日本は地震大国と呼ばれて久しく、数年おきに大地震が発生しているのが現状です。
私たちが住んでいる地域で大地震が起きない保証はありません。住居に被害が発生することは想定しておくべきです。
実際に住居が地震の被害にあってしまった場合、どこにどのような支援を求めれば良いのかわからない方も多いでしょう。
今回は、地震による被害を受け解体工事を検討する場合、自治体に支援を求めるために必要な手続きについて解説します。
この記事を読むことで、もし住居が地震による被害を受けた場合に取るべき行動を知識として得ることができるでしょう。
また、公費解体・自費解体についても解説するので、実際に解体工事を行う場合にどちらを選ぶべきかの参考になれば幸いです。
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被災時に支援を受けるためには罹災証明書と被災証明書の取得する必要がある
地震による被害を受けると、それまで住んでいた家屋に住み続けることが難しくなり、解体を検討する必要があります。
しかし、目の前の現実に、何から手を付けるべきかわからなくなるかもしれません。
落ち着いた行動をなどと気軽なことはいえませんが、震災の混乱から日常生活に戻るために各市町村も復興のための支援に動き出しているはずです。
行政の支援を受けるために、まずは「罹災証明書(り災証明書)」と「被災証明書」を発行するための準備を行うことから始めましょう。
罹災証明書とは?
罹災証明書とは、自然災害が発生した場合に住居が被害にあった場合に、自治体がどの程度の被害があったかを認定してくれる書類です。
地震や台風といった自然災害については自治体が発行し、火災による被害の場合は消防署が発行します。
受付後に、自治体の職員によって「住居被害認定調査」を行い6つの区分で被害の程度を判定します。
・災害の被害認定基準
被害の程度 | 全壊 | 大規模半壊 | 中規模半壊 | 半壊 | 準半壊 | 準半壊に至らない |
損害基準判定 | 50%以上 | 40%以上50%未満 | 30%以上40%未満 | 20%以上30%未満 | 10%以上20%未満 | 10%未満 |
参考:災害に係る住家の被害認定
申請を受け付けている場所は各自治体によりさまざまで、「税務課」であったり「危機管理課」「庶務課」や「防災安全課」などが多いです。今のうちにお住まいの自治体のホームページなどで確認をしておくと良いでしょう。
申請時に必要となるのも自治体によって異なりますが以下の物が多いです。
・罹災証明申請書
・身分証明書
・印鑑(自治体による)
・被害の状況がわかる写真など(自治体による)
・建物の図面(提出できる場合のみ)
罹災証明書の申請は地震発生時から2ヶ月から6ヶ月以内となっていますが、過去の大規模震災時には期限が延長されることがありました。
印鑑や身分証明書、被害証明のための写真撮影をすぐに用意することが難しい場合もあるでしょう。しかし、ある程度の時間的猶予があるので焦らずに用意をすることが大事です。
被災(届出)証明書および罹災届出証明書とは?
被災届出証明書とは、「人と建物以外の不動産もしくは動産」(車や家財道具、カーポートや堀など)の被害の届出があったことを各自治体が証明するものです。
被害の程度については判定しないため、自治体の職員による現地調査は行われないため即日発行が可能です。
各自治体によっては被災(届出)証明書ではなく罹災届出証明書の名称で発行している場合があります。
罹災届出証明書とは、罹災証明書を申請した際に発行され「罹災証明書を申請した」ことを証明できる書類です。
多くの自治体では罹災証明書の発行手続きをすることでこちらの書類を発行してもらえますが、別々に手続きが必要な可能性もあります。そのため、今のうちに各自治体のホームページなどで確認しておいた方が良いでしょう。
被災届出証明書は即日発行が可能なため、被災者支援を受けるために罹災証明書の代用として利用できる場合があります。
罹災証明書の発行に時間がかかっている場合には被災届出証明書で代用が可能か確認をとると良いでしょう。
被害状況を写真で記録しておくことが大事
罹災証明書を発行する場合、提出資料として被害状況を写真で収めておく必要があります。
また、保険会社に請求する際にも役立ちますので、地震が落ち着いてから片付けを開始する前にはスマホでも良いので写真を撮っておきましょう。
撮り方としては、家の外からの写真と内部からの写真を複数収めておくことが大事です。家の外は4方向から撮るようにして、浸水があった場合には浸水の深さがわかるように撮りましょう。
家の内部では、「被災した部屋の全景」と「被災した箇所個別」の写真を撮っておきます。近年では震災対応の教訓が各自治体で共有され、震災時には被災状況を収めた画像を窓口で提示するだけで証明書が発行された事例もあります。
ただし、写真撮影のために倒壊の恐れがあったり、浸水している家屋の内部に入ることは絶対にやめましょう。
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熊本地震での罹災証明書発行の事例
阪神大震災や東日本大震災など、数十年にわたって大規模災害が発生した結果、近年では災害時のノウハウを各自治体で共有するようになりました。
そのため、近年に起きた地震災害では、被災支援を受けるために迅速な罹災証明書の発行体制が取られる自治体が増えてきているのです。
ここでは平成28年4月に発生した熊本地震における各自治体の対応を例に、災害時における罹災証明書発行の実例を紹介します。
罹災証明書の受付と発行時期は自治体によって差があった
被災証明書の交付については「災害対策基本法」においては「遅滞なく」発行するように定められていますが、具体的にいつからとは指定されていません。
非常時なため仕方がありませんが、各都道府県や市町村によって受付開始時期と罹災証明書の発行時期に差が生まれました。
地震発生から7日以内に申請の受付を発行を開始している市町村がある一方、受付を開始するまでに16日以上を要している自治体があったのです。
このように罹災証明書の受付と発行時期に差が生まれた理由としては、自治体の被災状況の差と受付の体制の違いによるものでした。
被災者からの申請を待たずに被災地区内の全住居を調査したり、被災地区の調査完了後に一括して発行した自治体は期間が長くなったとされています。
罹災証明書の発行をスムーズにするため工夫している事例
一部の自治体では、罹災証明書をスムーズに行うために独自の工夫を行っている自治体もあったので紹介します。
熊本県甲佐町では、申請者による混雑を緩和するために仮設のプレハブ庁舎を設置したために円滑な申請ができました。
熊本県宇城市の混雑緩和策として、受付のために来庁された被災者に対して、無料通話アプリを活用した事例があります。窓口の混雑状況の情報をアプリで伝えて待機している方が長時間待つ必要なく発行することが可能でした。
また、自治体の職員は避難所の開設や災害救助活動なども行っているため、熊本県の行政書士会が窓口業務の対応を行った他、罹災証明書の申請代行も行ったと言われています。
このため、一人暮らしの高齢者などの方や窓口に出向くことが難しかった被災者も支援を受けることができました。熊本地震での教訓が生かされ、大阪地震などの地震災害でもさらに被災者支援の体制が強化されています。
参考: 大規模災害時における罹災証明書の交付等に関する実態調査
地震による解体工事では公費解体と自費解体の2種類がある
罹災証明書が発行され受け取りが完了することで、家屋の解体工事に移ることができます。地震災害による家屋の解体工事を大きく分ける公費解体と自費解体の2通りの方法が存在します。
ここでは、自費解体と公費解体の特徴を解説いたしますので、もしもの時の参考になれば幸いです。
公費解体とは
公費解体制度とは、自然災害で被災した家屋を所有者に代わり自治体が解体および撤去を行う制度となっています。
基本的には建物全てを解体工事する場合に適用され、部分解体やリフォームの場合は対象にはなりません。
対象となる建物は、個人の住居および中小企業の所有物で、罹災証明書にて全壊の判定を受けた建物です。
東日本大震災や熊本地震といった大規模災害では半壊以上が対象となる場合もあり、災害規模によっては対象範囲は緩和する傾向がありました。
対象の範囲として地下室や基礎部分、塀なども含めるかは自治体によって差異があります。
公費解体は費用負担がないが時間がかかる
公費解体が適用された場合のメリットとして、所有者の金銭的負担が一切なくなるということが挙げられます。
生活再建を早めるという意味では、自己負担せずに解体工事が行えるというのは何よりのメリットとなるでしょう。
デメリットとしては解体作業のスケジュールが長引きやすいということがあります。熊本地震では、公費解体の対象は建物3万6,000棟にもなり99,9%の解体工事が完了するのに約2年を要しました。
原因として、基本的に公費解体は、被害規模の大きい建物から解体作業が開始されることからです。
他にも、所有者が不在の建物や住宅ローンが終わっていない住居などは手続きに時間を要するため、長引きやすいので注意しましょう。
自費解体とは
自費解体制度は、所有者が家屋の解体工事や撤去を行ったあとで費用を自治体に保証を請求する制度です。
公費解体まで建物をそのままにしておけない方などはこちらを採用した方が早めに解体工事を行うことができるでしょう。
制度が適用される期間内であれば、業者の選定から解体工事を任意のタイミングで行えることがメリットです。
費用負担額に関しては一律で全額の保証を求められるわけではありません。基本的には自治体が設定した上限があり、工事費用が上限を超えている場合は自己負担が発生します。
そのため、自費解体を選択する場合は信頼できる業者を選ぶことが非常に大切です。相見積もりが可能であれば行った方が良いでしょうし、見積もりで気になる部分があれば質問を行って疑問を残さないようにしてください。
自費解体は解体後に補助の申請ができる
東日本大震災・熊本地震の場合では既に解体工事を行った後からでも、自治体に申請することが可能でした。
解体工事が完了し、解体業者に解体費用を支払った後に申請する場合は以下の提出資料が必要です。
・罹災証明書
・解体工事にかかわる契約書・見積書。領収書
・解体工事での廃棄物処理を証明するマニフェスト伝票
・解体前と解体工事中・解体工事後の写真
自治体によっては住居の見取り図なども必要になる場合があるため、自治体のホームページなどで確認しておくと良いでしょう。
先に解体工事を行ったものの、提出資料に欠けがあり補助が認められない場合は高額な負債だけが残る事になってしまいます。
自費解体を行う場合には、解体工事に関わる書類などは必ず保管しておくことを忘れないでおきましょう。
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被災状況に応じては応急修理制度を利用する方法もある
災害による家屋の解体工事で、自治体の支援を受けるためには罹災証明書が重要であることは上記で説明しました。
しかし、大規模な震災にあっても公費解体・自費解体の対象となる家屋は被害状況が半壊以上となっています。
それでは、損壊状況の基準により自治体の支援を受けられなかった場合はどうしたら良いのでしょうか。
この場合は応急修理制度というものを活用することで、自治体から支援を受けることが可能です。それぞれの制度について詳しく見ていきましょう。
応急修理制度について
応急修理制度とは、一部損壊をのぞいた世帯に対して住宅修理費を自治体が支援する制度です。所得制限がありますが、最大59万5,000円でまでの支援が受けられます。(準半壊であれば30万円まで)
応急修理制度の対象となる世帯は、多くの自治体では以下の要件を満たす必要があります。
・災害により大規模半壊から準半壊の被害を受けた方
・応急修理により仮設住宅・避難所を利用する必要がなくなる方
・自己負担で応急修理が出来ない方
災害規模や自治体の対応により対象となる損壊状況に差異がありますが、おおむねこのような要件となっている場合が多いです。
修理の対象となる箇所は屋根などの基本部分とドアなどの開口部や、上下水道やトイレなど生活する上で必要になる部分が対象となっています。
損壊状況が大規模半壊であった場合は、被災者生活再生支援金を併用することも可能です。
東日本大震災や熊本地震といった大規模災害では、公費解体の対象件数が数万件におよぶこともあり、政府は応急修理制度の活用を呼びかけています。
応急修理制度を利用した場合は、避難所や仮設住宅を利用する必要が無いため自治体としてもメリットがある制度です。
地震の被害にあった場合は罹災証明書を発行することが大事
災害から一日でも早く日常に戻るために、まずは被害の状況を自治体に認定してもらうことが重要となります。
罹災証明書を発行してもらうことで、住居を解体工事するかしないかの判断材料とすることにもつながるでしょう。
解体工事を行う場合は公費解体と自費解体を選ぶ必要がありますが、解体にかかる費用と時間に差が生じるので慎重に検討することが必要です。
生活を再建するためには金も必要ですが、解体工事に時間が長引くと仮設住宅といった仮住まいの時間も長引きます。
今のうちに両者のメリットとデメリットを把握しておくことで、実際に災害が発生した場合に検討する材料が増えるのではないでしょうか。
平時から災害のための備蓄の必要性が叫ばれていますが、被災時に受けられる支援について知ることも災害の備えの一つになると思います。
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