「重要事項説明書」は、名称の重々しい響きとその字面から、何かとても大事で欠かせないことが書かれている書類だということは想像がつきますが、一体どんな場面で使用し、具体的に何が書かれているのかということまでご存知でしょうか。
不動産取引の際には欠かせないこの書類は、一般の人には読むのだけでも難儀するものです。しかし、この書類の内容を理解しないことには、不動産の売買はうまくいきません。
今回はこの重要事項説明書について、具体的に何が書かれているのか、最低限どんな点についてチェックしておけばよいかということを解説していきます。
重要事項説明書とは
そもそも「重要事項説明書」とは、どんなときに使う書類で、何が書かれているものなのでしょうか。
法律で定められている「重要事項説明」の際に用いる
不動産の売買契約の際には、必ず不動産会社から「重要事項説明」があります。その際に読み合わせする書類が重要事項説明書であり、契約における重要事項や売買対象の物件に関する詳細が事細かに書かれています。
宅地建物取引士(以下、宅建士)は、この重要事項説明書を使用して買主に説明を行うのです。不動産用語には専門的なものが多く、一般の人には書類だけ渡されて理解するというのは難しいことです。それを宅建士がわかりやすい言葉にして説明してくれるのです。
この重要事項説明は、不動産取引の際には必ず行うものであると、宅地建物取引業法という法律によって定められています。契約内容や物件情報を共有し、誤った認識のもとで契約が交わされることを防ぐために行われます。
あらかじめ自分で読んでおくべき
重要事項説明には1時間、長いときでは2~3時間ほどかかることもあり、長時間に及びます。それだけ大事な位置づけにあるものなので、ただ受け身で話を聞いているだけでは大事なことを聞き流してしまう恐れもあるでしょう。
重要事項説明書に書かれている内容は、あとから「そんなことは知らなかった」と言っても通りません。そのため、理解があやふやなまま進んでしまうと、のちのちのトラブルの原因になってしまいます。
重要事項説明は、売買契約前であればいつであってもよいのですが、実際には売買契約当日に行われることが多いため、事前に重要事項説明書を受け取ってしっかりと目を通しておき、疑問点をまとめておきましょう。そして重要事項説明時には宅建士の説明を聞き、遠慮なく質問をし、不明点をしっかり解消することで、内容の理解が深まるはずです。
重要事項説明は宅建士しかできない
前述したように、重要事項説明を行うのは宅建士という資格者であり、もっといえば宅建者にしかできない業務です。説明前に宅建士は資格証を買主に提示しなければならない、という決まりがあるほど厳密なものなので、万が一提示がない場合は念のため声をかけて確認させてもらうとよいでしょう。
契約書とどう違うのか
重要事項説明書と売買契約書は、どちらも説明を受けたあとに署名・押印をするものですが、役割や位置づけは根本的に違っています。
契約書はその名の通り、署名・押印によって契約を交わしたということを証明する書類です。対して重要事項説明書は、「重要事項の説明を受けた」ということを示すために署名・捺印をするものです。そのため、重要事項説明書だけに署名・押印したからといって、売買契約が成立するものではありません。
重要事項説明書には何が書かれているか
重要事項説明書には、具体的にどのようなことが書かれているのでしょうか。
以下は、国土交通省のホームページからの引用です。細かいことや、売主・買主それぞれにとっての特に重要なポイントは、のちほど詳しく解説します。
・登記された権利の種類、内容等
・私道に関する負担
・都市計画法、建築基準法等の法令に基づく制限の概要
・用途その他の利用に係る制限に関する事項
・飲用水・電気・ガスの供給・排水施設の整備状況又はその見通し
・耐震診断の内容
・台所、浴室、便所その他の当該建物の設備の整備の状況
・代金、交換差金以外に授受される金額及びその目的
・契約の解除に関する事項
・損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
・手付金等の保全措置の概要(業者が自ら売主の場合)
・支払金又は預り金の保全措置の概要
・金銭の貸借のあっせん
・瑕疵担保責任の履行に関して講ずる措置の内容
・敷地に関する権利の種類及び内容
・共有部分に関する規約等の定め
・専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約等の定め
・専用使用権に関する規約等の定め
・所有者が負担すべき費用を特定の者にのみ減免する旨の規約等の定め
・修繕積立金等に関する規約等の定め
・通常の管理費用の額
・マンション管理の委託先
・建物の維持修繕の実施状況の記録
売主・買主それぞれのチェックポイント
重要事項説明書は10ページにも及ぶことがあり、内容は膨大です。漫然と読んだり聞いたりしているだけでは大事なことを見落としてしまう恐れがあります。
ここでは、売主・買主それぞれが特に注意してチェックすべきポイントを見ておきましょう。
売主がチェックすべきポイント
重要事項説明書は買主にのみ渡されるというイメージがありますが、売主も受け取ります。売主がチェックすべきポイントは主に以下の2点です。
・記載内容に虚偽・誤りはないか
・記載事項の漏れはないか
「瑕疵(かし)」といって、物件の欠陥については、あらかじめそのすべてを買主に伝えておかなければなりません。売主が把握している瑕疵について不動産会社に伝えていても、不動産会社から買主にきちんと伝わらなければ(重要事項説明書に記載されていなければ)、告知義務違反となってしまいます。
重要事項説明時に、瑕疵の内容によっては買主がその不動産の購入を中止してしまう可能性ももちろんありますが、その場合仲介した不動産会社は仲介手数料を受け取れなくなってしまうため、悪徳な会社であれば故意に瑕疵を隠して契約締結を進める、というケースもあります。
このようなことを防ぐために、売主側もしっかり重要事項説明書の内容を確認しておく必要があるのです。
買主がチェックすべきポイント
これからその不動産を購入する買主側は、確認しておくべきことは当然ながらたくさんあります。もちろん隅から隅まで目を通して理解するに越したことはありませんが、ここでは内容を把握したうえでさらに注意して見ておくべき点を網羅します。
物件そのものについて
物件を選ぶ際に手に入れた資料と、所在・構造・面積・築年数など記載内容に違いはないかを確認します。「パンフレットに書かれている内容で購入を希望したのに、実際には違う」という物件を購入するわけにはいきません。
また、中古物件で抵当権が設定されていたものに関しては、抵当権抹消がなされているかの確認もしっかり行いましょう。
法令上の制限について
用途地域や建ぺい率・容積率・接道状況・高さ制限などについて法令に準拠しているか、ということを確認します。現在だけでなく、将来建て替えや増改築を考えた際に制限になるようなことはないか、などという点に注意しましょう。
インフラ整備について
電気・ガス・上下水道といったインフラがきちんと整備されているのかどうかをチェックします。万が一未整備の場合は、自分にどのくらいの費用負担が必要なのかということも併せて確認しましょう。
敷地や建物の状態について
対象物件のこれまでの維持管理状況について確認します。中古住宅の場合はインスペクションといって、専門家による建物調査の結果も共に示されます。アスベスト使用調査・耐震診断の結果や、調査した経歴があるかどうかということもチェックできます。
また、マンションについては共用部分に関するルールや管理形態、委託先・管理費・修繕積立金についても説明されるので、こちらもしっかり確認しておきましょう。
取引条項に関する事項
【物件代以外の費用について】
物件そのものの売買代金以外にもかかる費用、たとえば手付金・固定資産税・清算金などについて、金額やその費用の目的、支払いのタイミングについて説明されます。物件代金以外にもかかる費用は意外に高額になりうるため、ここでしっかり確認しましょう。
【契約の解除・契約違反について】
売買契約の解除や契約違反には、さまざまなケースが考えられます。どのような場合に解除できるか、解除するためにはどのような手続きが必要なのか、解除した場合どのような措置(違約金の支払いや損害賠償など)がなされるのかということが確認できます。
のちのちなんらかの事情でトラブルになったときには、最重要となる項目といえます。
金銭の貸借のあっせんについて
要するに住宅ローンに関する内容です。不動産会社が住宅ローンを紹介してくれる場合は、融資条件や審査に通らなかったときの対応などが記載されています。
まとめ
重要事項説明書は、その名の通り物件売買契約において重要なことばかり書かれています。専門用語ばかりで難しいと敬遠するのではなく、あらかじめ自主的に読み込んでおき、署名・捺印の前には疑問点・不明点をすべて必ず解消しておくようにしましょう。
悪徳不動産会社のなかには、重要事項説明を省こうとするケースもあるようですが、言語道断です。不動産は大きな買い物なので、しっかりと納得のいく売買契約になるよう、重要事項説明書のなかでも特に大切なポイントを把握しておきましょう。