いざ家屋などの建物の解体工事を行うことになった際に、忘れてはいけないのが近隣への挨拶です。とはいえ「いつ」「誰に」「どんな内容を」「どんな方法で」挨拶まわりをしていけばいいのか、と悩みどころは多くあるものですよね。
そこで今回は、解体工事に伴うご近所への挨拶について、上記のポイントを中心に解説していきます。
解体工事の前に近隣住民への挨拶は必要なのか、実際に挨拶まわりをする際におさえておくべきポイントはどんなことか、詳しく見ていきましょう。
解体工事の前の「挨拶まわり」は必要なのか?
建物を解体する際の工事というものは、業者がどんなに気をつけても、多かれ少なかれ必ず近隣への影響が出てしまいます。騒音や振動、粉じんやホコリなどは、完全には防ぐことが難しいからです。
そこで、工事開始前にあらかじめ施工の日程や内容などを直接説明し、理解を求めて謝意を伝える機会を設けておけば、近隣の方たちからの印象はがらりと変わるものです。多少のことであれば「短い期間だから」「お互い様だし」と思って辛抱してもらえることでしょう。
ところが、この挨拶が不十分だと、騒音や汚れなどが「通常起こりうる度合い」でも不愉快に感じられてしまい、クレームにつながったりその後の人間関係に支障が出たり、ということにもなってしまう恐れがあります。
また、単なるクレームにとどまらずそれがさらに大きなトラブルに発展してしまうと、工事の中断や工期の延長もありえます。
こうなると、もし解体後の土地に新築工事をするなど引き続き予定が詰まっていた場合、それら全てに影響が出てしまうことにもなりかねないでしょう。
さらにトラブルが話し合いだけで解決できないほど大きくなってしまったら、最悪な場合裁判になるという事態も考えられるのです。
大げさなようですが、些細なことが大きな問題に発展する可能性はどこにでもあるものなのです。
こういった事態を避けるためにも、できれば普段から近隣の住人とは良好な人間関係を築いておければもっとも良いのですが、なかなかそうもいかない事情もあることでしょう。
しかし、これまでほとんど関わり合いがなかった、または過去に多少のトラブルがあった、などという事情があるとしても、それらを逆転できるチャンスが「挨拶まわり」なのです。
何も知らされず突然工事が始まれば、誰でもそのことを不安に思い、不満を抱くものです。しかし丁寧で気遣いを忘れていない態度をきちんと前もって示しておければ、そこには信頼感が生まれるのです。
書面に工事の内容や工期・場所などの詳しいことを記しておくことで、説明不足を補ったり記憶間違いを防いだりするとともに、実際に顔も合わせてきちんと挨拶をして言葉も交わす。そこまでできれば、近隣の住人も大いに安心して、「工事の期間中くらいは多少の不便や不都合は辛抱しよう」という気持ちになってくれるはずです。
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解体工事の流れと、近隣への迷惑
解体工事はどんな流れで行われるのか
解体工事は、「建物を新しく造るのではなくただ壊すだけなので、簡単だし短期間で終わるだろう」と考えられがちですが、そんなに単純なものではありません。
まずは建物内部に残っているモノを取り除き、高所作業のためにも足場を築き、粉じんやホコリの飛散を最小限に食い止めるためにシートで建物を覆い…ということから始まって、庭石や木など建物周辺にも不要なモノがあればそれも片付け、重機が使用できない場所では人力で少しずつ作業を進めて…と、なかなか短期間の工事では済まない場合もあるのです。
新築工事とはまた違った手間や時間がかかる作業がある解体工事。ではこのような過程で発生しうる、周辺への迷惑な要素とはたとえばどのようなものがあるのでしょうか。
どんな「迷惑」が想定されるか
騒音・振動
解体工事でもっとも近隣の迷惑になるものといえば、まず騒音でしょう。
必ずしも大きな音でなくても、日常生活であまり聞かないような音はただでさえ気になるものです。たとえば足場を組むだけでも、金属がぶつかり合うという普段はあまり聞かない類の音が出ます。
また、いざ解体という段階になれば重機が活躍するため、さらに大きな音が発生するでしょう。解体業者は通常、防音パネルなどで対策を行ってくれますが、全ての音を防ぐのは不可能です。早朝や夜遅くの工事は避けるなど時間帯にもよくよく気をつけることは基本ですが、日中の作業でもさまざまな気遣いが必要になります。
音だけではなく、場合によっては振動が起きることもあります。建物の基盤は地中深くまでのびているものなので、特にそれらを取り除く際は衝撃で近隣の建物にまで振動が及ぶ可能性があるのです。
粉じん・ホコリ
粉じんやホコリも、建物の解体工事では避けられないものです。建物全体をどんなに丁寧にシートで覆ったとしても、元々家屋にたまっていたホコリや、細かく発生する粉じんがある程度は飛び散ってしまうもので、それらが風で舞い上がり、洗濯物や駐車している車を汚してしまうなどの恐れがあります。
害虫
家屋を解体するとそれまで建物の奥深くに潜んでいたゴキブリやネズミなどが飛び出すこともあり、それらが近隣住宅に逃げ込んでしまう、という恐れも十分考えられることです。解体前に駆除するようにしておいて、外には逃げ出させないための対策を行っておきたいところですが、こちらも完全に防ぐことは難しいでしょう。
道路通行の妨げ
工事中はトラックや重機などの大きな乗り物が、工事現場周辺の道を通行・駐車することになります。そのため近隣の生活道路が通行しづらくなってしまったり、ふさがってしまったり、ということにもなりかねません。近隣の住人には遠回りをしなければならないなどの不便を強いてしまう可能性もあるため、こちらもできるだけ気遣いをしておきたいものです。
挨拶しておくことで、近隣住人も自ら前もって対策ができる!?
このように、どれだけ気を遣っていてもやはりある程度の迷惑をかけてしまうことは避けられないといえます。
だからこそあらかじめ工事の内容について説明し、理解を求めておくことで、近隣の住人にも施工中自ら対策を行ってもらえることが期待できます。
たとえば「粉じんの舞い散りそうな期間は洗濯物を外に出さない」「特に騒音が激しい日程は外出して、なるべく家にいないようにする」「害虫に注意を配る」など、できるだけのことをしてもらえるかもしれないですよね。
古い家屋を解体したあとに、新たな家屋を建て直してその後もそこに住む、ということであれば、近隣の住人とはそれからも末永いおつきあいが続くことになります。
であれば、この解体工事の際の印象はことさら大事であるといえるでしょう。
挨拶まわりのポイント~いつ?誰が?どなたに?
解体工事の前の挨拶まわりは、どんなタイミングで、誰が、近隣のどの範囲にわたって、どのような手順で行うべきなのかを順に追っていきます。
挨拶まわりはいつするか
一般的には、施工開始の1週間前くらいからまわり始めるといいでしょう。あまり早すぎても遅すぎても失礼なので、先方が留守であることも考慮に入れて余裕のあるスケジュールを組みたいものですね。
また、後述しますが、万が一留守だった場合には書類にした挨拶文だけでも先に郵便受けに投函しておき、また改めて伺うというのもいいでしょう。
挨拶まわりは誰がするか
実は一般的な施工業者であれば、施工前に業者の担当者が近隣への挨拶にまわってくれます。
しかし、業者だけにまかせておかず、施主も同行するのがいいでしょう。工事の内容など専門的なことの説明には業者の担当者の方が適任といえるでしょうが、迷惑をかけてしまうことへの謝罪などは施主自身が行うことで、誠意がきちんと伝わるものです。顔を合わせて挨拶するということにも意義があります。
もしも業者の担当者とスケジュールが合わず、一緒にまわることができない場合は、後日個人でまわることをおすすめします。そこまでする価値は十分にあるはずですよ。
挨拶まわりはどの範囲までするか
どの範囲のお宅まで挨拶にまわればいいか…ということについては、周辺環境によっても変わってきます。とはいえ一般的には「隣」「道路挟んで向かい」「裏」のお宅をまわれば、よほどのことがない限り問題ないでしょうが、他に特別な事情がある場合はこの限りではありません。
たとえば、工事車両の通行経路や駐車場所によっては、もっと遠くにあるお宅も迷惑を被るという場合もあるでしょう。多少距離があっても、普段からご近所づきあいのあるお宅には挨拶をしておきたいということもあるかもしれません。また、地域性によってはその土地の町内会長や自治会長などを務める人にも挨拶をしておくことで、スムーズに話が進む可能性もあります。それによって周辺の事情を教えてもらえるということも考えられます。
環境や事情を考慮し、とにかく迷惑をかけることがありえるお宅には、あらかじめまわっておくのがいいですね。
もしもこれまで何かトラブルがあったなどの事情で不仲なお宅がある場合や、関わりが全くなかったようなお宅には、挨拶に行くのも気が引けるかもしれません。しかし何かあってからではさらに面倒なことにもなりかねないでしょう。多少億劫に感じてしまいがちですが、あらかじめ今後の対策を取るつもりできちんと挨拶に行っておくことで、それ以上のトラブルの回避にもつながります。
自分一人でまわるわけではなく、施工業者といっしょにまわることができれば、気も楽ですよね。
挨拶まわりの流れ
先に書類を投函しておいてから、顔を合わせて挨拶
あらかじめ書類にしたためた挨拶文を郵便受けなどに投函しておき、後日直接挨拶に伺います。「何日の何時ごろに詳しい説明とご挨拶に伺う」という予告も記載しておけば、迎える側もある程度待つ準備をしていてくれるかもしれませんね。
書類には、工事の内容や場所・期間などの説明をきちんと載せておけば、万が一工事期間に突入してからようやく対面という事態になっても、大きなトラブルは回避できるでしょう。
顔を合わせて挨拶しつつ、書類も渡す
書類に工事の説明を記載しておくことは上記と同様ですが、先に投函せず、直接挨拶に伺ったときに「詳しい内容はこちらに記載してあります」と言って渡します。こうすることで、口頭だけの説明の不足を補い、行き違いを避けることもできるでしょう。
挨拶状の内容
挨拶状に記載したい内容
挨拶のときに用意する書類の内容は、完全に決まっているわけではもちろんありませんが、以下のようなポイントはまず盛り込んでおくといいでしょう。
- 解体工事への協力のお願いと挨拶
- 工事の名称(例「〇〇邸改修工事」)
- 工事依頼者(施主の氏名)
- 工事場所(解体地の住所)
- 工事期間(着工予定日~完工予定日)
- 工事時間(工事開始予定時刻~終了予定時刻)
- 休業日(工事を行わない曜日)
- 施工業者名および担当者(責任者)名
- 施工業者の住所
- 施工業者の連絡先
など。これだけ記載できればまずは十分ですが、他にも載せるべき事柄があればケースバイケースで対応するといいでしょう。
特に施工業者の連絡先を記載しておくことによって、近隣住民が何か気づいたことや困ったことがあった際の問合せがスムーズにいくため、安心感につながります。
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挨拶状の例
上記の内容を記載した、一般的な挨拶状の文面例を示します。ぜひ参考になさってください。
【文面例】
ご近隣の皆様へ
解体工事のご挨拶
拝啓 時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
この度、近隣にて〇〇邸の解体工事を行うことになりました。解体工事期間中は何かとご迷惑をおかけすることもあるかと存じますが、細心の注意を払いながら進めて参りますので、何卒ご理解、ご協力賜わりますようお願い申し上げます。
敬具
解体工事名称:〇〇邸解体工事
工事場所:〇〇市〇〇町〇番地
工事期間:20〇〇年〇月〇日~〇月〇日予定
工事時間:午前〇時~午後〇時予定
休日:土・日・祝
発注者(施主):〇〇〇〇
施工業者:株式会社△△建設
施工業者住所:〇〇市〇〇町〇番地
施工業者担当者:〇〇〇〇
施工業者連絡先:000-000-0000
以上
挨拶まわりの際に手土産は必要か
手土産にはどんな品物がよい?
挨拶まわりの際に、手土産や粗品は必ずしも必要ではありませんが、もし気持ちとして用意するなら、もらっても困らないようなものを選びましょう。
たとえば、
などが一般的です。もちろん、あまり高価なものや大げさなものである必要はありません。あくまで気持ちや誠意が伝われば、それで十分です。
また、業者が手土産を用意してくれる場合もあるため、事前に内容がかぶらないよう打合せしておくのもいいですね。
手土産には「のし紙」をつける
のし紙には2種類あります。
〇内のし…包装紙の内側につけるのし。おめでたいことがあった際に使う。主に内祝で用いられる
〇外のし…包装紙の外側につけるのし。幅広い目的で使える。どのような贈り物なのかがわかる
工事前の挨拶に持参する手土産には、「ご挨拶」と書かれた外のしをつけるのがふさわしいといえます。ただし、のし紙のつけ方は地域によって多少風習が異なる場合があるため、前もって確認しておくようにしましょう。
工事終了後にも挨拶は必要?
解体工事前に挨拶まわりをする重要性や流れについて触れてきましたが、工事「後」の挨拶も必要なのでしょうか?
結論からいうと「しておくに越したことはない」といえるでしょう。工事前の挨拶で迷惑や不安はある程度軽減できたかもしれませんが、いろいろと気遣いさせてしまったことには変わりありません。お騒がせしてしまったことを工事後にも一言挨拶し、感謝の言葉も添えておけば、今後のご近所づきあいも円満に進むはずでしょう。
このとき、解体工事中に相手の家屋のどこかを破損させてしまったなどということはないか、こちらから確認の言葉もかけておきましょう。のちのちになってからのトラブルも未然に防ぐことができます。
また、工事期間が最初の予定よりも延びてしまった場合は、特に感謝の気持ちとともに謝罪の言葉もあれば、より丁寧です。さらに解体工事のあとに新築工事も引き続き行うケースでは、一緒にその挨拶もできれば理想的です。
ただし、工事終了後の挨拶の要不要に関しては、ケースにもよります。細かく状況を知りたい隣人もいれば、そう何度も挨拶に来られるのは迷惑、と思う隣人もいる可能性があります。その辺りの見極めは、普段のご近所づきあいから判断していく必要があるといえます。
まとめ
解体工事の前に挨拶まわりをする重要性について、おわかりいただけたでしょうか。
近隣住民に安心して工期を過ごしてもらえるように、事前の挨拶まわりはもはや義務といえます。
家屋の改修や解体工事は、長くそこに住んでいればどの家庭でも避けられないことでしょう。各々にその時期が来たとき「お互い様だ」と思って円満に進められるよう、思いやりをもって進めていきたいですね。
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