家を解体する理由は、老朽化や空き家の解体、新築を建てるためなど、人によって色々あると思います。
ときには自分の意思とは無関係に解体することもあります。
区画整理による解体も、その一例です。
公共事業で立ち退きを迫られた場合と通常の家屋の解体では、費用などの面で違いがあります。
今回は、区画整理で解体することになった場合の費用や解体の流れ、用語について解説していきます。
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区画整理とは
そもそも区画整理とはなにかを確認しておきましょう。
正式な名将は「土地区画整理事業」で、道路や公園など公共施設の整備、宅地の利用増進を目的とした事業です。
道が狭く、入り組んでいる古い市街地の区画を整理し、新しい市街地を作ります。
区画整理によるメリットは以下が挙げられます。
- 利便性、安全性の向上
- 土地の資産価値が高くなる
道路の幅が広くなる、入り組んだ道が通行しやすくなる、公園などの公共施設が作られるといった面から、安全性や利便性が向上します。
無計画な宅地開発で生じる「雨が降るとすぐに浸水してしまう」「救急車などの緊急車両が通行できない」「子供の遊び場がない」といった問題が解消されるのは大きなメリットです。
利便性の向上から資産価値が高い土地になります。
区画整理で発生するデメリットは以下のとおりです。
- 昔ながらの景観がなくなる
- 土地の面積が減少する
- 同じ場所に換地されるとは限らない
市街地の形状が変わり、昔ながらの景観が変わってしまいます。
故郷に思い入れがある方には寂しいことですよね。
道路や公園の面積を増やすには、それ以外の土地の面積を減らす必要があります。
そのため、地権者が公共事業に必要な土地を公平に出し合い、それぞれの宅地面積は減少します。
ただし、区画整理によって土地の利用価値は上がるので、資産価値は変動しません。
一番大きな問題は換地です。
区画整理の際は宅地を再配置しますが、その新しい宅地を「換地」と呼びます。
土地の面積が減少するだけでなく、土地を入れ替えることもあります。
土地を入れ替えた場合、それまで住んでいた家を解体し、新たな土地に家を立てなければなりません。
区画整理で家を解体する
そもそも、区画整理で立ち退きを迫られた場合に必ず応じなければいけないのか?という疑問があると思います。
手間もかかりますし、住まいに思い入れもあって、拒否できるなら拒否したいと思う方は多いです。
公共事業による立ち退きには強制力があるので、正当な理由なく拒否し続けると損害賠償を請求されたり、強制立ち退きを執行される可能性があります。
区画整理には応じるのが基本です。
マイホームを取り壊したくない思いはぐっとこらえて、行政の指示に従いましょう。
区画整理による解体費用
区画整理で立ち退きに応じるとして、気になるのは費用ですよね。
一方的に立ち退きを命じられて、高額の費用まで負担するとなったらやってられません。
個人の資産に行政の事業が影響を及ぼす区画整理では、行政は補償として立ち退き料を支払います。
立ち退き料は基本的に立ち退きに関する支出全般を負担してくれます。
自己負担はあるの?
行政が支払う立ち退き費用には以下のものが含まれます。
- 現在とは別の場所に代替地を用意
- 現在住んでいる住居の解体費用
- 新しく建てる住宅の建築費用
- 曳家や再構築工法の移転費用
- 移転期間の仮住まいに対する補償
- 引越し費用
これらの費用をすべて補償してもらえるので、原則自己負担はありません。
ただし、費用を負担してくれるのは行政に協力的で、指示に従うことが前提です。
立ち退きに応じない、無茶を言ってゴネるといった非協力的な態度を取ると、立ち退き料に影響が出る可能性があります。
場合によっては正当な理由なく拒否しているとして損害賠償を請求されることもあります。
思い出深い我が家を自身の意思と関係なく取り壊すのは抵抗があると思いますが、感情的に拒否し続けても最終的に家は取り壊し、最悪の場合は損害賠償をされる可能性もあるなど、余計なトラブルが増えます。
立ち退きを迫られたときは、基本的に応じるようにしましょう。
解体工事の補助金や助成金、追加の補償について
通常の解体工事では、申請すれば行政から補助金を受け取れるケースもあります。
区画整理による立ち退きの場合は、解体工事から新築の建設費用までまとめて立ち退き料という形で支払われるので、解体工事単体の補助金や補償はありません。
ただし、支給された費用では解体工事の料金を支払えなかった、予算をオーバーしてしまったという場合はあらためて行政に費用を補填してもらえます。
工事の流れ
区画整理の工事の流れは、基本的に以下のように進みます。
- 計画決定と住民説明会の実施
- 土地区画整理組合の設置
- 仮換地指定と建物移転補償交渉
- 立ち退き
- 換地処分
- 土地建物の登記
- 清算金の交付
計画決定と住民への説明
区画整理はまず行政が計画を決定するところから始まります。
まちづくり案を地元住民と検討した上で、区画整理事業の施行区域を決め、その後事業計画として資金計画や設計、事業期間などを決定。
この段階で、対象区域の住民に「区画整理の計画を立てています」と伝えます。
事業をすすめるには住民の承諾が必要なので、スムーズに計画をすすめるために事前の周知を徹底します。
計画決定後には住民に対する説明会を実施し、地権者の同意を得るための手続きを行います。
同意しない住民には後日、同意してもらうように個別で交渉して促します。
地権者は正当な理由が無いまま通知された期限をすぎると、直接施工(強制執行)となる場合や、損害賠償責任が生じるおそれがあるので注意しましょう。
区画整理組合の設置
区画整理計画が決定し、住民への説明が終わると組合を設立します。
設立される「区画整理組合」は区画整理事業が行われる区域の宅地所有者、借地権者が組合員となります。
原則組合人は7人以上で、都道府県知事の認可があれば設立できます。
組合設立の条件として他に区域内の宅地所有者、借地権者の3分の2以上が事業計画に同意する事が必要です。
住民説明会で同意を得ておくことで、組合の設立がスムーズに進みます。
仮換地指定と建物移転補償交渉
現在の土地の権利を仮換地に移行する手続きが仮換地の指定です。
この手続を行うことで、登記上では他人の土地であっても仮換地を使えます。
建物移転補償交渉で最初にするのは、立ち退き料金額の査定です。
不動産価値などを考慮して組合や行政の調査員が金額を提示します。
立ち退き料の総額を提示されるので、土地の所有者が合意して書類にサインすれば交渉完了です。
立ち退き
交渉まで終えると、建物の移設、撤去を行います。いわゆる立ち退きです。
立ち退きが完了してから解体工事に移るので、速やかに立ち退きを済ませましょう。
行政によっては立ち退きの前後で立ち退き料の半分が支払われるケースもあります。
支払いの条件やタイミングは組合や行政によって異なるので、事前に確認しておきましょう。
工事
立ち退きが終わると、解体工事を行います。
土地は移動せざるを得ませんが、家に愛着がある場合は曳家工法など建築物をそのまま移動する方法もあります。
その後、道路や公園、宅地整地などの工事を行い、利便性の高い町並みが作られていきます。
換地処分
立ち退きが終わってから換地処分を行います。
仮換地の所有権を取得して、仮換地をもともと持っていた土地とみなすようになります。
原則的には立退き料が全額支払われるのは換地処分が終わってからです。
土地、建物の登記と清算金の交付
最後に行うのが土地建物の登記と清算金の交付です。
土地や建物が代わるため登記が必要になりますが、基本的には施工者がまとめてやってくれます。
その後行われる清算金の交付は、換地で生じる土地所有者間の利害の差を埋めるものです。
事業前と事業後で土地の評価額を比べ、評価前のほうが高い場合は清算金を交付、評価前のほうが低い場合は清算金を徴収されます。
清算金の徴収、交付を行うことで利害の差をなくします。
覚えておきたい用語
区画整理には用語が多いので、まとめて解説します。
区画整理の対象となった際は、行政や組合の担当者と話し合いをします。
そのときに「用語がわからなくて理解できなかった」なんてことにならないためにも、用語の意味は知っておいたほうがいいでしょう。
・公共施設
区画整理における公共施設は道路、広場、公園、緑地などを意味します。
これは土地区画整理法で規定されているものです。
一般的に公共施設といえば、図書館や体育館、下水道などを指しますが、区画整理における公共施設は指すものが少し違います。
普段使う単語でも、指し示すものが違うことを意識しましょう。
・宅地
「宅地」も公共施設と同様に普通の意味と区画整理における意味は異なります。
区画整理の「宅地」が指すのは、国や地方公共団体が所有している土地以外のすべての土地です。
普通は住宅用の土地などを指しますが、区画整理の場合は田畑や森林も宅地に含まれます。
・保留地
保留地は、区画整理事業で整備された土地の中で、施工者など事業主体者が取得する土地です。
土地の売却による事業費の捻出を目的としていて、その地域の相場価格よりも安いことが多い傾向にあります。
区画整備によって土地の価値が高くなり、相場よりも安い土地なので購入希望者が多い人気の土地となることが多いです。
・減歩(げんぶ)
区画整理は、事業に必要な土地を所有者が公平に出し合うのが基本的な仕組みです。
事業に必要な土地を公平に出すことで、個々の宅地面積が減少します。
これが減歩です。
減歩を細かく分けると、道路や公園など公共施設用地にするための「公共減歩」と、事業費を得るための保留地に当てる「保留地減歩」があります。
減歩によって生み出された土地は社会的に有効に活用されます。
・換地
区画整理では、個々の宅地の位置や面積など立地条件を考慮して、有効活用しやすいように宅地を再配置します。
もちろん道路などの整備も区画整理の目的ですが、宅地の再配置も区画整理の重要な目的です。
元の宅地から新たに置き換えられた土地を換地と呼びます。
区画整理によって土地の入れ替えを行った場合も、新しい土地を換地と呼びます。
基礎について
区画整理の建物を解体する際、「基礎は残すのか」で悩む方もいます。
組合や行政から指示があれば従えばいいですが、指示がない場合もあるのが困りものです。
区画整理の解体工事と基礎について解説していきます。
基礎は撤去するべき?
区画整理の解体工事で基礎を撤去するべきかどうかは状況次第で異なります。
土地区画整理法には決められた方針がないので、行政が判断するのが一般的です。
基礎が残っているとその後の整備計画に支障が出ると判断されれば、もちろん撤去しなければなりません。
基礎があっても今後の計画をすすめるのに問題がないと判断されれば、残しておくケースもあります。
行政としてはできるだけ経費を抑えたいので、しなくてもいい基礎の解体工事で費用を使いたくないからです。
いずれにしても、基本的に土地所有者の判断ではなく行政が判断します。
解体業者に伝えるのを忘れずに
組合や行政から基礎も解体するよう指示があった場合、解体業者に基礎の撤去が必要だと伝えておきましょう。
基礎の解体工事にも当然費用がかかるので、基礎を撤去する費用も含めた見積もりをとれます。
基礎の撤去費用は結構高額で、撤去するかしないかで解体工事料金の総額はかなり差が出ます。
組合や行政から基礎の撤去は不要と言われても、建物によっては基礎の立ち上がりを取り壊す必要があるので、組合や行政だけでなく解体業者にも確認しつつ、適切な解体工事をしましょう。
基礎は撤去したほうがいい
基礎の撤去は基本的に行政や組合の判断に従いますが、可能なら基礎は解体しておいたほうがいいです。
その理由は、廃棄物処理法の規定にあります。
廃棄物処理法は廃棄物の投棄を禁止する法律で、自分の敷地でも投棄は禁止です。
廃棄物処理法の規定は自治体によって解釈の異なる部分があり、基礎を撤去せずそのままにすると廃棄物処理法に抵触するとみなされる可能性がありますので気をつけましょう。
行政からの指示でそのままにしている場合は、廃棄物処理法について心配しなくても大丈夫です。
しかし、基礎を残しておくと廃棄物が埋まっているとして不動産価値が低下する可能性もあります。
基礎を撤去したほうがトラブルは起きにくいので、行政や解体業者に相談しましょう。
基礎の解体はこちらの記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。
まとめ
区画整理の区域に入った場合、立ち退きを命じられたら原則従わなければなりません。
その土地に思い入れがあっても、行政や組合の指示に従うことが懸命です。
費用は原則自己負担なしで済ませられます。
区画整理の流れを理解し、組合や行政とコミュニケーションを取って、円滑に進めていきましょう。
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