建てられたばかりの新築マンションも、年月が経てば当然劣化して価値が下がっていきます。
近年、年月が経過した中古マンションの数は増加の一途をたどっていて、建物自体の経年劣化に伴う危険性や、居住者の減少・高齢化が問題視されてきました。そんな状況を打開するべく打ち立てられたのが「マンション管理計画認定制度」です。
今回はこの制度について、詳しく見ていきます。
通常、分譲マンションでは居住者による管理組合が存在し、マンション管理を適切に行っていくよう動いていくものです。この認定制度は、管理組合にとっても大きな助けとなってくれるでしょう。
マンション管理計画認定制度とは
マンション管理計画認定制度は、2022年4月から導入された新しい制度です。制度の概要や制定された背景・目的などから、どのようなものなのか、まず全体像を押さえていきましょう。
制度の概要
マンション管理計画認定制度は、2022年4月の「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」の改正に伴い制定されたものです。
「マンションの管理計画が一定の基準を満たしていれば、適切な管理計画を持つマンションとしての認定を受けられる」という制度であり、管理組合によるマンション管理が適正であると証明されます。認定を受けることで、多くのメリットの発生が期待できるでしょう。(詳しくは後述)。
ただし、どんなマンションでも認定を受けられるわけではなく、対象となるのは「マンション管理適正化推進計画」を作成している自治体に所在するマンションのみです。
制定された背景
前述したように、近年は中古マンションの数が増加の一途をたどっています。
2018年末時点で、全国に築40年を越えたマンションは約81万戸あったとされ、10年後の2028年にはそれが198万戸となり、20年後の2038年には367万戸となるという予測がされています。
老朽化が進むマンションが増えていくにつれ、新規入居者は減少していき、現入居者は高齢化が進んでいきます。管理組合は入居者で構成され、役員もそのなかから選出されますが、この体制がだんだん難しくなってきているのです。
また、今後はタワーマンションもどんどん老朽化が進んでいきますが、こういった大型マンションは管理も複雑なもので、管理組合にとっては難事業ともなりえます。
このような事情から、これまで以上に適正なマンション管理が必要と考えられるようになり、創設されたのがマンション管理計画認定制度なのです。
マンション管理計画認定制度の認定を受けるメリット
居住者の管理に対する意識が向上する
認定を受けるためには、一定水準の管理体制を維持することが必要となります。
これまでは、マンション管理の状態を客観的に判断するための明確な基準がなかったため、管理組合はどこに目標を定めて改善に向かっていけばいいのかということがはっきりしませんでした。しかし、認定制度ができたことで、改善や向上のために何をどうしたらいいかということが明瞭になったのです。
また、認定期間は5年と限定されており、その都度更新が必要となるため、最初の認定申請時だけしっかり管理計画を立てたはいいが、実際の管理はいいかげんになる、ということも防げます。
そのため、認定を目指し、維持することで、管理者や居住者の管理に対する意識が向上し、組合運営や修繕などの円滑化が進み、5年で認定更新を申請しなければならないということで管理水準が高く保たれやすくなる、という効果が期待できます。
マンションの価値評価が上がる
マンションの管理が適正に保たれていると認定されることで、それがアピール要素となり、市場において評価される、また立地の地域価値も向上する、ということが見込めます。
管理がきちんとされておらず、修繕もこまめに行われていないようなマンションは、近い将来大規模修繕がなされることが容易に予測できるため、その修繕費用の負担をしなければいけないのではないか、と考えて購入希望者の購買意欲をくじいてしまいます。
管理評価が可視化されることによって、マンションを購入しようと考える人にとっても管理状況の把握が以前よりも容易になり、入居を考えやすくなるというメリットもあるでしょう。
新規入居者の増加が期待できる
中古ではなく新築マンションは、分譲時点で適切な管理計画を作成することによって、「予備認定」という形で適正な管理がなされるマンションである、と認定されます。
予備認定された新築マンションを購入する場合には、住宅金融支援機構の「フラット35」やマンション共有部分リフォーム融資の金利が引き下げられます。これによって、新しい入居者が入りやすくなるということも期待できるでしょう。
マンション管理計画認定制度の認定を受けるデメリット
管理組合の事務負担が大きくなる
制度の認定を受けるためには、長期修繕計画を作成したり、申請書などの必要書類をそろえたりして地方公共団体に申請しなければならないため、その分管理組合のやるべき事務処理が増えてしまいます。
また、その申請も前述したように5年ごとの更新のため繰り返さなければならないので、集会で決議を得ておくなどの手間も、1度済ませたらそれで終わりというわけではないのです。
さらに、行政から管理状況についての確認があったり、管理体制の改善命令があったりした場合には、その都度報告業務も発生するため、さまざまな面で管理組合の負担が増えてしまうことが考えられるでしょう。
修繕積立金の負担が大きくなるケースがある
認定を受けるために修繕計画の見直しをしたところ、新築当初の計画とは大きく修正があり、その結果修繕積立金の負担が増える、という可能性も存在しています。
また、もともと修繕積立金の徴収方式には2種類あります。
- 段階増額積立方式…当初は金額を抑え、一定期間ごとに値上げしていく方式
- 均等積立方式…あらかじめ予想される修繕総額を耐用年数で割り均等に徴収する方式
大体のマンションでは前者を採用しているのですが、マンション管理認定制度の認定を受けるためには、原則的に後者の均等積立方式で徴収することが定められています。どちらの方式でも総支払額は変わりませんが、購入当初に支出が大きくなるのは均等積立方式であるため、これが理由で修繕積立金の負担が増えてしまうように感じられることもあるでしょう。
認定制度の基準
適切な管理が行われているマンションである、と行政に認められるための基準は、以下の通りです。
また、別で自治体独自の基準が設けられていることもあります。
管理組合の運営
〇管理者が定められていること
〇監事が選任されていること
〇集会が年1回以上開催されていること
管理規約
〇管理規約があること
〇管理規約で、緊急時に専有部の立ち入り、修繕等の履歴情報の管理などについて定められていること
〇管理規約で、管理組合の財務・管理に関する情報の書面の交付(または電磁的方法による提供)について定められていること
管理組合の経理
〇管理費・修繕積立金などが明確に区分されていること
〇修繕積立金会計から他の会計へ充当されていないこと
〇直前の事業年度の終了時点で、修繕積立金の3ヶ月以上の滞納額が全体の1割以内であること
長期修繕計画の作成及び見直しなど
〇長期修繕計画や修繕積立金額について、集会で決議されていること
〇長期修繕計画の作成または見直しが7年以内に行われていること
〇長期修繕計画期間が30年以上で、かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていること
〇長期修繕計画で将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと
〇長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
〇長期修繕計画の計画期間の最終年度に、借入金のない長期修繕計画となっていること
その他
〇組合員名簿、居住者名簿を備えていて、1年に1回以上は内容の確認を行っていること
〇都道府県等マンション管理適正化指針に照らして適切であること
認定のための必要書類
認定を受けるために用意しなければならない書類は、地方公共団体によって違うため、あらかじめ確認しておくことが必要です。
一般的には、下記のようなものを準備します。
・認定申請書
・総会議事録の写し
・管理規約の写し
・貸借対照表
・収支決算書
・各居住者の修繕積立金滞納額がわかる書類
・長期修繕計画の写し
・組合員・居住者の名簿の保証書
など
「マンション管理適正評価制度」とは?
マンション管理計画認定制度と名称がよく似たものに、「マンション管理適正評価制度」というものがあります。
これは、地方公共団体ではなく、一般社団法人マンション管理業協会というところが行っている制度で、「マンションの管理状態や管理組合運営の状態を6段階で評価し、インターネット上で情報を公開する」というものです。
マンション管理業協会が「管理体制」「建築・設備」「管理組合収支」「耐震診断関係」「生活関連」という5カテゴリー・30項目について6段階で評価し、適正評価サイトに結果を公開します。
審査は1年ごとであるため、よりきめ細かく管理体制の現状や改善点が見えやすい制度である、というメリットがあるといえます。
マンション管理計画認定制度とマンション管理適正評価制度はお互いにカバーし合っている関係の制度といえるため、両方から評価や認定を受けることで、管理体制の向上や改善につながっていくことでしょう。
まとめ
中古マンションの数の増加によって、適正な管理体制を整えることが今まで以上に必要となってきた昨今。そんな時代背景をもとに制定されたのが、マンション管理計画認定制度です。
居住者の管理意識の向上とともに、マンションの資産価値を上げることも期待できるこの認定制度。まだまだ認知度は高くありませんが、この制度が広まることによって、適正に管理された安心・安全な中古マンションが増えていくことを期待したいですね。