「漆喰」と聞いて、どんなはたらきをしているものなのかピンと来ない方も多いかもしれませんが、漆喰には住まいを心地よくする機能がたくさんあります。
機能性や特徴以外にも、塗り方ひとつで表情もガラリと変わるため、奥が深いものなのです。
日本の伝統的な家屋の壁にも長い間使われてきた漆喰ですが、近年では外壁以外にもさまざまな場所に使われるようになってきました。
その代表格が家の中の壁です。漆喰と聞いて名前はなんとなく知っているけど、具体的にはあまり知らないという方にも、ここでは基本的なことからお伝えします。
漆喰とは
漆喰とは、水酸化カルシウムを主原料とした塗り壁材です。 水酸化カルシウム(消石灰)というのは、石灰石を焼いて水を加えたものです。
石灰石は、サンゴ礁がルーツのものです。サンゴが長い年月を経て地殻変動などで隆起し、陸地になったものがやがて石灰鉱脈となり、そこで採掘したものが石灰石です。
そして、この消石灰にのりやスサを加えたものに水を練り込んだのが漆喰となるのです。
※のりやサスは主に繊維質のものがつかわれることが多く、「つなぎ」の役割を担っています。のり成分については時代や地域によって使われているものが異なっています。
呼吸する壁
消石灰は、二酸化炭素を吸収し徐々に石灰石へと戻り、次第に固まっていく性質があります。
消石灰から石灰石に戻るまでは100年を超えるといわれています。時間をかけてじっくりと変化し、呼吸をしてくれることが部屋の中を心地よくしてくれる理由の一つとなっています。
漆喰壁が呼吸をすることで、冬場の乾燥や夏場の湿気を程よく緩和する働きがあるため、調湿機能に優れた漆喰壁は、通年で部屋の湿度を快適に保ってくれます。
シックハウス症候群
シックハウス症候群の主な原因は、壁紙や木材に使用されている接着剤から揮発するホルムアルデヒドという物質が深く関係しているといわれています。
そのホルムアルデヒドを体内に取り込むと、のどの痛みやアレルギー症状を引き起こしてしまい、健康を害する原因となるのです。
シックハウス症候群は、建築材の使用成分の躍進とともに少なくはなっているものの、細かい事例などはまだまだ後を絶たないのが現状です。
部屋の壁に漆喰を使用することによって、放出されてしまったホルムアルデヒドを漆喰が吸着し、再放出させません。そのため、漆喰を使用した家は体に優しくて快適な居住空間を生み出すのには最適といえるでしょう。
バリエーションが豊富
漆喰は仕上げのバリエーションが豊かなことも魅力の一つです。コテで押さえて仕上げる漆喰は、左官職人がコテで押さえてもDIYにて自分で押さえても世界に一つのものとなります。
昔の仕上げは、コテ押さえ仕上げといって、漆喰を壁に塗り付け、コテで押し当てて薄く引き伸ばし、漆喰の面をフラットにするのが主な手法でした。中には、左官職人の技術によって鏡のように光沢を出す磨き上げという塗り方もありました。
現在では、奥行き感のあるデコボコとしたヨーロッパ調の仕上げや、あえてコテの跡を残したラフな仕上げも人気です。
左官職人が高い技術で平らに仕上げるのではなく、DIYなどで作った壁のデコボコ感、コテの跡が残ってしまった壁の表情などの味のあるものは、雰囲気を味わうのにもとてもよいものです。
昔から使われていた理由
漆喰は、もともと防火性の高いことと明光性があり、お城や武家屋敷などの壁にも広く使われていました。
そして、現在では優れた調湿性やシックハウス症候群による影響を緩和してくれる作用などから再び注目され、世間一般にも壁材として使われることになりました。
よりよい居住空間を求める現代人にとって、シックハウス症候群対策の一つとして漆喰を採用したといった声は多くなってきています。
優れた機能と、表情を兼ね揃えた漆喰は、このようにいつの時代にも住まいと暮らしの中で、人々にとって選択される壁材の一つとして活躍し続けています。
漆喰のメリット
耐久性が強い
ビニールクロスやその他の壁紙に比べると耐久性は非常に高いです、漆喰は100年もつといわれています。
古くはお城や武家屋敷などにも使われていたほどで、ビニールクロスなどは経年劣化により汚れたり、剥がれてきたりすると張替えをしなければなりませんが、漆喰はその必要がありません。
調湿機能がある
ビニールクロスや壁紙に比べると、漆喰は調湿性能があります。漆喰には細かな穴があり、そこで湿度をコントロールするのです。
湿度の高い日は湿気を吸着し、反対に湿度の低い日はそこから放出してくれるため、調湿効果に優れているといわれているのです。
難燃性の材質
漆喰は燃えにくい素材です。建築基準法で定められた不燃材料で耐火性があり、ビニールクロスとは違って漆喰は火の回りも遅く、防火対策としても使用されています。
また、燃え上がった場合には、自然由来のため有害物質などの発生の可能性もビニールクロスなどに比べると低いのも、特長の一つです。
消臭効果がある
漆喰には消臭効果があります。石けんよりも強いph値の高い強アルカリ性であるために、カビや細菌を防いでくれます。それに加えて、細かい穴が多数あいているので、酸性の匂いを吸い取ることで、本来のアルカリ性と中和し消臭してくれます。
抗菌効果がある
漆喰は、抗菌作用にも優れています。前述したようにph値が高いアルカリ性の性質があるため、カビや細菌の発生を防ぐ効果があります。
光を取り込んで反射する
漆喰は、光を取り込み反射することで、白く美しく輝いて見えます。長い年月によって硬化した炭酸カルシウムの結晶に、窓から入った太陽の光が乱反射して白く見えるのです。
漆喰のデメリット
施工に手間と時間がかかる
漆喰の施工は、手間と時間が必要です。現代の建築は改良と技術の躍進とともに手間と時間をかけないような方法がとられています。しかし、昔ながらの漆喰はそういうわけにはいきません。手間暇がかかる分メリットとなるものも多いのですが、施工に時間がかかってしまうこと自体はデメリットとなるでしょう。
費用がかさむ
漆喰は材料費だけではなく、手間と時間がかかってしまうため、その分左官職人などの人件費も高くなります。一般的なビニールクロスや壁紙を一人で貼るのが概ね20平方メートルに対して、漆喰は基本の押さえ仕上げでも3平方メートルほどあります。凝った漆喰壁になればなるほど歩掛(ぶがかり)も落ちてきますので、仕上げられる面積も当然ながら減り、結果的には手間がかかってしまい単価も上がってしまうのです。
白い粉が落ちてくる
塗りたては表面がざらざらとしているため、漆喰の白い粉が落ちてしまいます。
衣類などに付着する可能性があるため、馴染んでくるまではこまめな掃除が必要です。
汚れが目立ってしまう
漆喰は美しい白色をしているので汚れが目立ってしまいます。水を吸着してしまう性質のため、お茶やコーヒーなどがついてしまうと、しみ込んでしまいます。そうなってしまうと、削るか、塗り足しをするしかありません。
職人不足
漆喰を施工できる職人が年々減少していることで、漆喰そのものの普及が少なくなっているといわれています。漆喰の施工には職人の技術の差が大きく反映されてしまうので、熟練者が減ると漆喰による伝統も先細りとなってしまいます。
珪藻土とは
漆喰は消石灰を原料とした塗り壁材だとお話してきましたが、珪藻土は珪藻という植物性プランクトンの一種で、その死がいが海や湖の底に積み重なってできた粘土状の土です。
珪藻の死がいが積み重なることで黄色や白、灰色の縞模様になるのが特徴です。
耐火性が高く、耐火レンガの原料や七輪に使われることが多く、古くから生活の身近なところで使われていました。最近ではバスマットやコースターとして人気となりましたが、内装の塗り壁として使用されたのは漆喰よりもずっと後の、ここ数十年です。
漆喰と珪藻土はどちらにも調湿効果はありますが、そこだけを見ると、珪藻土のほうに軍配が上がります。しかし、耐久性は漆喰の方があります。そのため、湿度の高い地域に住んでいるのなら珪藻土、耐久性を考えるのであれば漆喰を選ぶことが多いでしょう。
珪藻土壁の特徴
上述した漆喰でも呼吸する壁といった表現を使っていますが、こちらの珪藻土も同じです。
調湿効果があるので、余分な湿度を吸い、乾燥時には吐き出してくれます。
しかし珪藻土の塗り壁は、漆喰と比べると調湿性能は高いながらも、残念ながらJIS規格による試験データに基づく調湿性能は確認できていないのです。
そういう事情もあり、「珪藻土」というもののイメージだけで先走ってしまうと、そこまでの調湿効果は期待できないかもしれません。というのも、仮に塗り壁材に耳かき一杯分の珪藻土を入れたとして、たったそれだけでも「珪藻土塗り壁」と謳えてしまうのです。
内容成分までしっかりと確認しておかなければ、調湿効果を得ることは非常に困難だといえます。
目的による選択
珪藻土の塗り壁にしたい理由を明確にしておくとよいでしょう。
調湿効果だけを期待してしまうと、ものによっては効果を期待できないものもありますが、壁紙のデザインの一部と考えるのであれば、さらに有効に活用できるはずです。用途や目的を明確にすることで、失敗するリスクを抑えることができます。
仕上げの種類
珪藻土壁の仕上げにはたくさんの種類があります。色だけではなく、どんな模様にするかによっても部屋の印象がガラリと変わってきます。
コテの跡を残した塗りっぱなし模様
コテの跡を残すことで、のっぺりとした壁ではなく、立体的な造りになるので、部屋のアクセントとしては申し分ありません。照明や太陽光の影響で陰影ができ、さらに奥行き感が出てきます。
人気の塗り方でスパニッシュ仕上げというものがあります。凹凸が大きく、コテの跡だけではなく、ざらついた面を作るのです。街中のお店などでも、この模様で塗っているものが多く見られます。
ウェーブ仕上げ
波状の模様がついた特殊なコテで仕上げることで、いくつもの波模様が壁につき、照明などの光を和らげる効果が出ます。寝室の一面だけをウェーブ仕上げにすることで、暖かな間接照明のような雰囲気を作ることができ、リラックス効果に期待ができます。
また、緩やかなカーブを連続して描くことで、風の流れを視覚的に表現することもでき、とても涼やかな印象になるでしょう。
木コテ引きずり仕上げ
木コテ引きずり仕上げは、割烹料理屋さんなどで見かける模様です。
あえて木コテで無造作にあてることによって、塗り壁に塗りむらができ、独特な味が出てきます。
櫛引き仕上げ
コンクリートの土間や、スロープなどにも見ることができる模様です。
こちらの手法は昔からあり、日本家屋の文化にも取り入れられていることから、この仕上げを用いることによって和のテイストが出てきます。
スタッコ仕上げ
スタッコ仕上げとは、珪藻土の水分を多めにしたものを、ドロッとした状態のままで壁に塗る手法です。それを引き伸ばしてコテや木片で叩き、表面の珪藻土を起こします。
珪藻土壁のメリット
脱臭効果
生活する上で必ず発生してしまう料理の際のにおいや、たばこなどのにおいなどを吸着して脱臭してくれます。
においの成分は化学物質の分子で形成されていますが、それが湿気に溶け込み、その湿気を珪藻土が吸ってくれるので、一緒ににおいも吸い取られるのです。そして吐き出すときは人間の嗅覚に反応しないほどゆっくりであるため、においを感じることはない、という仕組みです。
耐火性の高さ
珪藻土は耐火性能に優れています。七輪や耐火レンガに使われるほどの耐火性があり、一般的な木材に比べると火事の延焼に強い材料としても注目されています。また、煙の発生を抑える作用もあるといわれています。
調湿効果
珪藻土の最大のメリットは、調湿効果でしょう。この機能は、部屋の湿度を快適に保つために、湿気の高い時には湿気を吸収し反対に湿度が低い時には緩やかに放出していきます。人が快適に過ごせる湿度は40パーセントから60パーセントの間といわれています。きちんとした珪藻土壁はそこを保つので、漆喰とともに「呼吸する壁」といわれています。
珪藻土壁のデメリット
シミや汚れが付きやすい
湿気を吸収する作用のある珪藻土ですが、その反面、お茶やコーヒーなどが跳ねてしまった場合、シミになりやすい性質があります。
色の濃いものを付けてしまった場合には、すぐに拭き取れば問題はありませんが、もし取れなかった場合には、泡状にした漂白剤を塗布し、濡れタオルで拭き取れば、シミは薄くなるでしょう。
しかし一度濃いシミになってしまった場合には、削るか、上から塗り直すしかありません。
粉が落ちてくる
珪藻土はビニールクロスなどとは違い、粘土でできています。乾いた粘土は触ったり、なでたりするとぼろぼろと表面の珪藻土が剥がれてきてしまいます。
つなぎ材の影響で効果が弱まる
珪藻土は漆喰と違い、それ自体は固まりません。そのため、凝固剤を混ぜて施工します。つなぎ材には自然由来のものと、合成樹脂でできた化学物質のものとがあります。
合成樹脂の場合は、つなぎ材が多いとせっかくの珪藻土の無数の穴を合成樹脂のつなぎ材でふさいでしまう可能性があります。そうなれば、美しい珪藻土壁の仕上げであったとしても調湿性は損なわれてしまいます。
珪藻土壁に調湿効果を期待するのであれば、成分などもしっかりと確認する必要があります。
建物の揺れでヒビが入る
漆喰などの塗り壁にも当てはまることですが、ビニールクロスや壁紙に比べると凝固剤が少ない場合などにはヒビが入ることがあります。地震や道路からの振動で建物が揺れた場合には、特にそのような現象が起こる可能性があります。
まとめ
近年のビニールクロスや壁紙のような、建築する際に使用が容易で安価なものと比べると、漆喰や珪藻土などの塗り壁は、非常に手間と時間がかかるものです。
もちろん、近年の建築時術や技法、部材の進歩によって便利で安価なものはたくさん出てきてはいます。しかし漆喰や珪藻土のように、手間と暇が生み出す塗り壁の何とも言い難い独特の表情は、見る者の目を止めるだけではなく、エレガントでノスタルジックな雰囲気を醸し出してくれます。
加えて、自然由来の調湿効果がある材質なので、シックハウス症候群のような現代的な健康被害を及ぼすものを抑える効果も期待できるでしょう。