2022年10月から、火災保険料の大幅な改定がされたことをご存知でしょうか。
火災保険は、生命保険や医療保険のようなものほどには身近ではないイメージがあるため、注目していなかったという方も多いかもしれませんね。
今回は、この改定で火災保険料がどのように変わったのか、それについてどのように対策したらいいかというポイントをお話していきます。
これまで火災保険についてあまり興味がなかった方も、これを機会に見直してみてはいかがでしょうか。
火災保険とはそもそもどんな保険か
生命保険や医療保険、自動車保険は身近なものですが、火災保険というと聞いたことはあっても、加入しているかどうかすらよくわからない、補償内容も全然覚えていない、ということがあるかもしれませんね。
火災保険とは、その名の通り火事の被害があったときに補償してくれる保険です。しかも火災だけではなく、風災や・落雷・雹(ひょう)災・雪災、水災(洪水・高潮・土砂崩れ)などの自然災害、破裂・爆発、盗難や水漏れ、その他突発的な事故による損害など、非常に広い範囲で適用されます。
(※後述しますが、「地震による火災被害」などは補償されない点に注意が必要です)
補償範囲は、一戸建てやマンション・ビルなどの「建物」、そして建物の中にある家財のような「動産」などです。
この範囲は自分で決められるため、たとえば「建物」だけに保険をかけた場合、火事で家が燃えてしまったときは「建物」の損害分の保険金のみ受け取れる、ということになります。
火災保険料値上げの背景とは
火災保険料の値上げは、これまでにも2015年・2019年・2021年と数回ありましたが、今回はその中でもより規模の大きな改定となりました。なぜこのような改定に踏み切られたのか、それにはいくつかの背景があります。
自然災害の増加
日本はもともと、台風や地震などの自然災害が多い国であり、昔からそれらとの共存や対策に力を入れてきましたが、近年は特に急速に進む地球温暖化などの影響により、さらに大きな自然災害が増え、それによる被害も甚大となってきています。
そのため、保険会社が支払った保険金はこの数年、莫大なものとなっているのです。
このまま大規模な自然災害が続いてしまうと、保険会社の負担は相当大きなものとなり、保険金の支払い能力にも影響が出てしまいます。
古い家屋の増加
築年数がだいぶ経ち、古くなった家屋ほど火災や水漏れのリスク、また台風や大雪など自然災害による倒壊の可能性が大きくなります。
当然のことですが、古い家屋はどんどん増え続けています。年月が経つほど、築年数は進行していくからです。
存在している住宅のうち古い家屋が占める数の割合は、近年増加しており、今後さらにその傾向は続いていくことが予想されるため、その分火災保険が利用される機会も増えていくはずなのです。
火災保険料、実際には何が改定されている?
参考純率が10.9%に引き上げ
「10.9%引き上げ」といっても、保険に加入している人が実際に払う保険料が10.9%も上がるわけではありません。上がっているのは「参考純率」というものです。これは、損害保険会社各社でつくる損害保険料率算出機構が出す数字で、以前にもこの参考純率の引き上げは何度もあったのですが、今回その引き上げ幅はこれまでで最大のものとなりました。
ではその「参考純率」とはどのようなものなのでしょうか?
各保険会社が保険料を決めるときに算出する保険料率は、次のような式で求めます。
・「保険料率」=「純保険料率」+「付加保険料率」
☆純保険料率…損害が発生したとき、保険会社が支払う保険金そのものに充てられる部分
☆付加保険料率…保険会社が事業を行うために必要な経費などに充てられる部分
この「純保険料率」に、「参考純率」の数字を参考にするかどうかは各保険会社の判断にまかせられています。必ずしも参考にしなくてもいいのですが、多くの保険会社は参考純率の数字を踏まえての純保険料率を算出しているようです。
今回「10.9%に引き上げ」されたのは、この参考純率であるため、いきなり保険契約者が支払う保険料が桁違いに跳ね上がるということはありませんが、それでも影響はまぬがれないものです。
最長契約期間が5年に
保険料自体の値上げは、そこまで問題ではないという方も中には出てきます。というのも、地域によっては自然災害の影響をそこまで受けないところもあり、実際に保険料が値下がりになる場合もあるからです。
また、保険会社によっても保険料に差はあるため、今回の改定で保険料の上下がほとんどないということもあります。
それよりも、「最長契約期間の短縮」の方が厄介だ、という声があるのです。
保険料というのは、通常「長期割引」があり、長い年月分を一括で支払う方が割安になります。1年より5年、5年より10年という具合で、一括で10年分支払えば、年あたりの保険料はその分相当安くなるのです。
しかし、この契約期間がこれまで最長10年であったものが、最長5年になりました(2015年までは最長36年でした)。ということはそれだけ保険料の支払額が割増になるため、実質的な値上げといえる状態になるのです。
これは、地域や保険会社での差がほとんどないものです。そのため、影響を受ける人も多く出てくるといえます。
最長契約期間の短縮により、実質的な値上げになるだけでなく、さらに以下のようなデメリットも考えられます。
保険料の値上がりの影響をまともに受ける
更新期間が短くなるということは、その都度保険料の見直しも入るということです。もしこの5年間の期間中に保険料が値上がりしている場合、それが反映された保険料となるため、更新のたびに値上がりする、しかもその頻度も高くなる…ということが予想されるのです。
更新するのを忘れる危険が増加する
保険を自動更新していなかった場合、これまでは10年に1度手続きをすればよかったものが、5年に1度と頻度が上がることで、更新のし忘れの可能性が上がるという恐れもあるでしょう。
契約が切れている状態でもし自然災害が起きたとしても、当然補償を受けることはできません。うっかりでは済まされない事態になってしまいます。
免責金額の最低額の引き上げ
「免責金額」とは、「自己負担額」のことです。
たとえば台風で10万円の被害にあったときに、免責金額が2万円の設定であれば、保険会社から補償されるのは8万円であり、免責金額の2万円は自己で負担することになります。
この免責金額は自分で設定することができ、免責金額が大きいほど保険料を安く抑えることが可能です。保険会社によって、これまでは免責金額を0円で設定できるところもありましたが、今回「水漏れ・破損・汚損」の場合の免責金額最低額が5万円に引き上げられました。
引き上げの理由としては、「コロナ禍で在宅時間が増え、家財汚損の少額請求が増えたこと」、「家財の高性能化によって修繕費が増加したこと」が挙げられています。
また、一部の保険会社では「水漏れ・破損・汚損」だけでなく、「風災・盗難」などの損害も、免責金額の引き上げの対象としています。
火災保険料改定への対策ポイント
保険料の一括支払い期間の見直し
前述したように、保険料は長期契約であるほど割引率が増すため、できるだけ長期間での契約で保険料を一括支払いすれば、その分保険料を抑えることができます。
一括支払いであるため、一時的な支出は高額になりますが、全体で見たときには保険料を節約することが可能です。
免責金額を高めに設定する
「免責金額」についても前述しましたが、これを高く設定することによって、保険料の負担額を抑えることも可能です。
免責金額とは「自己負担額」のことなので、免責金額が大きくすればするほど損害を被ってしまったときの補償金額自体は少なくなってしまいますが、いざ損害を被ったときの手出しよりも保険料を抑えることに重きを置きたい、と考えるのであれば、この方法も大いに有効でしょう。
不要なオプションを見極める
火災保険の加入時には、勧められるものにそのまま入ってしまった、ということも少なくありません。保険料の値上げを機会に、内容を見直ししてみてはいかがでしょうか。自分には不要なオプションがついていないかを確認し、それを外すことによって保険料をある程度下げることが可能です。
たとえば、水害の恐れがほぼないような地域で水害補償のオプションがついていても、まず利用することはないでしょう。お住まいの地域や気候によっては、全く必要のない内容もあるはずなのです。
ただし、この際には「要・不要」をよく見極めることが大事です。いくら保険料を安くできるからといって、必要な補償内容まで外してしまっては本末転倒になってしまいます。自治体のハザードマップなどをしっかりと確認して検討していきましょう。
複数の火災保険を見比べる
賃貸住宅の契約などで、勧められるがままの火災保険に加入したという方は多いのではないでしょうか。
本来、どの火災保険を選ぶかは当然自由です。保険会社や商品によって、補償内容や保険料は千差万別です。今回の改定を機会に、気になる保険会社の商品のすべてで見積を取って比べてみてはいかがでしょうか。少しでも保険料を抑えられる可能性も出てくるうえ、もっと充実した補償内容で自分にしっかりと合った保険を見つけられるかもしれません。
ネット型、ダイレクト型と呼ばれる、不動産会社や保険会社などの代理店を通して加入する「代理店型」ではない保険もあり、これであれば保険料が目に見えて割安になる場合があります。確認してみるとよいでしょう。
火災保険の選び方
火災保険は、建物の種類や生活環境によって、選ぶポイントが異なってきます。「一戸建て」「マンション」「賃貸物件」に分けて見ていきましょう。
一戸建ての火災保険
一戸建ては、その立地や周辺の環境によって補償範囲・内容の選び方が大きく異なってきます。特に水災の心配がほぼない地域、風災の影響を受けない地域など、保険の内容に大きく影響がある要素をしっかり見極めて、火災保険選びをしましょう。
住宅購入時に建築会社などから特定の火災保険を勧められることが多いのですが、その場ですぐそれに決める必要はありません。前述したように、複数の保険会社から見積を取り、担当者とよく話し合って自分に合うものを検討しましょう。
マンションの火災保険
マンションは、共有部分については管理組合が補償を行ってくれるため、専有部分に対しての補償を自分で用意することになります。
マンションで特に重要なものは「水漏れ」に対する補償です。
管理組合で加入している保険に「個人賠償責任保険」が付帯していない場合は、自分の加入する火災保険(他にも自動車保険など)に特約として付けておくのがよいでしょう。
賃貸物件の火災保険
賃貸住宅の契約の際にも、不動産会社から特定の火災保険を推奨されることがかなりの割合であります。
賃貸契約では、火災保険の加入をオーナーが条件としていることが一般的で、「自分の家財に対する火災保険」に「オーナーに対する借家人賠償特約」「隣人に対する個人賠償責任特約」を付帯させることがほとんどです。賃借人は、オーナーに対して「原状回復義務」を負うためです。
それぞれの住まい環境などに応じ、最適な火災保険とその特約を見つけたいですね。
※番外編 地震保険料は引き下げになる地域もある
2022年の改定で、火災保険料は値上げになる地域が多い一方で、地震保険料は全国平均で0.7%の値下げになっています。
地域や建物の構造によって改定率は異なり、値上げとなった地域ももちろん存在しますが、全国的に見て値下げの傾向になったのは、耐震性能が高い建物が増加したことが理由に挙げられています。
ただし、地震保険は「地震・津波・噴火による火災や倒壊などの損害」(これらは火災保険では補償されない)を補償するものであり、単体では加入できず、必ず火災保険とセットでの契約が必要です。
今回の改定で火災保険を見直すつもりがあるのならば、地震保険の加入もぜひ一緒に考えてみてはいかがでしょうか。
まとめ
今回の火災保険改定のポイントは、「参考純率の10.9%引き上げ」「最長契約期間が10年から5年に短縮」「家財補償の免責金額の引き上げ」の3点です。
自然災害や古い家屋の増加は、今後も続いていく見込みであるため、さらなる火災保険料の値上げも十分に考えられることですが、
しかし実質的に火災保険料が値上がりし、家計に響くことになったとしても、保険の解約はすべきことではありません。保険の見直しなどを行って、保険料は節約しつつも火災保険は必ず継続すべき保険です。さらにこの機会に地震保険についても加入の検討や、見直しを行ってみましょう。