相続した遺産の中に家や土地などの不動産があった場合、名義変更で悩む方が多いです。
不動産の名義変更はそう頻繁にするものでもないので、「どうやって名義変更するの?」「そもそも名義変更ってしなくちゃいけないの?」と、不安になるのは当然です。
名義変更をしないことですぐデメリットが発生するわけではありませんが、後々面倒なことになる可能性があります。
今回は、名義変更をするメリットや名義変更をしなかった場合のリスク、相続登記に必要な手続きや税金について詳しく解説します。
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相続登記とは?
相続登記とは、不動産を相続した人が不動産の名義を個人から相続者に変更することをいいます。
変更の申請先は法務局、つまり国の機関に対しての申請です。
相続登記を行うことで、不動産の所有権が変わったことを公的に認めてもらうことになります。
相続登記の手続は義務ではありません。
いつまでに相続登記するという期限もなく、名義を変更しなくても何の罰則もないので、名義変更していない不動産はたくさんあります。
しかし、相続登記しないことによるデメリットもあるんです。
相続登記をしないデメリット
相続登記をしない弊害としてあげられるのは「売りたくても売れない」のが1番大きいです。
不動産の名義と実際の所有者が異なると売却できません。
逆に言えば絶対に売却しないのであれば相続登記する必要もありませんが、少しでも売却を視野に入れているなら相続登記をしておきましょう。
相続登記しないと売却できないと聞いて「別にすぐに相続登記しなくても、売りたくなったときにすればいいんじゃない?」と考える人もいるでしょう
しかし、故人名義のまま放置して相続人も亡くなってしまったケースでは、相続登記が困難になります。
相続登記には相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書などの書類が必要です。
何世代もさかのぼって相続人を特定するのは手間ですし、その相続人全員と連絡をとって書類を用意してもらって……と、面倒極まりない事態になります。
相続人が亡くなっていた場合はさらにその配偶者や子供に所有者が移り、相続人の範囲が広がりすぎて収集をつけるのが大変です。
不動産の名義がおじいちゃんやそれ以前の世代になっている場合は要注意です。
時間が経過するほど面倒になっていくので、相続登記は義務ではないもののできるだけ早めに実施することをおすすめします。
相続登記のパターン
相続登記は大きく分けると以下の3つのパターンに別れます。
- 遺言の内容に沿った相続登記
- 遺産分割による相続登記
- 法定相続分で相続登記
遺言の内容に沿った相続登記
亡くなった被相続人が遺言を残していた場合、手続きは比較的簡単です。
相続人の中で1人でも遺言どおりにしたいという人がいれば、遺言通りの内容で相続登記します。
逆に相続人全員の同意があれば、話し合いで相続割合を決められます。
遺言の内容に従って相続登記する場合、すべての相続人がわからなくても問題ないので、故人の戸籍から相続人を確定させると行った作業が必要ありません。
遺産分割協議による相続登記
相続登記で一番多いのが、相続人の間で話し合って遺産分割するパターンです。
法定相続分通りの内容でなくても問題ないので、自由に分配できます。
遺産分割協議の場合、相続人が全員合意することが絶対条件なので、分割に納得しない相続人が1人でもいれば、遺産分割協議は成立しません。
例えば兄弟2人で遺産分割をする場合、一方は不動産を、もう一方は現金を相続するといった形で、土地や家を単独名義で所有できます。
共有することも可能ですが、売却や改築に共有者全員の同意が必要になる上に、相続人が亡くなったときに利害関係者が雪だるま式に増えていくため、おすすめしません。
法定相続分で相続登記
法定相続分に従った持分割合で相続登記する方法です。
話し合いも必要なく、事務手続きも比較的簡単です。
遺産分割協議で相続人同士が揉めてしまっても、法定相続分は相続登記できます。
しかし、法定相続分の共有で相続登記すると、不動産を売却するときに共有者全員の同意が必要になります。
「相続人全員の仲がよく連絡も容易に取れて、不動産をすぐに売却する予定があり、法定相続分で相続することに合意し、遺産分割協議書などの手続きを省きたい」などのケースでなければメリットは薄いです。
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相続登記する時の流れ
後々面倒になるのも嫌だし、相続登記をしよう!と思い立っても、どうやればいいのかわかりませんよね。
相続登記を行う大まかな流れをご紹介します。
自分でやるか司法書士に任せるか
相続登記をするなら、まずは自力でやるか司法書士に依頼するかを判断しましょう。
必要な資料集めや申請手続きを日中に行える方なら、自力で相続登記することも可能です。
しかし、相続登記のための必要書類は結構多いので、資料集めは想像以上に大変な作業です。
自力でやるのが難しければ司法書士さんに依頼することになります。
依頼費用は司法書士さんごとにまちまちですが、相場は10万円前後。
結構お高いですよね。
相続登記に必要な書類
司法書士に依頼するのは費用がかかるので、相続登記はできれば自力で済ませたいところです。
必要な書類をチェックして、自分でできそうか検討してみましょう。
登記申請書
相続登記の申請書は、相続登記のパターンによって書式が異なります。
遺言か、遺産分割協議か、法定相続分かに合わせて法務局ホームページからダウンロードできます。
登記申請書さえ作成できれば、後は必要な資料を集めるだけです。
被相続人に関する書類
被相続人に関する書類は2点必要です。
書類名 | 取得方法 | 備考 |
被相続人の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場に請求 | 出生から死亡まですべての記録 |
被相続人の住民票の除票 | 最終住所の市区町村役場 | 保存期間は亡くなってから通常5年間 |
被相続人の戸籍謄本
被相続人の戸籍謄本は出生から死亡するまでのすべての記録一式が必要です。
被相続人の最終本籍地の市区町村役場で原戸籍謄本、除籍謄本を取得できます。
過去に本籍地を移転している場合は該当の市区町村で原戸籍謄本を取得していくので、被相続人が何度も本籍地を移動している場合は取得が大変になります。
被相続人の住民票の除票
除票とは引っ越ししたり亡くなってしまい、その住所に存在しない人の住民票の記録です。
相続人ならば故人の最終住所の市区町村役場で取得可能です。
住民票の除票は被相続人が亡くなってから5年が経過すると発行してもらえなくなります。
非相続者の住民票の除票は提出必須の書類なので、「発行してもらえなかった」ではすみません。
その場合は「被相続人の戸籍の附票」を取得します。
戸籍の附票は戸籍の情報を元に住所の移転履歴が記載された書類です。
戸籍の附票も取得できなかった、もしくは被相続人の最後の住所地がわからなかった場合、「不在籍・不在住証明書」と「不動産権利証原本」を法務局に提出します。
相続人に関する書類
相続人に関する書類は5点あります。
書類名 | 取得方法 | 備考 |
相続人の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村 | 相続人全員分の戸籍謄本が必要 |
遺産分割協議書 | 相続人全員で作成する | 遺産分割協議による相続登記の場合のみ必要 |
財産を貰い受ける人の住民票 | 管轄の市区町村 | 対象不動産を相続する人のみ必要 |
固定資産評価証明書 | 不動産を管轄する市区町村 | 納税通知書では不可 |
不動産の登記簿謄本 | 法務局 | 管轄の法務局以外でも取得可能 |
相続人の戸籍謄本
相続人が実在することを確認するために提出します。
相続人全員分の戸籍謄本が必要ですが、被相続人のように出生まで遡る必要はなく、現在の本籍地が記載された戸籍謄本のみで問題ありません。
遺産分割協議書
遺産分割協議による相続登記の場合に必要な書類です。
遺言や法定相続分通りに遺産を分配する場合、あるいは相続人が1人の場合は必要ありません。
遺産分割協議書は決まった書式はなく、分割金額や不動産の住所などの必要事項が記入されていればOKです。
記載漏れがあったり内容が間違っていると、何度も再提出することになります。
遺産分割協議書は相続人全員が実印を押印したうえで、全員分の印鑑証明が必要です。
相続人と疎遠になっていたり、遠方に住んでいる場合は難航するケースが多いです。
財産を貰い受ける人の住民票
不動産の登記簿謄本には所有する人の住所と氏名を記載するので、住民票から確認します。
登記簿謄本に記入するための書類なので、対象不動産を相続する人の住民票だけあれば問題ありません。
固定資産評価証明書
不動産の評価額を証明した書類で、登録免許税の計算に使います。
納税通知書に添付されている課税明細書でも不動産の評価額は確認できますが、相続登記の申請で提出するのは評価額のみを証明した書類です。
不動産が存在する市区町村役場で取得可能です。
一定期間で評価替えが行われるので、以前に取得したものではなく最新版を取得しましょう。
不動産の登記簿謄本
相続登記の対象不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)は、法務局なら全国どこでも取得できます。
取得には対象不動産の地番と家屋番号が必要です。
納税通知書に記載があるので事前に確認しておきましょう。
申請方法
書類、資料を用意できたら法務局に相続登記の申請を行います。
法務局の申請には3つの方法があります。
- 法務局の窓口で申請
- 郵送で申請
- オンラインで申請
法務局の窓口で申請
法務局の窓口で申請する場合、当然ですが法務局の開庁時間内に申請しなくてはいけません。
時間の融通がきかない場合は利用しにくいですね。
メリットとして、窓口で相談ができる点が挙げられます。書類に間違いがあってもその場で対応できるので安心です。
窓口で申請する場合、書類一式と申請書に押印した印鑑を持っていきましょう。
書類に不備があった場合、訂正印として使用します。
申請後に即登記完了というわけには行かず、登記申請書類を受け付けてから1週間~10日後が登記完了予定日となります。
登記完了予定日に登記完了の書類を受け取って手続き終了です。
登記完了予定日には次のものを持っていきましょう。
- 登記申請で使用した印鑑
- 身分証明書
- 法務局から支持があった場合は諸書類
- 受付番号をメモした用紙(あれば)
郵送で申請
郵送の場合、窓口に行くことはないので時間に関係なく書類を提出できます。
大事な書類なので絶対に書留郵便で送ってください。
窓口では書類に不備があった場合はその場で対応できますが、郵送ではそうも行きません。
不備があった場合にスムーズに対応できるよう、申請書には相続人全員が捨印を押しておくと安心です。
申請後、2周間ほど待ってから窓口に行けば完了書類を受け取れます。
郵送で完了書類を受け取ることも可能です。
郵送での受け取りを希望する場合、登記申請書に以下のように記しておきましょう。
「その他の事項 送付の方法により登記識別情報通知書及び登記完了証の交付、原本還付書類の返還を希望します。」
この文章の最後に送付先の区分と住所も記しておきます。
オンラインで申請
相続登記申請は、オンラインで申請することも可能です。
自宅や職場からでも申請できるのがメリット。
デメリットはパソコンの設定や電子証明書の取得をしなければならないため、パソコンに慣れていないと手間がかかります。
逆にパソコンに慣れている方なら、手間が省けます。
オンライン申請についての詳細は法務省のホームページから確認可能です。
相続登記の手続きにかかる登録免許税
不動産の相続登記には登録免許税が必要です。
※登録免許税……不動産を購入、取得し、登記する際の手続きに支払う税金。相続税とは別物です。
登録免許税は建物、土地の評価額をもとに税率を計算します。
どのように取得したかによって税率は異なります。
各税率は以下をご覧ください。
- 建物にかかる登録免許税
内容 | 税率 |
所有権の保存 | 1,000分の4 |
売買又は競売による所有権の移転 | 1,000分の20 |
相続又は法人の合併による所有権の移転 | 1,000分の4 |
その他の所有権の移転(贈与・交換・収用等) | 1,000分の20 |
- 土地にかかる登録免許税
内容 | 税率 |
売買 | 1,000分の20 |
相続、法人の合併又は共有物の分割 | 1,000分の4 |
その他(贈与、交換、収用、競売等) | 1,000分の20 |
相続登記が該当するのは「相続」なので、建物の評価額の0.4%、土地の評価額の0.4%がそれぞれの登録免許税になります。
固定資産評価額
建物と土地の税率さえわかれば、あとは固定資産の評価額がわかれば計算可能です。
固定資産の評価額は主に以下の方法でわかります。
- 固定資産税課税明細書を確認する
- 固定資産税評価証明書を取得、確認する
- 固定資産課税台帳を閲覧する
一番お手軽に確認できるのは固定資産税課税明細書を確認する方法です。
書式は市区町村毎に異なりますが、固定資産評価額も記載されています。
注意していただきたいのは、評価額をもとに計算するという点。
固定資産税の支払いのために軽減措置を適用した「課税標準額」とは異なります。
※課税標準額……税金金額の基礎となる金額。家屋や住宅用土地の場合、特例などで軽減措置がなされており、固定資産税評価額よりも課税対象額のほうが低くなります。
登録免許税の計算例
登録免許税は以下の計算式で求められます。
固定資産評価額×税率=登録免許税
具体例で登録免許税を計算してみましょう。
仮に以下の条件で考えます。
- 土地3,000万円
- 建物2,000万円
相続の場合、登録免許税の税率は土地も建物も0.4%です。
【土地】3,000万円(土地の固定資産評価額)×0.004(税率)=12万円(登録免許税額)
【建物】2,000万円(建物の固定資産評価額)×0.004(税率)=8万円(登録免許税額)
したがって、このケースでは登録免許税は合わせて20万円になります。
土地、建物ともに税率は0.4%なので、この数字さえ覚えておけば計算は簡単です。
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まとめ
不動産の相続登記は面倒なことも多い上、費用もかかります。
できればやりたくないものですが、放っておくと後々さらに面倒な問題になって返ってくるかもしれません。
すぐに取り掛かるつもりはなくても、相続した不動産の所有者はどうなっているのかは把握しておきましょう。
実際に相続登記をする際は、司法書士さんに依頼することも、自力で申請することもできます。
手間を惜しむか、費用を抑えるかはそれぞれ一長一短なので、検討してみましょう。
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