親世代と子世代が同じ建物に同居する、二世帯住宅。これから新築を考える際には、二世帯住宅を積極的に検討することもあるでしょう。
親世代がまだ元気なうちに介護のことなどを考えた設計にするのは、少し気が引けるという方も多いかもしれませんね。しかし人生100年時代といわれる今、介護について考えるのを避けて通ることはできません。親世代が要支援や要介護になってからあわてて考えるのでは遅いのです。
だからこそ、親世代が元気なうちからみんなで話し合って、いくつになっても快適な暮らしができるような住まいを考えてみませんか。
今回は、バリアフリーの二世帯住宅を新築するときに気をつけるべきポイントを解説します。もちろん、新築ではなくリフォームを行う際にも参考になるはずです。
二世帯住宅のタイプ

一口に二世帯住宅といっても、共有する場所がどれほどあるかで3種類のタイプに分類することができます。
完全同居型
玄関やキッチン、洗面所・浴室・トイレに至るまで、親世代と子世代が完全に共有するタイプです。建築費用がもっとも安く上がり、双方のコミュニケーションも豊かになる一方で、プライベートの確保という点で折り合いがつかない場合もあります。
完全分離型
完全同居型と正反対で、すべての設備や空間を分離するタイプです。お互いの生活に必要以上に干渉しないため気兼ねしないで済むというメリットがありますが、コミュニケーションが取りづらくなるのと、建築費用がかさんでしまうというデメリットがあります。
部分共有型
上記2種類のちょうど中間にあたるタイプです。共有する部分とそうでない部分があります。たとえば玄関は同じで水まわりは別々、といった具合です。
バリアフリーの間取りポイント

将来、親世代に介護が必要になったときのために、今から生活動線や間取りを、介護を意識したものにしておくことが重要です。親世代の生活空間を中心に、どのようなポイントがあるか考えてみましょう。
快適な生活動線を作る
住空間を「回遊」できる動線は、生活を楽にします。キッチン・リビング・洗面所・居室をすべてぐるりとまわれる間取りにしておくと、どこにいてもすぐに行きたい空間に行くことができるからです。
特に水まわり(浴室・洗面所・トイレ)は一か所に集中して配置したり、キッチンは壁付けタイプにして移動する距離を短くしたりしておくとよいでしょう。
とにかく無駄がなく、コンパクトな生活動線で間取りを設計することで、スムーズに移動や介助を行うことができます。
介護を受ける人の寝室の配置を工夫する
親世代の寝室は、玄関・リビング・水回り(浴室・洗面所・トイレ)のすぐ近くに配置するようにします。介護のしやすさが変わります。
また、介護スタッフが出入りすることも考えると、スタッフが出入りしやすく、またほかの家族がスタッフに気を遣わなくて済む、というメリットにもなります。
ワンフロアで親世代の生活が完結する間取りにする
2階建ての住宅であれば、親世代は1階で生活するように設計できるとよいでしょう。階段の上り下りや車椅子での移動という最大の難関が、それでクリアできるからです。もしどうしても親世代が2階以上で生活しなければならない事情がある場合は、エレベーターの設置も視野に入れることになります。
平屋住宅であれば、元々ワンフロアであるため、階段の心配はなくなります。子世代も同じフロアで生活できることで目も届き、さらに安心な住まいとなるでしょう。
トイレはふたつ以上造っておく
完全分離型の二世帯住宅であれば、トイレも初めから別々ですが、完全同居型や部分共有型の場合でもトイレは複数設置しておくとよいでしょう。介護が必要な年齢になればトイレで用を足すのも時間がかかりますし、元気なときからもお互い気兼ねなく使いたいときに使えるというのは大事なことです。
二世帯住宅バリアフリーで気をつけたい対策ポイント

若いうちはなんともないことでも、歳を取ることで不便になったり気をつけなければいけなかったりする点が増えていきます。
「転倒防止」のためのポイント
バリアフリーというと、まず思いつくのが「段差をなくす」ということではないでしょうか。
階段はもちろんのこと、玄関から廊下、居室どうし、洗面所から浴室など少しの段差でもつまずいたり転んだりしてしまうと、高齢者にとっては大けがや寝たきり状態につながりかねないからです。
また、段差をなくす以外にも、床材には滑りにくいものを選ぶということが重要です。無垢材やコルクフローリング、クッションフロアといったものを採用するとよいでしょう。
さらに、転倒しやすい場所に手すりを設置しておくことも考えましょう。玄関・階段・段差がなくせない場所・浴室・洗面所・トイレ・廊下、そのほかよく出入りする場所があれば、そこにも設置します。
「車椅子」に対応するためのポイント
段差をなくすことは、転倒防止だけではなく、車椅子生活への対応にもつながる一要素です。
さらに車椅子が通れるように廊下や出入口の幅を広くする、段差がなくせない場所にはスロープを造っておく、ということも必要です。
廊下の幅は、90センチメートルあれば車椅子が通れますが、120センチメートルあれば歩行者が横向きになることですれ違うことができます。さらに150センチメートルあれば歩行者が姿勢を変えることなくすれ違うことができ、180センチメートル以上あれば車椅子どうしでもすれ違える幅となります。
一般的な住宅では、120センチメートルを目安に考えれば、通常の生活では問題ないでしょう。
介護のための「広さ」ポイント
車椅子の通行のためには「幅」が重要ですが、「広さ」もポイントです。特に浴室やトイレなど介助が必要な場所では、車椅子や人がふたり十分に入れる広さがないと、介助がしづらいだけではなく、事故につながる恐れも出てきてしまいます。
目安として、トイレの広さは182センチメートル×182センチメートル以上の面積があれば、介助するにも十分でしょう。
「寒暖差をなくす」ポイント
本当の意味での「バリアフリー」は、寒暖差をなくすこと、といわれているほど、住宅内部の空間どうしの気温差というのは高齢者にとって危険なものです。
高齢者は気温や体温の変化に気づきづらいため、熱中症やヒートショックの恐れが若い世代よりも大きいのです。部屋と部屋の気温差、季節による気温差が少ない家こそ、安全で快適な住まいといえます。
対策としては、住宅の断熱性を高くする・浴室暖房機を設置する・洗面脱衣所やトイレに小型の暖房を置けるようにする・床暖房を採用する、などといったことが考えられます。

場所別・対策ポイント
上述したポイントのほかに、部屋や空間ごとにも気をつけたいポイントをまとめました。
ドア
玄関・浴室・トイレは特に、引き戸が基本です。開口部が広く、段差ができにくいからです。玄関はほかのドアに比べて重量があるため、ケガなどの事故防止のためドアクローザーで調整してゆっくり閉まるようにしましょう。
階段・廊下
車椅子を利用したり、介助のことを考えたりすると、まず階段と廊下の幅は広めにとる必要があります。目安としては階段が「幅75センチメートル以上、1段の高さ20センチメートル程度」、廊下が「幅78センチメートル以上(車椅子を利用する場合は85センチメートル以上)」となります。
階段・廊下とも手すりは左右両側につけましょう。利き手で手すりを握る方が安定するため、行きと帰りの両方とも利き手を使えるようにするためです。
床材は、階段は滑りにくいものを採用し、滑り止めをつけることも考えましょう。廊下は車椅子が通ることも考慮して、滑りにくくかつ傷のつきにくいものがよいですね。 さらに夜の暗い時間でも足元が見えるように、フットライトの設置もできれば万全です。

浴室
浴室は出入り口の段差を解消したうえで、浴槽の深さは40センチメートルを目安に造るとよいでしょう(一般的な浴槽は60センチメートル程度)。
床材は滑りにくい素材を選び、手すりは浴室の出入りの際につかむもの、浴槽に入るときにつかむものなど、数か所設置します。浴室に合わせて設置場所を検討しましょう。
ヒートショックを避けるため、浴室暖房機も取りつけておき、入浴前にあらかじめ居室との温度差をなくしておくのも重要です。
また、細かいことですが、ドアにはガラスを使用しない素材を選びましょう。万が一転倒したときに、ガラスが割れて大けがにつながる恐れがあるからです。
さらに非常用ブザーも設置しておけば万全ですね。
トイレ
トイレの床材も滑りにくいものを選ぶだけでなく、汚したときのことを考えて汚れが取れやすい材質だとなおよいでしょう。
手すりも浴室同様、必要な場所に数か所取りつけます。また、トイレも冬は寒くなりやすい空間なので、小型暖房機を置けるようにコンセントを設置しておくとよいですね。
介助するために広めのスペースも必要になります。具体的な広さに関しては、前述した通りです。
まとめ
歳を取ってからのこと、介護のこと、バリアフリーのことは、元気なうちだとどうしてもタブー視して向き合うことを避けてしまいがちです。
しかし、一生を快適に生活できるように今から将来の展望を親と子が共有することは、二世帯住宅でともに暮らす家族として必要なことでしょう。
ぜひ、「家を建てる」ことをきっかけにこれらのことを念頭に入れて、バリアフリーを取り入れた住みよい住宅に仕上げてください。