昨年2022年12月16日に2023年度税制改正大綱が公表され、同月23日に閣議決定がされました。
税制に関しては難解な用語やシステムが多く、もともとどんな税制が敷かれていて、このたびの改正ではどういった見直しがなされているのか、ということを知るのはとても大変です。
今回は、「これだけ押さえておけばまずは良し」というポイントに絞って、解説していきます。
第1弾では、個人所得課税関連と資産課税関連について触れました。今回の第2弾では、法人課税関連・消費課税関連・納税環境整備関連・その他についてお話します。
法人課税では「研究開発税制の見直し」や「オープンイノベーション促進税制の見直し」などが行われています。ほかにも「暗号資産の評価方法等の見直し」などでは改正の度合いはそこまで大きくありませんが、重要なものとなっています。
消費課税では、2023年10月から導入されるインボイス制度に備えて、「小規模事業者向けの負担軽減措置等」が取られます。
また、納税環境整備関連では「電子帳簿等保存制度の見直し」が行われ、その他として2027(令和9)年度に1 兆円強の防衛力強化の財源を確保することを見据えて、さまざまな税金に改正が加えられます。

「法人課税」関連
研究開発税制の見直し
企業が研究・開発を行う際の開発費について、税額控除率が見直されます。
施行期間
2023(令和5)年4月1日から 2026年3月31日の間に開始する事業年度について適用
見直しの背景
現在、企業の研究開発費の控除額は一定であるため、ある程度の規模以上の研究開発が抑制される恐れがありました。しかし今回の改正では、控除率の下限の引き下げ、および上限の引き上げが行われ、今後の研究開発費の質が高まることが期待されます。
見直し内容の概要
研究開発費の増減に応じた税額控除率カーブが見直され、控除率の下限を2%から1%に引き下げ、さらに税額控除上限に到達した企業に対しても、上限を25%から20~30%に引き上げることになりました。
とはいえ、この改正で大きな影響があるのは、試験研究費が多い一部の企業のみと考えられます。
オープンイノベーション促進税制の見直し
一定の要件を満たした場合に、企業がスタートアップ企業の株式を取得した際、取得価額の25%を企業の所得から控除できる制度で、令和2年度の税制改正で新設されていました。
改正内容の概要
以下のような見直しが行われました。
1.スタートアップ企業からの直接の株式取得でなくても、議決権の過半数を取得すれば適用可能となる。
2.取得株式の取得価額の上限を、100億円から50億円に引き下げる
3.すでに議決権の過半数の株式を有しているスタートアップ企業に対する出資は、対象外とする
暗号資産の期末評価方法等の見直し
法人が保有する暗号資産は時価評価が必要とされ、その評価損益は課税の対象となっていました。
今回の改正により、一定の要件に該当するものは期末時価評価課税の対象外とされます。
見直し内容の概要
下記に該当する暗号資産については、期末時価評価課税の対象から除外されることとなりました。
1.自己発行した暗号資産で、発行時から継続して保有しているもの。
2.発行時から保有している、他者に移転できない技術的措置が取られているもの、または一定要件を満たす信託の信託財産としているもの(譲渡制限が行われているもの)。

「消費課税」関連
インボイス制度の円滑な実施に向けた所要の措置
インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、2023(令和5)年10月開始の、消費税の新しい仕入税額控除の方式です。
適格請求書発行事業者として登録した事業者のみが「インボイス」を交付することができ、この交付を仕入先から受けた消費税の課税事業者だけが仕入税額控除を適用できる、という制度です。
施行時期
インボイス制度自体は2023(令和5)年10月から実施。
負担軽減措置の実施は3年間で、2023(令和5)年10月1日~2026(令和8)年9月30日。
1万円未満の少額取引に対する事務負担軽減策は6年間で、2023年10月1日~2029年9月30日。
改正の背景
これまで、売上高が1,000万円以下である事業者は消費税が免税されていましたが、今後は免税事業者でも取引先からインボイスの発行を求められた場合、課税事業者になるかどうかを選択しなければいけなくなり、消費税の納税に伴う経理処理などが大きく負担となってのしかかっている小規模事業者が発生しています。
これに伴い、今回緩和措置が取られることとなりました。ちなみに、すでに免税事業者からの仕入れについて、2026(令和8)年10月までは80パーセントが控除可能、2029(令和11)年10月までは50パーセントが控除可能という経過措置が設けられています。
改正内容の概要
これまで免税事業者であったものがインボイス発行事業者になった場合、3年間消費税の納税額売上税額の2割に軽減されます。
また、基準期間での課税売上額が1億円以下の事業者は、課税仕入額1万円未満の少額取引の場合、インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで仕入税額控除が可能となります。

「納税環境整備」関連
電子帳簿等保存制度の見直し
スキャナ保存制度の見直し
国税関係書類をスキャナで読み取って保存する際、これまでは要件として解像度・階調情報・大きさ・入力者の情報などが必要でしたが、これが廃止されました。また、相互関連性要件を満たすべき書類が、契約書・領収書などの重要書類に限定されました。
電磁的記録の保存制度についての見直し
メールなどに添付された電磁的な記録保存が必要とされる請求書・領収書などについて、以下の要件を満たす事業者は、そのデータを保存する際の検索機能など全ての要件が不要となりました。
・判定期間における売上高が5,000万円以下の事業者(現行は1,000万円)
・その電磁的記録の出力書面の提示、または提出の求めに応じる準備をしている事業者
その他
防衛力強化に係る財源確保のための税制措置
2027(令和9) 年度に1 兆円強の防衛力強化の財源を確保するため、法人税・所得税・たばこ税に措置が講じられます。
施行時期
2024(令和6)年以降の適切な時期、要するに現時点では未定です。
改正内容
【法人税】
法人税額に対して4%~4.5%の新たな付加税を課されます。対象となるのは、法人税額が500万円を超える部分(=標準税額となる法人税額から500万円が控除されるということ)です。
【所得税】
所得税に対して1%の新たな付加税が課されます。代わりに復興特別所得税の税率を2.1%から1%引き下げて1.1%とし、課税期間は延長されます。
【たばこ税】
国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、段階的に、たばこ1本につき3円のたばこ税が引き上げられます。

まとめ
2023年度税制改正大綱について、第2弾では法人課税関連・消費課税関連・納税環境整備関連・その他について代表的な案の内容をご紹介しました。インボイス制度・電子帳簿保存関連については、取引先への影響もあるため、特に内容をしっかり把握しておくべき事項といえるでしょう。
第1弾では、個人所得課税関連と資産課税関連に関してお話していますので、そちらの記事も併せてご覧いただくと、全体の重要点が把握できます。
※この記事の内容は、大綱に沿って作成されているので、今後改正内容の細かい点については変更が出てくる可能性があります。ご了承ください。