ビル解体には特別な技術を用い、周辺に配慮して行われます。解体技術は年々向上しており、さまざまな技術や方法で安全に留意して作業は進められます。
今回は、ビル解体に必要な技術や解体方法、また解体業者選びのポイントやビル解体にかかる工事費用の相場と内訳についても解説していきます。
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ビル解体のタイミングはいつ頃?
ビル解体のタイミングは構造によって異なっていて、国税庁の法定耐用年数は鉄骨造で34年、RC・SRC造で47年と定められています。
この法定耐用年数を超えたビルに対しては、融資を銀行側が渋る傾向がみられるため、大掛かりなメンテナンスが困難になります。
このことから、法定耐用年数がビル解体を検討するタイミングの目安の1つだと考えられます。
もちろん法定耐用年数内であっても、ビルの老朽化が目立つようになったら解体のタイミングだと言えるでしょう。
出典:別添3 法定耐用年数|国税庁
ビル解体に用いられる5つの「工法」
ビルの解体は一般的な建物と違い、周辺の建物との距離が近いことや足場を組んでの解体が難しいという特徴を持っています。
このため、ビルの解体には方法が用意されていて、状況や環境に合わせて適した方法が選択されます。
ここでは、ビルの解体方法の代表的なものを5つ紹介します。
1:ブロック解体
ビル解体のスタンダードな方法として利用されているのが、「ブロック解体」です。
タワークレーンをビルの最上階に設置して、ブロック単位でビルを解体しつつ地上に下ろしていく方法で、高層ビルやビルの密集地でも作業が行えるため、多くの現場で用いられています。
騒音が比較的少ない、地震が発生しても安全を保てる、工期が短縮できるなど、メリットが多い方法です。
2:階上解体
「階上解体」は、大型クレーンで重機をビル最上階に持ち上げ、上から下に向かって解体していく方法です。ハイリフト重機が使えない現場や、ビルが密集している場所に適していて、こちらも比較的ポピュラーな解体方法として、多くの現場で用いられています。
作業が終わったら、コンクリートガラでスロープを作り、上から下へと降りていきます。だたし、床抜けや落下、壁の崩落に注意しながら慎重に作業を進めなければいけません。
3:地上解体
ハイリフト重機と呼ばれる特殊な重機を用いることが特徴として挙げられるのが、「地上解体」です。重機を地上に配置し、ビルの上部から解体していきます。
ハイリフト重機の中には、超ロング解体機という、高さ65m程度のビルに対応しているものもあります。地面に重機を置くので、床面の強度に関係なく解体できるという強みもあります。
重機の先にカメラがついているなど、オペレーターの作業がしやすい環境が整っており、安全面にも配慮されています。さらに、騒音や振動が少ないので、周辺に迷惑をあまりかけずに作業を行うことができます。
4:上部閉鎖式解体
「上部閉鎖式解体」は、高層ビルに適した新しい解体方法です。ビルの上部に天井クレーンなどを設置し、移動可能な閉鎖式の解体設備を設置するのが特徴です。
閉鎖空間の中で作業を行い、解体が終わると設備を階下に移動させます。これを上から下に繰り返していくことで、閉鎖空間での作業が進められるため、周辺への騒音や粉塵の飛散防止、解体物の落下による事故を防ぐなど、安全性の強化につなげやすいところがメリットです。
5:だるま落とし式解体
「だるま落とし解体」は、ビルを下から解体をしていき、上階部を下げていく方法です。その名の通り、だるま落としをイメージするとわかりやすいでしょう。「カットアンドダウン工法」ともいわれています。
まずは最下部の柱を切断し、ジャッキを取り付け上階を持ち上げます。解体が終わるとジャッキダウンし、上階を下げる作業を繰り返して作業を進めます。
ビルが崩れるリスクはありますが、景観への影響がなく、粉塵や騒音を抑えることができる解体方法として注目されています。
ビル解体に用いられる4つの「技術」
通常の解体工事とは違い、ビルの解体には大規模解体にふさわしい特別な技術が用いられており、隣接するビルへの影響に配慮したものや安全に解体するためのものとなっています。
ここからは、ビル解体に用いられている特殊な技術を4つ紹介します。
1:油圧ブレー力
「油圧ブレーカ」は、重機に取り付けて岩盤やコンクリートを破砕する装置です。
先端部分がタガネになっていて、タガネ部分を振動させることで部材を破砕していきます。
ビル解体だけではなく、道路工事や基礎工事、トンネル工事や採石場など、あらゆる現場に対応できる技術です。狭い範囲でも着実に作業を進めることができるため、ビル解体になくてはならない技術といえるでしょう。
2:油圧圧砕
「油圧圧砕」は、重機に油圧で稼働する圧砕機を取り付け、解体する部材を重機で挟み込んで圧砕する技術です。
鉄筋コンクリート造になっていることが多いビル解体において、必要不可欠とされる技術の1つでしょう。
大型の重機を使うことも多く、コンクリート造りの柱や梁、基礎なども圧砕することができるのが特徴です。住宅街など、騒音が気になる場所での作業に用いられることもあります。
3:フラットソーイング
「フラットソーイング」とは、床板や舗装など、水平面の部材を切断するための技術です。円形カッター状のダイヤモンドプレートで、オペレーターが歩きながら1人で作業を進めていきます。
切断している刃は高温になるため、水を出して冷却しながら作業するのが大きな特徴です。騒音や振動はなく、ビル解体に限らず舗装修理や目地切り、リフォーム、建築現場でも使われることが多い方法です。
4:ワイヤーソーイング
「ワイヤーソーイング」とは、建築物にワイヤーを巻き付け、高速回転させることで部材を切断する技法です。ダイヤモンド砥粒が埋め込まれたワイヤーをループ状に接続し、ガイドプーリーを用いて切断方向を調整します。
基本的にどのような建築物でも切断可能で、建築物の形状にも左右されません。複雑な建築物にも対応でき、遠隔操作で水中や高所、地下など、あらゆる場所で安全に作業ができるのが特徴です。
ただし、鉄骨や鉄筋の場合は時間がかかるため、油圧圧砕や油圧ブレーカと組み合わせることが多くなっています。
ビル解体で爆破解体を行わない4つの理由
テレビなどでビルの解体方法を紹介する際、海外で爆破解体が行われるシーンが流れることがあります。そのため爆破解体が一般的だと思われがちですが、実は日本では行われていません。
日本で爆破解体が行われていない理由には、日本の環境や建物の特徴が関わっています。具体的に、どのような理由があるのでしょうか。
粉塵による環境面への配慮
ビルを爆破解体すると、粉塵被害が周辺に広がってしまうというリスクがあります。
日本は市街地などにビルが密集しているケースが多く、どれだけ配慮しても周囲数キロメートルに広がってしまう粉塵による被害は避けられないと考えられるのです。
また、粉塵被害は自然環境にも悪影響が出てしまう可能性があることから、環境面に配慮して爆破解体を行っていないとされています。
火薬類取締法による規制
日本には「火薬類取締法」という法律があり、専門の資格を持っていなければ危険な火薬の使用ができないとしています。つまりビルの爆破解体を行うためには、火薬類取締法で定められた専門の資格を有する人間を雇わなければいけません。
このように法律で火薬の取扱いが規制されたことで、ビルの解体に爆破解体を選ぶメリットがなくなったという点も、爆破解体が選ばれなくなった一因といえます。
出典:法令|経済産業省
リスクが高い
火薬類取締法では、火薬の取扱いを専門の資格を有した人間が行うことを定めているほかにも、火薬を使用したことで何らかの被害が発生した場合の罰則も設けられています。
そもそも日本のビルは市街地に密集していることが多く、爆破解体で倒壊したビルそのものによる他の建物や周辺住民への影響が大きくなります。
このような点から、そもそも爆破解体そのものにメリットがない、それどころかリスクが高すぎるため、爆破解体を行わなくなりました。
出典:法令|経済産業省
日本の建物が爆破解体に向いていない
日本の建物は、海外のものよりも頑丈に作られているところが大きな特徴です。老朽化したとしてもある程度の頑丈さは維持しているため、爆破解体する際の火薬の調整が難しいとされています。
このような点も、理由のひとつとして挙げられるでしょう。
3つのビル構造ごとにかかる解体工期や費用相場
ビルの解体の工期や費用相場は、ビルの構造によって異なっているため、それぞれどの程度かかるのかある程度の目安として知っておくことが必要です。
工期は、ビルが頑丈な造りであるほど長くなります。土地売却期間が決まっている場合は、ビルの造りと延べ床面積を確認し、どのくらいの工期が必要か把握しておきましょう。また、アスベストが使用されている場合は、工期が大幅に延びるので注意が必要です。
ここでは、ビルの構造それぞれにかかる解体工期や費用相場について紹介します。
SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造ビル
SRC造ビルは、その他のビルの構造と比較してもっとも頑丈です。そのため、解体工事の工期や費用は高額になる傾向があります。
SRC造ビルの解体工期としては、50坪で約30~50日、100坪なら約60~80日、150坪だと約90~120日です。そして解体にかかる費用相場は、1坪当たり約6万円とされています。
RC(鉄筋コンクリート)造ビル
RC造ビルの場合、SRC造ビルより解体の負担が少ないことから、ある程度工期や費用相場が安価になります。
工期に関しては、50坪で約15~20日、100坪で約30~40日、そして300坪で約50~60日です。解体にかかる費用相場は1坪当たり約4万5千円とされています。
S(鉄骨)造ビル
S造ビルは、その他のビルの構造と比較すると、さらに解体工期や費用相場が安価になる傾向にあります。
解体工期は、50坪で約10~15日、100坪で約20~30日、300坪で約40~50日となっています。費用相場は1坪当たりで約3万5千円です。
工期はアスベストの有無などによっても異なる
アスベスト(石綿)とは、細かい繊維状の天然鉱石であり、耐火性などに優れていたため安価な工業資材として重宝されていました。その使用用途は3千以上ともいわれており、かつては多くの建設現場で使用されていました。
しかし、アスベストそのものには毒性はないものの、飛散したアスベストを吸い込むことで肺がんや中皮腫を引き起こすことがわかり、大きな問題となりました。
現在はアスベストの使用が全面的に禁止されていますが、アスベストを使用した古い建築物は、まだ多く存在しています。そのため、建物の解体を行う際にはアスベストの有無を調査し、都道府県に届出を出さなければなりません。
大気汚染防止法では、「石綿の除去等に係る一連の作業を開始する14日前までに、都道府県等に届出を行い、石綿飛散防止のための作業基準を厳守しなければならない」と記載されています。
有害物質であるアスベストは、対策を行わずに建物を解体してしまうと周辺に飛散し、作業員だけでなく周辺住民にも健康被害を及ぼします。
アスベストが使われている場合は工期がかなり伸びるので、調査は早めに行うのが望ましいでしょう。
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ビル解体費用の5つの内訳
ビルを解体する際にかかる費用には、単純に解体工事にかかる費用だけではなく、人件費や重機の輸送費、アスベスト除去にかかる費用なども含まれています。
どのような費用がかかり、どのような内訳になっているのか、ビルの構造や周辺環境によって費用は変わるので、ひとつの目安として確認しておきましょう。
内訳1:人件費
工事に必要な人数は、ビルの規模によって大きく変わります。人件費は人区×日数となっており、有資格者が多いほど費用は上がります。
さらに、工事を安全に行うために、管理費(現場監督にかかる費用)も必要です。
したがって、人員の数や有資格者の配置が適正であるのか、解体の規模に対して人員は適正であるのかどうかを確認しておくと、人件費が妥当であるのか判断しやすいでしょう。
内訳2:重機の輸送費
重機の使用料とは別に発生するのが、輸送や運搬にかかる費用です。重機は自力で公道を走行することはできないため、トラックなどで運搬する必要があるからです。
内訳は重機を運搬する際に使用する輸送車の走行距離に比例した燃料代、その他もろもろの手配費用といったところです。
業者によっては見積もりの明細に含まれず、後から請求される場合もあるため、確認しておきましょう。
内訳3:養生に関する費用
養生費用は、ビルの規模や工期、周辺環境によって変わります。
ビル解体には、足場や仮囲い、防音シートなど多くの費用がかかります。しかし、養生は解体工事を安全に進めるためには絶対に欠かせないものです。必要以上にコストカットすることは大きなリスクにつながるため、工程表と養生に関する費用が相応であるかどうかを確認しておき、不明な点があれば確認しておくことが大切です。
内訳4:アスベスト除去費用
先にも述べた通り、アスベストが含まれている可能性のある建物の解体には、専門の調査と除去作業が必要となります。
解体や養生も特別な作業が必要になるため、アスベストがあると判明したビルの解体費用はかなり高額になる恐れがあります。
費用の計算はアスベストが使用されている場所の面積に応じた算出となるため、アスベスト有無調査の段階で費用を確認しておきましょう。
内訳5:解体工事費
解体工事費用とは、解体そのものにかかる費用です。
頑丈な造りで危険を伴う工事ほど、費用は高くなる傾向にあります。
解体工事費用には、工事費用そのものや重機の使用料のほかにも、届出に必要な経費など事務手数料も計上されることが多くなっています。
ビル解体を行う際に気をつけたい4つのこと
ビル解体は粉塵や騒音などが出やすい大掛かりな工事となるため、さまざまな面での周辺への配慮や安全面の維持が不可欠です。ビル解体工事で特に気をつけたいポイントを確認していきましょう。
ポイント1:解体業者の、ビル解体に必要な許可の有無を確認
解体作業を行えるのは、建設業、とび・土木工事業、解体業の3業種のみです。
これらの業種であれば解体作業を行えますが、500万円以上の費用がかかる場合は、さらに建設業の許可が必要になります。
ビルの構造や規模によって費用は変わるので、500万円以上かかる場合は、建設業の許可がある業者を選びましょう。
さらに、産業廃棄物の運搬には、産業廃棄物収集運搬業の許可も必要です。産業廃棄物の運搬だけ別の業者に依頼することもできますが、この許可も持っている解体工事業者を選ぶと、スムーズに作業を行えるでしょう。
ポイント2:業者の繁忙期は避ける
解体業には繁忙期があり、主に12月から翌年の3月にかけての時期が該当しています。繁忙期に解体業者に依頼すると、費用が割高になってしまう可能性があるだけでなく、そもそも受注自体してもらえない恐れもあります。
割引交渉にも応じてもらいにくいなどのデメリットもあるため、スムーズに受注してもらうためにも繁忙期を避けることがおすすめです。
ポイント3:近隣への安全対策や配慮を行う
ビルの解体工事は、どれだけ注意を払っていても周辺に迷惑をかけてしまうことになるため、業者とともに近隣住民への説明や配慮を行うことが大切です。
工事前には業者と施主の両者そろって近隣住民や施設に挨拶回りをして、工事の内容や工期などの説明と、迷惑をかけてしまうことの謝罪をしておくことで、のちのちのトラブル予防にもつながるはずです。
ポイント4:地中埋設物を確認する
ビルが建っている土地に地中杭や埋設物があった場合、必ず撤去しておかなければいけません。
撤去せずにビル解体後の土地を売却しようとすると、トラブルになってしまう可能性があるためです。
事前に地中埋設物の有無を確認しておくほか、予想外の埋設物が出てきた場合は、すぐに施主に連絡してもらうよう業者にお願いするなどの対策をしておきましょう。
ビルの解体費用を抑える4つのコツ
ビル解体工事はどうしても高い出費になりがちですが、費用を抑えるポイントはいくつかあります。
これらのコツをしっかり押さえてくことで、見積もりの段階から費用を抑えやすくなり、安心して工事を依頼できるでしょう。
1:複数の業者から相見積もりを取り、金額や内容を比較する
見積もりは、できるだけ複数社に依頼しましょう。手間や時間はかかりますが、費用や工事内容を確認するのはとても重要です。
複数社に見積もりを依頼することで費用の相場もわかり、適正な価格も知ることができます。交渉もしやすくなるでしょう。
見積もりを依頼する際は、費用の内訳を把握することが大切です。あとから追加費用を請求されないよう、しっかり工事内容と費用を確認しましょう。
複数社に見積もりを依頼しても、値段だけで業者を選んではいけません。なぜ安い費用で作業が行えるのか確認しないと、大きなトラブルになる可能性もあります。工事内容と費用を確認し、信頼できる業者を選びましょう。
2:現地調査に立ち会う
見積もりの際に現地調査に立ち会うと、不明確な費用や疑問点をその場で解消できます。特に外観調査のみで見積もりを出す業者の場合は、どのような作業をしてどの程度の費用がかかるのかがわからないため、現地調査に立ち会って確認することが必要です。
ほかにも着工後のトラブル回避にもつながるため、費用を抑えるだけを目的にせず、さまざまな意味で現地調査にはできる限り立ち会うべきといえます。
3:ビルの図面を見せる
ビルの図面がある場合は、見積もりの際に業者に提出すると、正確な見積もり価格を提示してもらうことが可能です。
図面がなくても見積もりの提示はしてもらえますが、解体しないとわからないなど細かい部分は、業者が余裕を持たせた金額で提示してくることがあります。
曖昧な部分が多いと費用が高くなりやすい傾向があるため、安い費用で解体してもらいたい場合はビルの図面を見せることが効果的です。
4:下請け業者に直接依頼する
ビルの解体を依頼する際、大手建設会社などを仲介すると、そこからは現場監督が派遣されるだけであり、実際に工事を行うのは下請け業者です。すると、中間マージンが発生するので費用が高くなる傾向にあります。
したがって、費用を安く抑えたい場合は、直接下請け業社に依頼しましょう。下請け業社がわからない場合は、自社で解体作業を行っている会社を選ぶとよいでしょう。
たかが中間マージン、とは思うのは禁物です。ビルの解体工事には高額の費用がかかるため、その中間マージンともなると相当な金額になるからです。
下請け業者に直接依頼することで中間マージンを安く抑えられれば、結果的に費用も安くなる可能性があるでしょう。
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ビルの解体方法についてしっかり理解しよう!
ビルの解体工事を行う際には、さまざまな工法や技法があります。さらに、ビルの規模や周辺環境によって、工期や費用も大きく変わります。アスベストが使われている場合は、工期や費用も大幅に増えるため、早めに確認することが重要です。
また、費用を安く抑えることも大切ですが、解体には安全性が求められるため信頼できる業者に依頼するようにしましょう。