近年、時勢の変化により旅館や温泉の廃業件数が増加しています。お客の減少や高額な耐震工事費用といった問題から、旅館の経営を断念せざる得ないことが増えてきました。
旅館の解体工事といっても、解体工事をするまでの手順が分からないオーナー様もいるのではないでしょうか。
そこで、今回は旅館を解体工事する手順と費用を、実例を交えながら紹介したいと思います。
旅館や温泉地の解体工事には、国や自治体が助成金や補助金を出す事例も多くあります。近年で交付された支援事業や助成金を紹介しますので、参考になれば幸いです。
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旅館の解体工事は高額になる場合も多い
旅館の解体工事費用は、旅館の構造や築年数で左右される部分が多いです。
比較的小さな旅館ならば数百万で済む場合もありますが、築年数が古い建物は注意が必要になります。
古い旅館の場合は工事中に倒壊の危険性があったり、アスベストが使用されている場合があります。そのため工事費用が高騰する可能性があるので、大きさで判断しない方が良いでしょう。
旅館の解体工事事例
実際に施工された解体工事の事例を紹介します。
場所 | 宮崎県高鍋市 |
解体費用 | 900万円 |
構造 | 鉄構造 |
階数 | 3階建て |
築年数 | 45年 |
面積 | 1360㎡ |
解体目的 | 整地 |
その他 | 井戸あり |
旅館の解体工事費用はアスベストの有無以外でも、立地場所や井戸の有無といった部分で上下するので注意しましょう。
解体業者との見積時には、アスベストが使用されているかなど旅館の状態をしっかりと伝えておく必要があります。
放置されたままの旅館は自治体が主導で解体する場合もある
廃業となった旅館が放置されている場合は、自治体が主導で解体工事を行います。
一般家屋の空き家や廃屋のように、放置したままでは倒壊の危険がある建物の場合は行政が代行して解体工事を行うことが可能です。
これを所有者がいる場合は「行政代執行」といい、所有者不在の建物は「略式代執行」といいます。
自治体が主導で解体工事を行った事例
新潟県妙高市で略式代執行が行われた事例を紹介します。
建築年 | 昭和33年頃 |
構造・面積等 | RC造他・4階建て(約1,080㎡) |
状態 | 建物の木造部分の一部損壊・外壁等の部材が飛散 |
解体等の費用 | 約3,960万円 |
この旅館は平成22年に廃業、所有法人も破産したまま放置されていました。
その間に積雪による屋根の崩落があり、妙高市が破産者に撤去の勧告を出しましたが放置が継続。
このままでは倒壊の可能性があり、景観の点からも観光への影響が懸念されるため妙高市は略式代執行を決定しました。
解体工事費用は、基本的に所有者の全額負担です。ですが、所有者が不在の場合や所有者が破産している場合は自治体が負担せざるをえません。
解体費用が高額である場合は、国が自治体に補助金を出す場合があります。また、解体後の土地を売却といった形で費用を回収しているようです。
旅館の解体工事費用は国や自治体も支援に乗り出している
廃業した旅館が放置されている事例の増加から、国も支援に乗り出しています。
観光庁が令和2年度の補正予算に盛り込んだ「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」では廃屋撤去費も盛り込まれました。1件につき最大で1億円までの補助が得られます。
この事業は観光地の支援が目的です。解体工事後の土地を観光地として再利用する場合のみ補助金を得られる制度です。
時勢の変化に対応した事業転換にも補助金が出る場合がある
廃業となった旅館の解体工事以外では、時勢の変化への対応する事業転換に対して補助金が出る場合があります。
「事業再構築補助金」では中小企業の通常枠で「100万円~6,000万円」「補助率2/3」が補助されました。
旅館の場合は、宴会場を減らして個室を増やしたりワーケーションスペースを設けるといったものが承認されています。
注意点として事業再構築補助金は事業の再転換や、新分野への展開などに対しての補助金です。
そのため、廃業による解体工事やただのリフォーム工事は補助金が出ないことに留意してください。
旅館の解体は長期的な計画を立てなければならない
旅館の解体工事を行う場合は、旅館を利用されているお客様のことを考えスケジュールを考えなければいけません。
1年先の予約をなされるお客様もいますので、遅くても2年前には解体工事の計画を建てる必要があります。
廃業による解体工事ではなく、部分解体やリフォームの場合でも事前告知を行うのは義務といえるでしょう。
廃業する場合の資産の整理には時間がかかる
旅館を廃業する場合は資産の整理や、税務上の手続きを行う必要があります。資産の売却先を検討したり、確定申告を行うため時間がかかることに気を付けてください。
旅館や温泉地特有の資産としては、温泉用ポンプや温泉処理設備があります。これらは温泉地の他には銭湯以外の業者で利用されますので、専門の業者に買い取ってもらうことが可能です。
旅館の立地条件しだいになりますが、建物自体の売却も検討したほうが良いでしょう。もしほかの業者に売却できれば、高額になる解体費用そのものを浮かせることができます。
売却先が見つからなかった場合でも、解体後の土地なら買い取ってくれる可能性もあります。
税務上の手続きについて
また、旅館を廃業する場合は解散確定申告と清算確定申告を行わなければなりません。
解散確定申告とは、事業を始めた年度から解散日までの期間の確定申告です。普段行っている確定申告と同様のものになるため問題もなく行えるでしょう。
清算確定申告とは、資産と負債の整理が終わり残った資産が確定した時に行います。
どちらも廃業するためには必須の手続きとなるので、しっかりと行いましょう。
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旅館の解体工事の流れ
旅館や温泉地の解体工事の手順は、一般家屋の解体工事と同じ流れで行われます。
事前準備・現地調査・見積もり提示・契約
解体業者が現地調査を行う前に、旅館内に残った不用品の処理を行いましょう。自分たちで不要なものを処分することで、スムーズに解体工事を進めることができます。同時に電気やガスといった各種インフラの停止手続きも行いましょう。
次に解体業者から見積もりを受けるために、現地踏査を依頼しましょう。建物の構造やアスベストの有無、井戸があるかなどで見積金額は上下します。
一般の解体業者と同様に、複数の業者から見積もりを受けることが可能です。費用面だけではなく、工事のスケジュールなどを比較することで最も良いと思った業者と契約できます。
解体業者を選ぶポイントとしては、旅館や大型の商業施設の解体経験の有無です。
旅館や商業施設の解体経験がある業者の方が、スムーズな解体工事が期待できるためです。
工期が伸びれば追加費用が発生する可能性も懸念されます。解体工事を依頼する場合は旅館の解体工事の経験があるか確認するようにしましょう。
近隣住民へのあいさつ・解体工事・廃棄物の処分・整地と清掃
解体業者との契約が完了したら、近隣の住民へあいさつを行いましょう。解体工事では騒音や振動の発生は避けられないものです。そのため事前にあいさつ回りをするのは最低限の礼儀ともいえます。
実際に解体工事が始まればオーナー様がすることは特にありません。解体工事で出た各種廃棄物も解体業者がルールに乗っ取り処分します。最後の整地までにやれることは、工事の進行を確認するぐらいでしょう。
注意点としては、解体工事中に現地調査でも見つからなかった埋設物が出る可能性があります。その場合は追加費用が発生する可能性は覚えておいてください。
旅館の解体工事には国や自治体の支援を受けることができる
旅館の解体工事の費用の解説と、国や自治体から受けられる支援についてを紹介しました。
築年数が古い旅館は解体費用が高額になることが多いです。解体する必要があるのに高額な解体費用の用意ができない場合、自治体に相談してみることをおすすめします。
また、近年の情勢の変化に対応した事業転換にも、国から支援を受けられることも紹介しました。
逆境が吹き荒れる観光業界ではありますが、国や自治体の支援を活用することで困難から立ち直る糸口を見つけられるかもしれません。
助成金や事業制度を利用する場合は審査に時間がかかります。旅館の解体工事も開始するまでには時間が必要なため、余裕をもったスケジュールで動くようにしましょう。
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