「地役権(ちえきけん)」という言葉は聞き慣れない言葉と思う人が多いかもしれません。
ある一定の目的の範囲内で、他人の土地を自分の土地のために利用する権利を地役権といいます。
ざっくりとした言葉の意味だけでは、随分身勝手な権利だなと思う人もいるはずです。
- 地役権の利用目的
- 地役権に似た権利
- 地役権に関する疑問
聞き慣れない言葉ですが、地役権という権利がある理由や地役権と似た意味を持つ権利、地役権に関する疑問について紹介します。
地役権(ちえきけん)とは
地役権は「ある一定の目的の範囲内で、他人の土地を自分の土地のために利用する権利」です。
自分の所有する土地ではない、他人の所有する土地を自分の土地のために利用するという、理解しがたい権利だと感じる人もいるかもしれません。
言葉の意味だけでは印象が悪い地役権ですが、どのようなときに地役権が使われるのか理解することが必要です。
地役権に関わりのある用語
地役権を知るためには、地役権に関わりのある用語の意味を知っておく必要があります。
ここでは承役地と要役地について説明します。
承役地
承役地(しょうえきち)は、自分の土地を利用するために使用する側の土地を指します。
要役地
自分の土地のことを要役地と呼びます。
承役地と要役地は、ほとんどの場合隣り合った土地同士になります。
地役権の使用目的
地役権は、単に自宅を広くする、自宅のように他人の土地を使用するという理由で地役権を設定するわけではありません。
使用目的があるから、地役権が利用されるのです。
どのような目的で利用されるのか、詳しく紹介します。
通行
たとえば、他人の土地を通った方が駅に出やすくなるといった場合に、地役権を設定することが多いです。
公道と自宅がある土地の間に、他人の土地(私道)を通行したりする場合、地役権を設定したりします。
人の通行であれば、地役権の契約を行うことが少ないかもしれませんが、私道を車が通行する必要があれば、地役権の契約を取り交わしておく方が、後々トラブルになることがありません。
送電設備の建設
他人の土地を通行する場合以外に、地役権の設定が必要になるのが高圧送電線の安全確保のための送電線路施敷地役権というものです。
通常、要役地と承役地は隣接していますが、送電線路施敷地役権の場合は、要役地は遠隔地の発電所や変電所、鉄塔が建っている土地になっています。
排水管などを埋める
日々の生活を送るためには、電気・ガス・上下水道は必要不可欠であり、供給を受けるためには、事業者の管理する本管から個々の住宅の導管等を接続することが必要です。
宅地の立地条件によっては、自己の所有地だけでは本管と接続することができず、隣地等に導管を敷設しなければならない場合があります。
ガスや上下水道の事業者は、隣地所有者との紛争を防止するため、導管を敷設する隣地所有者の承諾が必要です。
地役権と似た権利
地役権は自分の土地を一定の目的のために利用する権利ですが、似たような権利も存在します。
囲繞地(いにょうち)通行権
囲繞地通行権といい、公道に接していない袋地の持ち主が、自分の土地を取り囲む土地(囲繞地)を通行できる権利です。
他の土地に囲まれているので、通常であれば公道へ出ることが不可能な状態になっています。
通行地役権と囲繞地通行権との違い
通行地役権 | 囲繞地通行権 | |
契約の要件 | 当事者の合意 | 袋地に備わる権利なので、契約は不要だが、実際は契約することが多い |
通行できる範囲 | 当事者の合意で決定 | 囲繞地にとって損害が少ない範囲 |
登記 | 必要 | 不要 |
通行の対価料金 | 当事者の合意で決定 | 必要ただしもともと公道に接していた土地の分筆(※)によって袋地になった場合は不要 |
通行が有効な期限 | 当事者の合意で決定 | 期間の制限はない |
地役権はトラブルになりやすい?
地役権、特に通行地役権はトラブルになりやすいといわれています。
これまで他人の家の土地を利用して通行をしていた人が、ある日突然通行できなくなるという問題です。
袋地の場合は「囲繞地通行権」が当然の権利として認められているので、自由に通行する場所を決めることができます。
隣地の通行がトラブルになる場合は、通行地役権が取り交わされていないことが多く、口約束などで意志の合致があったため、これまで通行が可能だった場合がほとんどです。
隣地の建て替え、売却、相続などにより状況が変わったため、通行ができなくなりトラブルになってしまいます。
地役権の登記方法
地役権は登記ができる権利です。
登記をしておくことで、トラブルなどを回避することができるので、地役権の権利関係を明らかにしておく必要がある人は、登記をしておくことをおすすめします。
地役権の登記手順
地役権の登記は、必要書類を準備して法務局へ届け出を出します。
費用は承役地の数に応じで1,500円がかかります。
地役権の登記には専門知識が必要になるので、書類作成は司法書士に依頼することがおすすめです。
地役権の登記事項
不動産登記法80条1項に定められています。
- 要役地
- 地役権設定の目的
- 地役権設定の範囲
必要書類
- 登記原因証明情報…登記原因について記載された内容の署名もしくは押印した書面など
- 登記識別情報または登記済証…または本人確認情報
- 印鑑証明書
- 地役権図面…承役地のどこが地役権の目的となっているか図示したもの
- 代理権限証明情報(委任状)…司法書士に依頼する場合に必要
地役権に関する疑問
地役権を設定するメリット・デメリットとは
メリット
- 生活をするための利便性が良くなる
- 通行だけではなく日可能商確保なども可能
デメリット
- 地役権の影響で送電線を通すのに支障がでるような高い建物が建てられない
- 排水設備を通すので、地下室の設定ができない
地役権の設定範囲
地役権の設定範囲には、制限がありません。
地役権は登記申請の際に範囲を登記することが必要です。
承役地の全部が地役権の目的となる場合は全部と登記をすれば問題ありませんが、一部の設定であれば、設定分の未記載が必要になります。
たとえば、承役地の一部「北側10㎡」などと登記をします。
この場合には、設定部分を図示した地役権図面の添付が必要です。
地役権の時効・消滅時効は何年
地役権の時効は、土地の所有者同士の取り決めにより時効を設定するので、時効がそれぞれの取り決めの範囲ということになります。
地役権は民法で、
所有権以外の財産権は20年間権利を行使しないときに時効により消滅する
という規定があり、適用されます。
20年以上の設定を必要とする場合、必ず地役権の契約の取り決めを行ないましょう。
地役権は相続人、土地譲渡者にも適用する?
地役権は所有権に付随する権利です。
要役地の権利は、相続や売買を行なっても、新しい所有者へ引き継がれることになります。
地役権を第三者に対抗するためには登記が必要なので、地役権の登録を行なっている必要があります。
地役権の登記がない物件の売買をした場合、トラブルになることが多いので、地役権は登記をしてください。