亡くなった人の財産を相続するにあたり、法定相続人全員で話し合って、どのように遺産を分割するのか合意することを遺産分割協議と言います。
空き家は遺産分割協議が難しいといわれます。現金のように単純に分割することができず、また空き家にどのくらいの価値があるか、評価するのが難しいからです。そして空き家の場合、老朽化がひどく資産価値がないケースもあります。
そもそも不動産の価格には、公示価格・路線価・固定資産税評価額など、いろいろな基準がありますが、それぞれで価格が異なるのです。遺産分割協議では、どの基準を使うのか定められていません。
このように、空き家を相続した際にはさまざまな手間も絡んでくるうえ、「相続税」をはじめさまざまな税金についても考えておかなければなりません。遺産としては少々面倒が多いのに、税金も払わなければいけないのか…と悩んでしまうこともあるでしょう。
今回は、空き家を相続した際の節税のコツや、相続した空き家をどう活用するか、またその際の注意点などを解説していきます。
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空き家にかかる税金とは?
空き家であっても不動産として所有しているだけで、固定資産税、および空き家の所在地によっては都市計画税がかかります。
住宅地は、家が建っていると居住者の有無に関わらず「住宅用地の特例」という制度の適用により固定資産税、都市計画税のどちらも節税できますが、管理がされていない空き家がある一定の条件を満たして「特定空家」とみなされてしまうと、住宅用地の特例は適用されなくなってしまいます。
出典:空き家の固定資産税・都市計画税|NPO法人 空家・空地管理センター
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空き家を相続した場合に発生する税金
空き家を相続すると、さまざまな税金が発生します。
たとえば、土地や建物を相続することで、それぞれの価値に応じた「相続税」が発生しますし、所有権移転登記の際は、「登録免許税」がかかります。
また土地や建物を所有することになるため、毎年「固定資産税」や「都市計画税」が発生します。さらに売却する場合には、その利益額に応じて「譲渡所得税」の納税が必要です。
条件を満たすことによって、税の軽減や減免などの措置が受けられる場合があり、詳細については公的機関や専門家に確認する必要があるでしょう。ここでは、固定資産税・相続税・譲渡所得税について説明します。
固定資産税
家屋や土地を相続して所有することになると、毎年固定資産税を納めます。
固定資産税は、1月1日現在、固定資産課税台帳に登録されている所有者に対して課税されます。
原則として、課税標準額に税率1.4%を乗じた額が固定資産税の税額となります。
ただし家屋が建っている土地の場合、住宅用地の特例が受けられ、税額が大幅に軽減されます。
この特例が適用されると、200㎡までの部分は課税標準額が6分の1に、200㎡を超える部分は課税標準額が3分の1に軽減されます。これは人が住んでいるかどうかに関係がないため、空き家が放置される要因の1つにもなっています。
相続税
相続した財産(正味の遺産額)が「基礎控除額」を上回る場合には、相続税が発生します。
基礎控除額=「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。逆にいえば、遺産額がこの計算額よりも少ない場合は、相続税は発生しないということです。
空き家のタイプによっては、相続する場合に「小規模宅地等の特例」(詳しくは後述)の適用を受けられなくなることから、相続税の負担が大きくなる可能性があるでしょう。相続する財産が基礎控除額を超えるような場合には、特例の適用を受けられるか確認しておくことが大切です。
譲渡所得税
土地、建物、株式などの資産を譲渡して得た所得を「譲渡所得」といい、この譲渡所得に対する税金は、給与所得などのほかの所得と区分して計算します。
譲渡所得税は、次の計算式で求められる課税譲渡所得金額に、定められた税率を乗じることで算定されます。
課税譲渡所得金額=「譲渡価額(売却価格)」ー「取得費」ー「譲渡費用」ー「特別控除額」
土地や建物を売却した年の1月1日現在で、その土地や建物の所有期間が5年を超えるか(長期譲渡所得)、5年以下か(短期譲渡所得)によって税率が変わります。相続した土地や建物の場合は、亡くなった方(被相続人)の所有期間も含められます。
空き家を相続した場合の節税のコツ
空き家に関する税金について、特にメリットの大きい特例を2つ紹介します。
「小規模宅地等の特例」は相続税、「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」は譲渡所得税に関する制度です。
どちらも重要なため、ぜひ覚えておきましょう。
1:「小規模宅地等の特例」
「小規模宅地等の特例」は、亡くなった人が生前住んでいた土地や事業していた土地などを相続するにあたり、一定の要件を満たせば、8割の相続税減額ができる制度です。
もともと空き家だった家屋を相続した場合は、この小規模宅地等の特例を受けられないのですが、次のような空き家の場合は定められた要件を満たせば受けることができます。
それは、亡くなった方(被相続人)が老人ホームに入居していたり入院したりしていて空き家だった場合や、亡くなった方が住んでいた家屋を相続した後に空き家になる場合です。
前者は、要介護認定などの有無や、定められた入居施設であるかどうかなどの要件を満たす必要がありますし、後者はその宅地を誰が取得したかで取り扱いが異なります。
この特例は内容も手続きも少し複雑で、原則として申告後の修正ができないため、注意が必要です。
出典:相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
2:「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除(空き家の発生を抑制するための特例措置)」
住むための土地や建物を売却する際には譲渡所得税がかかりますが、一定の要件を満たせば、譲渡所得から3,000万円を控除して計算できる特例です。
細かくいうと「被相続人居住用家屋(又は家屋及びその敷地)あるいは被相続人居住用家屋の敷地等を売却し、一定の適用要件を満たす場合、その売却に係る譲渡所得金額から、最大3,000万円を控除できる特例」というものです。
一定の適用要件とは、たとえば以下のようなものです。
相続日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日まで(なおかつ特例の適用期間内)での譲渡である
令和5年の税制改正により、適用期間が令和9年12月31日まで延長されました。
1981年5月31日以前に建築されたもの
つまり旧耐震基準の建物である、ということです。
相続直前まで親が居住していた
もしくは一定要件を満たした場合に限り、老人ホームなどに居住していたとしても可です。
区分所有建物ではないこと
たとえばマンションなどは対象外です。
譲渡価額が1億円以下
1億円を超えると対象外となります。
一定の耐震基準を満たすようにリフォームしてから売却、もしくは建物を解体して更地として売却した場合
これまでは「耐震性のない場合は耐震改修工事をした空き家」、または「空き家を取り壊して更地にした土地」が対象でしたが、令和6年1月1日以降の譲渡である場合、譲渡後であっても「譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに当該建物の耐震改修工事または取壊しを行った場合」は適用となります。
相続発生以降に貸したり住んだりしていない
相続後に建物や土地を貸したり、空き家に住んだり、事業に使用してしまった場合は、控除が受けられません。
など。
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☆空き家になる前に自宅を売却しても特例対象となる?
空き家になる前、住宅の所有者が生存中に自宅を売却した場合も控除は受けられます。
この場合は、一定の要件を満たしていれば土地・建物の所有期間に関係なく「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」による節税が可能となるからです。
この特例が適用される可能性があるのは、生活している住居や以前住んでいた住宅を所有者本人が売却する場合です。後に相続する人は、不動産ではなく現預金などの形で相続することになります。
出典:No.3302 マイホームを売ったときの特例|国土交通省
相続した空き家の活用例
空き家を相続した場合、もしくは相続した不動産が空き家になっている場合、どのような活用方法があるでしょうか。
ここでは、そこに自分が住む方法・人に貸す方法・売却する方法など、5つの場合について説明します。
そのまま住む
建物の状況、通勤や子どもの転校など、問題がクリアできれば、相続した家にそのまま住むことは大きな選択肢の1つです。
注意点としては、相続した建物は一般的に築年数が古いため、メンテナンスや修繕、リフォームなどのための費用が必要になる可能性があることです。また、毎年、固定資産税などの税金も発生するため、そのような負担も頭に入れておく必要があります。
そのまま貸す
売却する気がない場合やなかなか売却の決断がつかない場合、人に貸すことは有力な選択肢の1つでしょう。相続した空き家をそのまま人に貸すことができれば、その家賃収入によって固定資産税などの建物の管理費用に充てることができます。
問題は借り手が見つかるかということです。建物の状態や立地条件などに左右されるため、場合によってはリフォームなどが必要になります。ただし、その費用が大きくなると、その費用の回収のリスクが大きくなるため、注意が必要です。
空き家のまま管理する
空き家をどうしたらいいか迷っている、将来的には活用したいが今は必要ない、借り手や買い手が見つからない、といった場合にはとりあえず現状の空き家のまま管理する方法があります。
ただし、適切な管理を行わないと、建物の劣化を早めたり、防災面・衛生面・景観面などにおいて近隣住民への迷惑につながりかねません。
老朽化した屋根や外壁の落下の危険、伸び放題の庭木の越境や落ち葉、ごみ放置や不法投棄による景観や環境の悪化など、空き家の放置は近年、社会問題化しています。
自分自身で管理が難しい場合は、空き家の管理サービスを行う専門業者に依頼するのもひとつの方法です。
そのまま売却する
空き家を保有しておくと、その分手間や費用がかかるため、売却してしまうのも1つの方法です。
ただし、老朽化して建物に価値がないような場合には、買い主に建物の解体費用を負担してもらう前提で、価格の値引きが必要になるでしょう。
解体して土地を売却する
建物自体に価値がないのであれば、空き家を解体して更地にしてから土地を売却する、という方法もあります。状況によっては、更地にした方が早く買い手が見つかる場合があるからです。
また、更地の方が高い値段で売却できる場合もあります。ただし、建物の解体費用は自分で負担しなければならず、建物の内容や敷地状況によっては費用がアップします。あらかじめよく検討しておきましょう。
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空き家を相続した場合に気をつけること
空き家を相続するにあたっては、気をつけなければならない点がいろいろとあります。空き家の管理責任が生じるだけでなく、所有権移転登記や火災保険に関しても必要なことを行わなければなりません。また、「特定空家」についても知っておく必要があります。
空き家を安全に管理する責任がある
所有する空き家が原因となって、近隣の住民の方などに被害を与えた場合、所有者は損害賠償などの管理責任を問われる恐れがあります。これは、民法第717条で定められています。
また、平成27年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」では、「空家等の所有者又は管理者は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとする」(第3条)と定めています。
したがって、空き家を相続すると、空き家を安全に管理する責任も生じます。
相続放棄後も相続人が決まるまでは責任が伴う
あまりよく知られていませんが、実は相続放棄をしていても空き家の管理責任が伴います。民法第940条で定められている通り、たとえ相続放棄をしたからといっても、相続人が決まるまでは、空き家について知らない顔はできません。
相続したら所有権移転登記を行う
以前は、相続登記は任意であり、相続後も所有権移転登記をせずに放置したままにされるケースも見られ、これは空き家が問題化する1つの要因になっていました。
しかし近年の所有者不明土地問題や空き家の社会問題化を背景に、令和3年に民法や不動産登記法等の改正が行われ、不動産の相続登記が義務化されることになりました。
相続登記をしないで放置しておくとさまざまなデメリットが生じます。相続関係が複雑になったり、当事者に所在不明の人ができたりするなど、いざ相続登記をしようとしても多大な時間と費用がかかる恐れがあります。
すぐに不動産を売却したくてもできない事態につながりかねません。相続したら、必ず所有権移転登記を行いましょう。
出典:令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント|法務省民事局
空き家に対応した火災保険の手続きを行う
多くの火災保険において、空き家の場合は加入できないとされています。したがって、まずは現在加入している火災保険が空き家も対象としているかどうか、保険会社に確認しましょう。
また、保険料の請求がきているからといって安心はできません。加入者から空き家になったことを連絡しなければ、保険会社の方で把握できず、保険料の支払いが継続している可能性があるからです。いざ火災になったとき、対象外で保険金が支払われない恐れがあります。
空き家を対象とする火災保険には、台風や水害などにも対応するプランがありますし、盗難被害に備えるものもあります。また、補償対象を建物だけでなく、家具や洋服などの家財まで幅広く補償をつけることも可能です。
いずれにせよ補償内容と補償額によって、保険料が大きく異なるため、よく考えて自分のタイプに合った保険を選ぶと良いでしょう。
「特定空家」に指定されると固定資産税が上がる
近年、放置された空き家が、近隣住民の生活環境に深刻な影響を及ぼして社会問題化していることを背景に、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が平成27年に施行されました。
同法によって、特定空家に対して、助言・指導・勧告・命令・代執行等の行政措置を行うことができるようになりました。特定空家とは、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(第2条)で定義されています。
さらに特定空家に指定されると、固定資産税の軽減措置から除外されてしまいます。つまり、固定資産税が3~6倍にアップしてしまうということです。
出典:空家等対策の推進に関する特別措置法|e-Gov法令検索
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空き家を相続したら節税対策を万全にしよう
空き家を相続した場合、さまざまな税金がかかります。空き家をそのまま放置し、「特定空家」と判断されると税額が上がり金銭的な負担が増す可能性もあるでしょう。
必要でない空き家を売却する際は、本記事で紹介した節税のコツを参考に、税金を軽減できるかチェックしてみてください。
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