爆破(発破)解体は、日本ではあまり行われない建物解体工法であるため、具体的にどのようなものなのかご存知ない方も多いことでしょう。どのような建物に使われるのか、どういったメリットやデメリットがあるのか、また日本で爆破解体が採用されにくい事情、代わりにどんな工法で解体するのかという点なども、あわせて解説していきます。
爆破解体とは
爆破解体は、鉄筋造や鉄筋コンクリート造の大型の建物を解体する際に、火薬や爆薬・火工品を使って爆破することで建物を一気に解体する工法です。
爆破解体の種類は、大きく分けて2つに分けられます。
1つ目は内部装薬という方法で、建物に穴をあけ、その穴に火薬類を詰めて爆破解体します。一方、2つ目は外部装薬と呼ばれる方法で、こちらは建物の表面に火薬類を張り付けて爆破解体します。
火薬類を建物の中に設置するか、外に設置するか、という違いで2種類に分類されるというわけです。
爆破解体工法は、主に、建物では高層ビルや煙突などの解体に、土木建造物では橋梁の解体やトンネル・ダムの建設などで用いられます。鉱山の坑道の掘削も同様です。
爆破解体を行うメリット
爆破解体のメリットは、破壊対象物を確実に破壊・粉砕をすることができる点です。
また、必要な重機の種類や数が少ない点や、一気に解体できるため工期が短くて済む点から、解体費用のコストを抑えやすいというメリットにも直結します。
通常の解体工事では、解体用の重機や、廃棄物を運搬するための車両、そしてそれぞれの作業を担当する人員が必要です。また、部材を一つ一つ解体していくので、相応の時間もかかります。
しかし、解体そのものの所要時間が短い爆破解体では、必要なのは現場から廃棄物を搬出する重機とその作業員程度です。このため、工期や作業員の人件費を圧縮できるのです。
爆破解体を行うデメリット
爆破解体のデメリットは、簡単に使える工法ではないことです。
日本では爆発に対する法規制が厳しいので、簡単に爆破解体ができません。特に建物が密集している都会では、爆破によって建物からホコリや瓦礫が飛散し、隣接する建物に損害がでる可能性も問題点のひとつです。
また、爆破解体は火薬の量の調整も難しいので、扱う際には専門の資格が必要となります。
日本において爆破解体工法がほとんど採用されない理由に関して、詳しくは後述します。
爆破解体を行う際に必要な「国家資格」とは
爆破解体は、どんな業者でも行えるものではありません。爆破解体は、ダイナマイトなど危険物を取り扱うため、特定の国家資格を有する作業員のいる業者だけが行うことができます。
1:「発破技士」
発破技師は爆破解体の監督業務や、自ら現場での爆破作業を行います。爆破物に対する知識だけでなく、建物や立地についても詳しく把握しておかなくてはいけません。
正しい知識と的確な判断力、そして慎重な作業と現場への指示力が求められる資格です。
2:「火薬類取扱保安責任者」
発破技士の資格だけでは、火薬の管理ができません。これは火薬類取締法で定められています。
日本で火薬の管理をするには、「火薬類取扱保安責任者」資格が必要になります。この資格取得者であれば、薬庫(1年間の貯蔵20T以上)や火薬類の消費場所(1ヶ月に1t以上)を保安する責任者となることができます。
理想的な爆破解体を行う方法
1:垂直方向に建物が崩れるようにする
爆破解体には、理想とされる条件がいくつかあります。1つ目は、建物が垂直に崩れ落ちていくように設計することです。
海外で爆破解体が採用され始めた初期においては、基部構造のみを火薬で爆破するという工法でした。このやり方だと、うまくいかなければ瓦礫が周囲に飛び散って死傷者が出る可能性もありました。
そこで改良が重ねられ、現在行われている爆破解体では、建物を垂直に崩すことで瓦礫の飛散量を減らすことができるようにしたのです。
2:爆破を最小限に抑えるようにする
爆破解体では、瓦礫の飛散などを最小限にするために、建物の外壁や内部の構造が中心に向かって倒れていくように、爆破の方向を調整します。
具体的には、がれきが建物の中心に畳まれる形になるよう、事前に内部の鉄筋・鉄骨を切断し、爆薬を仕掛けるための円錐形の穴を開けていく、という工程をとることで実現させます。
爆破解体が日本で行われない理由3点
爆破解体は海外では活用されていますが、日本国内で行われる解体工事ではあまり採用例がありません。そこには、我が国ならではの事情がいくつかあります。
1:建物の密集度が高いため
1つ目の理由は、日本全体で建物が密集していることが多いからです。海外に比べて日本はほとんどの建物が近い距離にあります。
建物が密集している日本では、爆破解体時に飛び散った廃棄物が近隣に被害を与える可能性が高いためです。
爆破解体の際には瓦礫やホコリが飛散するだけでなく、爆音や衝撃も発生します。建物同士の距離がある程度ないと、爆破解体によって周辺に及ぼす被害が大きくなってしまうのです。
2:法規制が厳しいため
日本では、爆破解体に不可欠な火薬の取り扱いに対して、法律による厳しい制約が課せられています。火薬を取り扱いできる人、保管できる人が限られてしまうため、簡単に行える解体工法ではありません。
その制約をクリアして爆破解体にこぎつけるには、費用や手間がかかってしまい、爆破解体の最大のメリットである「コストの低さ」が失われることもあります。
したがって、解体の際に爆破解体を選択する業者は必然的に少なくなるのです。
3:頑丈な建物が多いため
日本は地震が頻繁に起きる国です。そのため、建物全般が諸外国に比べ耐震性の高い頑丈な造りとなっています。
したがって、爆破解体する際には大量の火薬類が必要となり、爆破規模も大きくなって危険性が高まります。
さらに「建物が頑丈だからたくさん火薬を使おうか、しかし使い過ぎると危険ではないか…」というように、火薬の分量の調整が、諸外国に比べて難しいのです。
このような点を考慮することにも、手間や費用がかかります。結局、爆破解体の「コストを抑えられる」というメリットを失うことになってしまうため、爆破解体自体が敬遠されてしまうのです。
日本で行われた発破解体事例
日本で爆破解体が適していない理由を解説してきましたが、まったく事例がないわけではありません。ここでは、国内における過去の代表的な爆破解体事例を紹介します。
1:国際連合平和館
国際連合平和館は、茨城県つくば市で1985年に開かれた国際科学技術博覧会のために建てられたパビリオンの一つです。1986年に、国内では初となる爆破解体によって撤去されました。
2:木の岡レイクサイドビル
木の岡レイクサイドビルは、滋賀県大津市の琵琶湖湖畔にて、観光ホテルとして建設が進められていた建物です。この爆破解体工事は1992年に行われ、日本国内における20世紀最後の爆破解体事例となりました。当日には、4万人の観衆が訪れました。
大規模爆破解体の代わりに日本で用いられる工法
大規模な爆破解体が難しい日本国内では、代わりとなるようなさまざまな工法が考えられてきました。まずは「爆破であって爆破ではない」「小規模な爆破」という工法を見ていきましょう。
低公害な「静的破砕剤注入工法」
静的破砕剤注入工法は、水と混ぜると膨張する「静的破砕剤」というものを用い、その膨張圧で建物に亀裂を発生させるというものです。
この工法であれば、建物の密集地帯の解体作業でも、近隣への騒音や振動などの被害を最小限に抑えることができ、また大量の火薬を使わないため、比較的安全に解体が進められるのです。
近年注目の「小規模爆破工法」
大掛かりな爆破解体ではなく、少量の爆薬を用いて行う小規模爆破(ミニブラスティング)工法であれば、日本でも行われています。
限定的な爆破が可能であるため、破壊したい場所をピンポイントで破壊することが可能です。
また爆薬が少量であることから爆破音や振動を抑えることができ、防護シートで飛散物を完全に防ぐことも可能です。小規模爆破工法は、安価に安全な発破を短時間作業で行うことができる工法なのです。
爆破解体以外のビルの解体方法
日本国内においては、爆破解体は工法としてあまり現実的ではないことがわかりましたね。やはり重機を用いての建物解体が中心となるため、爆破解体以外の解体工法ではさまざまな研究開発が行われています。
1:階上解体
階上解体では、大型クレーンなどでまず重機を建物の屋上にあげます。
その重機を使い、上階から順番に解体していきます。重機自体の重量も相当であるため、床面が崩れないように補強をするなど、細心の注意を払いながら進めていきます。
上部の解体が終ったら、コンクリートガラでスロープを作り、重機を下階に移動させ、また同じ作業を繰り返していくのです。
階上解体は、比較的ポピュラーな工法として、日本では多く採用されています。
2:地上解体
地上解体は、地上に大型の重機を置いて解体する方法です。階上解体と比べて、地上での作業なので重機を乗せる床の強度に注意を払う必要がなくなります。
地上解体で使用される重機は、先端にカメラがついていて、高所の様子がよくわかるようになっていたり、オペレーターが作業しやすい環境や装備が整えられたりしています。
ただ、重機の大きさには限りがあるため、あまりにも高層なビルなど大きすぎる建物にはこの工法は使えません。
3:だるま落とし式解体
だるま落とし式解体では、まず柱をジャッキで支え、下の階からだるま落としのように崩して解体をしていきます。ワンフロアを崩したら、ジャッキで一段落とし、この作業を繰り返していきます。
だるま落とし解体は、赤坂プリンスホテルの解体工事で使用された工法としても知られています。当時の工事の経過を記録し、ホテルが縮んでいく様子をコマ回しにして映像化されました。
現在ではジャッキの安全性や耐久性がどんどん改良されています。そのため、以前よりも安全性の高い解体工法として知られています。
4:ブロック解体
ブロック解体では、まず大型のクレーンをビルの一番上に取り付け、屋上階から順に部材をブロック単位に切断して吊り降ろしていきます。
ブロック解体は主に、高層ビルでの解体作業によく使われる解体方法です。ビルの高さに関係なく、解体作業ができるからです。
5:上部閉鎖式解体
「上部閉鎖式解体」は、高層ビルに適した新しい解体方法です。ビルの上部に天井クレーンなどを設置し、移動可能な閉鎖式の解体設備を設置するのが特徴です。
閉鎖空間の中で作業を行い、解体が終わると設備を階下に移動させます。これを上から下に繰り返していくことで、閉鎖空間での作業が進められるため、周辺への騒音や粉塵の飛散防止、解体物の落下による事故を防ぐなど、安全性の強化につなげやすいところがメリットです。
爆破解体はリスクが大きいため日本では他の解体方法が主流!
爆破解体は、多くの火薬などを使ってビルなどを解体する方法です。
日本では火薬の取り扱いは法律で厳しく定められており、また全国的に建物が密集している・耐震強化構造の建物が多いといった理由もあって、あまり爆破解体は使われません。したがって、日本国内では解体の際には爆破以外のさまざまな方法を使用して、解体していくのが主流となります。
爆破解体以外の解体方法には、それぞれの特徴があるため建物や立地に合った解体方法を選ぶことが重要です。