日本は地震大国と呼ばれるだけあり、住まいを建てるうえでも「地震に強い」という要件を満たすために昔からさまざまな対策がなされてきました。時の経過とともに、大きな地震が起きるたびにその反省を生かし、住まいに対する耐震基準もどんどん厳しくなっていっています。
今回は、地震に強い家にするにはどうしたらいいのかということについて、さまざまな観点から解説していきます。
ポイントは「地盤」と「建物の耐震性」
住まいの地震対策というと、まずは「建物の強度を上げよう」という方向にばかり目が行きがちですが、この「建物の耐震性」ともうひとつ大事なポイントに「地盤」の強弱というものもあることをまず覚えておきましょう。
この2つの観点を押さえたうえで、住まいの地震対策について考えていきます。
建物の耐震性
建物そのものの、どのくらいの地震に耐えられるかどうかの性能が「耐震性」です。倒壊しないだけではなく、仮に損壊したとして大きな修繕をしなくても、日常の生活に戻れるかどうかということが重要です。
地盤の状態
建物の強度がそれなりにあったとしても、地盤が弱いことで本来なら損壊しないはずの建物まで被害を受けたり、建物が損壊を免れても土砂災害や地盤沈下が起きてしまうことで生活をし続けられなくなったり、ということがあります。
建築前に地盤調査を行い、軟弱地盤だと判断されてしまったら、地盤補強を施すかその土地を避けるか、ということが必要になるのです。

地震に強いかどうかを見極めるポイントと対策方法
上述した「建物の耐震性」と「地盤」について踏まえたうえで、どういったポイントを押さえれば地震に強い家だと判断できるのか、地震に強い家を建てられるのか、ということを、具体的に見ていきましょう。
建築年月を確認しよう!新・旧耐震基準の違い
中古住宅の耐震性については、建築年月が重要ポイントのひとつとなります。
もちろん築年数を重ねている中古住宅は、年月によって建物自体の劣化が著しく進んでいて、基礎や柱・壁・屋根などにひび割れがあったり、建物が傾いていたり、ということも考えられます。
それに加えて、中古住宅は「建築基準法で定められている耐震基準を満たしているか」という点にも注目しなければなりません。
耐震基準は過去に何度か改正されていて、もっとも大きなものが1981年(昭和56年)6月に見直されたものです。特にこのときの改正が大幅だったことにより、改正前を「旧耐震基準」、改正後を「新耐震基準」と呼んでいます。
旧耐震基準では、「中規模の地震(震度5程度)で大きな損傷を受けないこと」が基準となっていましたが、新耐震基準ではこれが厳しくなり、「中規模の地震では軽微な損傷程度にとどめ、大規模な地震(震度6~7程度)では建物の倒壊や損傷を受けないこと」となりました。
さらに、阪神淡路大震災の反省から2000年(平成12年)6月にも、木造住宅に関しては大きな改正がありました。
これらほど大きな改正ではなくても、小さな改正も何度か繰り返されているため、年代が新しい建物ほど耐震性は高くなっています。
中古住宅を購入する際には、まず「1984(昭和56)年」より前か、後か、ということに気をつけて見てみるのが、地震に強い家かどうかがわかるひとつのポイントとなるでしょう。
耐震等級
1999年(平成11年)には、「住宅性能表示制度」というもので「耐震等級」が定められました。耐震性の高さ(倒壊防止度・損傷防止度・免震建築物であるかなど)を1~3の数字で表示するものです。専門知識がない人でも、ある程度客観的に建物の耐震性がわかるため、幅広く使われています。
各等級に認定されるための基準は、以下の通りです。数字が大きくなるほど、耐震強度が高いことを表しています。
【耐震等級1】
〇建築基準法で定められた地震に耐えられる
→詳しくいうと、
・数百年に1度程度発生する地震(震度6~7程度)に対して崩壊・倒壊しない
・数十年に1度程度発生する地震(震度5程度)に対して損傷を生じない
【耐震等級2】
〇耐震等級1の地震力の1.25倍の地震に対抗できる
〇学校・病院などにも採用
【耐震等級3】
〇耐震等級1の地震力の1.5倍の地震に対抗できる
〇警察署・消防署などにも採用
注意すべき点は、耐震等級は「地震のあとに人が安全に脱出できる時間」を保証するものであって、その後もその建物に住めるかどうかを保証するものではない、つまり資産価値がなくなってしまう可能性までは考えられていない、ということです。
また、もちろん自然災害なので「絶対に」保証できるものでもありません。

建物の構造
重さ
一般的に「軽くて重心が低い建物」であるほど、耐震性は高くなります。
地震のエネルギーは建物の重量に比例して大きく影響が出るため、重い建物ほど大きく揺れるのです。
建物の構造でいうと、もっとも重いものから順に、鉄筋コンクリート造・鉄骨造・木造となっていて、鉄筋コンクリート造はもっとも軽い木造のおよそ5倍の重さにもなるといわれています。
つまり、単純に同じ大きさの建物の構造で比較してみると、木造がもっとも揺れにくく、被害が少ないというわけなのです。
さらに屋根は日本瓦よりもガルバリウム鋼板やスレートなど、外壁はモルタルよりもサイディングなどを選ぶと、より軽量になります。
基礎
建物の土台の部分になる基礎は、建物をもっとも下部で支える構造体であるため、耐震性にも大きく影響します。木造住宅であっても、基礎だけは鉄筋コンクリート構造で造られます。
基礎の工法にはいくつかあり、「布基礎」や「べた基礎」というものが一般的です。
布基礎は、建物の柱や壁部分に枠を作ってそこにコンクリートを流し込みます。一部分だけであるため、コストや工期が比較的かかりません。
一方、べた基礎は底一面に鉄筋コンクリート造の基礎を敷きます。面で支えるため、布基礎よりも安定性や耐震性に優れていて、なおかつシロアリなどが地面から上がってくるのも防ぐため、建物自体の寿命も長く保てることが期待できるものです。
壁
壁は数が多いほど、横方向からの力に抵抗できるため、その分耐震性が高くなります。前述した耐震等級も上位に行くほど必要とされる耐力壁(=地震や風などの水平荷重に抵抗する壁)の数が多く定められています。
耐力壁は配置も重要であり、バランスよく設置することで耐震性が高まるといえます。配置によって建物の「重心(重さの中心点)」と「剛心(強さの中心点)」も決まります。
地震の力は重心にもっとも負担がかかり、その力に抵抗するのが剛心であるため、重心と剛心が離れていると建物にねじれの力が働いてしまって、建物を損壊させる要因となってしまうのです。
後項で「間取り」の重要さについても述べますが、複雑な形をした建物よりも、1階と2階が同じ形のいわゆる総二階であり、きれいな四角形に近ければ近いほど建物ほど安定するのは、この重心と剛心の距離が限りなく近くなるからなのです。
床
壁と床はつながっているため、壁同様に床も耐震性を上げるために重要な要素となっています。耐力壁が地震に耐えられるように、床も強いものが必要となるのです。
間取り・デザイン
前述した通り、重心と剛心の関係で建物は複雑ではなくできるだけシンプルな形をしている方が安定して、耐震性が高くなる傾向にあります。
他にも吹き抜けやビルトインガレージがある、窓などの開口部が多いといった理由で壁が少ない建物、また上と下の階で柱や壁が通っていないような建物は、どうしても耐震性が低くなります。
特に後者に関しては「直下率」という考え方が関わっています。これは「2階の壁の真下に1階の壁がある割合」のことで、直下率が高いと2階にかかる地震の力をうまく1階に伝えて逃す効果があるといわれています。
1階に広くて開放感のあるリビングがある、大きな吹き抜けがある、というような、住まいに個性のあるおしゃれなデザイン・間取りを取り入れたいという希望はもちろんあるでしょう。しかし1階に壁がない部分が多いと2階を支える部分が少なくなってしまうというわけです。あまりに凝った間取りにすると耐震性に影響が出てしまう可能性があるということですね。

耐震・制震・免震構造
地震に強い家を建てる際の構造の考え方としては、「耐震」のほかに「免震」と「制震」というものがあります。それぞれの違いやメリット・デメリットを見ていきましょう。
耐震
「建物自体の強度を上げて、揺れが来ても倒壊しないようにする」という考え方です。頑丈な材料を使用したり、2階の重さを1階できちんと支えられるような造りにしたり、という方法で構造自体を強くします。具体的には、骨組みや壁に筋交いを入れたり、柱と梁などの接合部分を耐震補強金具で接合したり、といったことを行います。
頑丈で建物は倒壊しないだけの強度を持っている分、柔軟性は期待できないため、地震の揺れ自体はダイレクトに伝わります。よって揺れは大きく感じてしまい、家具が倒れたり棚の中のものが飛び出したりといった可能性は考慮しておかなければなりません。
免震・制震の装置が効果を発揮するためには、まずこの耐震構造がしっかりしていなければならないので、すべての地震対策構造の基本ともいえるものです。現在新築で家を建てる際には、初めから最新の耐震構造で設計されるため、地震対策としてのコストも抑えることができます。
制震
「地震の揺れを吸収する装置で、揺れのエネルギーを受け流す」という考え方です。床や壁に揺れを低減するダンパーと呼ばれる装置を設置することで、地震の際にはダンパーの弾性で揺れを受け流すのです。
1階は揺れますが、2階以上の上階の揺れは大幅に軽減してくれるうえ、地震による建物の変形や劣化も抑えてくれるというメリットもあります。これまでは高層ビルでよく使われていましたが、最近では戸建住宅でも採用されるようになってきました。
その分コストはかかりますが、対策としては十分価値があるといえます。
免震
「建物を地面から切り離して、揺れを建物に伝わらないようにする」という考え方です。
建物と地面の間に、揺れを吸収するダンパーやゴム状のアイソレータと呼ばれる免震装置を入れることで実現します。
地面の揺れが建物に伝わる前に装置がそのエネルギーを吸収するため、建物内ではほとんど揺れを感じません。建物自体が揺れないため、変形や劣化を防ぐことにも有効です。
主に高層ビルやタワーマンションのような大きな建物に採用されることが多い構造であり、効果は非常に優れているものの、その分コストはかなり高くつくところが弱点です。また、地盤の制約を受けやすいこと、強風で揺れやすいというデメリットもあります。
耐震・制震・免震は選択ではなく組合せで
3つのうちあえて「どれがもっとも地震対策として効果があるか」を選ぶなら、ほとんど揺れを感じず、建物のダメージも少ない免震構造が一歩抜けているとはいえますが、上記3種類の地震対策構造は、「どれかひとつを採用する」というよりも「組み合わせることでより効果を発揮させる」という考え方で検討するのがよいでしょう。
上述したように、耐震は基本となる構造なので、耐震+制震もしくは耐震+免震で考えるのがよいといえます。
コストはその分かかりますが、建物を頑丈な造りにし、なおかつ地面と切り離す(耐震+免震)構造であれば、非常に強固な住まいになるでしょう。
軟弱地盤を見分ける方法
前述したように、地震に強い建物を造るためには、建物自体の耐震性を上げるとともにそれを支える地盤も強いものでなければなりません。
新築工事の前に地盤調査を行うことで正確な判断ができますが、専門的な知識がなくてもその土地の地名や歴史を知ることで、注意すべき地盤かどうかがある程度わかる場合もあります。
土地の歴史
もともと田畑や井戸があった場所、お堀があったところは、地盤が軟弱であることが多いといわれています。
まだ、山の斜面や丘陵地を切り開いて大規模な造成工事を行った住宅地は、「盛土」や「切土」が行われている場合が多く、地震の揺れによって地滑りや地割れが起きる恐れがあります。
「水」に関する漢字がついている地名
川・沼・沢・浦・池・瀬・浜・海・川・水・津など、「水」に関する漢字が使われている地名、同じく低・下・久保・窪・溝・谷・田・野・稲・砂・芦・萩・井草・菅・浦・蓮・柳・葦など「低地・農耕地・水辺の植物や動物」に関する漢字が使われている地名の場所は、以前海や川など水が存在していたところである可能性が高く、地震のときに地盤沈下や液状化現象が起きやすい恐れがあります。
耐震強度を上げる方法
お住いの建物の耐震性を知るには、各自治体で行っている耐震診断を受けることをおすすめします。無料で行ってくれるところ、有料だけれど補助金制度があるところなど、自治体によって条件などはさまざまなので、まずはお住いの自治体に確認してみましょう。
耐震診断の結果によって、補強が必要という判断がされた場合は、診断結果をもとにして、必要な耐震強度が得られるように補強工事を行うように勧められるでしょう。この耐震補強工事にも補助金が出ることがあるので、こちらもチェックしてみてください。

耐震補強工事
耐震補強工事では、具体的にどんなことを行うのでしょうか。
まずは壁の補強です。前述したような重心と剛心のバランスを判定し、その結果をもとに耐震壁の配置を考え、壁のない場所に新たに設置します。既存の壁に筋交いを埋め込むという方法を取ることもあります。
基礎の補強では、耐震性の高い布基礎に造り替えて、基礎と土台を金具で補強結合します。その際1階の土台部分で腐食しやすいところも補強します。
他にも、建物の重量を軽くするために屋根材を軽量なものに替える、といったことも行われています。
地盤改良
地盤改良の工法もいくつか存在します。
地面にコンクリートの柱を埋めて建物を支える「柱状改良工法」は、もっとも幅広く用いられている工法です。
地面を掘って固化剤を混ぜ、地盤自体を改良する「表層改良工法」が採用できない場合にも、柱状改良工法は採用されることが多くなっています。
柱状改良工法と仕組みは同じで、柱が鋼管である「鋼管抗工法」、同じく柱が既成コンクリートである「既成コンクリート杭工法」というものもあります。
地盤改良は、工法によって面積20坪あたり80~500万円の工事費用がかかります。それなりに高額なので、できれば土地は選ぶ段階で軟弱地盤を避け、地盤改良が必要のないところを見つけたいですね。

まとめ
地震対策にも、いろいろなアプローチがあります。避難訓練をしたり、防災グッズをそろえたり、ということももちろん必要であり、日常から地震を意識することが大切です。
しかしそれだけではなく、日々生活を送る住まいの耐震性についてもしっかり考えておかなければなりません。
これから新築するのであればどのように耐震性の高い家を設計するか、中古住宅を購入するのであれば建物の耐震性はどうなっているか、およびこれから強化するにはどうしていけばいいのか。そういった判断や検討をする際に、本記事の内容がお役に立てば幸いです。