宅建士、正式名称「宅地建物取引士」という資格は、不動産業界に詳しくない方でも一度くらいは耳にしたことがあるかもしれませんね。知名度が比較的高く、国家資格のなかでも非常に人気の高いものです。
具体的にどんな仕事をするのか?なぜそんなに人気があるのか?どういった業界で活躍し、キャリアアップにつなげていけるのか?
そんな疑問に答えながら、今回は宅建士について詳しく解説していきます。
宅建士とは?
不動産取引の専門家
「宅建」「宅建士」の正式名称は「宅地建物取引士」。2015年に「宅地建物取引主任者」から名称が変更になりました。
宅地建物取引業とは、いわゆる「不動産業」のことです。宅建士は宅地建物取引業法で定められた国家資格で、不動産の購入や売却、それに関する法律の専門知識を持っている「不動産取引の専門家」ともいえる存在です。
不動産取引では大きな金額が動く一方で、取引をする際に一般の人の大半は専門知識や取引経験を持ちません。一生に一度といっても過言ではないその大切な買い物をするときに、損をする人が出ないようにサポートし、公正な取引が円滑に行われるよう重要な情報・知識を提供するのが宅建士であり、不動産業界には欠かせない人材なのです。
大人気の国家資格
不動産事務所においては、従事する人の5人につき1人以上は宅建士を置かなければならない、と法律で定められています。また、宅建士でなければできない「独占業務」というものが存在するため、不動産業界においての就職・転職において宅建士の有資格者は引手あまたといわれます。そういったことも理由として、大変人気のある資格なのです。
また、試験範囲は比較的広めですが、日常生活で役に立つような身近な知識が多く身につき、「取っつきやすい」試験であるという側面もあります。試験の出題形式も四択問題のマークシート形式であり、記述問題や論述問題のような難易度の高い形式ではありません。
全くの初心者でも、勉強のしかたで十分に合格を目指せるのです。
さらに、人口減少によって不動産の需要もそれに伴い少なくなっていくとは思われますが、人がいる限り全くなくなることはありません。そのため、将来的にも比較的安定したものとして資格を活かしていくことができるはずです。
年間20万人以上の受検者がいるという、国家資格試験の中でも最大級の規模を誇っている点も、その人気ぶりを表しているといえます。
宅建士の仕事内容
不動産会社での営業業務
宅建士は、不動産会社において物件を売買したい・賃借したいという顧客に対しての仲介業務・営業業務を通常の仕事とすることが多いでしょう。
賃貸住宅を探している・マイホームを購入したい、といった要望に合わせて物件を紹介したり、物件を売り出したい人のサポートをしたり、不動産や資産の運用をコンサルティングしたり、物件の仕入れに従事したり…など、業務は多岐に渡ります。
これらの業務は宅建士の資格がなくても従事できますが、有資格者であることで、会社や顧客からの信頼度は一段と増すことが期待できます。
独占業務
上記のような日常的な仕事の他にも、不動産業の仕事には、宅建士でなければできない業務というものがあります。これを「独占業務」といって、以下に挙げる3つのものが該当します。
どれも不動産契約においては必ず行わなければならない業務であるため、言い換えれば宅建士がいなければ、そこが不動産事務所であっても「不動産契約ができない」ということになります。これが、後述する「不動産事務所では従業員5人につき1人以上の宅建士を必要とする」という法律の定めにつながるわけです。
では3つの独占業務について詳細を見ていきましょう。
重要事項の説明
不動産契約においては、まず宅建士が必ず「宅地建物取引士証」を借主・買主に提示しながら、「重要事項の説明」を行います。
これは重要事項説明書という文面を用いて行われますが、専門知識を持たない一般の人にとっては、不動産契約の文面に書かれた難解な専門用語などを理解することが大変であるため、宅建士がかみ砕いて説明することが必要なのです。
重要事項の内容としては、たとえば「物件情報」「売買・賃借金額」「登記」「駐車場に関して」「契約解除の方法」などといったものが挙げられます。
重要事項説明書面(35条書面)への記名・押印
重要事項説明の際に用いられる重要事項説明書面の作成も、宅建士の仕事です。そのため、宅建士の資格を持つ作成者の記名・押印が必要となります。
契約内容記載書面(37条書面)への記名・押印
契約にかかわる内容が書かれた部分を「37条書面」といい、その内容が保証されるよう、こちらにも重要事項説明書と同様に記名・押印をします。
契約書面は、不動産取引が交わされたという証明になる非常に重要な部分です。問題なく取引が行われるためにも、宅建士の存在は欠かせないのです。
宅建士の資格取得で得られるメリット
即戦力として期待される
前述したように、不動産事務所においては従業員5人につき1人以上は宅建士の有資格者を置かなければならないという決まりがあるため、就職や転職で有利になると考えられます。
独占業務を行える従業員がいないと、そもそも不動産会社として存在することはできないですし、事務所の存続にも関わってくるため、今後も需要が激減するような事態にはならず、常に必要とされる資格であるといえます。
昇進・昇給を狙える
不動産業界においては、宅建士の資格を持っているだけで毎月5,000円~5万円程度の資格手当が出るという会社もあります。
有資格者であれば単純に仕事の幅も広がるため、昇給や昇進の可能性も高くなるでしょう。また、昇進のための条件として、宅建士の資格取得を挙げている会社もあるため、この場合にはもう必須条件にすらなりえます。
自分自身の人生においても役立つ
宅建士の資格取得により、また資格取得のための試験勉強に励むことにより、得られる知識というものには大きな価値があります。
一般の人には難解である不動産知識を体系立てて勉強しておくことで、自分自身がマイホームを購入・売却するといった実用的な局面においても大いに活用できるのです。
繰り返しになりますが、不動産の買い物というのは大金が動くものです。知識のあるなしでは、大きな得や損になることも少なくありません。資格取得で得た知識が、人生や生活の一部分で役に立つということは期待してもいいかもしれませんね。
宅建士が活躍できる業界
不動産業界以外でも、宅建士が活躍できる業界はいくつもあります。
金融業界
銀行は融資の際に土地や建物を担保とするため、不動産価値を正確に把握できる宅建士の活躍の場は数多くあります。さらに大手の金融企業であれば、不動産販売会社を傘下に持つところもあるため、どちらにおいても知識を活用することができるでしょう。
建設業界
建築業界の企業には、不動産業を営むところも多くあります。自社で建築した商品を販売するには、宅建士がいないと成り立ちません。
また、自社の商品のウリを明確な根拠とともに説明できるため、大変説得力を持ち合わせられることになり、顧客へのアピール力ともなるでしょう。
不動産会社での不動産管理部門
大手の不動産仲介会社では、不動産管理も自社で行っているところが多くあります。不動産の売買や貸借についてだけでなく、管理においても宅建士の知識・資格は大いに役立てられます。
一般企業
不動産や建築・金融業のみならず、一般企業においても宅建士を必要とされる場面は、実は多く存在します。
たとえば会社が不動産を所有していて、管理や運用をする際には宅建士が活躍します。財務部や経営企画室などのような部署で大いに力を発揮してもらうため、宅建士の採用を行う一般企業もあるのです。
宅建士と併せて取得したいおすすめ資格
宅建士の資格は、それ単体でも大いに役立ちますが、他の資格と組み合わせることによってさらなる相乗効果を生み出すことがあります。
管理業務主任者
宅建士と同様、国家資格である管理業務主任者。分譲マンションでは、管理組合が存在しながらも通常は管理会社に委託して日常の管理業務をまかせているというところが多く、管理業務主任者は管理組合との窓口として、管理委託契約を交わす際の重要事項説明や契約書の記名・押印を行います。
宅建士と同様、こちらは管理業務主任者の独占業務となっているのです。
不動産会社は管理会社も所有しているところが多いため、管理業務主任者の資格も持っていれば、不動産業界において非常に仕事の幅が広がるといえます。
ファイナンシャルプランナー
「お金」に関するプロであるファイナンシャルプランナーは、家計の資産や収支などの相談を通常の仕事としていますが、不動産取引のプロである宅建士の資格と組み合わせることで、不動産売買だけでなく住宅ローンや資産運営などの提案でも大きな力を発揮できます。
受検時に限っていっても、試験内容に宅建士と重なるところが多くあり、ダブルライセンスを狙う際には他資格よりも勉強時間の短縮を図れるというメリットもあります。
司法書士
言わずと知れた最難関クラスの国家資格のひとつである司法書士の業務は幅広く、不動産業と密接にかかわるものもあるため、こちらも宅建士の資格と親和性がとても高いといえます。
不動産登記や会社立ち上げの際の登記などもこなすため、不動産会社においては非常に高い信頼を得られるとともに、独立開業の道も大きく拓けていくことでしょう。
賃貸不動産経営管理士
こちらは賃貸物件における管理を担当するための資格です。
物件管理に関する重要事項説明や、その書面および管理受託契約書への記名・押印のほか、家賃の徴収・契約更新の手続き・原状回復の終了管理といったものが主な業務内容となり、宅建士とのダブルライセンスで不動産業界においての活躍の幅が大いに広がる可能性があります。
不動産鑑定士
弁護士・公認会計士とともに「三大国家資格」とされるもののひとつである不動産鑑定士は、文字通り不動産の価値を鑑定して評価書にまとめるという業務ができる資格です。
民間の投資会社や国からの仕事の依頼を受けることもあり、多方面で活躍できるでしょう。
難関ではありますが、希少価値が非常に高く、アピール力としても絶大なものが期待できます。
他にも…土地家屋調査士・行政書士・マンション管理士など
これらの資格も、宅建士と試験範囲が重なっている部分が多くあります。キャリアアップやステップアップを考えるなら、検討してみてもいいでしょう。
宅建士の試験
試験概要(2022年11月現在・最新情報は試験の公式サイトをご確認ください)
・受験資格…なし。年齢・性別・国籍の制限もない
・受験料…8,200円
・受験日…毎年10月第3日曜日13~15時
・試験会場…全国の都道府県
・試験形式…四肢択一式によるマークシート形式
・出題数…50問・1問1点で50点満点
・試験時間…120分
・出題科目…「民法等」14問・「宅建業法」20問・「法令上の制限」8問・「その他関連知識」8問
・合格発表…12月
過去10年間での合格率は15~17%、合格基準点は50点満点中31~38点となっているため、75%程度得点できれば合格できる、と考えていいでしょう。
試験合格後の流れ
宅建士は、その試験に合格しただけでは本当の資格取得とはなりません。試験合格後に実務経験を2年以上積むか、その代わりとなる実務講習を修了することで、受検した都道府県において宅建士としての登録が可能となります。
そこまでの順序を踏んで、晴れて宅建士となれるのです。
1度登録すれば一生有効であり、欠格要件に該当しない限りは登録が解除されることはありませんが、宅建士証自体の有効期限は5年であるため、そのたびごとの更新が必要となります。
まとめ
宅建士は他の国家資格に比べれば比較的合格しやすく、人気のある資格ではありますが、もちろん合格するためにはそれなりの努力が必要です。的を絞った勉強方法で、合格を狙っていきましょう。
有資格者となれば、不動産業界のみならずさまざまな業界で活躍できる、一生ものの財産となります。不動産・建築・金融業界での活躍を考えているのであれば、ぜひ宅建士の資格取得をひとつの目標としてみてください。