アスベスト(石綿)の解体作業の流れを解説します。アスベストはどのような建築建材なのか?なぜ使用禁止になったのかを説明した上で、どのような作業をするのかまとめました。補助金の仕組みからアスベスト解体の注意点まで紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
- アスベスト(石綿)とは?
- アスベストを含む建物の解体費用
- アスベスト解体に補助金制度がある?
- アスベストを含む建物の解体流れ・手順
- アスベスト解体の注意点
- アスベストを含む建物・住宅の解体工事は慎重に!
アスベスト(石綿)とは?
アスベストは過去に防音材や保温材、断熱材などの建築建材として使用されていました。一般住宅から集合住宅、ビルなどの建物まで性能が高くなおかつ安いという理由で使用されてきました。しかし、アスベストは健康被害を起こすことが分かり、現在では使用がされていません。
過去にアスベストを使用した建材や吹き付けがされた住宅の解体には、アスベストの飛散を防ぐために厳重な態勢で撤去作業が行なわれます。この記事では、アスベストについて詳しく解説しますので、参考にしてください。
アスベストの特徴
アスベストは天然鉱物の総称になり、繊維状に変形しているのが特徴です。別名は「石綿」とも呼ばれ、1955年から1975年代の高度成長期に日本の建物に使用されていました。アスベストは優れた性質を持っており、耐久性や耐熱性などに特化しています。
それでいて安価で取り入れることができたため、防音材や断熱材など建材として使用されました。この性質の数々から、過去には「奇跡の鉱物」と呼ばれていた時代もあります。
アスベストが使用禁止になった経緯
安くて優秀な性能を持つアスベストは、家屋などに多く使用されてきました。しかし、アスベストが甚大な健康被害をもたらすとして、現在では使用が禁止されています。法律でアスベストの使用が禁止されたのが平成18年です。
労働安全衛生法施行令が改正されて、アスベストの製造および輸入が全てNGとなりました。その後、アスベストを使用した建物の解体時には、専門の解体業者による適確な除去・処理が必要になったのです。出典:労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び石綿障害予防規則等の一部を改正する省令の施行等について(厚生労働省)
アスベストの危険性
アスベストは飛散しても目に見えないくらい小さいので、空気中に漏れると知らず知らずの内に体内に取り込んでしまいます。吸い込み続けたアスベストは肺に刺さるように存在し、体内に吸収されることはありません。
長い間吸い込んでいると、せきや呼吸困難の症状が出たり、最悪の場合は中皮腫や肺がんを患う可能性もあるでしょう。吸い込んですぐに症状が出ることは少なく、15~40年ほどでアスベストによる健康被害症状が出るといいます。出典:アスベスト(石綿)についてのQ&A(福岡県庁HP)
アスベストを含む建物の解体費用
アスベストを含んだ建物の解体は、通常の解体よりも費用がかさむ傾向にあります。定められている作業レベルに応じて費用が異なり、使われている箇所によっても変わります。一般的にどの場所にどれくらいの費用が必要なのか、詳しく解説しましょう。
屋根瓦
屋根瓦にアスベストが使用されている場合の撤去は、作業レベルが3と低く設定されています。比較的飛散性が少ないとされており、費用も安くなっています。撤去費用は30坪で2階建ての場合、およそ20万円ほどで済みます。
しかし、屋根の形状や面積によっては、費用が上がる可能性があるので注意しましょう。撤去作業方法として、瓦を水などで湿らせながら進めます。アスベストが飛散しない対策が必要です。出典:廃棄物処理法による飛散性・非飛散性の区分(国土交通省)
外壁
外壁も屋根と同様に作業レベルが3に設定されており、比較的費用は安いです。外壁にアスベストを含有している建材が使用されている場合の費用は、30坪の2階建てで30~40万円ほどとされています。
屋根よりも費用が高い理由は、屋根の面積に比べると外壁は範囲が広いことが挙げられます。瓦の作業と同じように、外壁も水などで湿らせてアスベストを飛散させないようにするのがポイントです。出典:廃棄物処理法による飛散性・非飛散性の区分(国土交通省)
天井・柱・梁
天井や柱、梁にアスベストが吹き付けられている場合、費用は高くなると予想されます。作業レベルは1に分類され、撤去費用は1㎡で設定されます。1㎡あたり15,000~85,000円と幅が広く、費用が高騰する可能性が高いので注意が必要です。建物全体では数百万になるでしょう。
天井や柱、梁に吹き付けられているアスベストは濃度が高いため、飛散性が高いとされています。そのため、厳重な態勢で作業が行なわれます。出典:目で見るアスベスト建材(国土交通省)
内壁や配管
内壁や配管には、アスベストを含有したボードやシートが貼り付けられていることがあります。内壁や配管も1㎡あたりで費用が計算され、1㎡あたりの撤去費用は10,000~60,000円ほどとされています。
建物全てで見ると数百万という費用がかかる可能性があるので、見積もりの時点でどれくらいの費用になるか確認してください。天井や柱、梁と同様に厳重の態勢で、作業が行なわれるでしょう。アスベストの濃度が高く飛散性も高いため、作業レベルは2に分類されます。出典:廃棄物処理法による飛散性・非飛散性の区分(国土交通省)
アスベスト解体に補助金制度がある?
アスベストが含有されている建物の解体工事をする場合、補助金制度の対象になります。アスベスト解体時の補助金について詳しく解説しましょう。
アスベスト調査の補助金制度
民間建築物に対するアスベスト調査等に関して国は補助制度を創設しており、補助金制度がある地方公共団体では、地方公共団体経由で補助金が支給されます。この事業はアスベストがあるかないかの調査に出向くところから補助金の対象としている地方公共団体もありますので、最寄の地方公共団体の担当部局に相談してください。
アスベストが含まれている建物の解体工事前には調査をする場合でも、補助金が支払われることがあります。国は補助金の制度を設けていますが、自治体によって内容が異なるのであらかじめ調べておきましょう。
吹き付けアスベストなどが施工されている恐れのある建築物が対象で、限度額は原則1棟あたり25万円としています。中にはアスベスト調査による補助金制度を設けていない自治体もあるので、詳細を必ず確認してください。出典:アスベスト対策Q&A(国土交通省)
アスベスト解体工事の補助金制度
民間建築物に対するアスベスト除去、または囲い込み、封じ込めに関して国は補助制度を創設しており、補助金制度がある地方公共団体では地方公共団体経由で補助金が支給されます。
アスベストの調査とは別に、除去する場合にも補助金の制度を設けています。こちらの除去時の補助金も、地方公共団体によってはでない場合があるので詳細を確認しましょう。
除去に関する補助率は2/3以内とされていますが、地方公共団体の補助額を超えない範囲と定められています。アスベスト除去の補助金対象は吹付けアスベストとアスベスト含有吹付けロックウールです。出典:Q43 除去工事をしたいのですが、補助金制度はありますか(国土交通省)
アスベストを含む建物の解体流れ・手順
アスベストを含んでいる建物の解体は、どのような流れで作業するのか気になる方も多いでしょう。解体の流れは大きく6ステップに分類されます。
アスベストに関する規制は何度が改正されていたことから、1975年から2006年までの建築物にはアスベストが含有されている可能性が高いです。アスベストが含有されている可能性のある建築物の解体工事は、厳重な注意を払って手順をしっかり踏んで進めていきましょう。
①建物を事前調査
アスベストを含有している可能性のある建築物は、解体工事を行なう前に解体業者による事前調査が必要です。アスベストの使用は建築物の図面や築年数から、ある程度は判断できるためまずは図面調査をする業者が多いです。
その後、解体業者が実際の建築物に足を運んで、現地調査を行ないます。ただし、鉄骨造の場合はサンプルを採取して、分析を行なう必要があります。分析の結果、0.1%以上の含有量が確認できたら、規制の対象になると覚えておきましょう。
目視や分析をした結果、解体業者は施主に対して、書面でアスベストに関する報告書を渡す必要があります。また、施主はアスベスト含有建築物の解体に対して作業基準の遵守を妨げる行為は禁止です。過剰に値引きをしたり、工事期間の短縮要請が該当するので注意しましょう。出典:アスベスト対策Q&A(国土交通省)
②提出義務のある届出
アスベストを含有している建造物を解体する場合、発塵性レベルによって提出義務のある届出が必要です。発塵性とは粉塵が発生する危険性になり、飛散性を表しています。
レベル1が一番危険性が高く、レベル3が一番低い危険性とされています。レベル1~3まででどのような届出が必要なのか、説明していきます。出典:建築物の解体等に係る 石綿飛散防止対策マニュアル(環境省)
発塵性レベル1
- 工事計画届出書
- 特定粉じん排出等作業実施届出書
- 建築物解体等作業届
- 事前届出
危険性が高い作業レベル1は、多くの届出が必要です。工事計画届と特定紛じん排出等作業届書は作業開始の14日前の提出が義務になります。工事計画届は所管の労働基準監督署長、特定紛じん排出等作業届書は都道府県知事に提出しましょう。
事前届出は作業開始一週間前までに都道府県知事へ、建築物解体等作業届は作業前に所管の労働基準監督署長へ提出します。出典:建築物の解体等に係る 石綿飛散防止対策マニュアル(環境省)
発塵性レベル2
- 特定粉じん排出等作業実施届出書
- 建築物解体等作業届
- 事前届出
作業レベルが2に落ちると、工事計画届の提出は必要ありません。ただし、レベル1でも提出義務の特定粉じん排出等作業届出は、施主が出す必要があることだけは覚えておきましょう。出典:建築物の解体等に係る 石綿飛散防止対策マニュアル(環境省)
発塵性レベル3
- 事前届出
作業レベル3の場合は、特に義務のある届出は必要ありません。しかし、作業レベルが3だからといって、適当な解体を行なうとアスベストが飛散する可能性があります。必ず事前調査や作業計画をしっかりと立てて、除去作業に徹しましょう。出典:建築物の解体等に係る 石綿飛散防止対策マニュアル(環境省)
③着工前準備
アスベスト含有の建築物の解体に入る前に、必ず着工前の準備を行ないましょう。解体工事の中でも着工前の準備をしっかりする必要があり、周りの住民に対しても配慮が必要です。解体手順の中でも重要な着工前の準備をした上で、解体作業を進めるようにしましょう。
近隣への挨拶
近隣への挨拶は解体工事に欠かせないでしょう。どのような作業をするのか、明確に伝える必要があります。
施主が挨拶に伺う場合は解体業者にも同行してもらい、アスベスト除去工事について説明を行なってもらうのが得策です。作業中の苦情やトラブルを避けるためにも、着工前に行なうようにしましょう。
工事の周知・足場組立
近隣の方へ挨拶が済んだら、その地域に住む方へ向けた周知をしましょう。アスベスト除去工事を行う旨を記載した掲示物を設置します。その際、掲示物には石綿使用の有無や届出を出していること、石綿に関する概要、作業期間など記載する事項はいくつかあります。
掲示物を読んでどのような工事で、どのような対策をしているのか分かりやすいように表記するのがポイントです。作業の規模や建物の造り、周りの環境によっては足場を組むことがあります。
引込配管・配線の撤去手配
施主が行なう着工前準備として、ガスや電気、電話の配管や配線の撤去をしてもらいましょう。これらがつながったままですと、作業時に大きな事故になりかねません。水道は防塵のために解体業者が使用する可能性があります。あらかじめ水道が必要か否か、業者に確認しておくと良いでしょう。
④アスベストの除去作業
着工が始まったら、いよいよアスベストの除去作業が始まります。アスベストの除去作業では、それぞれ含有されている部分を適切に除去する必要があるのです。アスベストの除去方法の手順を見ていきましょう。
建物内部の残存物撤去
アスベストが含有されている建築物の解体は、まずアスベストが含まれていない建物内部の撤去を行ないましょう。家具家電はもちろんのこと、畳や建具も内部残存物に扱われます。
作業場所の隔離・密閉養生
アスベストは目に見えないほど小さいので、含有されている場所は徹底して隔離・密閉養生を行ないましょう。養生シートなどを使用して、アスベストが飛散しないようにします。
粉じん飛散抑制剤の散布
アスベストが飛散しないように、粉じん飛散抑制剤を散布します。粉じん飛散抑制剤は人体に害のない無機系の薬剤を使用し、湿潤化に努めましょう。粉じん飛散抑制剤を使用しない方法もあり、「封じ込め法」や「囲い込み法」が挙げられます。
アスベストの除去
除去をしたアスベストは袋に入るサイズに粉砕または切断をし、こん包をして運び出します。袋ではなく容器に入れたり圧縮することもあり、業者によって対応は異なります。
アスベストを入れた袋や容器には、必ず「アスベスト廃棄物」と記載するのが義務です。アスベストを除去する際、作業レベルに適しているマスクや作業着を装着することが決められています。出典:石綿含有廃棄物等処理マニュアル(環境省)
⑤アスベストの除去作業後~処分
アスベストを適切に除去しても安心はできません。作業後から処分まで、さらに徹底した管理と作業が必須です。アスベストの除去作業後から処分までの流れを把握しましょう。
除去アスベスト減容化・袋詰作業
アスベストの除去でも紹介したように、アスベストの運び出しは袋や容器に詰め込みます。このとき圧縮化することで、処分がしやすくなるでしょう。袋や容器に詰める際は、アスベストが飛散しないよう厳重に注意をして作業を進めてください。
また、作業で使用したマスクや作業着にアスベストが付着している可能性があります。そのため、付着したアスベストが飛散しないように、適切な処理をしましょう。
建物解体
アスベストの除去が完了した建物の解体は、内装材やサッシ、窓ガラスをまずは撤去しましょう。その後、柱や梁、外壁などを解体していきます。この作業では、ホコリが舞い上がらないように散水しながら作業を進めるのがポイントです。
仮設物等の撤去・清掃
建物の撤去が完了したら、仮設物の撤去と最後の清掃を行ないましょう。隔離をしていた養生にはアスベストが付着している可能性があるので、飛散を避けて丁寧に作業してください。
最後の清掃時にもアスベストが残っている可能性があるので、こちらの作業時も丁寧に行なうのが基本です。
最終処分場へ運搬・処分
解体作業が全て終了したら、アスベストを処分場へ運搬をして廃棄します。アスベストは他の廃棄物とは異なるため、区別をする必要があります。収集と運搬、処分の基準が決められているので、あらかじめ確認をしておきましょう。
解体業者が処分場に持って行かず産業廃棄物業者に託す場合は、処理委託契約の締結とマニフェストの発行が義務になります。出典:石綿含有廃棄物等の適正処理について(環境省)
⑥整地
解体後の敷地は、土の中などに産業廃棄物が残っていないか必ず確認をしましょう。敷地内全て確認ができたら、土などを平らにならします。
整地する場合は、次にその土地が何に使用されるのか確認をしておくのもポイントです。次に使用する用途に合わせた整地をすると、以降の作業が楽になるでしょう。
アスベスト解体の注意点
アスベストを含有している建造物の解体では、いくつかの注意点があります。注意点を把握しておくことで、きちんとした対応ができるでしょう。アスベスト解体の注意点を紹介します。
事前調査を入念にする
アスベストが含有されている可能性がある建造物は、事前調査を入念に行ないましょう。調査がずさんな場合、通常の解体工事中にアスベストが発見されることがあります。そうなると解体工事は一時中断になり、再度調査や届出の申請など行なわなければいけません。
また、通常の解体工事とアスベスト含有建造物の解体工事では、費用が大きく異なります。そのため、費用が莫大になる可能性も否めません。
アスベスト除去の資格をもつ業者を選定
アスベストが使用されていた時期に建てられた建造物を解体する場合、アスベスト除去の資格を持つ解体業者に依頼するのが一番です。
解体業者の中には公式サイト等で、アスベスト除去の可否が記載されていることがあります。近隣の業者で選定したい場合は、電話などで問い合わせを行ないましょう。
悪徳な業者を選ばないように注意
解体業者の中には、悪徳な業者も存在します。一例として電話やメールのみで見積もりを決めたり、事前調査がずさんな場合は注意しましょう。複数の業者に見積もりをお願いして、選定するのがおすすめです。
中には他の業者の見積もりを見せた際に、「安くできますよ」などのうたい文句を言う業者もあります。アスベスト除去作業では一定の費用が必要なので、そういった言葉も真に受けない方が良いでしょう。
大気汚染防止法
お願いをする解体業者がしっかりしたところなのか否か、はっきりさせたい方も少なくないでしょう。事前調査でアスベストの有無を必ず確認するようにと、2016年6月に大気汚染防止法が改正されました。
大気汚染防止法は受注者がアスベストの有無をしっかりと確認し、なおかつ結果を解体工事現場および発注者に書面で残すことが義務付けられています。これらをおろそかにする業者は、信頼度が低くなると考えて良いでしょう。出典:大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行等について(環境省)
分離発注
解体工事をお願いする施主が費用を抑えるためのポイントとして、分離発注にも注目する必要があります。分離発注とは解体業者とアスベスト工事を別業者に依頼することで、依頼する際に解体業者を経由すると中間マージンが請求されます。
そのため、解体業者とアスベスト工事業者を別箇でお願いする場合は、施主自身が両者にお願いすることで中間マージンが請求されません。
アスベスト解体は子供に配慮する
アスベスト解体を行なう場所の周辺に、保育園や幼稚園、小学校などの建物がある場合は子供への配慮も忘れないようにしましょう。
アスベストは体内に入り込んでも残ってしまうので、幼い子供が吸い込んでしまうと大変危険です。近隣に子供が集まる場所がある場合は、地区の環境対策課に安全性を確認してもらいましょう。
アスベスト業者と解体業者でうまく連携する
アスベスト除去作業は基本的にアスベスト除去専門の業者と解体業者が別々で行なうことが多いため、両者の連携が作業スピードなどに繋がります。
施主は両者がしっかり連携し合っているのかを確認し、その上で発注をかけるようにするのが最適でしょう。両者の連携が上手く行かないと、工期が遅延したりトラブルの元になりかねません。
アスベストを含む建物・住宅の解体工事は慎重に!
アスベストは過去に評価されたことで、古い建築物には使用されている可能性が高い物質です。現在では健康被害が危惧されているため、除去には万全を期して行なう必要があります。
アスベストの除去工事を成功させるためにも、アスベストの危険性や事前調査の必要性、しっかりと対策をした除去作業を徹底する他ありません。アスベストを含有した建物の解体を行なう場合は、注意をして作業を進めましょう。
この記事のライター
N.R