亡くなった親族から建物を相続すること自体はそうめずらしいことではないですよね。
相続したはいいけど、すでに住まいがあって引っ越す必要がないから、建物を取り壊して更地にしてから貸したい。または土地を処分したい。そんな時にはどうしたらいいのでしょう。
生前贈与は別ですが、たいていの場合相続する時というのは、被相続人が亡くなった後です。悲しみの中執り行われる葬儀、金融機関や生命保険会社への連絡。そして相続の話し合いと何かと忙しく、特に初めて体験する場合は対応に困ってしまいます。
いざという時に、「知らなかったので面倒なことになった」、「知っていれば損しなかったのに」ということが起きないよう、あらかじめ基本的な流れと気をつける点をおさえておきたいですよね。 この記事では建物の相続から解体までの流れと、しておくべき事を詳しく説明しています。
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知っておきたい相続の基礎知識
誰でも「相続税」という税金があることを知っている人は多いと思います。
では、あなたが実家を相続した場合にかかる相続税はいくらでしょうか。
こう聞かれてもなかなか答えられませんよね。
実はほとんどの人は0円なんです。
税金といえばたくさん取られるイメージがありますが、相続税には基礎控除額というものが存在します。
基礎控除額
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
例:相続人が2人の場合、基礎控除額は4,200万円
相続財産が相続税の課税対象となる人は国内全体の8.1%とほんの一部です。国民の90%以上は相続制とは無縁ということになります。
相続をしても、相続財産が基礎控除額の範囲内なら、相続税は発生しません。申告も無用です。
このほかにも、相続税の対処にならない財産があります。
- 生命保険等:法定相続人1人あたり500万円まで
- 退職手当等:法定相続人1人あたり500万円まで
- 葬儀費用や墓石、仏壇や神棚などの礼拝用具
- 宗教法や慈善事業、国などに寄付するお金
相続税がかからない場合、被相続人が亡くなったあとのおおまかな流れは以下のようになります。
- 死亡届提出
- 葬儀
- 金融機関へ連絡
- 生命保険を受け取る
- 相続財産の調査
- 遺産分割
預貯金や不動産など被相続人のすべての財産が相続対象になります。また負債も相続対象になります。
財産は相続人が共有状態で受け継ぎます。
分割は義務ではありませんが、多くの場合、相続人が複数いる場合は分配を行います。現金なら平等に分割しやすいのですが、不動産は分けることが難しいため、平等に分割するためには売却し現金化するのが一般的です。
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不動産の価格と分割方法
相続財産の合計額のことを「相続評価額」と呼びます。相続財産を調査し、相続評価額が基礎控除額を超過しているかを確認します。
預貯金や現金に関しては金額がそのまま相続評価額になります。ローンなど負債が残っていれば、マイナスの現金として扱い、株券などは時価が相続税評価額として扱われます。
では、不動産はどうでしょう。時価は売ってみなければわかりませんが、評価するために売却するのは現実的とは言えません。
実は不動産の相続税評価額は評価方法が決まっていて、時価よりも安く評価されることがほとんどです。
不動産の相続税評価額の評価方法を少し詳しく見てみましょう。
建物の評価額
建物の評価方法はとてもシンプルで、固定資産税評価額が相続税評価額になります。
固定資産税評価額というのは、固定資産税納税通知書に記載されている金額です。
固定資産税評価額は税金を徴収するための評価額なので、時価評価額がゼロになってしまっているような古い建物でも税金はゼロになりません。その評価額で扱われるので高額と感じる場合があります。
土地の評価額
土地の評価額は相続税路線価で評価されます。
相続税路線価は国税庁の財産評価基準書路線価図・評価倍率表で公開されているので簡単に確認することができます。
時価の80%が相続税評価額の目安とされています。
マンションの土地評価額は、全体の土地評価額に共有持分割合を乗じて計算されます。
不動産の相続に関する注意点
登記簿で不動産の名義を確認する
まず最初に建物の登記簿謄本(登記事項証明書)で、土地と建物の名義を確認しましょう。父親の名義だと思っていた実家が実は祖父の名義のままだった。ということも珍しくありません。
登記簿謄本(登記事項証明書)
以前は登記所や法務局証明サービスセンターに出向いて請求手続きをする必要がありましたが、現在ではオンラインで手続きが可能です。オンラインのほうが業務取扱時間が長く、手数料もオンラインのほうが安く済みます。
登記簿謄本のオンライン申請は法務省の登記・供託オンライン申請システムで利用できます。
名義人が亡くなっている場合は遺産分割協議を行う
登記簿謄本の名義人が亡くなっていて、遺言書がない場合は、相続人全員の共有財産となります。建物を解体する前に相続人全員から了承を得ていないと、トラブルになる可能性があります。誰が建物を相続するのかを先に決めて、遺産分割協議書を作っておきましょう。
遺産分割協議書
遺産分割協議は、法定相続人全員で行う「民法で定められた割合とは異なる割合で相続財産の分け方を決める話し合い」のことです。
法定相続人全員が遺産分割協議に合意した証明として遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には法定相続人全員の署名と実印の押印、印鑑証明書の添付が必要になります。
ご参考になればと遺産分割協議書の書式サンプルを用意しました。ダウンロードしてご利用ください。
解体と建物滅失登記
建物を相続してすぐに解体する場合には相続登記手続きは不要です。亡くなった方の名義のまま、相続人または法定相続人の代表者が手続きすることになります。
法定相続人の代表者が手続きする際には戸籍謄本や遺産分割協議書を提出し、相続人であることを証明する必要があります。
建物を取り壊すメリット
不動産を売却した場合、住民税と所得税が課税されます。一般的な不動産の譲渡所得に課税される税率は約20%(所得税15%+住民税5%+復興所得税(所得税額×2.1%))なのですが、所有期間が5年未満の不動産を売却した場合は売却益の約40%(所得税30%+住民税9%+復興所得税(所得税額×2.1%))も課税されてしまいます。
本来は約40%課税されてしまうはずなのですが、「空き家の発生を抑制するための特例措置」の条件を満たす場合は、譲渡所得の金額から3,000万円まで特別控除を受けられます。
では、「空き家の発生を抑制するための特例措置」が適用される条件を見てみましょう。
空き家の発生を抑制するための特例措置
空き家の発生を抑制するための特例措置が適用される条件は以下のように定められています。
“空き家となった被相続人のお住まいを相続した相続人が、耐震リフォーム又は取壊しをした後にその家屋又は敷地を譲渡した場合には、その譲渡にかかる譲渡所得の金額から3,000万円を特別控除します。“
引用元:国土交通省
また、この特例措置には空き家・敷地の譲渡日にも条件があります。
(相続した年から数えて3年目の12月31日まで有効)
② 特例の適用期限である2023年12月31日までであること。
(特例の期限は2023年12月31日まで)
平成31年度税制改正で「相続開始の直前まで、被相続人が家屋に居住している場合のみ対象」だったのが、「要介護認定などを受け、被相続人が相続開始の直前まで老人ホーム等に入所していた場合」も一定条件を満たすと適用対象となりました。
参考資料:国土交通省空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)について
「耐震リフォーム又は取り壊しをした後にその家屋又は敷地を譲渡した場合」とありますので、売れるかわからない中古住宅に耐震リフォームを行うよりも、取り壊しを行って更地で売却する方が現実的ですね。
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建物を取り壊すデメリット
建物を解体することで起こりうるリスクを認識して、しっかりとリスクヘッジしていきましょう。
固定資産税と軽減措置(住宅地の課税標準の特例)の適用外になる
固定資産税には住宅地の課税標準の特例という軽減措置があります。これは、「“住宅地”の課税標準の特例」なので更地には適用されません。
たとえ空き家であっても住宅として建物が建っていれば適用されるのですが、更地にしてしまうと適用外になり、税率が上がってしまいます。
更地にしても売れずに残ってしまうと高い固定資産税を払い続けることになります。
中古住宅付きの土地でも売れる可能性
「中古住宅が建っているよりも更地のほうが買い手がつきそう」と考えるのは自然だと思います。確かに更地のほうが買い手にとっては好都合ですが、更地にするには解体費用も整地費用もかかります。
まずは売却予定額と譲渡にかかる費用、税金のバランスを考慮してみましょう。その上で中古住宅が建っている状態の「現状渡し」で売却することも考えてみましょう。
どうしても更地にしないと需要がなさそうという場合や、相続から3年が経過してしまうので、「空き家の発生を抑制するための特例措置」が受けられなくなるから解体するなど、状況に応じて柔軟に対応しましょう。
売却には所有権を移転する登記申請が必要
建物の解体は「相続人」でも行えますが、売却は「登記名義人」しか行なえません。売却する前に所有権移転登記申請を行って、不動産の名義人を相続した人に変えておきましょう。
借地に建っている建物の解体
借地権設定者(地主)から借りている土地にある建物を取り壊すには注意が必要です。必ず土地賃貸契約書で契約内容を確認しましょう。
無償・有償いずれの返還方法を取るとしても、まず地主と相談することをおすすめします。
まとめ
相続した不動産の扱いには様々な法律や税制、そしてそれらに対する特別措置などが関わるため複雑で、素人にはわかりにくいことが多いです。特例措置のように知らずに申請しないと損してしまうこともあるので、できれば不動産会社や司法書士事務所など信頼できる専門家に相談してみましょう。
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