今注目を浴びつつある「二地域居住(デュアルライフ)」、聞いたことはあるでしょうか。就労形態や住まいに対する意識の多様化により生まれた、新しい生活スタイルです。
今回はこの二地域居住について、その魅力や注意ポイントを解説していきます。
二地域居住とは

二地域居住って何?
二地域居住は「デュアルライフ」とも呼ばれ、都市部と地方、地方と地方、日本と海外など異なる二地域を行き来して両方に住まう生活様式のことです。どこか一か所に定住する、引越しして片方に完全に移住する、というどちらでもなく、主な生活拠点と別の生活拠点の2つ(あるいは3つ以上の場合もある)を持つわけです。
一昔前は、別荘やセカンドハウスを持つというと、定年退職で仕事を退いた人や富裕層に多いものと思われていましたが、近年はさまざまな層で二地域居住が注目され、実践している人もいるのです。
二地域居住の目的
二地域居住のメリットに関してはのちほど詳述しますが、二地域居住を望む人にとってもっとも多い目的は「自分の時間を過ごしたい、趣味を満喫したい」ということです。
平日は都会で仕事をし、週末は「自然を感じられる環境で癒されながら過ごしたい」ため田舎に行く、というのが二地域居住に求められるもっとも大きな目的、かつメリットというイメージがあるでしょう。
ほかにも「第二の仕事場所」「地域への貢献」など、癒しや趣味目的ではなく仕事や地域活性化を積極的な目的とするものも見られるようです。
二地域居住が注目されるようになった背景
このように2か所の別地域を行き来する二地域居住が注目されるようになってきた背景には、いくつかの要素が考えられます。
少子高齢化による地方の課題の深刻化

地方では、都市部への若者の流入により、都会よりも少子高齢化の問題が深刻です。住人がいない状態で打ち捨てられている空き家問題も社会現象としてよく知られているように、人口減少の食い止めや地方活性化が大きな課題として見えている状態です。
一方で、都会では住まいへの意識の多様化が進んでいます。一昔前は「夢のマイホーム」を持つことが一般的といわれていましたが、近年は賃貸住宅を選ぶ人も多くなっているのです。同時に、同じ地域に定住するということが必ずしも「普通」とはいえなくなっています。
新型コロナウィルスの影響
さらに加えて、新型コロナウィルスの流行により、テレワークが一気に普及しました。
テクノロジーの進歩により、パソコンさえあればどこにいても仕事ができる、という流れにより、テレワークやワーケーションを積極的に後押ししてくれる企業も増え、「仕事は職場でするもの」という概念が覆されたことで、働き方にもさまざまな形態が現れたのです。
ワークライフバランスも多様化し、仕事だけでなく自分の時間をもっと増やしたい、大切にしたいと考える価値観を持つ人も増えました。
在宅時間が増えたことにより、住まいへの意識も一変し、もっと快適で広い家を求めて郊外に移り住むことを希望する人も多くなりました。かといって引越ししてすべての生活拠点を都会から移すのは難しい…
こういった人たちにとっては、二地域居住がうまくマッチしたといえるのでしょう。
国による政策「全国二地域居住等促進協議会」
このような時代背景や生活様式の多様化により、2021年3月には国も「二地域居住等の普及促進と機運の向上」を目的として、「全国二地域居住等促進協議会」を発足しました。
これによって、国をあげての二地域居住に関する情報公開や支援策が具体的に打ち立てられるようになったのです。この動きも、二地域居住の普及を後押しすることになっています。
二地域居住の形態
二地域居住には、いくつかのタイプがあります。
セカンドハウス型

都市部にメインの生活拠点を置き、生活基盤は変えずに田舎にも一軒家を持つというタイプです。
田舎で住む家は、賃貸住宅や空き家購入、シェアハウスなど、そこは人によって違うスタイルになるでしょう。
二地域就労型
両方の地域でそれぞれ仕事を持つタイプです。
都市部ではこれまで通りの仕事を、田舎ではそこでしかできない短期の仕事を、というスタイルにしたり、これまでの仕事で得たスキルをもとに田舎で新しい仕事を立ち上げたり、二地域就労といってもさまざまな形が考えられるでしょう。
二地域居住は費用面での負担も大きくなるというデメリットがありますが、どちらの地域でも仕事を持っていれば、それを十分補うことも可能です。
中短期滞在型
都市部での仕事が休みのときや週末、また長期休暇時などに定期的に滞在するタイプです。夏は涼しい地域に、冬はあたたかい地域に、といった季節による移住もこのスタイルです。都市部に通勤が必要な仕事を持つサラリーマンなどでも、週末のみの田舎滞在は選択しやすいでしょう。
二地域居住のメリット

居住するからには、単純に旅行や出張では得られないメリットがたくさんあります。
都会と田舎の二地域の良さを満喫できる
日々の都会の喧騒に疲れて、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい…という憧れを持つ人は多いでしょう。
もちろん、田舎は都会の裏返しであり、都会のいいところは田舎にはない、という点も多々あります。物価が安く、土地や物件だけでなく新鮮な食材まで低価格で手に入れられる、空気がきれい、といった反面、都会のような発達した交通網がない、何かにつけて都会よりも不便である、職に就くにも賃金が都市部より低め、という一面もあります。
二地域居住の大きなメリットは、これら都市部と田舎の「良いところどり」をすることも可能だということです。平日は都市部で仕事をバリバリこなし週末は田舎でのんびり過ごす、子育ては田舎中心で、など両方の良いところを自分自身のライフスタイルに反映させることが可能になるでしょう。
目的をはっきりさせれば、生活にもメリハリが出てきます。
視野が広がる

「井の中の蛙」という言葉もある通り、人は一か所にとどまっていると知らず知らずのうちに視野や価値観が狭くなってしまいます。かといって、そう簡単に生活拠点をあちこちに移すことは、誰にでもできることではありません。
その点二地域居住であれば、主な生活拠点は確保したまま、それにとらわれることなくさまざまな土地の文化や風土を知ることができます。新たな出会いで新鮮な人間関係を築き上げたり、柔軟な考え方の基盤を作れたり、ということもあるでしょう。自分の可能性を広げられるということは、大きなメリットのひとつといえます。
将来の移住先の選定ができる
将来的には都市部を離れ、どこか地方に移り住みたいと今から考えている人にとっては、二地域居住は移住先の選定にも役立つでしょう。リタイアしたあとでも、新しい仕事を創り出そうという場合にも、さまざまな地域に拠点をかまえてみて、最終的に気に入った場所で将来の理想を叶えることが可能になります。
田舎の生活に憧れてはいたが、実際に住んでみたらイメージとのギャップが大きかった…ということもあるかもしれませんが、永住する前に「お試し」できることでこのような失敗も防ぐことができるでしょう。
始めるときのハードルが低い
二地域居住は、片方にとどまってしまうわけではないため、普段は都市部に暮らしながら田舎の生活に憧れを抱いていても完全な移住は不安…という方にとっては、実践のハードルが低いといえます。生活の基盤を変えることなく、新しい生活も実践できるからです。
主な生活拠点はそのままに、もうひとつの住まいはいくつか試してみて、理想に近い地域を探すということもできるでしょう。
さまざまな意味でひとつのことにとらわれず、こだわらず、自由な視点で選択肢を増やすことが可能となります。
「もしも」のときの避難場所にもなる
大きな地震や台風などで住まいが被害を受けた場合、もうひとつの生活拠点があるということは安心感につながります。
地域の活性化につながる
地方の課題となっている「人口減少」や「高齢化」に対しても、良い影響が期待できます。二地域居住を実践する人が多くなれば、地域の人口は一時的にでも増加し、少しでも人材の確保や経済の活性化につながるはずです。もともとの地方在住者にとっても、地域コミュニティの維持ができることで安心な生活が送れるというメリットになるでしょう。
二地域居住のデメリット

費用面の負担が大きい
二地域居住の最大のデメリットは、かかる費用が大きいという点です。生活拠点が2つあるということは、単純に考えても1つの場合の2倍、費用もかかるわけです。
持ち家を手に入れるのであれば、その購入費のほかにも固定資産税などの税金がかかります。賃貸住宅を借りるにしても、毎月の家賃が発生します。どちらであっても、水道光熱費もかかるでしょう。滞在期間が短めであったとしても、水道光熱費には基本料金があるため、毎月それなりの金額になります。
家具や家電もそれなりにそろえることが必要なので、その購入費用も発生するでしょう。管理や維持にもお金はかかります。さらに、二地域を行き来するための交通費やガソリン代も考慮に入れなければなりません。
二地域居住には精神的なメリットが大きいものですが、これらのメリットや目的と費用面についてはよく考えたうえで、コストは釣り合っているのかということをしっかり検討する必要があります。
のんびりしたかったはずが…意外に時間の負担も大きい!?

二地域居住の主な目的が「週末はのんびりしたい」「スローライフを送りたい」という場合、移動時間のことをしっかり考えておかなければなりません。あまりにも移動距離が大きいいとそれだけ時間がかかってしまい、かえって疲れてしまうということにもなりかねません。
ここでも二地域居住の目的を明確にしておいたうえで、どこに住まいをかまえるのかということをしっかり検討する必要があります。移動で疲れるだけの週末(週末だけとは限りませんが)になってしまっては本末転倒ですからね。
防犯面の不安がある
どちらの家にもずっといるわけではないため、片方の家で過ごしている間はもう片方の家を留守にする、ということが多くなり、留守にしているほうの住まいの防犯面に不安が生まれるという恐れがあります。
特に、週末しか訪れない・長期休暇のときしか使わないという家であれば、周囲に留守がちであることがわかってしまう可能性があります。
防犯カメラの設置やホームセキュリティーの導入を考える、貴重品は置きっぱなしにしないなどの対策が必要です。
両方の地域では公的なサービスが受けられない
一般的には、住民票の所在地でなくては公的なサービスの数々は受けられません。図書館に入れないとか、医療サービスが受けられないということも考えられます。二地域のどちらに住民票を置くか、生活スタイルからよく考えておく必要があります。
まとめ
魅力いっぱいに思える二地域居住も、目的を明確に持てなければ成功しません。二地域を行き来すること、別の地域で生活することで、自分は一体何を得たいのか。まずそれをはっきりさせたうえで、細かく計画を立てていきましょう。