神戸市が「2021年度からすべての空き家に対して税制優遇をやめる」と発表した、というニュースを2020年に見かけたことがありませんでしたか?この動きは今後、全国の他の自治体もならっていく可能性があります。
そこで、これは一体何が重要なのか、どんな影響があるのか、そもそも「空き家の税制優遇」とはどういったものなのか、などという疑問点について、今回は「特定空家」というキーワードとともに見ていきましょう。
▼この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます。
そもそも「空き家」と「固定資産税」の関係とは?
建物があると固定資産税がお得
土地や建物を所有する人には「固定資産税」という税金(と、地域によっては「都市計画税」という税金)がかかります。
これらの税の税率には「住宅用地の軽減措置特例」というものがあり、住宅が建っている土地は税率を下げてもらえます。これは現在まさに人が住んでいる家屋だけでなく、空き家であっても適用されます。つまり、更地の状態の土地ではなく、そこに家が建っていれば空き家であっても税金が安くなる、ということなのです。
ところが、「空家等対策特別措置法」という法律ができてから、事情は変わってきます。
空家等対策特別措置法の成立
近年、全国で放置された空き家の数がどんどん増加している状況を受けて、2014年11月「空家等対策の推進に関する特別措置法」(通称:空家等対策特別措置法)という法律が成立しました。
この法律ができた背景には、日本中で増え続ける空き家は安全面・防犯面・衛生面・景観面などでさまざまなトラブルを引き起こすおそれを内包しており、社会問題のひとつとなりつつある、というものがありました。
これまでは空き家というものに対して、自治体は所有者に改善や撤去の強制力を持ちませんでしたが、この法律によってかなり強く指導や勧告ができるようになったのです。
空家等対策特別措置法で何がどう変化したのか
この法律では、問題があると判断された空き家を「特定空家」として認定し、所有者に対して自治体がある程度の強制力を発揮することができるようになりました。所有者は、それに対応する「義務」が生じます。
特定空家について詳しく見ていきましょう。
特定空家とは
空家等対策特別措置法で規定される「特定空家」とは、次のような状態にある建物を指します。
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- 周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
ただの空き家ではなく、著しい老朽化などで倒壊の危険や衛生上・環境上・景観上で問題が生まれるおそれのあるものが、決められた流れによって「特定空家」として認定されるのです。 特定空家になると、所有者にさまざまな規制や制限が生じることになります。
特定空家と認定されるまでの流れ
一般的には、以下のような流れで特定空家の認定が進んでいきます。
空き家について相談や苦情(倒壊のおそれがあり危険だ・防犯上問題がありそう・景観が悪いなど)が自治体に入る
↓
自治体が空き家の状態を確認する
↓
自治体から所有者に管理状況の問合せが入る
↓
自治体による、所有者への空き家管理についての助言や指導が行われる
↓
自治体による、現地への立入調査が行われる
↓
特定空家の判断・認定
老朽化が激しい空き家だからといって、今すぐに特定空家に認定されてしまう…ということではなく、改善を考えているのであればきちんと猶予が残されているということなのですね。
特定空家と固定資産税
ここでポイントとなるのは、一度特定空家に認定されたあとに改善の勧告を受け、それに従わなかった場合、前述した「固定資産税の優遇措置」が適用されなくなるという点です。「建物が建っているから固定資産税を軽減しますよ」という優遇がなくなり、固定資産税の負担が大きくなる、ということですね。
この段階で、勧告された内容に従って改善することができれば、また優遇の措置を受けることが可能となりますが、改善することが難しいのであれば解体除却も視野に入れなければならなくなります。税金の問題だけではなく、倒壊の危険なども考えるとなおさら真剣に検討しなければならないのです。
▼この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます。
神戸市の「空き家の税制優遇廃止」とは
神戸市の試み
ここで冒頭の神戸市のニュースを思い出してみましょう。
「2021年度からすべての空き家に対して税制優遇をやめる」ということは、つまり「いままで税制優遇から外していたのは特定空家だけだったのに、これからはすべての空き家で固定資産税を優遇なしの額で納めてもらいますよ」という意味となります。
これまでの優遇制度だと、空き家を解体除却して更地にしてしまえば優遇がなくなって実質的に固定資産税の金額が上がってしまうため、空き家の放置につながるケースが多くなっていたのです。 しかし2021年度からは特定空家のみならず「居住や利活用の見込みがない全ての空き家」で優遇措置がなくなります。神戸市としては、固定資産税の増税によって所有者に空き家を修繕して居住できるよう改善したり、解体除却して土地の新たな活用方法を模索してもらったり、という行動に移してもらえたらという期待から、このような方針にすることを固めたのでしょう。
全国でも同じ動きが?
前述したように、空き家問題は全国的に増加の一途をたどっています。これまでも実際に自治体が動いて、問題のある空き家の所有者に改善を促すなどの働きかけをしてきましたが、すんなりと行動してくれることはなかなかない、というのが現状です。
「更地にするよりも空き家が建っていた方が固定資産税は安上がりで、なおかつ改善の工事をするにも解体除却をするにも、それなりに費用がかかる」となれば、誰でもそのまま放置したくなるのは仕方がないことですよね。
しかし、これがまさに今の空き家増加問題の原因となってしまったわけなのです。
神戸市の試みは、「固定資産税の実質増税のおそれが発生する」ということをきっかけに、これからは空き家の所有者には行政からの働きかけに応じてもらうことを期待しているといえます。今後は全国の他の自治体も、このような方向に空き家対策の舵を切っていくことが予想されるでしょう。
空き家問題は、すでに全く他人事ではなくなってきているということなのです。
まとめ
これまでは「とりあえず放置」で特に損はなかったと思われる空き家ですが、今回の神戸市の施策や、空き家自体が今後どんどん老朽化が進んでいくしかない状況であることを考えると、いよいよ問題から目を離すわけにはいかなくなってきたということがわかりますね。
このまま放置しておくわけにはいかない、ということは、今後空き家にとるべき対策としては「もう一度住宅として活用する」「改善して売却する」「解体除却して更地にし、新たな土地利用方法を考える」などが挙げられます。
空き家の状況や環境、家族の考え方などさまざまな要素を踏まえて、どういう方法がベストなのかということを模索していきたいですね。
▼この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます。