空家等対策特別措置法により、空き家が社会問題になっている昨今、通常の流通では出回らないような物件が、ひそかにブームとなっています。
「家具家電付き一軒家」や「山林付き一軒家」、「田んぼ付き一軒家」などの物件が、通常考えられないような価格や、場合によっては「タダ同然」などで流通しているのです。
今回は、廃墟同然の中古物件から、空き家のあり方の移り変わりや流通をお話します。
不動産業の歴史

不動産業界では、今からさかのぼること100年ほど前に東京の人口の増加に伴って不動産を専門に扱う業者が誕生しました。
その後、大阪や人の集まる都市でも不動産業者ができはじめ、複数の人間が集まって企業として成長する不動産業者も現れました。
日本では、買主、売主の間に入って仲介し、成約すると双方から手数料をもらうのが商習慣ですが、太平洋戦争が終結しGHQが民間の不動産に介入してきた際、アメリカ方式の「代金を得た売主が買い主と仲介業者に手数料を支払う」よう求めましたが、これを断り、今まで通りの商習慣で商売をしました。
その後、1952年に制定された宅地建物取引業法にも当時の習わしが残っており、売主と買主から手数料を受け取るといった双方性が記載されています。
このような歴史背景で今日の不動産業務があります。
民間の不動産業者
前述した不動産業の歴史で触れたような背景が今でも強く根づいていて、双方からの利益が出ないものは取り扱うのを嫌う習性があり、極端に手数料が取れない物件は扱わない傾向にあります。
自治体が主となっているもの
民間の不動産業者が取り扱う、言わば利益のたくさん取れる優良物件は、引く手数多なこともあり、自治体などが積極的に動かなくてもいいものばかりです。
しかし、物件によっては民間の不動産業者が取り扱わない、あるいは取り扱っても利益にならない物件が存在します。
空家等対策特別措置法の施行前は、放置していても何もとがめられることのなかった物件が徐々にあぶり出され、どうにかしたいといった所有者の心理もはたらき、民間の不動産業者のマネージメントで市場に出た物件もあります。
しかし、実はその中には市場に出せないような物件が多くありました。
そこで、「空家バンク」のような自治体が主となり物件を流通させるものが誕生しました。
それ以外
UR賃貸住宅(独立行政法人都市再生機構)や市営、都道府県営の団地などは、民間の物件ではないので不動産業者が介入することはありません。
旨味がない物件の駆け込み寺

空き家は、ひと昔前は近隣に住んでいると気味が悪いとか、手入れがなされていないから草は生え放題、加えて害虫や害獣の住処になり迷惑、といった印象がありました。
所有者も、建物が建っていれば土地の固定資産税が1/6に減税されるので、わざわざお金をかけてまで解体することはありませんでした。
しかし、空家等対策特別措置法により、減税措置がなくなったり、いろいろな処罰ができたりを機に、空き家であることが不都合となり始めてきました。
そもそも物件に価値があれば、売買にしても賃貸にしても需要はありますが、価値がなくなれば需要も当然なくなります。加えて物件に対しての旨味がなければ不動産業者も取り扱いません。
そのように、価値と旨味がなくなって空き家になった物件が空き家でいられなくなり、駆け込み始めているのが自治体主体のものです。
タダでもいいといったものも空家等対策特別措置法により、売主の心境の変化が如実に現れ始めてきました。
以前ならタダで他人にあげるといったようなことは、まずありえないことです。売主側だけの問題ではありませんが、それを民間の不動産会社では扱ってはくれません。
「空家バンク」のようなところでも一部不動産業者が介入していますが、あくまでそれは旨味がある物件に限ります。
最近では、その旨味を付けて不動産業者に掲載をする売主が増えてきました。
不動産業者の旨味とは
不動産業者が旨いと思うものにはいくつか種類があります。ポピュラーなものを紹介します。
手数料
売買契約成立時の手数料や、賃貸契約時に発生する手数料などがあり、いずれも売主や貸主、買主や借主からもらう報酬です。
広告料
広告料とは、不動産会社が掲載する不動産情報の媒体に物件を掲載したり、窓口に来たお客さんに物件を紹介したりと、物件のPRをしてもらうためのお金です。
管理
マンションやアパートのように複数の部屋があり、一棟丸々の管理を依頼してくれるような物件は、不動産業者にとってはいろいろとやり易く、重宝される傾向にあります。
管理することで管理費を徴収できるのはもちろん、退去時に原状回復をする義務があり、それに伴う利益も旨味のひとつです。
専属選任媒介契約
専属専任媒介契約とは、売主は必ず契約した不動産会社を通して売却しなければならない、というものです。
したがって、仮に自分で買主を見つけてきた場合でも、契約をした不動産会社を通す必要がありますので、不動産業者の旨味となっています。
以上のことから、いくら物件価値がなくても、報酬として不動産業者にお金を支払えば、民間の不動産業者も旨味を感じてくれるということがわかります。
地方の自治体も、空き家が増えると街の景観や治安、さらにはイメージなどが落ちてくるので、そのような物件を減らしたい気持ちもあり、そこは空家等対策特別措置法に該当してしまう物件所有者と目線は同じといえるのです。
旨味がない物件が人気物件へ

格安物件が売買促進の理由
一般的には築年数が経っているものや、借地権付き物件などは物件価値がない、あるいは著しく低いため、住宅ローンも扱えないことが多いのですが、掲載されている物件は格安のため物件によっては掲載直後に売れることも珍しくない状況です。
格安の上条件がいい
冒頭でも触れましたが、「家具家電付き一軒家」や「山林付き一軒家」、「田んぼ付き一軒家」などの物件や、使えるものばかりなのに「残置物ありのため50万円差し上げます」のような好条件のものまであったりします。
しかし、登場から数年が建ち、そこまで破格な物件は少なくなってきている印象はあります。
流通の壁

いくら価格を抑えた、条件を良くしたといっても、流通できるまでにはいろいろな壁があります。そういった壁になってしまうことをいくつか挙げてみます。
先祖代々の土地や建物
高度成長期に入り、教育や仕事の在り方がガラリと変わりました。
その影響で地方から都心へ進学、就職する若者が増え、少子化も相まって地方の若年層の人口が減少してしまい、空き家となってしまうケースも少なくありません。
しかし、そんな空き家や土地を自分の代で売ってしまうと先祖に申し訳がないという気持ちから躊躇するケースがあります。
また、相続したとたんに売ってしまうと親族に何を言われるかわからない・・・という心配もあります。
自治会や地元の有力者からの圧力
自治体によっては、他者の出入りを嫌うようなこともあり、周りの顔色を伺ってなかなか売却に踏み切れないということもあるでしょう。
昔から住んでいる人の中には、その町や地域に愛着があり、その愛着が結果的に閉鎖的な圧力となってしまうケースがあるのです。
情報の一元化
民間の不動産業者が仲介する土地や建物は、宅地建物取引業により、設備や用途などしっかりと調べたうえでのものなので、ある程度は統制が取れています。
しかし、こういった自治体ベースの物件は、きちんと現地調査がなされていないものも多くなっています。
その背景には、自治体に専門の知識がある者が不足しているといった現状があります。
まとめ
価値のない廃墟物件と述べましたが、その価値は不動産業者の利益で決まる、といったことが大半を占めていた時代背景がありました。しかしこれからは、売主と買主の利益になるような時代へと変わってくるかもしれません。
「土地神話」などは一部の都心の話で、地方では過疎化が進み、売主と不動産業者の利益主義な構成はもう通用しなくなってきているのかもしれません。