「ZEH」という高性能の住宅が注目されたかと思えば、さらにその上を行く「ZEH+」が出てきた…しかも次いでもっといろいろと「ZEH」系の住宅が出てきて、もうわけがわからない、区別がつかない。そうお悩みの方に、ZEH系の機能や特徴を解説します。
ZEH+を中心に、その他ZEHのポイントを押さえることができます。ぜひご参照ください。
ZEH+の前に…ZEHの基本知識
ZEHの定義
ZEHとは「Net Zero Energy House」の略で、「エネルギー収支ゼロの家」という意味です。
エネルギー収支がゼロ…とはどういう意味なのかというと、「消費エネルギーと創り出すエネルギーでプラスマイナスゼロにする」といえば、わかりやすいでしょうか。
一般住宅でエネルギーといえば、主に電気やガスです。これらの消費エネルギーをできるだけ抑えて、なおかつ太陽光発電などでエネルギーを創り出し、実質エネルギーの収支をゼロにできる住宅がZEHなのです。
そのため、ZEHとして認められるためには「断熱性能」「省エネ性能」「創エネ性能」というものに着目し、4つの基準・条件をクリアしなければなりません。順に見ていきましょう。
強化外皮基準
ZEHの断熱性能基準を具体的にいうと、「UA値0.4~0.6(W/㎡k)以下で、東京では0.6(W/㎡k)以下」であること。
UA値というのは「外皮平均熱貫流率」というもので、住宅内部から外部に逃げる熱量の平均値のことをいいます。
「外皮」とは窓や床・外壁・天井など住宅を取り囲む部分。「外皮性能」とは外皮からどれだけ熱を失わずに保てるかということを「断熱」と「日射」の2つの要素で判断した性能のことです。
これらを踏まえて簡単にいってしまうと、「UA値が小さいほど熱が逃げにくく、断熱性が高い」のです。そのため、定められた基準値よりもUA値が低くなることが求められます。
一次エネルギー消費量削減
ZEHの省エネ性能基準を具体的にいうと、「空調・照明・給湯・換気の4つでZEH基準を満たした省エネ効果の高い家電・機器を導入し、一次消費エネルギーを従来よりも20%以上削減できること」。
一次消費エネルギーとは、「石油や石炭・天然ガスなどのように再利用できないエネルギー」です。これらの使用を、従来20%以上削減することが求められている、ということです。
再生可能エネルギー設備の導入
再生可能エネルギーとは、一次エネルギーとは対になる、「自然界からなくならない太陽光・水力・風力・地熱」のことです。この再生可能エネルギーによる発電システムを導入し、発電することも、ZEHの基準のひとつとなります。
とはいえ一般家庭で水力・風力・地熱発電を行うことは容易ではありませんので、再生可能エネルギーの発電といえば、もっぱら太陽光発電を指すことになるでしょう。
ゼロ・エネルギーであること
最後の条件は、「消費エネルギー量の収支をプラスマイナスゼロとすること」、つまり「再生可能エネルギーから一次エネルギー消費量を差し引いて正味ゼロにすること」です。もちろん必ずしもゼロぴったりではなく、ゼロ以下にしてもかまいません。
再生可能エネルギーによって発電した電力を自宅で使い、余った場合は売電などにまわした場合が「ゼロ以下」の状態です。消費エネルギーよりも、創生したエネルギーが上回っている状態ですね。
ZEH+とは
ここまでZEHについて解説してきました。それではZEH+とは?というと、一言でいってしまえば「よりハイグレードなZEH」と表現できます。ZEHよりも省エネ基準はさらに上であり、それだけ高度な省エネ性能を持ち合わせた住宅です。
ZEH+の定義は、以下の3点です。
1.ZEHの基準を満たしていること
2.省エネ基準の1次エネルギー消費量よりもさらに25%以上削減すること
3.次の3つの要素のうち2つ以上を採用すること
①外皮性能の更なる強化
②高度エネルギーマネジメント(HEMSの導入)
③電気自動車を活用した自家消費の拡大措置
ZEH+の基準その1:ZEHの基準を満たしていること
これはそのままですね。ZEH+はZEHのハイグレードバージョンであるため、最低限、前項で説明したZEHの省エネ基準を満たしていることが必要です。そこにプラスアルファを備えなければならず、それが次項以降の部分です。
ZEH+の基準その2:さらに高い省エネ基準を満たしていること
具体的には「省エネ基準の1次エネルギー消費量よりもさらに25%以上削減すること」。
「1次エネルギー」については、ZEHの項でお話した通りです。
ZEHは「20%以上の削減」が基準でしたが、ZEH+ではさらに厳しく「25%以上の削減」となっているのです。
ZEH+の基準その3:以下の3点のうち2点以上を満たしていること
外皮性能の更なる強化
具体的には、「UA値が1~2地域で0.3以下、3~5地域で0.4以下、6~7地域が0.5以下であること」となっています。
「外皮」「外皮性能」についても、ZEHの項を参照してください。
高度エネルギーマネジメント(HEMSの導入)
高度なエネルギーマネジメントを採用する、具体的には「HEMSを導入すること」です。
HEMSとは、「Home Energy Management System (ホームエネルギーマネジメントシステム)」の略で、一言でいうと「家庭でのエネルギーの流れを可視化し、一括管理するシステム」です。
たとえば、どこの部屋で電力がどれだけ使用されているか、どの電化製品で電力の使用量が多いか、などといったことを細かく数値で表してくれて、電気の使用状況が一目瞭然になります。これによって無駄な電力消費などを把握することができるので、住人の省エネ意識を高めてくれる役割も果たします。
また、住宅内のエネルギーの一括管理によって、エネルギー消費の最適化もしてくれます。たとえば、「一定の消費電力量に達してしまったら自動で節電モードになる」などのようなことが可能です。
他にも自動制御で「部屋の温度が設定していた一定のラインまで下がったら暖房を入れる・強くする」「設定時刻になったら自動で食洗器が作動するようにする」といったことも実現します。
もうひとつ、HEMSの機能には「遠隔操作」もあります。エアコンを止め忘れても外出先でスイッチを切ることができたり、帰宅の少し前に給湯器を操作してお風呂にお湯を張ったり。非常に便利で豊かな暮らしの手伝いをしてくれます。
ただし、HEMSが管理できるのは当然ながらHEMSに対応した規格の電気製品のみとなります。つまり「HEMSを導入し、かつHEMSに対応した規格の冷暖房設備や給湯設備などを備えていること」が、ZEH+の基準のひとつになるということです。
電気自動車を活用した自家消費の拡大措置
具体的にいうと「自宅の車庫などに、太陽光発電などで貯めた電力を電気自動車に充電できる設備を取りつける」ということです。
このように、ZEH+はZEHに加えて、さらに厳しい基準をクリアすることが、認定されるための条件となります。
その他のZEH
ZEHやZEH+以外にも、さまざまなZEHがあります。それぞれ見ていきましょう。
ZEH Oriented(ゼッチ オリエンティッド)
住宅の立地によって、ZEH認定の基準が緩和されたものです。具体的には「ZEHの基準は満たしているが太陽光発電ができない」というような、都市部の狭小住宅などが対象になります。
太陽光発電での発電が見込めなくても、ZEHの基準さえ満たしていれば、「ZEH Oriented」としての認定が可能で、主に低層住宅向けの地域の、敷地面積が85㎡未満の場合などに認められます。
Nearly ZEH(ニアリー ゼッチ)
ZEHの基準のひとつに「消費エネルギー量の収支をプラスマイナスゼロとすること」というものがありますが、Nearly ZEHは「ゼロでなくても、限りなく一次エネルギー消費量をゼロに近づけたもの」であれば認定されます。
具体的には、創エネを含めた総合的な一次エネルギー消費量削減率が「75%以上、100%未満」で認められます。
ただし創エネが必要であるため、ZEH Orientedとは違って太陽光発電の設備自体は必要となります。
Nearly ZEH+(ニアリー ゼッチ プラス)
こちらは、「Nearly ZEHの基準を満たしたうえで、ZEH+の基準のひとつである『1次エネルギー消費量を25%以上削減すること』も満たしていること」が基準となります。
さらに、ZEH+の基準であった「外皮性能の更なる強化」「HEMSの導入」「電気自動車を活用した自家消費の拡大措置」の3つのうち2つを満たす、ということも必要です。
要するに言い換えると、「総合的な一次エネルギー消費量削減率が75%以上、100%未満ではあるけれども、ZEH+の基準を満たしていればよい」ということになります。
次世代ZEH+
ZEH+やNearly ZEH+の条件を満たしたうえで、以下の要件のいずれか1つ以上導入することが必要です。
1.蓄電システム
2.燃料電池
3.V2H充電設備(充放電設備)
4.太陽熱利用温水システム
ZEH、ZEH+、その他ZEHのメリット・デメリット
メリットその1:家計にも環境にもやさしい
断熱性能が高く、したがって省エネ性能も高い、そのため光熱費の節約になり、一次エネルギー消費も減らせることから環境にもやさしいのが、もっとも大きなメリットといえるでしょう。
もちろん、太陽光発電による発電量は、1日を通して、また1年を通して見れば必ずしも安定はしません。地域や気候によっても大きく異なりますが、それでも一般住宅に比べれば光熱費は格段に抑えられます。
それどころか、場合によっては余った電力を売電にまわして、利益を得ることも可能性として見えてくるのです。
メリットその2:災害時も安心
もともと自然災害の多い日本ですが、近年は大規模な自然災害が数を増しています。それによって停電の被害に遭う地域も多くありますが、ZEH系の住宅は「自家発電できる」という大きな強みがあるため、停電が長引いたとしても非常用の電源として、発電した電力を利用することができます。
「いざというときに電気を使える」という点は、現代の暮らしにおいて非常に大きなメリットといえるでしょう。
メリットその3:身体にも優しい
非常に高度な断熱性から、室内のあたたかい空気、涼しい空気を外に逃さずに済むため、夏は涼しく冬はあたたかい快適な生活が実現します。
寒暖差があまりないという環境は、単に快適というだけではなく、実は健康面にも多大な影響があります。極端な例でいうと「ヒートショック」という現象を聞いたことがあるでしょう。急激な寒暖差によって血圧が乱高下し、体に大きなダメージを与えてしまうものです。脳梗塞や心筋梗塞にもつながる恐れのある、危険な現象なのです。
また、断熱性の高さによって結露や湿気を防止することもできるため、それによってカビやダニが原因となる多くの病気の発生も抑えられることが期待されます。
気温が低い部屋だと常に冷たい空気を吸い込むことになるので、のどや気管支・肺などの呼吸器系にダメージを与えてしまいますが、寒暖差の少ない穏やかな気温で1年中過ごせることで、せきや喘息などの症状も緩和されるといわれています。
断熱性の高さは、住人の健康面においてもさまざまなメリットを発揮してくれるのです。
メリットその4:資産価値が上がる
断熱性や省エネ性能が高く、環境にやさしい住宅は、資産価値においても高く評価されます。
たとえば、一般社団法人住宅性能評価・表示協会の「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」という建物の省エネルギー性能等に関する評価・表示を行う制度では、評価ランクが星1~5つで表され、星の数が多いほど信頼度が高くなり、売却時の評価アップにつながります。
マイホームの将来の資産価値まで視野に入れる場合も、ZEH系住宅には強みがあるということですね。
デメリットその1:建築費用・メンテナンス費用が高額になる
ZEH系の住宅は太陽光発電装置や高性能な断熱材、省エネ型の設備機器などが必要になるため、一般住宅に比べると建築費用は高めになります。
特にZEH+でHEMSを導入する場合には、HEMS対応のグレードの高い家電製品を導入する必要もあります。
これらは初期費用もさることながら、数年おきのメンテナンスもあるため、維持費用もかかってくるでしょう。
しかし、このデメリットは「光熱費が抑えられる」「売電できる」というメリットによって、長い目で見れば相殺されることが期待できます。
デメリットその2:住まいのデザイン・間取りが制限される
ZEH系住宅は断熱性を高めるため、吹き抜けや高い天井・大きな窓といったものを備えにくくなるという制限が考えられます。また、太陽光発電装置の設置のために、屋根の形状や向きもそれに合わせたもので考えなければならないでしょう。
憧れの間取りや設備があるけれど、希望通りにいかないということもありえるのです。
ZEHを考える際の注意点
補助金の利用を考えよう
前述したように、ZEHは初期費用が一般住宅に比べて高額になりますが、補助金を利用することで資金繰りの一助とできます。
政府はZEHの普及のために、毎年度補助金を用意していますが、対象ZEHによって補助金の種類もたくさんあり、また内容も毎年少しずつ変わっています。
ZEH建築の検討をしているのであれば、必ず最新情報をネットなどで確認し、希望のZEHに対応する補助金をしっかりと熟知しておきましょう。
ZEHビルダーを探す必要がある
ZEHの条件を満たす住宅を建築することは、多くの住宅メーカーで対応が可能ですが、どこのメーカーに依頼してもいい、というわけではない点に注意が必要です。
建てた住宅がZEHとして認められるためには、まず一般社団法人環境共創イニシアチブに「ZEHビルダー」として認定・登録された住宅メーカーに建築をお願いしなければなりません。そうでなければ補助金も受け取れません。
ただし、ZEHビルダーとして登録されている住宅メーカーでも、経験が豊富とは限らないため、メーカー選びの際にはいろいろ情報を集め、じっくり時間をかけて吟味しましょう。
まとめ
次世代、というよりもまさに今の時代のスタンダードとなっていっているZEH住宅。もはや他人事ではなく、新築住宅を考える人にとってはごく身近な検討対象となっています。
難解で少々近寄りがたいイメージがありますが、ポイントを押さえれば理解が進むでしょう。メリット・デメリットをしっかり踏まえて、自分に合う形でぜひZEHの導入を考えてみてください。