最近はあまり見かけなくなった井戸。家屋の解体と同じような考え方で解体を依頼してもいいのかどうか、悩みどころですよね。
実は井戸ならではの、解体工事のポイントがあります。今回はそれを詳しく見ていきましょう。
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井戸とはどのような存在なのか
井戸はただ土砂を入れて埋め立てればそれで済む、という簡単なものではないという一面を持ちます。それはなぜなのでしょうか
神聖な、信仰の対象としての井戸
日本では、古くから井戸は信仰の対象でもありました。
地下水脈は長い年月をかけて地球のエネルギーを吸収し、それをくみ上げて生活用水とするときには井戸が出口の役目を果たすため、「井戸には大きなパワー、聖なる力が宿っている」「井戸は異界につながる門である」「井戸には神様が宿っている」などと考えられてきたのです。
水の恵み、生命の恵みを与えてくれる井戸
今でこそ、「水は蛇口をひねれば好きなだけ出るもの」というイメージがあります。
しかし、ひと昔前は水の確保には大変な労力が必要であり、水資源活用は井戸がなければ成り立ちませんでした。昔の人たちが大変な思いをして掘り、大切にしてきた井戸からもたらされるのは、まさに「生命の恵み」だったのです。
そのように、人々の思いがこもっている場所…という考え方は、「神様が宿る」説がしっくりこない人にとっても、すんなり受け入れられるかもしれませんね。
息抜きとお祓い(魂抜き)とは何か
井戸の解体をするうえでポイントとなる「息抜き」と「お祓い(魂抜き)」とはどのようなものなのかを、詳しく見ていきましょう。
息抜きとは何か
「息抜き」とは井戸の底から外にパイプを通す行為のことです。井戸の息抜きには「神様が井戸の外に抜け出られるように」「神様が呼吸できるように」という精神的な意味もあれば、「井戸から発生するガスが抜けるように」という現実的な意味もあります。
息抜きは解体業者に作業をお願いできるので、おまかせしましょう。
また、息抜きは「井戸を解体したあともその真上に新しく建物を建てないように」という教訓めいた意味も含んでいます。長い間水を通してきた場所なので、地盤が緩み沈下するおそれがあるからです。それを防ぐために息抜きという行為によって土地を乾燥させて地盤の改良につなげる意味があるとも考えられます。頭から「ただの迷信」と決めつけず、その意味する昔からの知恵についても思いを巡らせておきたいですね。
お祓い(魂抜き)とは何か
前述したように、井戸は多くの人たちにとって神聖な存在でした。今もそのならわしにのっとって、井戸の解体の際には必ずお祓いなどの儀式を行うべきだと考える地域があります。また、自分はあまり気にしないという場合でも、信心深い人が家族や親戚にいれば、やはりその意見を尊重することが大事といえるでしょう。
しかも、お祓いは解体工事の前に行われるのが一般的ですが、業者によってはまれにお祓いしない場合の工事を拒否されることもあります。
もちろん「お祓いはしなければいけない」という法律的な決まりや、科学的根拠があるわけではありません。しかし前述したように、人々に水を届け生命の恵みを与えてくれた井戸、人々の思いがこもった井戸、それを粗末に扱わず、ひとつの区切りをつけるという意味でも、お祓いを行うことには大きな意味があるのです。
井戸の息抜きとお祓い(魂抜き)は誰に依頼すべき?
井戸の息抜きは、神社の神主やお寺の僧侶に依頼することもできますし、解体業者に依頼することもできます。解体工事の途中で行うことも可能です。
お祓いは、神社の神主やお寺の僧侶に依頼しましょう。費用の詳細は後述しますが、「初穂料」「玉串料」「祈祷料」などとして数万円発生します。
井戸解体の手順
実際に井戸を解体する際の、工事の手順を追ってみましょう。
お祓いを行う
お祓いは解体工事に着手する前に行います。地域の風習やならわしがあるようならそれにのっとって行います。神主や僧侶におまかせしましょう。
残っている水やゴミなどを処分し掃除する
井戸の底にはまだ水が残っている場合や、長年蓄積したゴミなどが溜まっていることもあります。この上から土をかぶせてしまうわけにはいかないので、まずはこれらを取り除く作業を行います。
息抜きを行う
竹・塩化ビニールなどのパイプを挿入して、井戸に前項で説明した「息抜き」を行います。井戸の息抜きはいつまで続けるべきなのか、パイプはいつ抜くべきなのかという明確な基準はありません。
信仰を理由に井戸の息抜きを行う場合は、お祓いと同様、家族に信心深い人がいる場合はその人の意見を尊重するとスムーズにいくでしょう。
ガス抜きなどを理由に井戸の息抜きを行う場合は、とくにいつ抜いても問題ありません。
井戸に砕石や砂を投入
井戸は地下深くまで掘られているため、厳密にはさまざまな種類の土や砂、石などが地層になっています。できれば井戸を掘る前の土の状態に戻せればいいのですが、なかなかそうもいきませんよね。
おかしなものを埋めてしまうとのちのち地盤沈下や水質汚染などの原因にもなるため、慎重に行う必要があるところです。
井戸の枠を撤去する
基本的には地上部分にある井戸の枠も撤去します。これを残して埋め戻してしまうと、やはり地盤沈下などのおそれが出てきます。また、もしもその土地を売却する予定があるならば、確実に撤去しておきましょう。
仕上げ
地中の埋め立てと、地上部分の枠を撤去したら、整地してできあがりです。
井戸解体の費用目安
井戸の解体には、井戸の息抜きを含めて大体10万円前後の費用を見込んでおきましょう。もちろん井戸の深さや大きさ、またその他の環境や状態などにより費用は上下しますが、おおよその目安としてそれぐらいだと考えておくといいでしょう。
さらにここに、神主や僧侶に納めるお祓い代が別途かかりで3万円前後プラス、と見ておきます。 また、初めから「井戸の解体のみ依頼する」ということではなく、家屋などの解体の際に予期せず地中から井戸が出てきた…というケースも存在します。このような場合には、工事前の見積のときには井戸の存在が明らかではなかったため、追加費用として請求が発生することがほとんどです。その際には井戸単体の解体工事ほど費用がかかることはあまりなく、3~5万円ほどの請求になる事例が多いようです。
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井戸解体の注意点
プロにまかせるべき
井戸を埋めるだけなら、何も業者に頼まなくても自分でできそう…と考える方もいらっしゃるでしょうが、そんなに簡単な問題ではないことを覚えておきましょう。
まず、埋める前に井戸の底に残っている水やゴミを取り除く作業、砂や砂利を流し込む作業、そして井戸の枠を撤去する作業、すべて特殊な道具や工具・重機が必要であり、素人が扱えるものではないのです。
さらに、素人判断でいいかげんに土砂を流し入れて埋め立ててしまうと、地盤がゆるくなって地盤沈下を引き起こしたり、水質を損なってしまって周辺に迷惑をかけたり、という可能性も出てきます。特に地下水の水質汚染を起こしてしまうと、その水脈の下流域の住民に大きな影響を及ぼしてしまうため、万が一のことを考えて、安易に埋め立ててしまう前にしっかりと周辺の調査や確認が必要になってきます。
調査判断・作業の内容、いずれも素人には手に負いかねることばかりです。ここはきちんと専門業者にまかせるのがいいでしょう。
お祓いの有無は細心の注意をもって判断を
前述した通り、お祓いという儀式への考え方や認識は、人によって大きな差があります。自分自身はさほど気にしないからとお祓いを行わずに井戸を埋め、その後土地売却の予定があるときなどは特に注意が必要です。なぜなら「お祓いの有無」に関しての情報を求められ、
お祓いをしていなかったことで売買契約が成立しにくくなる、ということも起こりうるからです。
誰もが自分と同じ考えとは限りません。信心深い人にとっては、お祓いもなしに埋め立てられた井戸がある土地などもってのほか、と考えるかもしれないのです。
そういった可能性もよく考慮のうえ、お祓いをするかしないかを検討するといいですね。
まとめ
家屋など、他の解体工事では見られない「魂抜き」「息抜き」というものに注目すべき井戸の解体。古来、人々の間で井戸がどのような存在だったかを理解することで、解体のポイントをおさえることができるでしょう。
すべてを「迷信」と決めつけることなく、そこにこめられた意味や知恵をしっかり考えて進めたいですね。
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