「免震、制震、耐震って言葉は聞いたことがあるけど違いがわからない…」
「それぞれどれくらいの費用がかかるの?」
地震や台風など、さまざまな揺れに囲まれて生活をする日本では、住宅を揺れから守る対策をしておくことが必要です。
そこで今回は、「免震」「耐震」「制震」構造という「揺れに強い家」の特徴や導入費用、メリット・デメリットと合わせて、効果的な組み合わせなどを解説していきます。
揺れに強い家を作るために何が必要か知りたい人、住宅を建てる際のポイントを知りたい人は、ぜひご覧ください。
「免震」とは?
地震の揺れを受け流す構造
免震構造とは、建物と基礎の間に「免震装置」と呼ばれる装置を設置し、地面と切り離すことによって建物に揺れを伝えないように受け流す仕組みのことです。
構造としては、建物と基礎の間に、免震アイソレータという積層ゴム、揺れを制御するダンパーを使用します。
これらの部材により、地震などで地盤が激しく揺れた際にも、地震力を受けずゆっくりと動くので、建物へのダメージはほとんどありません。
さらに、下記に紹介する制震や耐震との大きな違いは、建物の倒壊はもちろん、内部への揺れの影響を抑えられる点が挙げられます。
地面に直接建つ建物に比べ、地震の影響が少ないことから近年高く注目されている工法です。
特に、高層ビルやマンションなど、揺れの影響が大きい建物に関しては積極的に採用されています。
「制震」とは?
地震の揺れを吸収する構造
制震構造とは、建物の内部にダンパーや重りなどの制震材を組み込み、地震の揺れを吸収する仕組みのことです。
免震とは異なり、建物が建つのは地面の上なので、地震の揺れは直接建物に伝わります。
しかし、建物に取り付けた振動を軽減する装置(重りやダンパー)があることで、地震のエネルギーを吸収し、建物に粘りを加えて振動や揺れを軽減することを可能にします。
体感的にも、揺れを小さくできるので、恐怖感が少なく安心感が得られる工法です。
もちろん、直接の揺れを抑えることができるので、柱や梁といった建物内部へのダメージを抑えることができます。
こちらも、上層部ほど揺れが大きくなる高層マンションなどに多く採用されています。
「耐震」とは?
地震に耐える構造
耐震構造とは、柱や梁、筋交いなどを強化して建物全体で地震などの揺れに耐えることを目的とした工法。
現在の日本の住宅では、これまでの大地震を教訓に、広く採用されるもっとも一般的な作りです。
地震の力が大きく加わるのは、重量がある床部分や屋根の部分。
強力な地震の力に対し、倒壊しない家を作るためには床、屋根、壁、梁などすべての部分を頑丈に作ることが前提です。
耐震住宅では、さらに建物の強度を上げるために、筋交いや耐力壁、金具などを用いて補強を施します。
建物自体の強度を高め、地震の強力なエネルギーが加わった際にも、倒壊などの決定的なダメージを防ぎます。
免震・制震・耐震それぞれの特徴・メリット、デメリットの比較表
ここまでは、免震・制震・耐震の特徴について紹介しました。それでは、それぞれどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。表にまとめて見ていきましょう。
メリット | デメリット | |
免震 | ・地震がきてもほとんど揺れない ・建物内部のダメージを抑えられる ・地震対策としてはもっとも優れている | ・制震、耐震に比べコストが高い ・免震装置の交換や定期的なメンテナンスが必要 ・台風など強風や防風には効果が薄い |
制震 | ・建物の倒壊をほぼ防げる ・繰り返しの地震にも強い ・強風や暴風にも強い ・メンテナンスがほとんどいらない | ・地盤が弱い地域では導入ができない ・建物内部にいる時には地震の揺れを直接感じる ・制振装置設置の都合上、狭小地には向いていない |
耐震 | ・3つの工法の中でもっともコストがかからない ・建築基準法に則っていれば追加費用無しで建てられる ・地震の揺れによる倒壊を防ぐことができる | ・揺れが直接伝わるので、恐怖感を感じる ・建物内部への影響が大きい ・繰り返しの地震には倒壊のリスクが出てくる |
上記のメリット・デメリットを踏まえた上で、仮に、大きな地震が来た際の揺れ方や家具への被害は以下のように考えられます。
免震
地面の揺れが建物には直接伝わらないため、小さな揺れになる。
建物自体がダメージを負う可能性も極めて低い。
そのため、家具や家電の転倒、ガラスの飛散といったリスクも低い。
制震
揺れを直接感じるが、耐震と比べ上層に行くほど抑えられる。
建物自体のダメージも低い。
しかし、家具や家電の破損、ガラスの飛散などは考えられる。
耐震
揺れを直接感じ、上層階程大きくなる。
建物自体のダメージや、家具、家電への影響も大きい。
もっとも一般的でコストが掛からないが、家具の固定などに工夫が必要。
上記のように、さまざまな違いがありますが、どの工法であっても地震など揺れへの備えとして工夫され、考え抜かれた工法です。ただし、工法により掛かるコストが大きく変わってくるのは事実。参考までにそれぞれの工法の費用相場を見ていきましょう。
免震住宅・制震住宅・耐震住宅の費用相場
費用相場はあくまで標準的な住宅への相場であり、床面積の広さ・地域などによって異なるので、事前に見積もりを取ったりして価格の確認をしてください。
構造 | 費用相場 |
免震 | 300~500万円 |
制震 | 50~100万円 |
耐震 | 100~200万円 |
免震住宅
3つの工法の中で、もっとも費用が掛かるのが免震工法です。
標準的な一戸建ての場合、300万〜500万程の費用が掛かることが一般的。
もちろん、床面積が増えれば増えるほど免震に掛かる費用も高額になります。
地震対策の上ではもっとも有効になる工法ですが、費用の面から導入は簡単ではありません。
建築したあとから導入を検討した場合でも、建物を解体したり、持ち上げる必要があったりと、あまり現実的とは言えないのが現状です。
制震住宅
制震住宅に掛かるコストは、標準的な一戸建て住宅で50万〜100万円程が一般的な費用相場。
制振装置は柱の間に施工していくという意外とシンプルなものなので、免震と比較すると簡単かつ安めに施工が可能です。
導入のしやすさから、各ハウスメーカーが競って新商品の開発を進めているので、性能や種類がさまざま。
そのため、性能や設置する材料の種類などにより価格は大きく変わってくる傾向にあります。
後述しますが、制震工事は新築時だけではなく、リフォーム工事としても導入が可能です。
リフォームとしては、ダンパーの設置費用や壁のリフォーム費用などを見ておく必要があります。
耐震住宅
耐震住宅は建築基準法で定められているので、どのハウスメーカーで建てる際にも、これから建てる家はすべて耐震住宅になります。
そのため、建築基準法で定められた水準を満たす家は、新築を建てる費用に含まれています。
ただし、建築基準法で定められた耐震水準は「耐震等級1」となっています。
耐震等級を2以上にしたい時には、壁の量などを増やす追加費用が発生する可能性があります。
大手のハウスメーカーであれば、標準の仕様で耐震等級2〜3となっていることが多いですが、仮に追加費用がかかるとすれば100万〜200万円程の費用が発生します。
また、耐震工事もリフォームで後から補強することが可能です。
制振装置は建築済みの家にも取り付け可能
制振装置のダンパーは壁の内部へ取り付けるものなので、新築時に取り付けることが一般的です。
しかし、既に建築済みの建物であっても後から取り付けることが可能です。
制震リフォームでは、内壁を剥がして建物内部から施工する方法と外壁を解体して外から施工する方法に分かれます。それぞれのメリットやデメリットは以下の通りです。
内壁を剥がして制震設備を設置する場合
内壁は外壁に比べると、解体が行いやすいので、工事に掛かる時間や費用を抑えることが可能です。
しかし、施工中は家財を運び出したり、場合によっては仮住まいを見つけたりといった手間が出てくる可能性があります。
制震リフォームにかかる費用の相場としては、内壁を解体して行う場合には内装の解体やダンパーの設置費用、内装のリフォーム費用などをあわせておよそ70万円程~が一般的です。
外壁を解体して制震設備を設置する場合
建物の外から工事をしていくので、家財を移動する必要がなく、住民の負担を減らせる方法になっています。
しかし、外壁を解体するための足場を設置したり、新しく外壁を設置したりと、費用が比較的高くなる傾向にあります。
外壁を解体して施工をする際には、外壁のリフォーム費用で150万円程にダンパーの設置費用で50万円程がプラスでかかってきます。
どちらの方法でも、リフォームを依頼する会社が経験豊富であるか、信頼できる会社であるかは必ず確認をしておきましょう。
おすすめの組み合わせは?
ここまでは、3つの工法の特徴や費用について紹介しました。しかし、「結局どの工法がコストを抑えて地震に強い家になるの?」と疑問が残る人もいるでしょう。
一番地震に強いのは?
現状で一番地震に強いと言える家は「免震住宅」です。
ただし、費用を見ると導入が難しいのも事実。今後、設置にかかるコストや条件、メンテナンス費用などが抑えられれば一番に検討するべきでしょう。
「制震」×「耐震」がおすすめ!
一方で、コストを抑えつつ、最近注目を集めているのが、「制震と耐震」組み合わせた住宅。
新築住宅の建築時に耐震等級3を取得すれば、地震保険の割引制度を利用することが可能です。
さらに、ダンパーなどの制震装置をプラスした施工を行えば、急な地震はもちろん、繰り返しの地震にも強い家を作ることができるでしょう。
新築だけではなく、耐震補強の際にも「耐震」と「制震」を組み合わせることで大きな効果を期待できます。
免震・制震・耐震それぞれの違いを抑えて地震に強い家造りを!
今回は、免震・制震・耐震構造の違いについて紹介しました。
地震大国である日本では、いつ巨大な地震が起きてもおかしくはありません。住宅を建てる際には、急な災害に備えて、地震の対策を最優先で考える必要があります。
建築技術は「地震の被害から命を守るため」に日々進化し続けています。
建築基準法で定められた「耐震構造」はもちろん、揺れを吸収する「制震構造」や揺れそのものを受け流す「免震構造」などさまざまな工法が登場し、注目を集めています。
自分の身を守り、安心して暮らせる家を検討する際には、コストはもちろんですが、それぞれのメリットやデメリットを踏まえ、最適な工法を選択してください。