査定結果は不動産会社によって異なるため、1社の査定価格だけで判断しないことがポイントです。複数の会社の査定結果を比較することで、正確な相場を把握しやすくなります。
パソコンやスマホから物件情報を入力して、一度に複数の不動産会社の査定を受けられる一括査定サイトの利用も便利です。
実家の売却は3年以内が良い理由

気持ちの整理がつかなかったり、手続きが面倒であったりと、なかなか実家の売却に踏み込めない人もいますが、実家の売却は早めの着手をお勧めします。
理由は、相続してから3年以内に売却すると「維持管理費の削減」「節税の可能性がある」「高値で売れやすい」という利点があるからです。
ここでは、実家の売却は3年以内が良い理由3つについて解説します。
維持管理費がかさみにくい
実家は使用していなくても、所有していることで、毎年、固定資産税を支払う義務があります。
また、経年劣化に対する修繕費、メンテナンスを行なう場合の光熱費、任意で加入する火災保険など、それ相応の修繕管理費も必要です。
このように、実家の所有には、固定資産税だけでなく、修繕費などの維持管理費もかさむため、将来、実家に住む予定がない場合、3年以内に売却することで費用の支出を減らすことができます。
「居住用財産の3,000万円特別控除」が適用される可能性がある
相続開始から3年後の12月31日までに実家を売却する場合で、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3000万円まで控除を受けられるという特例があります。
特例の対象となる居住家屋は以下の3つの要件すべてに当てはまるものです。
1.昭和56年5月31日以前に建築されたこと
2.マンションのような区分所有建物登記がされている建物でないこと
3.相続の直前において被相続人以外に住んでいた人がいなかったこと
上記以外にも、この特例を受けるためには細かい要件があるため、国税庁のホームページで詳細の確認が必要です。
出典:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
高い金額で売れやすい
実家の売却を早めにすべき理由は、家屋の価値は時間の経過ととも下がってしまうことがあげられます。つまり、3年以内を目処に実家を売却することは、実家が高い金額で売れやすいというメリットがあるのです。
また、時間が経過してからの売却は、早めの売却よりも、経年劣化による修繕費がかかってしまいます。
いずれ実家を売却する予定であるならば、早めに行動した方が金銭的に得策といえるでしょう。
実家の売却で損をしないように気をつけよう

実家を売却するにあたり、事前に知識が不足していたために、金銭的な損失が生じてしまうことがあります。
不動産という大きな財産を売却するため、最終的には、税金・相続に精通した専門家に相談することが何よりですが、何の知識もないまま相談しても、自分で適正な判断はできません。
相続開始から実家を売却するまでの大まかな流れを把握して、実家の売却で損をしないように気をつけましょう。