病院や医院・診療所の解体工事というと、建物自体の頑丈な構造や医療機器の存在などから、家屋のような建物とは違って難しいのでは、面倒なのでは、というイメージがあるかもしれません。実際、病院の解体工事は、住まいとしての家屋やオフィスのビルなど一般的な建物の解体工事とはどのような違いや注意点があるのでしょうか。
今回は病院の解体にスポットを当てて、ポイントを見ていきましょう。
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病院特有の解体ポイント
頑丈な構造
病院の構造における特徴のひとつとして、一般的な家屋などと比べて造りが非常に頑丈であるという点が挙げられます。病院には構造の基準があり、たとえば大きな病院であれば「本来は3階以上に病室は造れないが、主要構造部が耐火構造であれば3階以上に造ってもいい」などというものがあります。
また、大型の総合病院ともなれば頑丈であるうえに巨大な建物でもあります。4階以上の、場合によってはビルのように大きな建物も存在し、詳細は後述しますが、一般の家屋の解体に使われるような重機では対応できないこともあります。
こういったことから、頑丈で大型だという点は、病院の解体工事が家屋などとは多少勝手が異なるポイントのひとつといえます。
土壌汚染の可能性
病院の解体後の土地からは、土壌汚染対策法に基づく土壌汚染状況調査により、まれに国の土壌溶出量基準値を超える特定有害物質が検出されることがあります。
病院は「清潔」であるため、土壌汚染とは無縁のイメージがありますが、薬品や有害物質などがきちんと規制される以前から存在していたような古い病院などでは、今とは違う基準でそのようなものが廃棄されていた可能性もあり得ます。また、薬品の意図しない漏洩事故ということもないとはいえません。
病院の跡地で検出されやすい有害物質の代表的なものとして、水銀化合物があります。昔の体温計に使われていたということはご存知の方が多いでしょうが、他にも血圧計や傷の消毒に使う薬液に含まれていたこともありました。
さらに血液を検査するための薬液や、レントゲンの現像液にも用いられていたことがあったフッ素化合物、眼科の洗浄剤に使われていたこともあったホウ素化合物なども土壌汚染の原因になりえる物質です。
他には麻酔剤として使用されることもあったジクロロメタン、菌の染色・培養などに使われていた六価クロム、臨床検査で使われたカドミウム、血液検査で使われることがあるシアンといった有害物質も医療現場では使用されていた可能性があります。
廃棄物の適切な処理が行われていればこのような土壌汚染の心配はほぼないのですが、病院の解体跡地においては、安心・安全のためにも土壌汚染調査をきちんと行っておくべきなのですね。
医療廃棄物の発生
医療廃棄物とは「医療関係機関等で医療行為に伴って排出される廃棄物」の通称で、要するに病院で発生するゴミのことであり、法令上の用語ではありません。
この医療廃棄物の中でも、紙くず類やガーゼ・包帯などの繊維くずなどは「一般廃棄物」として処理してもいいもので、血液や体液が付着したもの・使用済の針などは「産業廃棄物」として扱われ、特に指定された有害なものが「感染性廃棄物」として区別されて特別な処理方法を必要としています。
このような医療廃棄物を取り扱う場合には、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」による規制、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」、「感染性廃棄物処理指針」また「ダイオキシン類発生抑制対策のための産業廃棄物焼却自主基準」といったものを順守する必要があります。
病院の解体業者選びの注意点 ・ポイント
特別な業者である必要はない
病院・医院・診療所・クリニックには、前述したように普通の家屋とは違った特殊な部分があります。だからといって、解体工事を行う業者に特別な資格や技術が必要というわけではありません。一般的な解体業者で十分対応可能です。解体工事においては、建設リサイクル法、建設業法、廃棄物処理法などのさまざまな法律が絡んできますが、そのどれにおいても「病院の解体だから特殊な許可が必要」という決まりはないからです。
ただし、前述したように大型の総合病院などになると建物自体が非常に大きいため、単純に大型重機の持ち合わせがなくて工事が不可能、という場合は考えられるでしょう。また、大型建物の解体工事の経験が浅いもしくは全くないという業者も存在しうるため、その点については事前に確認しておきましょう。 「特別な業者である必要はないが、大型の建物に対応できる重機を所有していて、大型建物の解体工事の経験が豊富である」ところを選ぶといいのですね。
廃棄物処理には注意
病院の解体を依頼する際、基本的には一般的な解体業者を選んで問題ないということでしたが、廃棄物処理に関してだけは注意しておきましょう。特に工事だけでなく備品や残置物の処理などがある場合、前述した医療廃棄物などのような特定の廃棄物は、処理をするのに特殊な許可が必要なことがあるのです。たとえば以下のようなものが廃棄物として発生する場合には気をつけるべきです。
■ 医療廃棄物
前述した通り、病院から発生する廃棄物には有害なものが多く、特殊な廃棄方法を必要とするものがあります。たいていの場合は解体工事に至る前に専門の業者によって処理されていますが、万が一このようなものが残っている場合には解体工事業者にも注意してもらいましょう。
■アスベスト
近年、人体に有害であるとして問題となっているアスベストは、最近でこそ規制が進み新たに建設する建物に関してはほぼ使われなくなりましたが、逆にいえば規制前に建てられた病院にはまだまだ残っている可能性があります。
アスベストは、断熱材や耐火材などとにかく幅広い用途で使われてきました。大型の病院でも内装材やダクトなど、随所で使用されている可能性が非常に高いため、解体工事の際には専門家による調査と除去作業が必要となります。
除去作業には特殊な設備や工法が用いられますが、たいていの場合は依頼した解体業者がアスベスト専門業者に依頼して対応を進める流れになります。
■ポリ塩化ビフェニル
病院では、変圧器や安定器などの他、X線機器などの医療機器にも使われている可能性があるもののひとつに「ポリ塩化ビフェニル(PCB)」というものがあります。こちらも近年では有害物質として知られるようになっていて、除去にはアスベスト同様専門の業者に依頼する必要があります。
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病院の解体工事の注意点
解体工事の流れ
病院の解体工事の流れは、基本的に家屋などの解体工事と大差はありません。前述した業者選びの注意点を踏まえたうえで見積や打合せ・事前調査をして業者選びを行い、近隣挨拶にまわります。
騒音や粉じん対策のための養生設置を行い、足場造りをして解体工事本番へと進み、整地をして更地にし、必要に応じて土壌調査を行うことになるでしょう。
解体費用が高額になりがちなケース
こちらも一般的な家屋などの解体工事と同様、残置物が多かったり追加請求の発生するような工事があったりすると、相場よりも解体工事費用は高額になりがちです。
特に病院の場合、放射性物質汚染対処特別措置法に基づく対策地域内廃棄物と指定廃棄物である「特定廃棄物」の処理に費用が発生します。また、アスベストやポリ塩化ビフェニルのように、特別な処理が必要になる医療機器がある場合、専門業者に処分を依頼しなくてはならないため、費用が加算されます。
廃棄物の処理に関しては、解体業者が関わる段階に至る前に対応を完了させておけるといいですね。
また、前述したように、病院の高さや大きさによっては通常とは違う重機を用いることになります。そのため、自社で大型建物に対応出来る重機を持っている、経験豊富な解体業者に依頼することで重機を手配する金額が削減できる可能性があります。
病院の解体工事には補助金が利用できる場合もあります。対象になる建築物はかなり少ないですが、気になる方はぜひ調べてみてください。
まとめ
病院の解体といっても、特殊な業者を選んだり特別な対応をしたりする必要はほとんどありません。土壌汚染の可能性や、医療廃棄物の危険性や処理について施主も理解しておき、しかるべき対応ができれば、解体工事においても問題はないでしょう。
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