今となっては珍しいものではない、巨大な高層ホテルやビル。都心部にはタワーマンションいわゆるタワマンも立ち並んでいる。どんどん増えて、最近はむしろ老朽化による解体ラッシュの時代だといわれています。一般的な家屋よりも、周囲への配慮が厳しく求められる高層ホテルやビルの解体工事について、ポイントを見ていきましょう。
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高層ビルを取り巻く状況
「高層ビル」とは何か
高度経済成長時代、オフィスや商業施設が急速に増えることにより、横に広がるのではなく上に伸びる「高層ビル」は、狭い土地を有効活用できるというメリットで重宝されました。1970~80年代にかけては、都市部を中心に高層ビルがどんどん増えていったのです。
高さ何メートルの建物から「高層ビル」と呼ぶのかということには、明確な定義はありませんが、一般的には「高さ60メートル以上」という点がひとつの目安になっているといわれています。
高層ビルの現状
1964年の東京オリンピック開催に合わせて造られた「ホテルニューオータニ」は、地上17階、73メートルという高さを持つ高層ホテルでした。今では高さ100メートルを超えるような「超高層ビル」も、国内に700以上存在します。
2023年には日本一高いビルと言われ、完成したビルが「麻布台ヒルズ森JPタワー」です。高さ325メートルという東京タワーと同じくらいの高さであり、商業施設や医療施設、オフィスなど以外にも公園などがあり、都心でありながらも緑を感じることができるビルになっています。
横浜ランドマークタワーの296メートル、あべのハルカスの300メートルなど、驚くほどの超高層ビルが次々と建てられるなか、近年は1970~80年代に造られた高層ビルやホテルの老朽化・陳腐化が進み、解体工事の需要も増えつつあります。
老朽化とはいっても、鉄筋コンクリートの寿命は100年を超えるといわれているほど頑丈です。ただし、日本ではしょっちゅう耐震基準が見直されているため、古い高層ビルだと耐震強度不足で建替えが必要、ということはよくあるのです。
また、法定耐用年数というものも問題になります。鉄骨造で34年、RC・SRC造で47年と定められていて、これが解体工事をするタイミングの目安のひとつとなっているからです。
しかし都市部では大きなビル同士が密接していることも多く、その解体工事は周辺に及ぼす影響が大きすぎるため、進め方や工法に工夫が必要となるのです。
高層ビル解体のポイント
巨大なため何事にも時間がかかる
ホテルや高層ビルといっても、基本的な解体工事の流れは一般的な家屋とそこまで大きな違いはありません。ざっくりいえば、現地調査からの見積書作成、業者の選定および契約、しっかり近隣への挨拶を行ったうえで工事を開始し、終わったら整地して廃棄物の処理…という流れになります。
ここで重要なのは、解体対象の建物がとにかく大きいため、ひとつひとつの過程に思った以上に時間がかかることがある、という点です。
現地調査ひとつとっても数時間で完了することはほぼなく、1~2日は見ておかなければいけないでしょう。解体工事自体にも1ヶ月以上かかるということは珍しくありません。すべてにおいて時間がかかると認識しておくことが必要です。
粉じん・騒音対策
高層ビルに限らず解体工事というものは、騒音や粉じん・振動・廃棄物の落下など周囲への安全配慮が欠かせないません。ましてやまわりにも建物が密集するような立地の高層ビルとなると、さらに大きな配慮が必要になるでしょう。
後述するように、近年ではこうしたものへの対策にぬかりのない新たな工法がどんどん生み出されていますが、基本的には養生や防音シートなどで高層ビルをしっかりと覆い、周囲への安全配慮を万全にしたうえで、ガードマンを配置して通行人や車などの誘導までしっかり行いたいところです。
作業員の安全管理
周囲への安全配慮はもちろんのことですが、解体工事の作業員の安全管理も重要です。ホテルや高層ビルの解体工事では非常に高所での作業になることも多いので、ちょっとの油断や気のゆるみが大事故につながりかねません。自身の疲労や身の回りの整理など、作業員自らが安全の確保に努める必要もあります。
高層ビルの解体費用目安
ホテルや高層ビルは、大体がS(鉄骨)造、RC(鉄筋コンクリート)造、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造です。それぞれ解体坪単価の目安を見てみると、
S造…35,000円/坪
RC造…45,500円/坪
SRC造…60,000円/坪
となります。
あくまで目安ですが、これに解体対象のビルの面積をかけると、解体費用の概算が出るわけです。
建物の規模が大きくなるほど当然解体費用は高額になりますが、さらに実際には人件費や廃棄物の運搬・処分費用、足場や養生などの仮設費用といったものが加わることになります。
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高層ビルの解体工事工法
ホテル・高層ビルを解体するとなると、海外では爆破解体でほぼ一瞬…という方法が取られているところもありますが、都市部など周辺に建物が密集しているような土地に建つホテルであれば、そんなわけにもいきません。重機で一気に解体、ということも不可能です。
では、一体ホテルなどの高層ビルの解体工事にはどんな技術や工法が用いられているのでしょうか。
解体技術
油圧圧砕
解体工事ではもっともメジャーな工事技術のひとつで、油圧で動く圧砕機を重機に取りつけ、部材を挟み込んで圧縮・破砕します。
油圧ブレーカ
油圧で動くブレーカを重機に取り付け、打撃で部材を破砕します。油圧圧砕とよく似ていますが、騒音が大きめであることが欠点です。
フラットソーイング
ダイヤモンドブレードというものを使って、床などの平らな部分を切断します。ホテルにおいてはフロア解体の際などによく使われる技術です。
ワイヤーソーイング
ワイヤーソーを巻きつけ、高速回転させて切断します。鉄筋コンクリートや鉄骨、大きな構造物を解体するときにも使うことができます。
解体工法
以前は高層ビルの解体工事では、建物の内外に「タワークレーン」といって昇降可能な仮設揚重機を設置し、それで重機や足場の部材を高所まで運んで上から下に向かって解体していく…という方法が一般的でした。
しかし粉じんや騒音・廃棄物の落下など周囲に及ぼす危険や効率を上げることを考え、最近では大手の建設会社が競って新たな工法を生み出しています。
地上解体
超大型重機を設置し、地上から上に向かってロングアームを伸ばして解体を進めるやり方です。高さ65メートル、地上21階にまで対応できるという非常に長いものも存在していますが、ガラスの落下や粉じんの飛散など危険も多い工法です。
階上解体
前述もしましたが、高層ビルの屋上に大型クレーンなどで重機を持ち上げて置き、上から下に向かって解体を進めていく工法です。上の階のコンクリート破片などを積み上げてスロープにして、重機はその上を通って階下に降りながら作業を進めていきます。
スロープが崩れたら大事故につながりかねないこと、粉じんの飛散が大きいという欠点があります。
ブロック解体
地上からの外部足場を組んだり、施工階やその上下階にユニット足場を組んだりしたうえでタワークレーンを設置し、屋上階から部材をブロック単位で順に解体して地上に降ろしていくという工法です。他の方法に比べて騒音が少ないといわれています。
上部閉鎖式解体
建物最上部から躯体を防音シートなどで覆って閉鎖し、その階の解体が終わったら下の階に移動してまた解体して…と、新築を逆再生するように上から下へと解体作業を進めていく工法です。
大成建設が開発した「テコレップシステム」や、竹中工務店の「竹中ハットダウン工法」などがこれにあたります。作業する部分の躯体が覆われているため騒音や粉じんの飛散を防止でき、雨も防げるため悪天候で作業を中断するといったこともなくなります。
だるま落とし式解体
最下部の柱を切断してジャッキを設置し、上部分を支えながら1フロアを解体、また柱を切断して…ということを繰り返しながら全体を解体していく工法です。建物の下の部分からなくなっていく様子がだるま落としのようにも見えるため、こう呼ばれています。 鹿島建設の「鹿島カットアンドダウン工法」などがこれにあたり、地上部分近くでの作業となるため粉じんの飛散や騒音を抑制できるうえ、こちらも最後まで屋根部分が残っているため、現場が雨で濡れることも防げるのです。
まとめ
高度経済成長時代から需要が増え始めた高層ホテル・ビルは、現在老朽化で建替えや解体ラッシュが起きている状態です。ホテルや高層ビルの解体工事は、一般的なそれと比べてもさらなる安全配慮と管理が求められ、そのため大手建設会社は競って安全性の高い工法を開発していっているところでもあるのです。
今後もさらに、安全性と効率を求めた解体工事方法が現れてくることが予想されるでしょう。
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