特定の建物、たとえば新築された家屋や、リフォームされた自分の住まいの室内に入ったときに、違和感を抱いた経験はないでしょうか。それはもしかしたら、空気中に放出された化学物質などの汚染物質に体が反応し、刺激を受ける「シックハウス症候群」の前兆かもしれません。このことば自体は聞いたことがあるのではないでしょうか。
症状には個人差があり、また発症の仕組みも解明されていないのですが、現在では社会的な問題にもなりつつあるものです。
今回はこのシックハウス症候群について、症状や原因、対策について、わかっていることを解説していきます。
シックハウス症候群とは
「シック」は病気、「ハウス」は家、「シックハウス症候群」とは、建物の中の空気を吸うことでさまざまな不調が引き起こされる現象をいいます。特定の建物の中の空気がなんらかの物質で汚染されていることで発症しますが、その原因となる建物の外に出てしまうと症状は軽くなる、もしくはなくなるという特徴を持ちます。
室内の空気を汚染させる原因に関しては、のちほど詳述しますが、シックハウス症候群は実際には未解明な部分が多く、さまざまな複合要素が絡み合って発症する仕組みや、どのような体質の人が発症しやすいかなどは、まだはっきりとはわかっていません。
解体工事やリフォームを行う際、シックハウスの原因となるような物質が室内に出てくる可能性があります。築後数十年たっている場合でも、壁紙をはがすと室内に科学物質が漂う可能性があるそうです。
また、シックハウスとは少し異なりますが、かつて人体に有害なアスベストという物質を含んだ建築材料が使用されていました。現在は使用が禁止されていますが、古い建物の解体やリフォームを行う際、空気中に飛散し、作業者の健康に害を及ぼす恐れがあります。
シックハウス症候群の症状
症状にはさまざまなものが報告されていますが、非常に個人差があるもので、同じ環境にいても強く症状が出る人もいれば、全く症状が出ない人もいるほどです。
代表的な症状は以下の通りです。
・目の刺激症状、目がチカチカする
・鼻の刺激症状、涙や鼻水が出る
・のどの刺激症状、乾燥や痛みがある、せきが出る
・皮膚の刺激症状、乾燥する、かゆくなる、赤くなる、湿疹が出る
・頭痛
・めまい、吐き気、気分が悪くなる、呼吸困難
・倦怠感、脱力感、集中力の低下、疲れやすくなる、眠気がある
このほかにもアトピー性皮膚炎や喘息の悪化など、アレルギー疾患の悪化という深刻な症状の例もあります。
症状の発現の強弱だけでなく発症時期も個人差が大きく、発症のメカニズムや治療法もまだ解明されていません。
シックハウス症候群の原因と背景
高気密性・高断熱性にカギがあった!
「シックハウス」は和製英語であり、欧米では「シックビルディング」と呼ばれています。その名の通り、欧米では1980年代に「家」より先に「オフィスビル」でこの症状が問題となり始めたからです。
欧米のビル内はカーペット敷きであることが多く、その接着剤に含まれるホルムアルデヒドをはじめ、たくさんの化学物質がビル内に放出されました。
加えて、オイルショック以降省エネが叫ばれ、換気がこまめにされなくなったこともあり、室内の空気が循環せず、多くの人が体調不良を訴えたのです。
日本は、その独自の気候によって高気密・高断熱住宅が急速に広まったため、欧米と違ってビルよりも家屋の方が先に問題となったというわけで、これらの症状はシックビルディングならぬシックハウスと呼ばれるようになったわけです。
もちろん、日本でも住居以外の公共の建物などで発症する場合は「シックビル」、学校で発症する場合は「シックスクール」とも呼ばれます。
どんな物質がシックハウスを引き起こす?
さまざまな要因がある
シックハウスの原因となる物質には、非常に多くのものがあります。
建材や内装材・たばこの煙などから放散される揮発性の化学物質(詳細は後述します)や、高い湿度によって繁殖したダニ・カビ・細菌、暖房器具の燃焼ガス(一酸化炭素・二酸化炭素・窒素化合物など)といった汚染物質、さらに社会心理要因や個人の感受性などのような様々な要因が絡み合っているといわれています。
以前は風通しの良いつくりの家が多かったのですが、近年は家屋の高気密・高断熱化が進み、換気不足となって室内に汚染物質が充満するような環境になってしまったことが、シックハウスの大きな要因です。
シックハウス症候群をもたらす化学物質
シックハウスを引き起こす要因のうちでも、もっとも大きな比重を占めるのが、建材・内装材・家具などに含まれる揮発性の化学物質です。室内空気中の化学物質濃度が高くなることが、シックハウスの原因のひとつと考えられているのです。
代表的なものをいくつか挙げてみましょう。
【ホルムアルデヒド】
刺激臭のある無色の気体で、これの水溶液がホルマリンです。各種樹脂の原料で、殺菌・殺虫・防腐作用がありながらも安価であるため、主に接着剤・塗料・建材に使用されています。
住宅の内部を見回すと、内装・家具・フローリングなどの接着剤や、ドア・建具・床・天井・壁・床の下地材などにも多く使われています。
ホルムアルデヒドは、室内温度の上昇によって放散量が増加します。特に夏は住宅全体で放散量が上がるということです。
平成15年7月に、改正建築基準法によりホルムアルデヒドを含む建材は一定面積以上の使用を制限されました。
【アセトアルデヒド】
飲酒によって体内でアルコールが分解されてできる物質として、よく耳にするアセトアルデヒド。実はたばこの煙にも含まれています。
元々は無色の液体で、合成樹脂や合成ゴムの原料として用いられています。
【トルエン】【キシレン】
両方とも無色の液体で、トルエンは医薬品や塗料・インキ溶剤・洗浄剤に用いられ、キシレンは内装材などの施工用接着剤や塗料などに用いられています。
どちらも高濃度で短期曝露すると、目やのどを刺激することで頭痛・疲労・吐き気・精神錯乱など中枢神経系に影響があるといわれています。
【パラジクロロベンゼン】
白色の固形物で、衣類の防虫剤やトイレの芳香剤などに用いられています。
シックハウス症候群と化学物質過敏症
化学物質過敏症とは
揮発性の化学物質は、「揮発性有機化合物(VOC=Volatile Organic Compound)」と呼ばれ、過敏症を引き起こす性質があります。
この化学物質過敏症は、初めはひとつ~数種類の化学物質に接触しているだけでも、他の微量の化学物質にもだんだん反応するようになってしまい、「多種類化学物質過敏症」と呼ばれるものになります。以後は少量でもさまざまな化学物質に過敏症状を起こしてしまいます。
シックハウス症候群との関係は
シックハウス症候群はたしかに化学物質過敏症のひとつの例ではありますが、化学物質過敏症は住宅以外の場所でも発症するものなので、必ずしもイコールが成り立つわけではなく、シックハウス症候群のみを指すわけではありません。
シックハウス症候群は、原因となる建物から屋外に出てしまえば症状が緩和することがほとんどですが、化学物質過敏症は自然界に存在する有機物質でも発症するおそれがあるのです。屋外でも起こりうる可能性があるということです。
シックハウスの対策と予防
新築住宅を建てる際の対策
これから住宅を建てる際には、特に化学物質に感受性の強い方が家族にいる場合、その旨を設計者とよく打合せし、化学物質の放散量を抑えた建築材料や塗料・接着剤を使用したいなどの希望をあらかじめ伝えるようにしましょう。
安定的に効果的な換気ができるような窓の配置を考えたり、機械換気設備の設置も検討したりすることが大事です。
現在の住まいでできる対策
既存の住宅でのシックハウス症候群対策としては、まず化学物質が含まれている衣類の防虫剤・殺虫剤・芳香剤などの使用をなるべく控えることです。
また、換気を効果的な方法で、こまめに行いましょう。化学物質が含まれているのは建材や内装だけではなく、タンス・テーブル・カーテンなどの家具なども該当します。購入する際には刺激臭のするような商品は避けましょう。
換気をすることで、化学物質だけでなく、暖房器具などで発生した一酸化炭素や二酸化炭素で汚染された空気を入れ替えることや、カビ・ダニの繁殖を抑えることもできます。
新築時だけでなく、既存住宅のリフォームや修繕・改修の際にも、なるべく揮発性の化学物質を含まない材料を使用するよう、こちらも事前に設計者と十分な打合せが必要です。
まとめ
シックハウス症候群には、カビやダニ・一酸化炭素などさまざまな原因が存在しますが、もっとも重大な要因としてはやはり化学物質が挙げられます。
化学物質の含まれているものを使わない、持ち込まないというのがもっとも対策としては有効ですが、どうしてもゼロにはできないものです。換気をすることでも大きな効果があるため、日常生活でも積極的に取り入れていくとよいでしょう。