建築や土木の現場で、工事の進行を円滑にするために重要な役割を担っている施工管理は、さまざまな管理業務が必要な現場においては必要不可欠な存在です。
建築や土木の現場というのはいくつもの専門業者が協力し、それぞれの仕事を行っています。そこで、業者間のスケジュールや進行具合を確認し、スムーズに工事を進める役割や、時には現場以外でのデスクワークや、工事の発注元との打ち合わせなど、施工管理が行うべき仕事は多岐に渡るのです。 ここでは、施工管理とは何をする仕事なのか、現場監督とはどのように違うのかなどを詳しく説明していきます。
施工管理とは
施工管理は、建築現場や土木現場において、作業の進行や管理業務に携わる、いわば司令塔の役割をするかたわら、業者間の緩衝材となる側面も持ち、トータル的にはスポーツにおけるコーチや監督のようなポジションの仕事といえるでしょう。
また、作業をしている職人はプロの集団です。その仕事を円滑にするために、時には大きな決断を迫られることもあります。そのため、資格以外にもさまざまなスキルが求められる職業といえます。
とはいえ実は、施工管理は資格がなくともできる仕事なのです。もちろん将来的にこの業界で身を立てていこうと思うのであれば、資格取得は目指した方が良いでしょう。 新卒の方は建設会社に入社して現場をこなしながら勉強し、経験を積んで国家資格の施工管理技士を目指すこととなります。中途入社の方は、すでに資格を持っている方・入社後に資格取得を目指す方、さまざまです。
施工管理の仕事内容
文字通りさまざまな管理を担うのですが、大きく分けて4つの管理があります。
原価管理
原価管理は、人件費や材料費といった工事にかかる費用の計算をして、予算内に収めることです。 日々の進捗状況を把握し、予算を超過しないことや、利益を出せるように管理するのです。何かの問題や課題がある場合は、その原因を分析したうえで計画や工程を見直し、修正を施していきます。予算を超えてしまうと企業利益が下がるため、収益に直結する重要な管理業務です。
工程管理
工程管理は、工事全体のスケジュール管理です。こちらも施工管理の重要な業務のひとつで、設計や計画通りに作業が進むように、工法を計画し、作業員の配置や重機の手配、外注業者の手配などの予定を組みます。施工開始から、竣工までのスケジュールを作り、それに沿って工期を円滑になるように管理します。 工事の規模が大きいほど作業員や資材の搬入数は増え、スケジュールが複雑となります。そのため、高度な知識と実務経験が必要となります。
品質管理
建設工事における品質管理とは、成果物が設計図や仕様書通りに品質を達成できるように管理することです。
材料の寸法や強度などの指標が、設計通りに品質を満たすように素材や仕上がりの程度を定め、施工します。この際、設計図を補う詳細な図面の作成が求められることもあります。 また、完成後もしくは工事途中の成果物の強度や仕上げが規定を満たしているのか確認・検査をするのも大切な業務です。その際、自主検査の場合でも、施主の立会検査の場合でも、資料の作成も施工管理の業務となっています。
安全管理
工事現場においては、常に作業員の身体は危険に晒されているといっても過言ではありません。したがって、成果物の品質や工程の管理だけにとどまらず、作業員の安全確保も施工管理の重要な業務です。安全第一を掲げている建設現場では、まさにこれこそが最大の管理業務といえるでしょう。
建築と土木での施工管理の仕事の違い
施工管理の仕事は、大きく分けると建築現場と土木現場でも違いがあります。工事のあり方や発注元の違いなどから、施工管理業務自体への異なった見解が生まれるためです。
建築現場での施工管理の仕事
建築とは
建築基準法によると、「建築」とは以下のように定義されています。
「建築物を新築し、増築し、改築し、または移転すること。また、ここでいう「建築物」とは土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱もしくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む)、これに付属する門もしくは塀、観覧のための工作物又は地下もしくは効果の工作物内における事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上屋、貯槽層その他これらに類する施設を除く)。をいい、建設設備を含むものとする。」 もう少し簡単に言うと、ビルやマンション、一戸建や体育館なども含みます。
建築現場での仕事の流れ
上述した通りの4つの管理が軸となりますが、建造物を施工するのに必要な業種はたくさんあり、その業種ごとに勝手に作業を始めると大変なことになります。
建築現場では主にスケジュール管理と業者との間の綿密な打ち合わせが重要な仕事となります。それを工程へ落とし込む作業だけでも膨大で、場合によってはその打ち合わせと、調整だけで一日が終わってしまうこともあるほどです。
請負金額が決まっていますので、「予算内でいかにしてコストダウンを図れるか」という考え方中心となるのが、施工管理なのです。
たとえば家の購入を考えているときに、不動産会社から「天気が悪くて、工事が進まないため、その分工事費用を値上げします」などと言われたら、そんなところに工事をまかせるわけがありませんよね。 施工管理の仕事は、すべての「管理」が現場に、ひいては顧客のために向いているのです。
土木現場での施工管理の仕事の流れ
土木とは
土木の事業は道路・橋・ダム・宅地造成などによって、それぞれ全く設計基準などが異なってきます。建築とは違い、「建築基準法」のような統一した法律は存在しません。
土木には明確な定義がないのですが、一般的には「建築事業以外」の事業、「建築以外」の工作物、構造物となり、「道路・高架道路・橋・歩道橋・ダム・トンネル・宅地造成」などといった事業・構造物が該当します。 土木工事は人々が生活するうえで、必要なインフラを整えるためのものといえます。つまり生きるために必要な基盤をつくることが土木工事といえるでしょう。
土木現場での仕事の流れ
土木の現場でも、当然前述の4つの管理は大切で最も重要視されている業務です。
土木工事には建築基準のような確固たるものがなく、個々に設計し作成するという側面があります。特に、地中埋設物の影響が大きいため、やってみなければわからないのです。図面には何も埋まっていないはずが、いざ掘ってみると管が埋まっていた、配線が埋めてあったなどということが日常茶飯事です。
全てを決めてから行う建築と違い、土木の現場においては、設計段階で決めていても、現場判断のスキルが求められます。そのため、急なトラブルはつきもので、その度に現場を止めていたらいつまで経っても竣工しません。コストの面でもかなりの痛手になってしまいます。したがって、柔軟な対応が求められるのです。 また、建築との違いには、出入りする業者が少ないという点も挙げられます。一つの作業に対して完璧に行う建築に対して、最初から最後まで現場での作業をする土木は、大抵のことはやってのけてしまうある種の多能工集団といえます。
施工管理と現場監督の違い
工事のプロジェクト全体を通しての指揮を執る役割と、現場単位での指揮を執る役割と分けた場合、施工管理は工事全体の指揮を執るもので、現場監督というのは文字通り現場での指揮を執るものを指します。
場合によっては同じ意味を指すこともあり、確固たる言葉のすみわけはなされていませんが、おおむね、元請けの会社の社員(ゼネコンや作業を直接行わない者)などは施工管理者で、下請け会社(直接工事を行う会社の者)のリーダーを現場監督と呼ぶこともあります。 なお、両者とも資格は、同じものを取得している場合もあります。現場での指揮系統での役割が影響していることから、上から下へ指示が下るので、施工管理も作業員から「監督さん」と呼ばれることがあるので、混同されることになるのでしょう。
施工管理の男女比
建築や土木の現場において、圧倒的に男性社会であったものから、徐々に女性の進出が出始め、企業によっては「けんせつ小町」や「ケンジョ」といった愛称で親しみをこめ、全面的に押し出しているところも少なくはありません。
では現場での男女の比率はどのくらいになっているのでしょうか。 実際にはまだ全体の監督員に対して女性の割合は、わずか5％前後にすぎません。もともと男性ばかりの職種であったため、男性が有利とされるものが多いのは仕方ありません。しかし、女性が進出することによって、女性ならではの観点から、細かいことに注意を払い、そして気付くことは少なくありません。4つの管理に対してもきめ細やかな配慮で助かるものも多いでしょう。特に現場での仕事では人の命を預かることになるので、女性の働きは大いに期待されています。女性が働きやすい職場作りや環境を推進している企業も増えているため、今後は施工管理の仕事で活躍する女性も増えていくことでしょう。
施工管理のやりがいと魅力
仕事をするうえでのやりがいは、従事する者として重要なポイントです。仕事にやりがいや達成感を感じられないのであれば、挫折をしたり、逃げてしまったりと。場合によっては転職してしまうでしょう。 令和2年雇用動向調査では、前職をやめた理由として、仕事の内容に興味が持てなかった、能力・個性・資格を活かせなかったなどが挙げられました。いずれにしても5パーセント近い人が仕事にやりがいを感じられず退職しています。
施工管理のやりがい
施工完了時に達成感が得られたとき
施工管理の醍醐味のひとつには、施工が完了したときの達成感が挙げられます。自分が担当した業務を管理し、長い施工期間を終えたときはなにものにも代えがたい達成感を感じるでしょう。 工事期間中はたゆまぬ努力と、忍耐との戦いとなりますが、工事が終わり完成した成果物を見たときには、一気に緊張感がほぐれ開放的な気持ちになります。また、自分が施工管理をしたものを見るたびに満足感を得られ、施工管理という仕事に誇りとやりがいを感じることでしょう。
社会の役に立つ仕事ができたと実感したとき
担当した施工管理の仕事で、それが社会で役に立っているところを見ることも、施工管理のやりがいの一つです。どのような仕事においても、もちろん社会の役に立っているでしょうが、施工管理の仕事は建物や地図に残ります。そのために、それを利用している人がいるという喜びを感じることができます。
周りの人から信頼されたとき
工事現場は、多くの人の手によって成り立っています。現場の人はみな同じ目標に向かって進んでいますが、時には上司や職人たちに無理難題を押し付けられることもあるでしょう。 それに対して真剣に立ち向かい解決、あるいは打破したときに周りの多くの人からの信頼もついてきます。苦楽を共にした、同じ釜の飯を食べている人たちに信頼されると自信へとつながり、次への活力となります。
スキルアップができる
仕事内容が多岐にわたる施工管理や現場監督の仕事は、決して単調な作業ではありません。時には自分のキャパシティーを超えてしまうこともあるでしょう。上司や、作業員に支えられ達成すると、その経験から自身がスキルアップし、盤石なものとなります。
魅力
責任が重いからこそ、達成感はひとしおです。施工管理の仕事は重圧がある分、大変ではありますが、それを乗り越えた先には、とても貴重な経験と手に入れたスキルで自身の成長を感じることができるでしょう。 なにより、さまざまな危機管理能力も備わり、人として大きく成長できることでしょう。何事もチャレンジし、一回りも二回りも大きな人間へとステップアップできる仕事といえます。
施工管理におすすめの資格
施工管理や現場監督をするうえで、いくつか役に立つ資格があります。仕事に従事しながら勉強をし、取得を目指すなら以下のようなものがおすすめです。
・建築施工管理技士(1級・2級)
住宅やアパート、マンション、ビル、商業施設などの建造物の建築工事に関する資格
・土木施工管理技士(1級・2級)
トンネルや道路、河川や上下水といったインフラ工事に関する資格
・電気工事施工管理技士(1級・2級)
変電、送電設備、照明設備などの電気工事に関する資格
・管工事施工管理技士(1級・2級)
空調設備、ガス配管設備、浄化槽などの配管工事に関する資格
・造園施工管理技士(1級・2級)
学校、公園、道路、遊園地など、造園工事に関する資格
・建設機械施工管理技士(1級・2級)
造成や整地など、建設機械を使った工事に関する資格
・電気通信工事施工管理技士(1級・2級)
モバイル基地局設置や電波障害の解消、インターネットの工事に関する資格
まとめ
建設工事の指揮は、簡単なものではなく、むしろ大変な仕事に分類されるものですが、その分見返りは大きいのではないでしょうか。
ひとつの工事をとっても大きいものから小さいものまでありますが、日々学ぶことが多く、生涯勉強といったスタイルの人には魅力的な分野でしょう。 施工管理や現場監督の仕事では、危機管理とマルチタスクで物事を遂行できる能力と、さらにはコミュニケーションや調和といった人間力が自然と養われます。現場をこなし、自身のスキルと、成果物をひとつずつ積み上げていく喜びを感じる仕事です。
