賃貸物件は、入居するときに各種諸費用がかかることで大金を用意しなければならないイメージが強いでしょうが、退去時にも意外に費用がかかることをご存知でしょうか。
家賃が月末締めであれば、月の途中の退去でもその月の家賃は払わなければならなかったり、退去の告知が遅ければその分違約金が発生したり、ということもありますが、一般的には「退去費用」といってどんな人でも支払わなければいけないものもあります。これは一体どういうものなのでしょうか。
当然のように請求されるけれど、入居契約が何年も前だったからどんなものが退去時に請求されるかを覚えていない…という方もいらっしゃるでしょう。
そんな方のために、いまいちど退去費用の内訳と、なぜ発生するのか、また退去時にこの費用がもとで起きがちなトラブル事例といったものにも触れていきます。
「退去費用」とはそもそも何か?その内訳は
賃貸物件の退去費用は、退去後1ヶ月程度を目安に金額が確定、借主に請求されます。
では退去費用とは何を指すのでしょうか。これは、大きく分けて「原状回復費用」と「ハウスクリーニング費用」の2つのことです。これらは一体、どのようなことに使われる費用なのでしょうか。
原状回復費用
「原状」とは、借主が部屋を借りることになった時点での部屋の状態を意味します。つまり原状回復とは「住む前の状態に戻す」ことです。借主には原状回復義務というものがあり、原状回復費用はその義務を果たすために使われる費用と考えて差し支えないでしょう。
ただし、経年劣化や通常の範囲内の使用による傷や汚れなどは、原状回復の義務から外れます。これについて、詳しくは後述します。
ハウスクリーニング費用
清掃の専門会社が行ってくれる清掃にかかる費用です。キッチン・洗面所・トイレ・浴室などの水回りやベランダの掃除、床の汚れ落としや壁紙の張り替えなど、素人の掃除では不可能な汚れを落とし、次の入居者に備えます。
原状回復のラインは
借主が住む前の状態に戻す、といっても完全に元に戻すのは不可能です。経年劣化など、どう考えても「仕方のない」傷みというのはなくならないからです。
そのため、国土交通省が「ここからは借主負担、ここからは貸主負担」というガイドラインを作成しており、原状回復は基本それにのっとって借主・貸主の費用負担が決まるのです。
具体的に見ていきましょう。
貸主(家主・大家・オーナー)の負担となるもの
通常の住み方をしていても避けられない劣化や傷の修繕は、貸主の負担となります。たとえば、
家具を置くことによってできた床やカーペットの設置跡・テレビや冷蔵庫の設置による壁の黒ずみ(電気ヤケ)・日焼けなど自然現象によるたたみや壁の変色・画鋲の穴・寿命による設備機器の交換
など。
借主の負担となるもの
借主が手入れを怠ったために残ってしまった汚れや傷、通常の使用とはいえない住み方でついてしまった汚れや傷などの修繕は、借主負担となります。たとえば、
放置して沈着してしまった汚れ・結露を放置してできてしまったカビやシミ・喫煙による壁紙や天井の変色および悪臭・ペットによるひっかき傷・鍵の紛失
など。
故意であっても過失であっても、借主の都合によるものは大体が借主負担での修繕となります。
高額になりやすいケース
一般的には、居住年数や部屋の広さ・間取りの大きさに比例して原状回復費用は高額になっていきますが、通常の使用であればそこまで大きな金額にはなりません。おそらく大体は「これは払わないといけないな」と借主が納得のいくものばかりのはずです。
気をつけなければならないのは、借主負担ではあるものの、高額になりやすい要因についてです。汚れや傷の範囲が広い・程度が大きい・全面的な改修が必要になる、というものは高額になりがちです。たとえばどのようなケースなのでしょうか。
喫煙による壁の黄ばみ
喫煙による壁紙の黄色い変色は、住んでいる人にはなかなか気づけないものです。しかし長年の蓄積はもちろん、短期間でもかなり変色してしまうのが喫煙の汚れの恐ろしいところです。
換気扇の下など限定された場所で喫煙していたならまだよいのですが、どこでもおかまいなしで吸っていた場合、壁紙を全面的に張り替えなければいけないという事態になることも考えられます。場合によっては天井もです。
このケースは汚れの範囲が広いため、高額になりがちです。
結露によるカビやシミの広がり
窓のそばや洗濯機の裏など、湿度が溜まりやすく結露も多い場所にはカビが繁殖したり、跡が残ってシミになったりします。
これは気をつけて対策したり掃除したりすれば防げたものとして、借主側の責任になることがほとんどです。こちらも汚れの部分が広範囲になることが多く、張り替えが大きな面積で必要になります。
普段はあまり見えないところにも、カビが繁殖していることもあります。特に押入れのなかは暗いこともあり、気がついたらカビがびっしりで手遅れ、ということにもなりかねません。日常から湿気の溜まりやすいところには気を配り、跡が残ってしまう前に除去するくせをつけておきましょう。
ペットによる傷や汚れ
ペット可の物件でも、ペットに好き放題させておいていいというわけではありません。噛み傷・ひっかき傷・トイレの失敗による汚れなど、これらも全面的に借主責任になります。
行動範囲を限定せずに家中をペットが動き回れるようにしている場合は、やはり傷が広範囲にわたっていることがあるでしょう。1か所の傷が小さくてもそれが何か所もあれば、修繕費用はかさみます。
鍵の紛失
住戸の鍵を紛失してしまった場合も、借主が弁償しなければなりません。防犯上、ディンプルキーと呼ばれる複製が難しい構造の鍵などを採用している物件であれば、ひとつの鍵を失くしただけで弁償に数万円かかることもあります。普段から鍵の取扱いには十分気をつけなければなりません。
退去時のトラブル例
明らかに払う必要のないものまで請求された
先述したように、借主には原状回復義務があるといっても、住んでいる期間に発生した汚れや傷の修繕費のすべてを支払う必要は、まったくありません。そのため、驚くほど高額の退去費用を請求されるというのは通常ありえないことであり、そのような金額である場合は借主が支払う必要のないものまで請求されている可能性が高いといえます。
これは、借主の知識不足を逆手に取って貸主が本来請求すべきではないものまで請求しているケースもありますし、貸主自身が知識不足ということもありえます。いずれにしても、このような場合はきちんとガイドラインにのっとって話し合いをするべきでしょう。ひとつひとつの項目について、ガイドラインを横に読み合わせをすれば、よほどのことがない限り最終的にきちんと相場の金額に収まります。
借主の入居前からすでにあった汚れや傷の修繕費まで請求された
こちらも貸主が故意に行っている場合と、知らない・気づかないで行っている場合の両方が考えられます。どちらにしてもお互い証拠がなければ「あった・なかった」で話し合いが平行線になってしまうので、借主側としては入居前にすでにあった汚れや傷などは写真を撮って記録しておくことが最善といえます。
まとめ
退去費用とは、大きく分けて「原状回復費用」と「ハウスクリーニング代」です。前者は借主としての義務を果たす意味でも必須ですが、後者は契約時に特記がなければ、必ずしも払う必要はないものです。しかし、家賃を払っているとはいえ賃貸住宅は他人の持ち物を借りて住まわせてもらっているわけです。次の入居者も快適に生活してもらうためにも、大家さんには自分たちの退去後しっかりと物件をきれいにしてほしいという意味も込めて、気持ちよく退去費用を払って契約終了としたいものですね。