弁護士・公認会計士と並び、「日本三大国家資格」のひとつとされている不動産鑑定士。その名称を見ると、不動産の何かを鑑定する人…ということは予測がつきますが、具体的にどんな仕事を行うのかまではなかなか想像がつきませんよね。
超難関である国家試験を突破した人だけが資格を手に入れられるからには、非常に重要な仕事を任されているのは間違いなさそうですが、一体どれくらい難しい試験の内容で、どんな仕事をしているのでしょうか。
今回はこの不動産鑑定士について、仕事の内容や活躍できるフィールド、試験の概要まで詳しく解説していきます。
「不動産鑑定評価」とはそもそも何か
不動産鑑定士にしかできないという、「不動産鑑定評価」という仕事。そもそもそれは、一体どのようなものなのでしょうか。
不動産鑑定士としてもっとも大事な業務であるため、まずはそこからしっかりと理解しておきましょう。
不動産鑑定評価とは
土地や建物などの不動産の経済価値を、その時々の社会情勢や周囲の地理的状況などさまざまな要素から調査・分析し、価格として算出することを不動産鑑定評価といいます。
不動産の公正な取引を行うためには不動産の適切な価値を知らなければならないため、不動産鑑定評価はそのような場面で必要となります。
身近なところでは「不動産の相続・売買・賃貸」などの際に、また国や自治体などの「地価公示・地価調査」「相続税路線価評価」「固定資産税評価」の際にも利用されます。
「不動産査定」とは別のもの
「不動産鑑定」と「不動産査定」、言葉はよく似ていますが、全くの別物であるため注意が必要です。
不動産査定は、不動産会社それぞれが独自の基準で判断して「その不動産を売却できそうな価格」を算出したものであり、売主が売却金額を決める際の参考評価額として出されるものにすぎず、言い換えれば同じ不動産でも不動産会社が変われば違う金額が算出される可能性もあるものなのです。
つまり不動産査定は、あくまでも不動産の「ある程度の相場」を知るには使えるものですが、公的な証拠として用いることはできません。不動産鑑定士が行う「不動産鑑定」のように、公の基準となるものではないのです。
不動産鑑定評価が必要な場面とは
前述したように、不動産鑑定評価は公的なものにおいても、個人・法人間においても必要とされます。
たとえば、不動産価値によって税金額が算出されるようなもの(固定資産税や都市計画税)は、価値基準がずれてしまっては混乱が起きてしまいます。また公示地価は全国の不動産会社が基準とするものであり、このような公的なものには不動産鑑定による適正な価値評価が必要となるのです。
個人においては、不動産を相続した際など。法人においては、金融機関が融資をする際に担保価値を算出する際など。不動産鑑定による不動産価値の評価が欠かせない場面は、多岐に渡ります。
不動産鑑定士とは
不動産鑑定士は、一言でいうと「土地や建物といった不動産の価値を鑑定する」「それによって、不動産の有効活用方法を提言するなどのコンサルティングを行う」ことが主な仕事である、国家資格です。
前述した「不動産鑑定評価」は不動産鑑定士の独占業務とされていて、有資格者以外が行うことは認められていません。不動産鑑定士は、全国で8,000人ほどしかいないという、専門性と信頼を併せ持つ大変希少価値の高い資格です。
不動産の価値は、一定ではありません。そのときの社会情勢や経済事情によっても変化します。また、不動産には複雑な権利関係が絡み合っていることも多く、高度な専門知識を持つ不動産鑑定士の存在は不可欠なのです。
不動産鑑定士の業務内容
鑑定評価業務
何度か述べているように、不動産鑑定士の独占業務である「不動産鑑定評価」は、鑑定士の中心業務です。
さまざまな要素から不動産の経済価値を見定め、不動産鑑定額を算出し、それを不動産鑑定評価書というレポートにまとめます。
個人や法人の不動産取引における鑑定業務の他に、金融機関から融資を受ける際の担保物件を鑑定評価する業務、国有財産や公共用地などの取得・処分の際の鑑定評価、公示価格の評価など、不動産の価値を鑑定する業務だけでも幅広い範囲で不動産鑑定士が活躍します。
不動産というと土地や建物をまず思い浮かべますが、他にも山や地下、意外なところではビルなどの上空(空中権)といったものも該当するため、不動産鑑定士の鑑定評価業務は本当に広範囲に及ぶことがわかります。
一般人には「こんなところどうやって価格を決めるの?」という不動産でも、不動産鑑定士が適切な価値を評価することで、適正な不動産取引を行うことができるのです。
鑑定評価を行う不動産については、まず役所にある公的資料を集めたり、現地に行って実際に現物を見て写真を撮ったり、不動産業者に話を聞いたり、さまざまな角度から対象の不動産の資料を集めます。さらに過去の取引例や現在の不動産市場の状況も確認し、土地の評価を算出することになります。
最終的にそれを不動産鑑定評価書にまとめ、依頼者に説明し、問題がなければひとつの業務が終了します。
コンサルティング業務
専門的で深い知識や、不動産鑑定評価で培った経験を活かして、個人・法人問わず広い範囲で不動産の最適な活用方法や税金・法律についてなどの相談に乗り、提案や適切なアドバイスを行います。
その不動産をもっとも有効に利用する方法や、マンション建替えの際のコンサルティング、市街地再開発事業などに関わる不動産の権利調整など、考えられる相談内容は多岐に渡ります。クリエイティブな仕事であるため、独自のビジネスモデルを展開できるチャンスがある業務といえるでしょう。
不動産鑑定士の働き方
企業内鑑定士
不動産鑑定士が活躍できるのは、まずやはり不動産業界です。不動産鑑定事務所における鑑定評価業務や環境・建築・都市計画などのコンサルティング業務だけではなく、一般的な不動産会社で不動産関連の企画や開発、管理といった部門などでも力を発揮できるでしょう。
また、他業界においても、たとえば金融業界では融資の際の担保物件について鑑定評価を行ったり、不動産の運用・有効活用に関する相談を受けたりなど、高度な専門性を応用させた業務も可能としています。その他、コンサルティング会社や公務員などキャリアパスは豊富です。
日々のスケジュールとしては、書類作成などのデスクワークが中心となるでしょうが、現地調査のために外出することも多々あります。
独立開業
不動産鑑定士の独占業務には「公的評価」といって、国や自治体から「地価公示」「相続税路線価」「裁判所の競売に関わる評価」「公共用地の取得」などをまかせられるものがあります。これは、従事できれば毎年一定の収入が見込めるものなので、不動産鑑定士は独立開業をしやすいといわれています。
また、「民間評価」の仕事においても、ターゲットとなる依頼者をどんな層に絞るかで可能性は無限大です。鑑定評価の需要は全国各地であるうえ、依頼者のニーズも多種多様であるため、たとえば弁護士や公認会計士・税理士などの多分野のスペシャリストたちと共同で事務所を設立し、幅広い分野に対応する形態にすることもできるでしょう。
近年は不動産鑑定士の働き方も多様化しているといわれています。さまざまな分野の専門家と力をあわせることで、多くのビジネスチャンスを生み出すことも可能です。
不動産鑑定士に向いている人
責任感のある人
どんな仕事においても「責任感」が重要な要素であることはもちろんですが、不動産鑑定士は特に与えられている権限が「土地の価格を決定できる」という絶大なものであるため、大きな責任を求められます。
「不当鑑定」を行うと、協会から除名ということもありえます。強い責任感で社会貢献したいという人でなければ務まらないといえるでしょう。
また、不動産価値の評価というのはさまざまな人の利害関係に関わるものであるため、秘密を厳守できるということも大事な要素となります。
コミュニケーション能力に長けている人
不動産鑑定士は、鑑定評価書の内容を依頼者にわかりやすく説明することも業務として必要となります。そのため、専門的な内容をわかりやすく説明できることも大切です。
また、独立開業を目指すのであれば、新規顧客開拓やコンサルティング業務においても、コミュニケーション能力は不可欠であるため、こういった能力に長けていることで活躍の幅は広がるでしょう。
不動産鑑定士の年収
厚生労働省が発表した「賃金構造基本統計調査(2019年度)」によると、不動産鑑定士の平均年収は約754万円です。不動産鑑定士の人数は、令和5年4月時点で5,022人。不動産鑑定士の資格保有者は希少価値が高く重宝されやすいため、このように高い平均年収となっているのでしょう。また、属する企業によって鑑定料が異なるため、一概に不動産鑑定士といっても年収には幅があります。外資系金融やAM(アセットマネジメント:投資部門)に所属する鑑定士は、高年収の傾向にあります。
上記で述べたことは、企業に勤めるサラリーマン鑑定士の場合で、独立開業した場合はこれより高い年収を望めます。しかし、自分次第・実力主義になるため、収入が上がるケースもあれば下がるケースもあると考えてよいでしょう。
併せて取得したい資格
不動産鑑定士と関連する資格としては、同じ不動産業界の資格である宅地建物取引士や管理業務主任者、マンション管理士といったものが挙げられます。不動産業界に従事していて、幅広い活躍をしたいと思うのであれば、これらの資格を併せ持っていると特にコンサルティング業務で役立つことが多くあるでしょう。中でも宅建士の資格との親和性は高いといえます。
不動産鑑定士の方が上位資格となるため、もともとこれら関連資格を持っている人が不動産鑑定士を目指す流れになることがほとんどでしょうが、試験の出題範囲で重複している部分が多くあるため、学習はしやすくなります。
専門性を高めるという方向性では、一級建築士や公認会計士の取得も目指していけます。もちろん簡単な道ではありませんが、独自のビジネスモデルを展開していくのであれば、視野に入れておいてもいいでしょう。
不動産鑑定士になるには
不動産鑑定士の試験は2段階方式になっており、まず毎年5月に全国規模で短答式試験が実施されます。それに合格した人だけが8月、東京都・大阪府・福岡県で実施される論文式試験に進むことができます。
1度短答式試験に合格すると、3年間は短答式試験が免除になって、論文式試験のみの挑戦ができるようになります。
試験概要
受検要件:なし。学歴・年齢・国籍・実務経験などに制限なく誰でも受験可
受検料:13,000円(書面申請)、12,800円(電子申請)
出題形式・範囲:
〇短答式試験・・・五肢肢択一式(マークシート方式)
・不動産に関する行政法規
・不動産の鑑定評価に関する理論
〇論文式試験
・民法
・経済学
・会計学
・不動産の鑑定評価に関する理論
合格基準:
〇短答式試験・・・おおむね7割を基準に、土地鑑定委員会が相当と認めた得点。
〇論文式試験・・・おおむね6割を基準に、土地鑑定委員会が相当と認めた得点。
試験合格後の流れ
実は、試験に合格しただけでは、不動産鑑定士として認められません。その後に1年もしくは2年の「実務修習」を受ける必要があるのです。研修生として不動産鑑定事務所などに所属し、講義や基本演習・実地演習を受け、鑑定士としての技能や知識を磨き、現役鑑定士から実際の鑑定評価報告書の作成手順を学んでいきます。
所定の単元を修得したら修了考査を受け、それに合格後すると各都道府県の不動産鑑定士協会に登録し、晴れて不動産鑑定士になることができます。
合格率・難易度
日本の国家試験の中でも最難関のひとつとされている資格だけあって、難易度は相当です。不動産鑑定士の試験の難易度を上げている最大の理由は、圧倒的な出題範囲の広さです。
また、「足切り」というものがあるため、科目全ての合計点が合格ラインに達していたとしても、各科目で一定水準の点数が取れていないものがひとつでもあると、合格できません。たとえば「民法が得意だからここで満点を狙って、経済学は捨てよう」という勉強のしかたをしても、合格はできないということなのです。
例年の合格率は、短答式試験が32%前後、論文式試験が14%前後で推移しています。
また、短答式試験の例年の合格ラインは140点程度、論文式試験は370点程度となっています。
短答式試験はそこまで合格率が低いわけではなく、やはり論述式試験が本番といえます。
まとめ
不動産鑑定士は試験の難易度も高く、合格後もすぐに実務に取り掛かれるわけではないなど、最終的に資格取得して活躍できるまでには時間がかかります。しかし、その長い道のりを乗り切れば、非常にやりがいのある資格となるでしょう。
独自のビジネスモデルを展開できれば、独立開業をしても幅広い範囲で仕事をしていくことができます。
難易度だけではなく、志の高さや仕事のしがいなどすべてにおいて不動産業界の頂点に立っているともいえる資格です。大きな魅力を感じられるなら、ぜひ挑戦したいですね。