解体工事では避けられない騒音や振動の問題
ビルや家屋をはじめとした様々な解体工事で、避けて通ることができない問題として挙げられるのが、騒音と振動です。解体工事を行う際、解体業者も配慮や工夫はするものの、くい打機やびょう打機などの機械を使用しているとどうしても騒音や振動が発生してしまいます。
特に近隣住民は、日中の大半の時間で騒音や振動にさらされてしまうため、人によっては不快感や体調不良を訴えることもあります。場合によってはクレームやトラブルに発展することもあるため、対応が難しい問題と言えるでしょう。
騒音や振動に関する法律
解体工事と切っても切り離せない問題である騒音や振動に関しては、環境省が法律を制定しています。この法律は、解体工事だけではなく建設工事などで発生する騒音や振動を規制するもので、国民の生活環境を守ることが目的です。
ここからは、環境省が制定した騒音や振動に関連した法律である「騒音規制法」と「振動規制法」の2つについて解説します。
- 騒音規制法
- 振動規制法
騒音規制法
騒音規制法とは、簡単に言えば、環境大臣が騒音の大きさや作業を行える時間帯、日数や曜日などの基準を設けて規制することで、近隣住民や通行人の安全安心や健康を守るための法律となっています。
また、この法律では工事だけでなく、工場や自動車の騒音なども規制の対象になっています。
振動規制法
振動規制法も騒音規制法と同じように、国民の健康の保護を目的に、環境大臣が振動の大きさや作業できる時間帯、日数や予備などの基準を設定・規制しています。
こちらも同様に工事だけでなく、自動車や特定の施設も規制の対象になっています。
騒音規制法や振動規制法の対象となる「特定建設作業」について
特定建設作業とは、著しい騒音や振動が発生する可能性が高い道具を使った現場作業のことです。ポイントは騒音や振動が発生する可能性が高い道具を使っている点で、くい打機やびょう打機などが挙げられます。
それらの道具を使った作業は特定建設作業と区分され、騒音規制法や振動規制法の対象となります。ただし、法律の対象ではない作業の場合でも、規制しなくていいというわけではないため、近隣住民や通行人に配慮して工事をしてもらうことが重要です。
出典:特定建設作業に伴つて発生する騒音の規制に関する基準|環境省
解体工事で発生する騒音や振動の基準
解体工事で発生する騒音や振動は法律によって規制されていますが、実際にどの程度で問題とされるのかを知っておかなければいけません。また、近隣住民や通行人からクレームが入った場合、クレームが適切な内容なのか判断基準として知っておくことが望ましいです。
ここからは、解体工事で発生する騒音や振動の基準をいくつかのポイントに分けて解説します。
- 騒音と振動の大きさ
- 作業可能な時間や曜日
騒音と振動の大きさ
騒音と振動の大きさに関しては、それぞれの規制法を踏まえて環境省が定めている上限があります。それぞれの大きさの上限に関しては、以下の数値となっています。
・騒音の上限:85デシベルまで
・振動の上限:75デシベルまで
振動に関しては特定工事の区域や時間帯によって数値が異なる場合がありますが、特定建設作業に関しては75デシベルを上限としています。
ちなみに75デシベルの振動は中程度の地震レベルに近く、85デシベルの騒音は地下鉄の車内や1m以内で正面から聞くピアノの音に近いとされています。
作業可能な時間や曜日
騒音や振動の大きさ以外の基準として設けられているのが、工事作業が可能な時間や曜日に関する部分です。
まず基本的なポイントとして、早朝や夜間、日曜日とその他休日は騒音・振動を伴う作業をすることができないとされています。これを踏まえた作業可能な時間や曜日については、以下の通りです。
・住宅地や商業都などの第1号区域は、午前7時から午後7時まで10時間以内であれば作業可能。日数は連続6日間まで
・工業地域などの第2号区域は、午前6時から午後10時まで14時間以内であれば作業可能。日数は連続6日間まで
例外を除けばこのように基準が設けられているため、解体業者は決められた時間や日数、曜日で作業を進める必要があります。
出典:特定建設作業に伴つて発生する騒音の規制に関する基準|環境省
騒音や振動の基準と一緒に覚えておきたい「受忍限度」
騒音や振動の基準値や問題に関しては、受忍限度という言葉が用いられることがあります。受忍限度とは、社会生活を営む上で我慢するべき限度のことです。
簡単に言えば、人が社会生活の中でその騒音や振動を我慢できる限度を超えているかどうかの判断基準を指しています。
受忍限度の基準に関しては各自治体の条例などによって設定されていることが多く、日中と夜間では基準値が若干異なります。ちなみに感覚値で我慢できる限度を超えているかどうかを判断するのではなく、明確な数値によって設定されているところがポイントです。
このため解体工事で発生した騒音や振動に関しては、法律などで定められた基準以外にも受忍限度の基準内であるかどうかも大切になります。
解体工事の騒音や振動トラブルの対策方法
工事作業に関する騒音や振動の明確な基準が設けられている以上、解体業者側は騒音や振動に配慮した対策を取っておかなければいけません。それと同時に工事を依頼する側も、万が一クレームやトラブルが発生しないように対処する必要があります。
ここからは、解体工事の騒音や振動に関するトラブルを予防するための対策方法を4つ紹介します。
- 防音性の高い養生シートの使用を検討する
- 機械や工法を変更する
- 作業時間を工夫する
- 依頼主自身がご近所へあいさつをする
1:防音性の高い養生シートの使用を検討する
通常、工事作業を行う際には養生シートと呼ばれるシートで建物全体を覆います。こうすることで埃やゴミの飛散防止になるほか、騒音を抑える効果も期待できます。
ちなみに養生シートの使用は義務ではなく設置しなくても違法ではないため、利用しない解体業者もいます。ただ騒音対策をしっかりしておきたいのであれば、防音性の高い養生シートの使用を見積もり段階で確認・検討することが必要です。
2:機械や工法を変更する
解体工事では、重機を使った取り壊し作業が多くなる傾向があります。使用する重機によって発生する騒音や振動の大きさは異なるため、できる限り騒音や振動の小さい重機や機械を使用してもらうという対策も可能です。
また建物が隣接している部分はできる限り手壊し解体にしてもらうなど、工法を変更してもらうことも対策として有効だとされています。ただし、いずれの場合も費用負担が増えるリスクがあるため、どこまで変更可能なのか解体業者との話し合いが必要です。
3:作業時間を工夫する
作業時間に関しては騒音規制法や振動規制法によって、ある程度制限されています。ただ許可されている時間内でも、午前7時や午後7時など早い時間や遅い時間は人が集まりやすく、クレームにつながりやすい時間となっています。
このため、近隣住民の生活スタイルなどに配慮して作業時間を工夫してもらうと、クレームやトラブルの発生を予防できるでしょう。
4:依頼主自身がご近所へあいさつをする
依頼する側がまずやっておいた方がいいクレームやトラブル対策として挙げられているのが、ご近所へのあいさつです。解体業者ももちろんあいさつ回りをするのですが、このとき依頼主も同行することで近隣住民に対しての誠意を見せることができます。
あいさつの際には工期に関する説明のほか、挨拶状や手土産を持参すると気持ちを伝えやすいです。
解体工事のあいさつをするときのポイント
解体工事をする前には、クレームやトラブル対策として依頼主自身もご近所にあいさつしておくことが望ましいとされています。ただ、どこまであいさつをすればいいのか、手土産は何を選べばいいのかわからないという人もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここからは、解体工事であいさつをする際のポイントや、挨拶状の書き方の例を紹介します。
- あいさつをした方がいい範囲を確認しておく
- 手土産は実用性のあるものを選ぶ
- 挨拶状を用意する
1:あいさつをした方がいい範囲を確認しておく
解体工事のあいさつをするのであれば、騒音や振動の影響が出る可能性が高い範囲を確認しておく必要があります。これに関しては明確な決まりはありませんが、最低限の範囲として解体する家の両隣や向かい3軒、裏の家に対してはあいさつしておくことが望ましいです。
ほかにも運搬車や重機で道路がふさがれる可能性を考慮し、道路を共有しているご近所にもあいさつをしておきましょう。
2:手土産は実用性のあるものを選ぶ
あいさつする場合、手ぶらではあまり良い印象を与えないため、手土産を持参することが推奨されています。手土産も何でもいいというわけではなく、タオルや洗剤などの生活雑貨をはじめとした、実用性のあるものを選ぶことが望ましいです。
価格も500円から1,000円程度の方が受け取りやすいため、高価なものや安価すぎるものは選ばないようにしましょう。
3:挨拶状を用意する
挨拶状とは、作業内容や工期期間、問い合わせ先などが記載されているものです。基本的には、解体業者が用意してくれるため利用しましょう。ただ、自分で用意する場合は、以下の書き方を参考にして準備しましょう。
(挨拶状の例)
ご挨拶
令和〇〇年〇〇月〇〇日
今回、自宅の解体工事を行うことになりました〇〇と申します。工事の期間中はやむを得ず騒音や振動などでご近所の方々に多大なご迷惑をおかけしてしまいますが、安全面を含めて万全の注意を払って行いますので、ご理解とご協力の方を宜しくお願い申し上げます。
施主:
解体工事場所:
解体工事期間:
解体工事時間:
休日:
施工業者:
緊急連絡先(問い合わせ先):
決まったフォーマットはありませんが、以上の内容が含まれていれば問題ありません。もし訪問時に相手が不在だった場合は、作成した挨拶状をポストに投函し、後日改めてあいさつに伺います。
解体工事の騒音で裁判になることはある?
解体工事をはじめとした工事作業に関しては様々な規制が設けられているものの、過去には騒音トラブルが原因で裁判が起こったこともあります。
一部の裁判では騒音や振動が基準を超えていたことや近隣住民が体調を崩したことなど、様々な問題が発生しています。
そのため解体業者だけではなく依頼主も、騒音や振動に対して慎重に対策を検討する必要があるでしょう。
トラブルやクレームが発生した場合の対処法
どんなに騒音や振動への配慮や対策をしていても、何らかの理由でクレームやトラブルが発生する可能性があります。そのような場合は解体業者だけに任せるのではなく、依頼主側もきちんと対応しなければいけません。
では、実際にどのような対処が必要なのか紹介します。
- できるだけ早く事情を説明する
- 中断を求められたら妥協案を提示する
- 金銭を要求されても正当性を主張する
- 隣家の損傷が見られた場合は慎重に対応する
1:できるだけ早く事情を説明する
トラブルやクレームが発生した場合は、できるだけ早く相手に事情を説明するなど迅速な対応が不可欠です。トラブルやクレームは時間が経過すればするほど問題が大きくなりやすいため、早めに事情を説明することで早期解決を図らなければなりません。
このとき解体業者だけではなく、依頼主も一緒に事情説明を行うと相手に誠意が伝わりやすいです。また事情を説明するだけではなく、相手の意見にもきちんと耳を傾けることが早期解決のポイントとなっています。
2:中断を求められたら妥協案を提示する
トラブルやクレームが大きくなってくると、工事そのものを中断するように求められる場合があります。
工事の中断は手っ取り早い解決法のようにも見えますが、実際には安易に工事の中断をするべきではありません。一度でもトラブルやクレームで工事を中断してしまうと、同じようなことがあった場合に何度も工事を中断しなければいけなくなるためです。
このため、話し合いを行ってトラブルやクレームの原因に対する妥協案を提示することが適切な対処法として挙げられます。
3:金銭を要求されても正当性を主張する
妥協案を提示しても納得されないなど、トラブルやクレーム対応がうまくいかず、悪化してしまうと慰謝料などの金銭を要求される可能性もあります。このような場合でも、金銭の要求を受け入れる必要はありません。
裁判で金銭の支払いを命じられた場合は支払う必要がありますが、それ以外は解体工事で行われていた対策の正当性や違法性がないことを主張することが大切です。あまりにも金銭の要求がひどい場合は、弁護士など専門家を交えて対策を講じるのもひとつの方法です。
4:隣家の損傷が見られた場合は慎重に対応する
住宅が密集しているような地域で解体工事を依頼した際、隣家に損傷が生じてしまうこともあるでしょう。また工事作業や廃材の飛来以外にも、工事の振動で損傷が生じてしまう可能性も少なくありません。
隣家の損傷が解体工事によるものと証明されているのであれば、解体業者側が誠意ある対応をすることになります。ただ隣家が古い建物であったり元々傷んでいたりしたときなど、解体工事との関連性が判断できない場合もあるため、慎重に対応することが必要です。
解体工事の騒音や振動に気をつけよう
どんなに気をつけていても、解体工事の際には騒音や振動が多少なりとも発生してしまいます。お互い様だと思う気持ちが大切ですが、全員がそう思ってくれるわけではありません。
この記事で紹介した騒音や振動に関する法律、解体工事で発生する騒音や振動の基準と受忍限度、トラブルやクレームの対策方法や対処法などを参考に、解体工事を依頼する場合は十分注意して検討しましょう。